介護業界人事部
2019.04.12 UP
職場環境の可視化を通じて、法人の離職率が12%から6%に半減/左から社会福祉法人尾道さつき会 総務部 次長 永井 孝一さん、理事長 平石 朗さん、総務部 主任 川口 達也さん
職場環境の可視化ツールを導入しようと思ったきっかけと導入前の法人について
職場環境の可視化ツールを導入する前から離職防止のために、様々な施策を実施してきた社会福祉法人尾道さつき会。
ただ、それらの施策も何か確証があって実施したわけではなかったと理事長の平石さんは話す。
これまでの法人は時代のニーズもあり、どちらかという拡大路線。
それで法人は規模拡大ができた。
ただ、ふと後ろを見た時に誰もついてきていなかったのだ。
実際に客観的な第三者に法人をみてもらった時に決定的なことも言われたという。
「この法人は玄関は素晴らしいが、中身はグダグダだ。誰も本部の言うことを聞かない。本部が悪い、業界が悪いという他責の管理者や職員ばかり。これでは何をやっても何も変わらない。誰もがバラバラの方向を向いている。」この言葉に平石さんは衝撃を受けた。
これまで法人のことを思って、拡大路線を続けてきたのが、いつの間にか法人のことが見えていなかったのかもしれない。
そこからはまずは法人の内部を見直そうと決めた。
まず手を付けたのが、離職防止。
しかし、当初は現場の本音がなかなか見えず、何が原因で職員が離職するのかが分からなかった。
離職する際に職員に離職理由を聞いても、本当の理由を答えてくれる人が少なかったことも原因の一つだった。
そこで、広島県が推奨している職場環境の可視化ツールの話を聞き、これはチャンスだと考えた。
職場環境の可視化ツールを導入することで、数値的に職場のどこが課題か分かり、離職防止に効果的な施策を実施することができるのではないかと考えたのだ。
▲理事長の平石さんは職場環境の可視化ツール導入前から法人の離職防止のために様々なチャレンジをしてきた
ただ、可視化ツールを導入しただけでは意味がない。それを分析することこそが重要
職場環境の可視化ツールを導入した初年度はあまりうまくいかなかったと総務部 次長の永井さんは話す。
なぜなら、可視化しただけで分析を深くしなかったからだ。
管理者を集めた合宿で職場環境を可視化した資料を使用し、その課題解決を図ったが、どちらかというと職場間での職員同士のコミュニケーションが闊達だなどといった良い結果が出ていたこともあり、そこまで深く考えなかったという。
ただ、それでも一定の効果は見込めた。
管理者同士で悩みを共有することで、同期意識や法人への一体感は強まったという。
満を持して、望んだ2年目の職場環境の可視化。
想像より数値に変化がなかったことに本部として衝撃を受けたという。
合宿で決めた施策を実際に管理者が施設で行っているかどうかのチェックがなかったことも大きかった。
ほとんどの施策が最初の数か月で運用が止まってしまっていた。
職場環境は可視化しただけでは意味がなかったのだ。
2年目の職場環境の可視化を行った際は、意識改革に向けた具体的な行動計画を立てて、その成果をしっかり追いかけることを法人として決めた。
▲「大切なのは職員一人ひとりが当事者意識を持ち、実際に継続的に行動を変えること」と話す永井さん
合宿を通じて見えた課題から4つの改革と1つの施策を実施
2年目の職場環境可視化ツールの資料を使った合宿では、法人本部と管理者とで、法人をよくするために法人の中で何が起こっているのかを徹底的に話し合った。
その結果、見えた法人の課題から4つの改革を法人として実施することに決めた。
1つ目が、法人全体で全職員が同じ方向を向いて仕事をしていないことから、”理事長通信”という社内報を通じた法人としてのメッセージの発信。全職員が共通の想いを持って、同じ視点で語れるようになる世界観を目指した。
2つ目がリーダー人材の不足という課題からみえた、次世代職員の養成。リーダー向け研修の実施はもちろんのこと、管理者を超えて現場責任者と本部を繋ぐ意見交換会も積極的に実施した。
