介護業界人事部
2019.04.26 UP
地域の福祉事業者で連携し、職員を離職させない仕組みを構築/県央東地区施設長会 会長の近藤 誠さん
県央東地区施設長会を通じて、事業者が法人の垣根を越えて連携する訳とは
神奈川県内の県央東地区に約20存在する福祉事業者の施設長が集まる県央東地区施設長会。
その施設長会 会長の近藤 誠さん(社会福祉法人県央福祉会 ワークステーション菜の花・所長)に話を聞いた。
近藤さんは平成26年から同会の会長職に就いている。
もともと県央東地区施設長会自体は35年以上前から存在しているという。
2か月に1回、地区内の福祉事業所の全施設長が集まり、知見を共有しあう。
福祉の業界はややもすると、職員は自施設の中で視野が狭くなり、成長機会がなくなりがちだ。
そこを、1法人で成功した事例を他法人にも共有することで、地域全体の福祉領域の底上げを図る。
視野を広げ、成長機会につなげる。
また、施設長会で主催する各種イベントや人材に関わる事業を幅広く展開することで、地域内の福祉領域の活性化をしたいという狙いもある。
実際に20事業所共同で運動会を開催した際には、1500名もの関係者が集まったこともあるという。
他にもこれまでご利用者の作品展の共同開催や施設の枠を超えたご利用者同士の交流会、採用の勉強会、求職者向けの合同就職フェアなど、多くの企画を実施してきた。
このように何年もかけて、地域内の施設長同士で集まり知見を共有し、連携する文化づくりができてきたのだ。
そんな中、10年ほど前からこの文化を施設長以外の職員にも広げようという声が施設長会から出てきた。
自分たち自身で他法人と触れ合い、知見が広がり、業界内で連携できるからこそのスケールメリットを実感する中、現場の職員にも同じことが出来れば、更に地域全体の福祉領域における活性化につながると考えたのだ。
▲「他法人との協働は施設長自身でその良さを分かっているからこそ、現場にも展開できた。”文化”を継承することが大事。」と話す近藤さん
地域内の福祉人材の人材育成のために合同研修や事例共有のイベントを企画
まずは、施設長会の下に中間管理職の会(近隣施設協議会)という組織をつくったという。
情報共有やイベントなどで法人の垣根を越えてコラボする仕組みづくりを自分たちのすぐ下の世代から始めたのだ。
次に現場職員が自分の施設でのいい取組を他の事業者の職員に共有するイベント”事例検討会”を企画した。
これは取組を施設長が発表するのではなくて、各施設の現場職員が発表することに意味があるという。
自分たちの施設のいいところを現場職員が自分の言葉で語る。
そうすることで、現場職員が自分の施設のいいところを探すようになり、結果的に帰属意識の養成にもつながる。
他法人の自分と近い立場の職員の話を聞くことで、「自分の施設でも出来るかもしれない。自分でもできるかもしれない。」と発表会が終わった後、当事者意識をもって新しいことに挑戦するようになる。
他にも新人福祉職員や中堅福祉職員向けの技術研修や勉強会なども頻繁に開催するようになった。
1回あたりの会で多い時には約100名程の人が集まるという。
こういった研修や勉強会には、1施設から1~2人出すのは当たり前という文化だ。
地域内の全施設長が自分たちの経験を通じて、「現場職員は施設の外に出たい。新しいことを知りたい。施設や法人を出て、学ぶことに意義がある。」と分かっているからだ。
また、新人の時から他法人と連携することの良さを知っている世代の人達がいま施設長になり、今度は自分の施設の新人を送り出すという好循環を生んでいる。
「一長一夕には出来ない、この地域の”文化”です。」と近藤さんは話す。
最近の施設長会でのトレンドは”人材の離職防止”だ。
人材の確保が難しい中、離職を防ぐことで、人材不足を補おうという考えだ。
地域内で辞める人は人間関係が原因であることが多いという。
施設長会でもそこをフォローしていく方針だ。
ここで、各施設の職員を集めるという研修スタイルが生きてくるという。
あえて外に出て、外部との繋がりを持つことで、自分の施設の良さに気付くことができるのだ。
人間関係についても外部の人とふれあうことで、新たな気づきがあったり、視野が広がることで、自分の施設に帰った時に人との接し方にも明らかに変化があるそうだ。
実際に地域の中では、イベントや研修を通じて、職員の離職防止につながった事例も多数出ているという。
▲施設長会で作成した県央東地区内の全施設共通の新人福祉職員・中堅福祉職員の育成ガイドマニュアル。多くの法人の知見が集まっている
▲リクルートが主催する中堅介護職員向け定着支援研修を県央東地区独自で開催。他法人同士で同期意識をつくりながら離職防止もできるため、利用した
県央東地区で協働する意味と県央東地区施設長会の今後の展望について
「福祉の仕事をするにあたっては、利用者のことを知ることは基本中の基本。」と近藤さんは話す。
利用者を知ることが大事。
ただ、そのためにはまずは職員自身が利用者を知ろうとする必要がある。
そして、知ろうとするためには職員の意識改革が必要。
その意識改革を県央東地区全体で行うことで、地区内の福祉のレベルを上げて地域の評判を良くし、業界の社会的地位向上にまでつなげていきたいという想いがある。
県央東地区全体でこういった連携施策を実施するメリットがもう一つある。
それは、1法人で何か1つのことをやろうと思った時は施策自体が形骸化しやすいが、他法人でやることで仕組化できるというものだ。
せっかくいいことをやったとしても、1法人だと担当者が多忙な業務に追われて、打上花火的に1回何かをやって終わってしまうケースも多いという。
これが多くの法人で何かをやると良い意味で複数の目が入るため、継続的な取り組みとして実施されやすくなるのだ。
今後は、この連携する“文化”を下の世代に継承していくことが近藤さんの一番のミッション。
形を変えながら時代に沿った様々な企画を引き続き実施していく方針だ。
次世代の福祉職員が出てきて、新しい文化をつくってもいいという。
そのために、いまは施設長や現場職員への勉強会や研修、各種イベントを通じて、投資をしている段階。
「利用者が第一。でも、そのために地域の中で福祉職員を育てることも大事。」という原点を忘れてはいけないと近藤さんは話す。
実際にHELPMAN JAPANも県央東地区施設長会が主催する1つの現場職員向け研修会を訪問した時、研修が終わった後に他法人の研修受講者同士で交わした挨拶が非常に印象的だった。
「これからも頑張ってね。私、あなたのこと、応援してるからね。」
▲研修会場を出て、エールを交わす研修受講者の2人
【文: 繁内 優志 写真: 繁内 優志】