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行政・自治体の取組

2024.04.17 UP

小学生向けのイベントでは300名からの申し込みが!サッカーチームとの連携やラジオでの発信まで、独自の取り組みで魅力発信(岡山県)

少子高齢化や人口減少が進む日本、各地域において人材確保や定着が喫緊の課題となっている。岡山県もその一つ。介護の仕事へのマイナスイメージが人材参入の阻害要因の一つとなっていることもあり、岡山県ではマイナスイメージの払しょくと、介護の仕事の魅力を発信するために、様々な工夫を凝らし取り組んでいる。取り組みを進めている岡山県子ども・福祉部福祉企画課地域福祉・被災者支援班(*) 名越 要介さんと、社会福祉法人岡山県社会福祉協議会 福祉支援部 福祉人材センター 田口 都さんに詳しいお話を伺いました。
(*)~2024年3月までご在籍、その後ご異動

ラジオ番組では涙がほろり。心を揺さぶる魅力発信をテーマに取り組む岡山県が大切にしていることは?

――岡山県特有の地域的な課題について教えてください。

名越さん:介護職員の不足が大きな課題です。介護サービスを利用される方が増えている一方で、働く人とのギャップがどんどんと広がっています。2025年に利用が見込まれる介護サービスを提供するには、介護職員約3万7千人が必要となると想定されています(*)。また、今後の離職者や入職者等の推移を踏まえた上で推計すると、2040年には約4千人の介護職員不足が見込まれています。
(*)第8期 岡山県高齢者保健福祉計画・介護保険事業支援計画
296291.pdf (pref.okayama.jp)

実際、岡山市内はまだまだ人口も多く若い方も多いですが、県北と言われる、鳥取県・島根県に近いエリアは求人を出してもなかなか人が集まりにくく応募者が無いという状況があります。そのため、資格保有者だけでなく、外国の方や資格がない方々も働けるように福祉施設側は体制を整えられていらっしゃいますね。

田口さん:新卒採用の状況についてもお伝えすると、岡山県独自の助成や政府の補助などを掲げて県外の市町村から学生を誘致していることが功を奏しているようで、学生数は多いです。ただ就職となると「地元で就業先を探している方が多く、岡山県内での就職は考えていない」という学生さんもいらっしゃるとお聞きします。
大学関係者の方々も就職へのバックアップをしてくださっていて、実習を県内施設で実施したり、県内施設を就職先として紹介していただいていますが、目に見えるほどの結果には繋がっていない状況ですね。

――人材確保の推進に向けて、どのような考え方で取り組みを進めていますか?

名越さん:福祉介護人材確保事業として以下の4つの考え方をもとに事業を進めております。
・入職者を増やす
・離職者の再就職を促す
・離職者を減らす
・働きやすい職場づくり
推進体制としては、「岡山県福祉人材センター」が取り組み主体の一つです。そして、県、県教育委員会、福祉人材センター、事業所(団体)、職能団体、養成施設、労働局など関係する全ての機関や団体で構成するネットワーク組織である「岡山県福祉・介護人材確保対策推進協議会」において、目標を共有し、役割分担を明確にしながら、連携と協働の意識を醸成するための取り組みを推進しています。

――具体的にはどのような取り組みをされてきましたか?

●令和2年度、3年度
田口:まずは「介護の日*」のイベントを継続的に実施することを決めました。対面開催だけではなく、WEB配信も選択肢の一つに。あわせてWEBサイトで情報発信をし、コロナ禍でも出来ることを模索して情報発信してきました。
* 「介護の日」とは、介護について理解と認識を深め、介護従事者、介護サービス利用者及び介護家族を支援するとともに、利用者、家族、介護従事者、それらを取り巻く地域社会における支え合いや交流を促進する観点から、高齢者や障害者等に対する介護に関し、国民への啓発を重点的に実施するための日

