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特集記事

2018.10.15 UP

仕事もプライベートも充実できる。 介護の仕事の「楽しさ」を伝えたい

「介護の仕事を始める前は、『とにかく真面目な人たちが黙々と働いているんだろうな』と思っていたんですが、実際はまったく違いましたね。みんな楽しそうで、そのギャップに驚きました(笑)」。介護福祉士として活躍する鈴木邦明さんの趣味は、意外にも“サーフィン”。仕事の前後に毎日のように海に出かけ、職場にもたくさんのサーフィン仲間がいるのだそう。仕事もプライベートも楽しむ日々を過ごし、2018年夏からは千葉県の「介護の未来案内人」の活動にも参加。「この仕事は、『大変さ』より、『楽しさ』のほうがずっと大きい。それを多くの人に知ってもらいたいです」と話す笑顔には、充実感が溢れていました。

「上京したい」がきっかけで福祉の世界へ

高校時代は、漠然と美容師になりたいと思っていましたが、「生活が不安定そうだな」と。この先、何がやりたいのかわからないままでいたら、学校の先生に「卒業後の進路はどうするのか」と聞かれたんですよ。その時、たまたま先生の後ろに置いてあったのが、東京福祉専門学校のパンフレット。東京に行きたいと思っていた僕は、目に入ったパンフレットをそのまま指差し、「ここに行きます」と答えていました。つまり、上京したかっただけで、どんな仕事なのかも知らなかったんですよ(笑)。ただ、幼少期に祖父と祖母によく面倒を見てもらっていたので、お年寄りの方と接することに抵抗はありませんでした。

僕の専門学校時代は、モヒカンヘアで顎にはピアスをして、ピンクのジーンズを履いていて、今思えば、絵に描いたような「不真面目なヤツ」でしたね(笑)。中学・高校と剣道部の部活動ばかりの生活だったから、その反動で遊んでばかり。学校もたくさんサボったけれど、先生や仲間が手を貸してくれたおかげで卒業できました。周囲の人に恵まれたと感じますし、この学校で施設での実習を経験していなかったら、介護の仕事には就いていなかっただろうと思います。

もともと人と接するのが好きなためか、初めて実習で現場を体験してみたら、意外にもすごく楽しかったんですよ。おじいちゃん、おばあちゃんからいろんな面白い話を聞かせてもらえたし、笑いも絶えなくて。実習を重ねるうちに、「いいな、この仕事」と思うようになっていました。当時は、アパレル業界などの華やかな仕事に憧れましたが、やっぱり介護職のほうが安定しているし、販売員のように売り上げノルマに追われるプレッシャーもない。休みもきちんと取れると知り、趣味や好きなことは休日に楽しめばいいと思いました。楽しく稼いで、プライベートも充実させたい。それなら介護職が合っていると考えたんです。

▲社会福祉法人太陽会で介護職をスタートしてから約19年。老人保健福祉施設、障害者支援施設、特別養護老人ホームを経験し、介護職員実務者研修の講師も務める

「こんなに楽しい人たちが働いているのか」と驚いた

入職直後に驚いたのは、「こんなに楽しい人たちが働いているのか」ということ。学生時代は、介護職の方に対して、「自分のプライベートを犠牲にしても人に尽くすような、とにかく真面目な人たちなのだろう」というイメージがありました。しかし、「働くときはプロフェッショナル、遊ぶときには思いっきりはじける」という人もかなり多く、いい意味でのギャップを感じましたね。

まず、みんな仕事に対しての熱量が高く、「ご利用者さまがもっと歩けるように、もっと食べられるようにするためには何をすればいいのか」を真剣に考えていたんです。リハビリや介助の方法について熱い議論が始まることも多々あり、学生気分がまだ抜けていなかった自分にとって、大きな刺激になりました。「言われた仕事をやるだけでなく、常にプラスアルファの方法を考え、プロとして動こう」という意識が身についたと感じます。

一方、飲み会などのプライベートな時間にはみんなノリがよく、一発芸で笑わせようとしたり、朝4時まで盛り上がって、そのまま明け方にドッジボール大会が始まったり(笑)。仕事には熱く燃えて、オフの時は思いっきりはしゃげる環境のおかげで、自然とメリハリをつけて働けるようになりました。

