介護業界人事部
2019.08.28 UP
写真:新ユニフォームを着た株式会社フレンドの職員たち © UniformPlus
介護業界のイメージを変えたい。たどり着いた答えがユニフォームだった
栃木県を中心に在宅介護事業と調剤薬局事業を展開する株式会社フレンド。
その本部で取締役を務める山口万理子さんは2016年当時悩んでいた。
異業界からフレンド社の本部に転職をしてきて数年、職員から「自分が介護の仕事をしていることを世の中に大きな声で言えない」という声を多く耳にするようになっていたからだ。
前職の会社では、山口さんはもちろん他の社員もやりたい仕事をして、そのことに誇りと自信を持って働いてきた。
なぜ介護の業界はそうではないのか。
介護の仕事は、本来は高齢者に寄り添いながら”地域の役に立つ”人の役に立つ”をしている素晴らしい仕事のはずだ。
それを働いている本人たちが実感できていない。
世の中の介護業界のイメージに誤解があるからではないか、と考えた。
では、どうすれば介護職員にスポットライトがあたり介護業界のイメージが変わるのか、世の中をすぐに変えることは難しくても、まずは自社から変われないかと山口さんは考えた。
そうはいっても、イメージを変えるのは並大抵のことではない。
答えを探す中で、山口さんはふと前職のことを思い出した。
山口さんは前職で、スポーツアパレルメーカーで働いていた。
前の会社は、国際的大会に出場するトップアスリートをはじめ、あらゆるスポーツに関わる人々のスポーツウエアの企画・開発・生産などを中心に行っており、服の力で人が一喜一憂する姿や着る人のイメージが変わる瞬間をたくさん見てきた。
この現象を介護の現場でも起こせないかと考えたのだ。
そこで導き出した答えが、ユニフォームを変えることで職員個人の意識を変え、自分の仕事に今まで以上に誇りや自信が持てるようになるのではないかということだった
くわえて、介護の仕事はレクリエーションや送迎などで、施設の外に出る機会も多い。
お洒落なユニフォームを見た地域の人が介護業界へのイメージを変えるきっかけになればとも思った。
ユニフォームを変えたからといって直ぐに何かが変わるわけではない。しかし何も行動を起こさなければ何も変わらない
“ユニフォームを変える”
それがスポーツアパレルの会社にいた自分が、今この会社のために出来ること。
山口さんはそう考えた。
▲「パイロットや客室乗務員だっておしゃれな制服を着ることで、より意識が高まり誇りをもって働いていらっしゃいますよね。介護でも同じことができると思ったんです」と話すプロジェクトの仕掛け人の株式会社フレンド 取締役の山口さん
何かを変える時は、本部だけではなく現場も巻き込むと決めていた
ユニフォームを変えようと思ったときに山口さんが一番最初に考えたことが、現場の職員をどう巻き込むかだった。これまでの経験で上層部だけで決めた施策はあまりうまくいかないことを経験していたためだ。
このユニフォームを変えるというプロジェクトについては絶対にそうしたくない、という思いがあり、
職員自身がユニフォームのあり方を考え、現場の職員の意識を変えてもらうために、現場の職員が着たいものを自分たちで選んでいくが大事だと考えた。
そこで、ユニフォームを変えるプロジェクトのメンバーを現場の職員から集めることにした。
人選にあたっては様々な世代の意見を取り入れたいと、年齢幅を偏らせないことを意識した。
自分の意見を言えるような人、社内で影響力があるような人という観点でも考え、最終的には20~50代まで幅広い世代の現場介護職員8名をプロジェクトメンバーに選出した。
山口さんが彼らに期待していた役割は、現場の意見を吸い上げてもらうということ。
そして、プロジェクトの会議で決まった方向性を現場でぶつけて、またその反応をプロジェクトに還元してもらうという好循環を生み出してほしいと考えた。
また、社内だけでなく、社外の意見も取り入れたいと考え、”日本で一番カッコいい介護福祉士”として有名な杉本浩司さんにお願いし、プロデューサーとしてプロジェクトメンバーに加わってもらった。
介護のPRに長けている杉本さんの知見をこのプロジェクトに取り入れたいと考えたのだ。
メンバーで話し合い、このユニフォームを変えるというプロジェクトを推進していく上で、「We can change the image of Kaigo(私たちから介護のイメージを変えていく)」というビジョンもつくった。
山口さんのユニフォームの力で会社を変える、業界を変える”という想いを職員に伝わりやすい言葉におとしこんだ。
こうして、フレンド社の“ユニフォームを変える”プロジェクトは始まった。
▲外部の意見を入れたいと、介護の魅力発信について多数の講演実績やメディア出演実績をもつ杉本浩司さんにプロデューサーをお願いした
▲会議でイメージアップのためのユニフォームについて話し合うプロジェクトメンバーたち
全職員によるWEB投票を経て、忘年会でユニフォームをお披露目
ユニフォームを変えるプロジェクトの会議は数回に及んだ。
プロジェクトメンバーの顔合わせ、方向性の策定からスタートし、
メンバーや杉本氏とディスカションした内容を基にデザイン会社が3案ぐらいの絵を描いた。
その後、2案までに絞り、出た試作品をメンバーが何度も試着を重ね検討。
最終的に出た2案は両方とも”白色”が基調のユニフォームだった。