令和2年度には、イベントが開催できなかったこともあり、介護の日の川柳の募集をしてみようというアイディアが生まれました。毎年継続的に取り組むことも大切ですので、第10回まで実施して、第1回~第10回までの最優秀作品を掲載した冊子を作成しましょう!とも話していましたね。
第4回目の今年は、小学生や県立高校の学生など福祉系以外の方や、一般の方にも参加いただきました。下は6歳から上は90歳まで幅広い方々に楽しんでもらえるようなイベントとなりました。さらに関係機関の方々に審査をおこなっていただくことで、より多くのみなさんに関わっていただけるように工夫をしています。

●令和4年度
SNSが情報発信の媒体として影響力が大きいことから、メディアの活用についても検討を始めました。そこで大学生でアーティストとしても活動している萌乃(もえの)さん(*)にアンバサダーとして就任していただき、魅力発信の取り組みをさらに強化することにいたしました。

▲萌乃さんの就任式
(*)Okayama福祉・介護魅力発信アンバサダー活動(2022.5~2024.3)

就任後、すまいる宣言認証制度イメージソング「smile」を制作するほか、動画の制作も実施。これをYouTubeなどのSNSを活用して発信してきました。

加えて、アウトリーチ活動も行っています。地元のJリーグチーム「ファジアーノ岡山」と連携して、ホーム戦の際にPRブース出展や、県立図書館との連携展示「福祉・介護職場の魅力紹介」の実施、コラボグッズの無料配布をしました。

▲PRブース出展の様子(ファジアーノ岡山のマスコットキャラクターと一緒に)

令和4年度から毎年10月に「ファジアーノ岡山」ホーム戦でのPRブーでは、コラボグッズとともに人材センターのチラシを配布することによって、福祉への関心が低い層にもアプローチすることができました。行列ができるほど来ていただけましたね。

ただ魅力発信も大切ですが、先ほど示した4つの項目のうち「働きやすい職場づくり」も重要です。そこで、「おかやまフクシ・カイゴ職場すまいる宣言」(*)の普及啓発も同時に行い、県内の介護職員が笑顔で働ける職場を作るというのも同時に取り組んできました。

*「おかやまフクシ・カイゴ職場すまいる宣言」
人材育成や就業環境の改善など、働きやすい職場環境づくりに積極的に取り組み、一定の基準を満たした福祉・介護事業所の宣言内容について、岡山県福祉・介護人材確保対策推進協議会において確認し、宣言事業所として登録する制度(https://smile.okayama-fukushikaigo.jp/

●令和5年度
県内の福祉・介護施設で働く19名の若手職員で構成されたグループ すまいる宣言法人広報部「team smile(チームスマイル)」を結成し、毎月1回、県内のFMラジオ番組に出演し介護の仕事やそのやりがいなどを発信するほか、「Okayama 福祉・介護フェス」でも活躍していただきました。

▲「Okayama 福祉・介護フェス」2023では、ラジオ番組「萌乃のsmile radio」の公開収録のほか、川柳表彰式、team smileメンバーも被写体となった「KAiGO PRiDE in Okayama 写真展」などを行い、多くの皆さまにご参加いただきました。

▲KAiGO PRiDE in Okayama 写真展

――ラジオ番組や楽曲制作、サッカーチームとの連携等、幅広い取り組みをされていますね。生まれた効果やいただいた声をお教えください。

田口さん:たくさんあります!いくつか紹介いたします。

ある施設の方からの声ですが、2年目の職員で仕事に慣れた頃ということもあり、仕事でできないことに目が行き自信を失い悩んでいたそうです。そこで介護の仕事や自分の仕事の価値を言葉にし、人前で伝えることで成長するかもと育成の観点から上司のサポートのもとに「team smile」活動に参加した職員が、自信を取り戻したというお話を聞きました。
また、若手職員が集まるteam smileのメンバーがイベントで話すことで、「こういう方が働いている施設や、こういう職場環境だったら私も働いてみたい」というような学生さんの声もだんだん聞くようになりました。
そのほかYouTubeにも取り組んだことで、出演者のお友達や知り合いに広がっていき、いろんな声をいただくことができましたね。
ある介護施設職員の子どもさんがYouTubeラジオを見てくださったそうです。「介護って暗いイメージがあったけど、皆楽しそうに話しているのが印象的で、感動的なエピソードも聞けてすごく楽しんで聞いてる」という感想をいただきました。

