行政・自治体の取組
2018.09.05 UP
高齢化が急速に進む千葉県では、今後さらなる介護人材の不足が予想されています。これまでも介護のマイナスイメージを払拭するためにイメージアップを図るポスターやCMの作成などを続けてきましたが、このほど、新たな取り組みとして「介護の未来案内人事業」をスタートします。千葉県内で介護職員として活躍する若手人材を“介護の未来案内人”として委嘱し、高校や大学などで介護の魅力ややりがいなどを伝える活動です。現場でイキイキ働く20〜30代の介護職員が自ら行動を起こし、活動内容はTwitterも使っての広報も行いながら、千葉県の未来を担う若者やその保護者世代に直接アピールしていくこの取り組みで、地域における介護への理解や認知度を高めると同時に、介護の仕事を次世代の職業における新たな選択肢としていくことを目指します。2018年8月に千葉県庁で行われたキックオフイベントの様子と、この事業を手掛ける千葉県健康福祉部の思いを紹介します。
若手介護職員が千葉県庁に集結。
森田県知事が激励とともに委嘱状を交付
「介護の未来案内人事業」のキックオフイベントは、2018年8月3日、千葉県庁の本庁舎内多目的ホールにて開催された。委嘱式と研修会を兼ねたこのイベントには、“介護の未来案内人”に委嘱された若手職員19名のうち、17名が出席。森田県知事から直接委嘱状を受け取り、代表者による宣誓と記念撮影も行われた。
また、森田県知事からは、千葉県の介護の未来を担う彼らに向けて、激励の言葉が贈られた。
「高齢化が進む千葉県では、2025年には高齢者のいる一般世帯が全体の30%を超える見込みです。この先、介護人材がおのずと足りなくなっていく大変な時代がやってくることも十分承知の上で、皆さんに“介護の未来案内人”としての活躍をお願いします。介護は人と人の心が通じ合う喜びを感じられる素晴らしい仕事です。そして、人は生きていくために助け合わねばならないものであり、高齢者のみなさんに寄り添う介護の仕事は、まさにそれを実践する“万金に値するもの”です。学生たちにぜひその仕事の素晴らしさややりがいをPRしてください。つらかったことや大変だったことまで話し、それをどう乗り越えて今の自分があるのかを伝えて欲しいと思います」(森田県知事)
▲委嘱状交付の様子。これから案内人として活躍する若手介護職員一人ひとりと固い握手を交わす森田県知事
▲代表者による宣誓の風景。「介護の仕事の楽しさをより多くの若者たちに伝えていく」という決意を語った
研修会では若手介護職員が自己紹介。
活動への意気込みや期待を語った
委嘱式終了後は、介護の未来案内人としての今後の活動内容についての研修が実施された。自己紹介タイムでは、各自の現在の仕事内容や、この活動への意気込みなどを語った。特別養護老人ホームやデイサービスなどの施設で介護スタッフとして働く人、施設内の人事にも携わっている人もいれば、ケアマネジャーや生活相談員として活躍する人など、今は様々な職だが、全員が介護職員の経験者だ。
それぞれの思いとしては、「県の新たな取り組みに参加できることに喜びを感じる」「介護の仕事が大好きだから、毎日やりがいを感じていることを伝えたい」「高齢者や障がい者の命と生活を守っているこの仕事の誇りを知ってほしい」など、活動への意欲を表すコメントに加え、「若手の職員同士が施設をまたいで交流できる機会も楽しみ」「人前に立つことでスキルアップもしたい」など、活動を通じての新たな広がりや自己の成長にも期待している様子が伝わった。
その後、事業の目標やSNSによる発信方法などの説明も実施。その他、この事業のシンボルマークの決定や今回の事業で活用する専用ユニフォームの採寸なども行われ、今後の活動詳細についての共有が行われた。
▲研修風景。千葉県健康福祉部職員が語るこの事業への思いに全員が身を乗り出して耳を傾けていた
▲自己紹介タイムで思いを語る生活指導相談員の宮野さん。「大変だねと言われることが悔しい。この仕事は大変なだけでなく、大きなやりがいがあることを多くの人に伝えたい」と話した
▲数名ごとのテーブルに分かれての研修は、若手職員同士が自然に会話し、介護に携わる同世代が交流する機会にもなった
介護職員に聞いたこの活動への思いと
伝えていきたい「介護の仕事の喜び」
介護の未来案内人のとして活動するデイサービス施設、ケアホームかりん二和の介護職員、後関勇太さんに活動への参加経緯や思いを伺った。
