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介護業界人事部

2019.04.19 UP

介護現場での外国人人材の受け入れは、法人としての支援・教育/研修制度が重要

介護現場での外国人人材の受け入れは、法人としての支援・教育/研修制度が重要:社会福祉法人小田原福祉会 人財開発部長 井口健一郎さん

外国人人材を受け入れようと思ったきっかけは事例づくり

人材が不足しているといわれて久しい介護業界では、外国人人材の受け入れについての話が増えてきた。
それでは、実際に受け入れる介護事業者は何に気を付けて受け入れるべきなのか、技能実習制度でインドネシア人を6名受け入れている社会福祉法人小田原福祉会 人財開発部長の井口健一郎さんに話を伺った。

そもそも井口さんが自身の法人で外国人人材を受け入れようと思ったきっかけは、人材不足による労働力確保のためではなかったという。

「技能実習制度を単なる日本の労働力のアウトソースにしてはいけない。外国人人材を受け入れることで、介護の仕事が誰でも出来る仕事だと介護業界以外の人に思われるのは避けたかったんです。外国人の受け入れをうまく活用しながら、日本に来ていただける側も受け入れる側もwin-winの状態をつくるのが介護事業所である我々の仕事だと考えました。私たちがいち早く外国人人材を受け入れることで、そのモデルケースをつくりたかった。」と井口さんは話します。

今後はこの取り組みを通じて、外国人人材の受け入れマニュアル本の制作や、海外へ日本の介護の知見を発信する際の足掛かりにしたいという狙いもある。

高齢化が進む日本以外のアジア諸国では、まだまだ高齢者の生活を支えるという考え方が少ない。
介護より医療を重視しているのが現状だ。

日本で介護の技術を学んだ技能実習生が、将来的には現地で介護施設をつくってほしいという思いもある。

「今後高齢化が一気に進むアジアでは、介護施設のニーズが間違いなく浮上してきます。我々は、教育という観点から今後高齢化へ向かう国々を支援したいと考えています。ハードは誰でも作れますが、そこで働く人たちへの教育こそが重要です。外国人材の受入れは彼らへの教育プロセスを通して、ソフト面を確立することに注力したいと思います。」(井口さん)

▲外国人人材を自法人で受け入れた背景を話してくれた井口さん

受け入れにあたって意識したのは、会社の制度

外国人を受け入れるといっても、法人として受け入れるための体力が必要だという。
外国人人材は、縁もゆかりもない日本にくるのだ。
当然、来日する本人も受け入れる法人もパワーが必要になる。
ただ働く人というわけではなく、生活をする人を受け入れるわけだから当然だ。
仕事以外に、”日本で生きる”ということを彼らに教える必要があるのだ。
井口さんも自法人で受け入れた外国人人材の生活が落ち着くまでの約3か月間は、LINEを使用し彼らの様々な相談にのりながら、普段の仕事以外の日常生活もフォローした。

受け入れ体制として、小田原福祉会では、外国人1人につき、1人の実習指導員を教育担当として作った。
教育担当の責任者を1人にしぼった理由は、誰に何を聞けばいいかが分からないと、外国人人材が混乱することを防ぐためだ。

マニュアルの整備以外では、制度面では特に評価体制が重要だそう。
介護の仕事はなかなかゴールが見えづらい。
だからこそ、しっかりできたことを評価する仕組みが必要だという。

また、メンタルケアも重要。
日本で働く外国人人材が孤独な気持にならないよう、日本人スタッフとの交流を意識した。
定期的な面談を使ったコミュニケーションの他に、外国人人材と食事や旅行に行くメンバーやリーダーもいるという。
井口さん自身も外国人人材とよくスーパーに一緒に買い物に行くそうだ。

受け入れる際に、2名以上で受け入れると同期意識も養成されるため、お互い支え合うことも可能になる。
「ケアをする人がケアをされることも重要だ。大事なのはどこの国の人ではなく、初めて小田原に来て、介護を志す同じ人間として受け止めるべき。」
井口さんは外国人を受け入れるにあたって、この言葉を繰り返し現場スタッフに伝えてきた。

もちろん費用もかかる。
今回、小田原福祉会では、6名のインドネシア人を受け入れているが給与以外に諸経費で1人あたり100万円以上の費用がかかっている。
借り上げ寮の整備や、生活の受け入れの準備、教育コストなども考えると、本当はその倍以上かかっている。
「正直、日本人を採用した方が、採用コストは低い。それでも、外国人人材を受け入れるといいこともたくさんあるんです。」と井口さんは話す。