▲特別養護老人ホームめぐみの里で一緒に働く仲間たち。みんな明るくてノリがいいそう。プライベートでもサーフィンやゴルフ、スノボに出かけている

▲鈴木さんは、副主任として個室のユニットケアを担当。スタッフ9名のマネジメントを任され、20名のご利用者の方のケアプランについてアドバイスも行う

ご利用者の方の個性に触れる日々が楽しい

介護の仕事の楽しさは、やはりご利用者さんとの触れ合いにありますね。お茶目な方もいれば、気難しい方、寂しがり屋な方、おしゃれな方などもいて、それぞれに個性があって面白いんですよ。

例えば、若い頃は女性にモテていたと話す101歳の男性は、「男らしさ」にこだわりを持つ方でした。ある日、リビングで座っていたはずが、仰向けになって床に倒れていたんです。「まさか転倒? 骨折した!?」と慌てて駆け寄ったら、腹筋をしていただけでした(笑)。100歳を超えても筋トレをするんですから、本当に元気ですよね。とはいえ、床に寝転ぶのは危ないのでヨガマットを用意したら、「これはいいな」と喜んでくれました。

また、おしゃれが大好きで、若者に流行している服を着たがる100歳の女性もいます。僕たちやご家族が勝手に選んでも着てもらえないので、20代向けのファッション雑誌を一緒に見ながら「今はこれが流行ってるよ」と教えてあげるんです。ご本人が「これがいいわ」と指差したものを買っていくと、若い娘さんみたいにはしゃいで。その姿がとってもかわいらしくて、僕も思わず笑顔になってしまいますね。

先日、新人の介護スタッフに「こんなにいつも笑って過ごせる仕事って、他にないですよね」と言われましたが、確かにその通りだなと。ご利用者さんたちと家族みたいに一緒に過ごす中、毎日、いろんな面白いことが起き、そのたびにスタッフもご利用者さんたちも笑顔になる。パソコンとにらめっこするより、ずっと幸せな仕事だなと感じます。

▲ご利用者の方としっかりコミュニケーション。ひとり一人の個性を大切にし、多様化するニーズに応えていくことを目指している

自分の発想で幅が広がるクリエイティブな仕事

これまでで一番思い出深いのは、ターミナルケア(終末期医療)を担当した60代の男性のご利用者さんですね。アーティスト気質で水墨画を描くことが趣味の方でした。糖尿病を患っていてもお酒や甘いものを欲しがり、リハビリなど、自分が嫌だと思うことはやらない、接し方が難しい方でしたね。それでも、チームのみんなと一緒に「この方の人生をより充実させるためにどうしたらいいか」を考え、施設内にご本人の絵を飾ることにしたんです。すると、想像以上に喜んでくれて。そこで今度は、鴨川市の展覧会にも出品し、会場まで一緒に絵を観に行きました。帰り道に「よくやってくれた。今日は俺がおごってやる」と言ってくれたこと、そして、亡くなられた後に、ご家族から感謝を込めた詩をいただいたことは、今も忘れられない思い出です。

介護って、狭い世界の仕事だと思われがちですが、視野を広げてみれば非常にクリエイティブなんですよ。身の回りの介助をするだけじゃなく、いかにその人の人生を充実させていくかが僕らの仕事です。「危険だからあれをやったらダメ、これもやったらダメ」で終わらせてはいけない。もしも危険があるならそれを取り除けばいいだけですから。どうやったら本人の思いや希望を最大限に叶えられるのか考えること。常にそれを心がけています。

自分の発想次第で仕事の幅を広げていくことはいくらでもできるし、その結果、喜んでもらえる。難しい壁にぶつかることもありますが、やりがいは大きく、とても楽しいですね。福祉の専門学校に通っていた頃、先生からもらった「80年生きてきた人の最期の時間を、どう彩るのかは君たちの力次第だ」という言葉は、今も僕の中で生きています。

▲ご利用者の方の手を握って安心させる鈴木さん。90歳のこの女性は、鈴木さんのことが大好きで、次の仕事に向かおうとすると、「あのね」と話しかけ、何度も引き止めるそう