3つ目が管理者本人のマネジメントによる職場環境への影響について。実際に職場環境のデータを起点に管理者クラスの大幅な人事異動を実施した。今いる管理者の中には上場企業の部長クラスの人材をヘッドハンティングして連れてきた人材もいる。経験の有無に関係なく、優秀な人材を登用したのだ。
4つ目が職員のキャリアへの不満の解消。年功序列で長く勤めた職員を優遇してきた結果、若い職員の不満がたまっていたのだ。そこで、従来の年功序列型の賃金制度を廃止し、役職に応じた賃金制度を導入することにした。
そして、最後に見えてきたのが全職員に共通していた「業務量」の問題。
業務量が多く、仕事自体に疲弊している職員が多かったのだ。
介護の現場では、ややもすると雑用から専門性の高い仕事まで何でも出来る人材がシフト上は重宝されることも影響していた。
抜本的な業務改善が必要だと考えた平石さんは、業務改善で有名な”トヨタ式の業務改善システム”に着目をした。
具体的には、OJTソリューションズ社が提供するトヨタ式業務改善システムを導入したのだが、これは介護職員の業務全体を5S(「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」)を通じて見直すというもの。
この5Sが浸透するまで半年以上かかった。
5Sを活用した事例発表や表彰など、本部としてどう現場を盛り上げるかも苦労したという。
ただ、この5Sが現場で浸透すると、労働時間の短縮はもちろんのこと、職員の仕事に対する姿勢や職場の雰囲気の変化まで出てきた。
職場に適度な緊張感が生まれて、どうすれば合理的に仕事ができるかを一人ひとりの職員が考え、気軽に話し合うようになったのだ。
▲「管理者も現場も職場環境のデータ化ツール実施には協力的。本部に何か伝えるチャンスとポジティブに捉えてもらえたのではないか」と話す川口さん
職場環境の可視化、課題解決を定期的に実施し、今後は更なる事業拡大、業界全体の底上げを図る
職場環境のデータ化ツールの導入を通じた課題解決のPDCAを実施することで、12%だった離職率が、現在では6%に半減した。
現場も本部もwin-winの施策になったのだ。
最後にこの施策を続けられた要因を聞くと「良くも悪くも職場環境の可視化を通じて、職場が丸裸になったのがよかった。ここまで開示されて何もしないのは本当にもったいない。何をすれば職場が良くなるのか明確に分かったのがよかった。むしろ毎年結果が出るのが楽しみになりましたね。また、法人一丸となって職場環境をよくしていこうという一体感もつくれた。あとは、この一体感をどう”形”にするかが私たち本部の仕事です」(川口さん)。
また、尾道さつき会でうまくいった事例を他法人に伝える活動も始めたという。
今後、介護事業所の職場環境を求職者に向けて明らかにする制度を全国の各自治体が導入する動きもある。
そのような動きがある中、職場環境の改善を通じて得たノウハウを他社や他県に広げることで、将来的に介護分野の職場環境が一般求職者の目に触れた時に、他業界に負けない状態にまで持っていきたいと考えているのだ。
「介護業界は職場環境がいいから働きたい、そう思ってもらえる社会をつくりたい」(川口さん)
職場環境の改善を通じて、法人の事業戦略も変わったという。
「順番は逆になってしまったが、当法人は職場環境が整ったので、改めて事業の拡大や他社へのノウハウ提供、業界への貢献活動にも力をいれていきたい。2000年以降、介護業界はニーズの拡大にあわせて、事業拡大を行う事業者が多数出てきたが、そろそろその”ひずみ”が現場に現れる頃。今こそ全国の介護事業者は法人内部を見直すべき時ではないか」(平石さん)
「継続することが大事なので、この結果に満足せず、法人としても引き続き様々なチャレンジを続けたい」(川口さん)
▲今後は自法人だけでなく、業界のための動きもしていきたいと語る3人
■トヨタ式カイゼン(OJTソリューションズ社)の記事はこちらから
http://helpmanjapan.com/article/5879
■職場環境データ化ツールについては気軽にお問い合わせください
http://helpmanjapan.com/inquiry
【文: 繁内 優志 写真: 繁内 優志】