▲同じフロアで働き、プライベートでも仲良しなべスティさんとアイシャーさん

外国人人材を受け入れることで、起きた現場の変化

小田原福祉会で受け入れているインドネシア人の6名は、看護師や医療系の学校出身の人が多いという。
日本の介護を学び、その技術をいつか自国で活かしたいという人材がほとんどだそうだ。
日本語についても現地で勉強をしてきており、日常的なコミュニケーションは全く問題ない。
申し送りの際の専門用語やそのアウトプットについてはまだまだ課題は残るが、勉強していくことで解決できるという。

実際に彼らが介護の現場で働いてみて、どうなのか。
利用者に話を聞くと、好意的な声がほとんどだという。
日本に来て、孤軍奮闘している姿をみて、利用者も応援したいという気持ちになるためだ。
また、外国の人と話すと日本代表としてしっかり話をしなければと、むしろ元気になる利用者もいる。
「人によっては、ファンクラブのようなものまで出来ていますよ」と井口さんは話す。

一緒に働く日本人スタッフにもいい影響があるという。
一生懸命に日本で頑張る外国人人材の姿に影響されて、自分も頑張ろうという気持ちになるそうだ。
具体的には、彼らの学ぶ姿勢をみて影響されるとのこと。
教える側もしっかり教えないといけないと思い、さらに勉強するため、いい好循環が生まれているそうだ。

▲利用者と笑顔で話すデヴォさん。普段から仲良し

「日本で働くことは楽しい」と話すハリスさん

小田原福祉会で働くインドネシア人の6名を代表して、ハリスさんに話を聞いた。
ハリスさんは、インドネシアで看護師の資格を取得した。
学校の卒業論文制作の一環で、現地の老人ホームで実習したのが、介護業界に興味をもったきっかけだ。
そこで、日本では自立支援の介護技術が先進的だと聞き、いつか日本で勉強したいと思ったのだ。

将来は、インドネシアで、自分の老人ホームをつくることが夢。

日本の介護サービスの面白いところは、色んなサービスがあるところ。
これはインドネシアにはない部分だそう。

「たくさんの介護のあり方を勉強できるから今の環境はありがたい。」とハリスさんは話す。

周囲の日本人のスタッフも優しく教えてくれるため、安心して働いているそう。

分からない言葉もノートでコミュニケーションを取りながら、意思疎通を行っている。

日本の生活で唯一慣れていないのは、「寒さだけ」だとハリスさんは笑いながら教えてくれた。

「寂しいか」という質問には、「小田原福祉会には同期が6人いるため、全く寂しくない」との答えが返ってきた。
同期とはLINEでグループをつくり、頻繁に連絡を取り合う。

介護の仕事のやりがいは、利用者からの「ありがとう」という言葉。

いまは日本語と介護の資格の勉強で忙しいが、落ち着いたら日本国内の観光地に旅行に行きたいそうだ。

▲小田原福祉会で働き始めて3ヶ月。利用者との関係性も徐々にできてきた

外国人人材を受け入れるにあたって

井口さんは外国人人材を受け入れる際に、送り出し期間と管理組合の選定も重要だと話してくれた。
単純に人材の出し入れだけを行う機関もあるためだ。
教育体制がどれだけしっかりしているかを見極める必要があるのだ。
小田原福祉会では、のぞみグループをパートナーに選んだという。
初任者研修の資格を取らせてくれて、その後のフォロー体制も整っているからだ。

また、現場に人を受け入れる余裕があるかどうかも重要だとのこと。
普段から、日本人学生などの未経験無資格の人材を受け入れる体制がないと、いきなり本部で外国人材を受け入れても、現場ではフォローしきれないという状況も起こりうる。
シフトをうめるための人材として受け入れるか、教育が必要な人材として受け入れるか、この2つの考え方には大きな違いがある。

「だからこそ、教育/研修体制が整っている法人でないと、外国人人材の受け入れは難しいのでは?」と井口さんは話す。

今後は、インドネシア人以外の外国人も小田原福祉会では積極的に受け入れていくという。

「外国人人材に後輩をつくってあげることで、彼ら自身のキャリアラダーをつくりたい。」(井口さん)

外国人人材の更なる活躍が楽しみだ。

【文: 繁内 優志 写真: 繁内 優志】

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