出勤前や退勤後もサーフィンを楽しむ日々

介護の仕事を選んだ結果、僕自身のプライベートもすごく充実できていると感じます。現在、月に9日のお休みをもらっていますし、早番は7時から16時、遅番は10時から19時までの勤務。職場はチームケアで取り組んでいるので、交代勤務のスタッフに引き継ぎをすればOKで、残業はほぼありません。夜勤もあるけれど、明けの日中を自由に使えますね。「大変そう」と言われがちですが、実は時間がたっぷりあるんですよ。僕らにしてみれば、一般の会社勤務のほうが長く働いているイメージがありますし、ノルマに追われる仕事の場合、さらにプレッシャーがあって大変だろうなと思います。

現在、退勤後や出勤前にサーフィンを楽しんでいます。妻もサーファーであり、僕が休みの日には一緒に海に出かけたり、自宅で料理をつくって一緒にお酒を楽しんだりしていますね。海が近い土地柄のため、職場には20代から40代まで、たくさんサーフィン仲間がいます。地元のサーフィン仲間もたくさんできたので、海に行けば誰かしら知っている人がいる。そこでコミュニケーションするのも楽しいです。

また、介護職には、「労働時間が長い」というイメージだけでなく、「低賃金」だというイメージもありますが、僕は27歳の時に、この仕事で稼いだお金で家を建てました。リビングの壁一面に、愛用のサーフボードを何本も飾っているところが、僕なりのこだわりなんです(笑)。

▲早番の退勤後には妻のとも子さんと一緒にサーフィンへ行くことも。サーフボードが収まる愛車のセレナは、後部座席がベッドになるため、車中泊で遠出することも

▲職場の仲間と合流。二人とも、介護福祉士の「真面目」なイメージとは違い、毎日のように趣味のサーフィンを楽しんでいる。また、鈴木さんはサーフィンの大会に毎年出場し、常に優勝候補に挙がっているそう

▲鈴木さんの自宅風景。サーフボードを並べたリビングがお気に入り。休日には鈴木さんがイタリアンや和食の料理を作り、夫婦でお酒を飲んだり、映画を観てくつろいでいる

「介護の未来案内人」として、この仕事の楽しさを伝えたい

2018年8月、千葉県健康福祉部が手掛けるプロジェクト「介護の未来案内人」に委嘱され、代表として委嘱式での宣誓もさせていただきました。千葉県内で介護職員として活躍する若手人材19名が案内人となり、学校施設を訪問し、介護の魅力ややりがいなどを伝える活動です。

この活動に挑戦したのは、僕のこれまでの経験を話すことで、いろんな人に「介護の仕事の本当の姿」を知ってもらいたいと思ったからです。いまだ介護の仕事にはマイナスイメージがつきまとっていますが、実際に働いている側としては、全く違うものです。仕事そのものが楽しいことはもちろん、職場の仲間も楽しい人ばかりだし、自由な時間がたくさんあり、給料も安定していて、福利厚生もしっかりしています。さらに言えば、間口も広い仕事なので、僕のように、介護についてまったく知らないままスタートする人や、趣味を毎日楽しみたいような人でも、ちゃんとやっていけますよ(笑)。

長くキャリアを続けるかどうか悩むより、まずは介護の世界を知り、そして、経験してみてほしい。これから先、需要はますます高まっていく仕事ですし、1年経験するだけでも大きく成長できるはずです。それで楽しいと思えたなら、3年続けて国家資格を取得してもいいですし、一度辞めて他の仕事を経験してから戻ってくることもできます。フランクな気持ちでスタートしたのは僕自身も同じですし、結果的に20年近くこの仕事を続けていますからね(笑)。

今後は、介護の仕事の魅力を広めながら、楽しく働ける職場づくりにも尽力していきたいですね。ご利用者のみなさんはもちろん、スタッフもより一層楽しめる職場にしていきたい! それから、プライベートではサーフィンの大会優勝も目指します。仕事も人生も、もっと楽しく、もっと充実させていこうと思います。

▲「介護の未来案内人」の代表として、委嘱式で宣誓する鈴木さん

【文: 上野 真理子 写真: 四宮 義博】

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