ラジオでは、職員のエピソードを聞いて感動した萌乃さんが涙する場面もあり、介護職員の本当の生の声を伝えていて、リスナーの皆さんにも好評です。ラジオ公開収録を見た方の感想では、「(介護は)自分にも関係のあることとして、関心を深めたい」「なかなか聞けない介護・福祉に実際に関わっている方の生の声を知ることができて、とても良かった」というポジティブな意見をいただいています。

――多様な方へ向けて取り組んでいますが、特にどのような対象者に向けて魅力発信をしたいという想いがありますか?

名越さん:次世代を担う方、特に子どもたちに介護を当たり前に感じてもらいたいと思っていますね。
理由としては2つあります。介護の仕事を就職先の1つに考えてもらいたい、そのためにも介護をそもそも知らないと、働きたいと思ってもらえないと思うので、特に魅力を伝えたい対象としています。
2つ目の理由としては、小中高校生をターゲットにすると、学校関係者の方や保護者にもアプローチしやすいんです。就職先に選んでいただくにあたり、やはり保護者の方の理解を得ることは重要です。子どもたちの就職先の1つに選ばれるようになると、子どもから一般の方へ徐々に周知が広がっていくことにも繋がり、さらなる好影響が期待されます。

田口さん:具体的な取り組みとして岡山県福祉人材センターでは、小・中学生が福祉・介護の仕事への関心を高め、理解を深めることを目的として、県内小中学生を対象に福祉の職場・見学体験ツアー「フクシラボおかやま」を開催しています。その中で、小学生を対象としたイベント「キッザワーカー」と中学生(小学5,6年生も参加可)を対象としたイベントの「キッザレポーター」を行いました。

――「フクシラボおかやま」とはどのようなイベントですか?

田口さん:小学生を対象としたイベントの「キッザワーカー」では福祉のお仕事(介護福祉士、看護師、管理栄養士、保育士)を疑似体験できる体験型イベントです。また、中学生(小学5,6年生も参加可)を対象としたイベントの「キッザレポーター」では県内施設へ見学に行き、職業体験や福祉のお仕事の魅力を職員さんとグループワークを行い、探求する内容です。
「キッザワーカー」では、例えば管理栄養士として、おじいちゃん・おばあちゃんが食べやすい食事を作るために、とろみをつけて食べてみる体験をする等、福祉の仕事をリアルに感じられるプログラムとしました。team smileの方々にも参加いただきましたが、40名定員で300名の申し込みもありましたので、次年度からは、定員を増やして開催します!

▲管理栄養士の体験コーナー

――アイディアが豊富ですが、どのように発想されていますか?

また、企画から運営までどのような体制でされていますか。
田口さん:最初の企画構想については、「こういうことがしたいですね」ということを話すために、多いときはお互い毎日何回も電話します。
アイディアは、いろんなWEBサイトで他自治体・施設の魅力発信の事例などを見て勉強しています。岡山独自で何かができないかというところから始まり、これまでご縁があった人や新たな出会いに繋がって、最終的に一緒にやりましょうという形で発展してきましたね。

アンバサダーの萌乃さんについても、アーティストとして活躍されていた司会姿をYouTubeで見たことがきっかけです。事務所の社長さんとお会いできたことからつながって、そこからのご縁です。
Jリーグチームのファジアーノ岡山は、名越さんがアプローチをしてくださいました。スポンサーなど費用が発生することもあり、予算の都合上断念していたんですが、県の名越さんから声をかけてくださったらできるかもしれないというところで、一生懸命アプローチしてくださいました。令和4年度に初めてPRブースを出展してから毎年、魅力発信事業に連携していただき、事業展開できるようになりましたね。
令和5年度は「ファジアーノ岡山」のプロサッカー選手が出演するCM動画を制作しました。

――うまく役割を分担されつつ取り組まれているんですね。
様々な関係者に協力いただくためにご提案される時に工夫されていることはありますか?