「学校施設を訪問し、自分の経験談を伝えることで若い仲間を増やしていくこの活動について聞いた時、『すごく面白そうだな』と思いました。また、施設内の職員に同世代が少ないので、同じ目的を持って成長している若手のみなさんとの交流にも興味があり、この活動に参加しようと考えました。介護の仕事の深い喜びは、ご利用者の方の人生における“思い出”になれることにあります。ご家族から『亡くなる直前まで、後関さんのことをうれしそうに話していたのよ』と聞いた時、僕が関わったひとときが、人生の最終章を飾る思い出の一つとなったのだと感じ、感慨深かったですね。一つひとつの喜びを伝えていきたいです」(後関さん)
▲現在26歳、介護職員となってから7年を迎える後関さん。「ご利用者の方にとっては、介護職員との何気ない会話も大切な思い出となる。笑顔に触れる瞬間の喜びを伝えて行きたい」と話す
「人の思いが介護の未来をきっと変える」
千葉県健康福祉部がこの事業に賭ける思い
今回のキックオフイベントに際し、「介護の未来案内人事業」の企画を手がけた千葉県健康福祉部・金子竣哉さんにもお話を伺った。
「これまで千葉県はCMやポスターなどによる介護職場のイメージアップ施策を続けてきましたが、今回、新たな取り組みをすることとなりました。今の学生さんは社会貢献に興味を抱く方も少なくありませんが、介護の仕事についてはもう一歩踏み込めていないと感じました。そこで、実際に介護の職場でイキイキと働いている若い人たちに自ら動いてもらうことができないかと考え、この取組を行うことにしました」
「人の心は、誰かの情熱によって動くもの。PRするだけでなく、介護の仕事が好きでこの業界に集まった人々から、直接、若者にその魅力を伝えてもらえたらと考えました。若者世代が団結していくことで、介護業界を盛り上げていきたいと考えています」
若者が若者に介護職の魅力を直接伝えるこの取り組みでは、各自が高等学校、専門学校、短期大学、大学に赴いて自分の経験談を語ると同時に、SNSを通じて施設で働く日々の風景を発信していくのだそう。
「現場で大変さを感じても、それ以上に「喜び」や「やりがい」を感じ、この仕事が好きで続けている。介護へのそうした強い思いを持つ案内人のみなさんに、活動をしていただきます。また、職場に戻った後には、この活動の後継者をぜひ育ててほしいと考えています。活発なコミュニケーションで、案内人同士の横の連携も深めていければと思います。人の思いが介護の未来を変え、きっとその先を明るくするはず。私たちはそう考え、この事業に全力で取り組んでいるんです」
▲千葉県健康福祉部の金子さんは、「介護は非常に身近なものであり、すべての人にとって自分ごと。マイナスイメージを抱く人もいるが、地域の人々に介護の仕事の魅力や素晴らしさを伝え、本当の姿を知ってもらいたい」と語る
継続していくことで地域の理解を深め、
長い目で「介護の根幹となる人材」を育てていく
現在、急速な高齢化が進む千葉県では、2025年には介護職員が約2万8000人も不足することが予想されているという。また、「県内の介護福祉士養成学校の定員充足率は50%を切っている状況なんです」と、金子さんは話す。
「何もしなければ何も始まりません。この事業は、介護の仕事のギャップを埋めていくためにも非常に重要だと考えています。草の根活動からスタートし、継続していくことで、介護への理解を深め、認知度を高めることにより、長い目で、介護の根幹となる人材をしっかりと育てていきたいですね」
まずは県内の介護福祉士養成学校の入学者数をアップしていくことを目標とし、将来的には子どもたちにとって介護職が「なりたい職業」の一つとなることを目指すという。
「私自身、県の職員として福祉の職場で研修を受けたことがありますが、介護の現場は、一般的なイメージよりも明るく楽しいものであり、そこで働くみなさんが大きなやりがいを感じていることを実感したのです。介護職の若い人たちが団結して盛り上げていけば、県民のみなさんに新たな価値観をもたらすことはきっとできる。ここから千葉県の未来を変えていきます!」
「人の情熱が人を動かす」。千葉県の担当者から現場の職員まで、介護への強い思いを胸に抱く若い力を集結したこの取り組み、今後の動きにも大きく期待したい。
【文: 上野 真理子 写真: 四宮 義博】