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特集記事

2019.02.22 UP

介護×ファッションのコラボレーションで一般の人にも届くメッセージを発信したい

厚生労働省が介護業界の人材確保対策強化事業として、2018年8月にスタートさせた「これからの介護・福祉の仕事を考えるデザインスクール」。介護・福祉業界のイメージづくりを目的とし、全国8ブロックで各6回のデザインスクールが開催された(デザインスクールについてはこちら→http://helpmanjapan.com/article/8117)。その具体的なプロジェクトを紹介する記事の第2弾である。第1弾では、介護業界でよくある困ったことを、見方を変えておもしろがり、肩の力を抜こうと提案する、東北ブロックのチームの取り組みを紹介した(http://helpmanjapan.com/article/8217)。第2弾では、介護×ファッションのコラボレーションで、一般の人に届くメッセージを発信していこうという北陸ブロックのチームの取り組みを紹介する。

介護業界の発信力を高めて介護と一般の人とを近づけたい

今回紹介するのは、北陸ブロックのプロジェクトチームの一つ。介護業界に身を置く平田洋介さんと笠間洋平さん、コピーライターの宮保真さんの3人に、システムエンジニアの大崎はるきさん、服飾デザイナーの寺島美佐子さんが後から加わった5人のチームである。

デザインと福祉とのコラボレーションの斬新さに魅力を感じて、「デザインスクール」に参加したという平田さん。日頃、サービス付き高齢者住宅やショートステイなどの施設を運営する法人で、統括施設長を務めている中で感じていた課題について、こう語る。

「介護業界は発信の仕方がうまくないですよね。必要に迫られるまで、多くの人が介護のことに目を向けないのは、われわれの発信力のなさも背景にあると思います。でも、本当は介護が必要になる前にできることはいろいろあるわけです。それを若い世代にもわかる形で発信していきたいですし、地域にも伝えていきたい。もっと介護と一般の人を近づけたいと思っていました」

平田さんはまた、介護の仕事をしていると、利用者である高齢者や職員以外と話す機会が少なくなりがちであることも、気になっていたという。

「世界が狭くなって、自分の固定概念だけが強くなり、他の仕事をしている方たちと感覚がずれていくことがあるんです。だから、当たり前の感覚を呼び戻すために、一般の方たちの意見を聞ける場を作りたかった。『デザインスクール』には、当法人から私を含めて5人参加させてもらっています。ここでの経験を持ち帰って、職員全体の意識が変わっていけばと考えています」

▲「デザインスクール」北陸ブロックでのプレゼンテーションでは、平田洋介さん(写真中央)の祖母の着物や帯を提示。思い出のある柄の上に新たな柄をオーバープリントすることで、今に生きる衣類を作ることを提案した

途中参加者はメンバーの思いに徹底的に耳を傾けてキャッチアップ

「デザインスクール」の参加者には、介護の仕事に詳しくない人もいる。第2回プログラムでは、チームに分かれ、「インターンシップ」として介護事業所で1日を過ごした。広告制作会社を経営し、自身もコピーライターである宮保さんは、介護業界には詳しくなかったが、情報発信などの面で自分にできることがあると考えて「デザインスクール」に参加。インターンシップの際、平田さんが統括施設長を務める施設の職員と接し、その明るさに介護のイメージが変わったという。

日頃新しい洋服のデザインをする寺島さんも、親族が暮らす介護施設に行ったことはあったが、そこで働く人の立場から考えたことはなかった。今回、「デザインスクール」にはプロジェクトに合わせたデザイナーとして途中から参加。まずは、平田さんが語る、介護の職場についての話に徹底的に耳を傾けた。そして、平田さん、宮保さんたちが、それまでのワークの中で醸成してきた思いにキャッチアップすることに、寺島さんは注力した。

「介護とファッションとのコラボレーションを考えているということだったので、とにかく、最初は、何をやりたいのか、どう形にしていきたいと考えているのかを、ひたすら聞きました。要望を聞き、それを整理してギャップを埋めていく、つまり課題を解決していくのがデザインの仕事ですから」

▲合同会社ワザナカのコピーライター、宮保真さん(写真左)は、平田さんが統括施設長を務める株式会社Q・O・Lの施設をインターンシップで訪れ、介護のイメージが変わったという

個性が見えるファッションで介護の職場をもっとおしゃれにしたい

介護とファッションのコラボレーションに取り組みたいと言ったのは、平田さんだ。“おばあちゃん子”として育った平田さんは、祖母が足踏みミシンで自分の服を作ってくれていた記憶が原風景としてある。そこから、高齢者のケアをする介護の仕事を選択し、一方で、ファッションに興味を持つ自分が作られたと、平田さんは感じていた。そんな背景もあり、平田さんは、今回の「デザインスクール」参加以前から、勤務先の法人全体でファッションとのコラボレーションを考えていたのだという。