フレンド社に限らず、介護の現場では白い服はタブーのように扱われてきた。
介護の仕事は服が汚れるリスクが常に伴うためだ。
ただ、よく考えたら看護師も白いユニフォームを着ている。
所作を美しくすることで、白いユニフォームでも汚れないような仕事の仕方があるかもしれない。
プロデュ―サーの杉本さんの「ユニフォームを汚さない介護は可能」という言葉も後押しになった。
介護業界のイメージを覆すためにあえてこのタブーに挑むことにしたのだ。
もちろん現場の職員の中には白いユニフォームに抵抗があるスタッフが多数いたのも事実だ。
この問題については、ユニフォームの検討段階よりプロジェクトメンバーから現場に向けて「We can change the image of Kaigo」のメッセージを定期的に発信してもらうことで、その抵抗感が少なくなるように努めたという。
そうして、試行錯誤しながら絞った2案からWEB投票で最終的に導入するユニフォームを決めることにした。
これまで全社員に向けて意見を聞くような投票を行ったことはなく、初の試みだった。今回は職員に「自分たちも会社の意思決定に参画できるんだ」という気持ちをもってもらい、実際に「自分たちで自分たちが着るユニフォームを決めた」という実感をもってもらうためにこの方法で行うと決めた。
後日、現場では多くの職員が意見交換をしながら投票したという話を聞き、山口さんは嬉しくなった。
そして、その投票の結果、選ばれたユニフォームについては全社合同の忘年会の場でプロジェクトメンバーによるダンスパフォーマンスでの発表、お披露目をおこなった。
これも出来るだけ全職員を巻き込みたいという山口さんの狙いがあった。
ユニフォームが変わるという事象が単純な業務の一貫ではないということ、そこに会社として想いを込めているということをきちんと全職員に認知してもらいたかったのだ。
▲忘年会で新しいユニフォームをお披露目するプロジェクトメンバーたち
後日、職員に新ユニフォームを配布する際も、会社の経営陣と山口さんからの手紙を一緒に同封し、施設長から職員へ直接手渡しをすることにした。
“業界のイメージを変えたい。まずはフレンド社から変わりたい”というプロジェクトへの想いをメッセージに込めた。
▲山口さんのプロジェクトへの想いを、全職員に配布する手紙へと込めた
ユニフォーム導入後に起きた会社の嬉しい変化と介護のイメージが変わる兆し
今回のプロジェクトを実施するにあたり、定量的な効果測定を行いたいと考えていた山口さんはユニフォームを導入する3か月前と、制服導入後の3ヵ月後とで全職員への匿名のアンケート調査を実施した。
その結果、驚くべき数字が出た。
職員の”今後も介護の仕事を続けるかの意向度”が15%も上がったのだ。
また、それ以外に、”フレンド社で働く誇り”についても12%上がり、”企業理念に賛同するか”の項目についても10%の上昇がみられた。
他にも介護という仕事自体への誇りややりがいなど、複数の質問項目があったが、その全ての数値が上向く結果となったのだ。
その反面、アンケートのフリーコメント欄では、新しいユニフォームに対する厳しい意見もあった。
ただ、山口さんはネガティブな意見も、職員が会社、介護のことを思い考えて書いてくれた大切な意見として、今後の参考にしていきたいと考えている。
会社の外でもユニフォームの評判はいいという。
外出した際に、お店の人に「素敵なユニフォームですね」と声をかけられることが増えた。
また、地域交流の集まりに職員が行くと、「介護っぽくない。お洒落」と驚かれる。
学生からの評判も良く、採用活動にも活かされているという。
会社の雰囲気も少し変わったという。
外部へ発信する事業が増えてきたのだ。
たとえば、認知症カフェやポールウォーキングなどの地域の元気高齢者向けの活動や地域のお祭りへの協力など。介護のことを世の中の人に知ってもらう活動だ。
何より嬉しいのはプロジェクトメンバー8名の変化だという。
このプロジェクト以降、自身の思いを外部へ発信したり、人を巻き込んで様々な事業を企画してくれるようになったのだ。
山口さんはこの変化を、プロジェクトを通じて介護の仕事や会社のことを違う視点からみたことで、メンバーそれぞれの視野が広がったためではないかと考えている。
自分の会社、仕事をきちんと理解していないと、外部では話せない。
会社に対しての思いや、介護の仕事に対する思いをプロジェクトの中で再確認することで、介護の仕事に誇りを持ってくれるようになったのではないかと考えている。
いまでは当時のメンバーたちは、会社の中でも影響力がある存在になっているという。
山口さんの業界のイメージを変えたいという想いが少しずつだが職員に浸透し、形になってきたのだ。
また、フレンド社は現在タイをはじめ海外への展開にも注力をしている。
今後は介護の魅力を国内だけでなく、海外へも発信していきたいと考えている。
「ユニフォームは一つのきっかけにすぎません。しかし想いを発信し続け、行動を起こすことで、会社の風土は明らかに変わると思います。そしてみんなで同じベクトルを持って進むために、今後も現場職員を巻き込みながら介護業界のイメージ向上のための活動をフレンド社が先導してやっていきたい」と山口さんは話す。
▲会社として外部向けに発信する事業が増えてきており、今後もこの動きは加速させていく方針だ
【文: 繁内 優志】