名越さん:まずは「やってみよう」「もっと面白いことができないかな?」という考え方で取り組んでいますね。計画的じゃないから、逆にうまくいっているんですよね(笑)具体的なことを田口さんがいろいろ考えてくださったりして、形になるっていう状況です。
本来予定している、やらなければならない事業のプラスアルファを、できる限り費用がかからない形でどうできるか、本来ならやらなくてもいいようなことを、試行錯誤して一生懸命やってるって感じですね(笑)
例えば、ラジオのシナリオ作成、YouTube編集、チラシ作成、パンフレット作製も全部田口さんがやっているんです!

――幅広いですね!そこまで取り組まれる原動力を教えてください

名越さん:実施するといろいろと反響もあり、いろんなお声をいただくことができ、「もっとこうしたら良いのかな」とさらに改善できるんです。
いろんな活動をすることによって、施設の方とのつながりもできるようになりました。行政や社会福祉協議会だけの机上の考え方だけだと魅力発信の際に限界があるのですが、現場の方が伝えてくださるとリアルな言葉として伝わるようですね。

――伝えるという観点で、大事にされていることはありますか。

田口さん:施設の職員さんが「今考えていること」を素直にストレートに話していただくことにこだわっています。例えばラジオ番組では、きっちりとシナリオを決めてしまうと面白くないので、回答書までは作らずに質問事項だけ作り、あとは皆さんの言葉で答えてくださいとお願いしていますね。
介護施設の職員さんや学生さんなど、様々な方に情報発信していただく場を作ることで、多くの方が関心を持っていただく機会が増えてきましたね。

――関心が徐々に高まってきたということで、その後の人材確保へつなげるために考えている戦略についてもお教えください。

広報する時には、必ず「岡山県福祉人材センター」という名前を出すようにして、福祉・介護の魅力を発信するために県と共に取り組んでいます。取り組み主体が「人材センター」であることを伝えていくと、だんだんと認知度が高まり、その効果もあってか相談件数が増えてきました。「ハローワークには行ったことがあるけど、人材センターは知らなかった」という方々から「資格がない」「未経験だけど、働ける施設はありますか?」というような相談者の方もいらっしゃいました。

――これからやりたいことをお教えください!

名越さん:介護の仕事を正しく理解してもらえるように伝えたい、市町村も含めて連携をしながら取り組んでいきたいと思っています。本事業に対して市町村も関心を持ってくれて「一緒にできませんか」とお声かけもいただいており、ますます活動の範囲が広がりそうです。
ただ、活動の幅が広がる分、介護施設のみなさまの負担にならないようにっていうのは、心掛けています。

田口さん:福祉・介護の体験企画をさらに強化し、介護を学べる場・機会をもっと作って行きたいと思っています。例えば、team smileの若手職員が講師として小中学校に訪問して、遊びながら楽しく伝えることで、介護の仕事っていいかもと理解していただけるのではないかと思います。
ひいては、高齢者や認知症の方、障害のある方に対する理解にもつながってくるのではないかなと思っていますので、福祉・介護の重要性や仕事についての理解を深めて、将来の職業選択につなげるために学校や関係機関と連携して、取り組んでいきたいなと思ってます。

――名越さん、田口さん、ご紹介いただきありがとうございました。

【文: HELPMAN JAPAN 写真: 岡山県・社会福祉法人岡山県社会福祉協議会 提供】

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