「若い人や学生にとって、ファッションは職場選択の一つの要素になっています。あそこの制服がおしゃれだからバイトしたい、とか。でも介護の職場の制服は、今も、そのままスーパーに買い物に行くのもためらわれるようなデザインです。それで、『デザインスクール』の第1回目の時に、介護の職場でもファンションとコラボレーションして、もっとおしゃれにできないかという話をしたんです。4回のワークの中でその方向で作っていこうという話になりました」

▲平田さんは、祖母の着物をたたみながら、祖母が自分の服を作ってくれていた子どもの頃を思い出し、そんな環境がファッションを好きな今の自分につながっているのだろうかと、感じたという

頭に巻いていたスカーフがきっかけでチームの方向性が見えてきた

といっても、ただ新しいユニフォームを考えるだけでは面白くない。では、何をやっていくか。寺島さんが加わったのは、そんな話し合いの段階だった。

「そのとき、私は今日と同じようにスカーフを頭に巻いていたんです。介護の職場では髪の毛をまとめたり、ピアスや時計を外したりしなくてはならない。そう聞いて、こんな風に頭に巻いて、おしゃれと清潔感や機能性を出せたらいいのにね、という話になって。ちょうど今、頭に巻いたりとスカーフを取り入れたファッションがはやっているんです」

ここから一気に話が展開したと、寺島さんは言う。

「それは、デザインに詳しくない平田さんと介護に詳しくない宮保さんや私が、霧の中で手を伸ばし、どこかと探り合っていた指先が触れ、ここだったかと互いの手をつかむことができたような感覚でした」

スカーフは、今の高齢者世代の方が使い慣れており、持っている人も多い。寺島さんが身につけていたスカーフから発想し、加速した介護とファッションのコラボレーションは、さらに、先へ先へと展開する。まず、高齢者が使っていたスカーフなどを再利用して、一般の人も使いたいと思えるアイテムを作り、それを介護の職場でもそれぞれが身につけられるようにしたらいい、という話が出た。

▲服飾デザイナーの寺島美佐子さんは、「デザインスクール」に第5回プログラムから参加。寺島さんが頭に巻いているスカーフから、一気に話が展開していった

高齢者がスカーフに柄をプリント。その提案でチームはさらに盛り上がる

さらに宮保さんは、ファッションを介護の職場に取り入れていく過程を発信できないかと考えた。

「介護の仕事のおもしろさが伝わりにくいのは、一見、ルーティンな作業のように見えてしまうから。それなら、ファッションとのコラボレーションに取り組むこと自体で介護業界のおもしろさが見えるといいと思ったんです」

そのとき、寺島さんが 口にした、“オーバープリント”という言葉が、このチームのさらなる燃焼剤となった。

「すでに柄のあるスカーフなどの布地に、さらに別の柄を重ねてプリントしたらおもしろいのではないかと思って、それを“オーバープリント”と表現して平田さんや宮保さんに伝えたんです。そして、プリント作業を高齢者の方にしてもらったら、と話したら、みんながすごく盛り上がって」

平田さんは、例えばデイサービスのレクリエーションとして、利用者にプリント作業をやってもらうことなどを考えた。しかも、この取り組みを実践して終わりではない。この取り組みにメッセージ性のあるフレーズをプラスして、社会に広めていきたいと、このチームの発想はさらに広がった。平田さんは言う。

「ただ、おしゃれと介護をつないだだけではメッセージ性がありません。そうではなく、“超高齢社会を楽しむ”という意味のフレーズをプロである宮保さんに考えてもらって、メッセージを載せた試みにしていきたいんです。いずれは、そのフレーズが全国に広がっていくような取り組みになればと考えています」

▲3月の発表では、思い出の詰まった衣類を募り、それに高齢者がオーバープリントするという仕組み、ストーリーを見せていきたいと、宮保さんたちは語る

一般の人にも受け取りやすいメッセージを介護業界から発信する

一方で宮保さんは、このチームや「デザインスクール」の他のチームの取り組みだけでなく、介護業界内で起きているさまざまなおもしろい動きを、うまく発信していけないかと考えるようになった。「デザインスクール」に参加したことで視野が広がったという。

これまで、介護業界に新たな発想はあっても、それをどう形にすればいいかというノウハウがなかった。一方、宮保さんや寺島さんのような他業界の人たちは、介護業界に対してできることがあるのではないかと思っても、何をしていいかがわからなかった。その両者が「デザインスクール」で出会ったことで、一般の人も受け取りやすいメッセージが介護業界から発せられようとしている。

「こうした発信を続けていくことで、介護の職場は変わると思います。でもそれ以上に、受け取ってもらえる発信によって、一般の方たちの介護に対する注目度を上げ、超高齢社会のネガティブなイメージも変えていきたいですね」

見せ方を変える。伝え方を変える。介護の本当の姿を一般の人にも知ってもらう。平田さんが言うように、そうして介護業界も介護業界を外から見つめる目も変わっていった先に、新しい介護・福祉はあるのだ。

◆デザインスクールの詳細は↓
https://korekara-pj.net/

【文: 宮下 公美子 写真: 刑部 友康】

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