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行政・自治体の取組

2023.05.19 UP

神戸市でイキイキと働く多様な職員と国・県・市の支援を紹介!介護業界で働く人の誇りを引き出す「コウベdeカイゴ」。定着率向上にもつながった理由とは(神戸市)

これまで介護業界の定着支援に力を入れてきた神戸市。業界の採用課題を解決するため、行政としての新たな支援の必要性を感じ、介護・医療現場の声も参考にしてスタートさせたWEBサイト「コウベdeカイゴ」(https://kobedekaigo.city.kobe.lg.jp/)。2022年度に本サイトを開設し、様々な情報発信を通じて、定着率の向上の声も届いているそう。神戸市福祉局介護保険課 介護人材担当係長 中島由紀子さんに、詳しいお話を伺いました。

▼「コウベdeカイゴ」WEBページ

https://kobedekaigo.city.kobe.lg.jp/

 

国・県・市の区別なく、「介護の仕事に関する支援情報」をまとめて発信し差別化

――これまでの市の状況や課題に感じていることなど、お教えください!
神戸市は人口流出が課題になっています。近隣の西宮市や明石市については子育て世帯や若年層の人口が増えているにもかかわらず、神戸市からは生産年齢人口が流出しており(*)、ましてや介護業界はなおさらです。
また神戸市においては、比較的他都市よりも単身の高齢者世帯が多い傾向にあり、介護サービスニーズも高い状況です。ニーズが高いにも関わらず、生産年齢人口は少ないので、現在は特に介護人材の確保に注力しています。

人材確保については現場の声をお聞きしつつ推進しており、神戸市介護サービス協会など関係団体とも連携して取り組んでいます。神戸市介護サービス協会には、神戸市内の老人福祉施設連盟などの介護保険サービスに関わる団体以外にも、神戸市の医師会や薬剤師会など、医療分野の関係団体も所属しており、保健、医療、福祉の横断的な連携を図ることで介護サービスの質の向上などに取り組んでいます。協会からは、積極的に介護保険サービスに関する要望をいただくほか、意見交換会の開催を通じて様々な現場の意見をいただいてきました。
(*)これまでの人口の動き(出展:神戸市):
https://www.city.kobe.lg.jp/a47946/shise/toke/toukei/jinkou/jinkouugoki/index.html

――離職率やこれまで実施してきた定着支援についても教えていただきたいです!
神戸市独自の数値は出していないのですが、兵庫県の令和3年度の介護職員(訪問介護員/介護職員)の離職率は14.3%であり、全国的にも同離職率は平成17年以降過去最低の14.3%となり、介護職員の定着率は一定改善傾向がみられます。

▲令和3年度 介護労働実態調査結果 都道府県版(兵庫県):http://www.kaigo-center.or.jp/shibu/hyogo/2022/010324.html

定着支援は大きく2つ、「キャリアアップ支援」と「職場環境の改善」に取り組んでいます。
「キャリアアップ支援」の一つに、神戸市が平成23年度に創設した「神戸市高齢者介護士認定制度」があります。キャリアパスが見えにくいという介護職の課題を解消するため、入職から介護福祉士資格を取得するまでの間に相当する、原則3年以上5年未満の介護職員を対象に、介護業務3年で到達すべきレベルに合わせた研修と認定試験を行い、合格者を神戸市が認定するものです。
令和元年度からは、この認定制度に合格された方に対して介護福祉士資格取得までの最長5年間、月1万円の補助をしています。また「職場環境の改善」は、令和3年度から「介護テクノロジー導入促進プロジェクト」や「ICT化推進事業補助金」を創設し、ICTの導入による介護負担・事務負担の軽減を支援しています。

――これまで実施してきた採用支援についても教えてください。
主に3つあります。
1つ目に「介護職員初任者研修補助事業」です。介護現場では、特に、訪問介護職員が不足していますが、訪問介護職員として働くためには初任者研修等を修了する必要があり、費用もかかるため、ひとつのハードルになっています。また就職後早い段階での専門的知識の習得機会、及びキャリアアップに向けた切れ目のない支援を行うためにも、介護職員初任者研修を修了し、神戸市内の福祉サービス事業所にて介護職員として3ヶ月就労継続した場合に、介護職員初任者研修の受講費の一部を上限50,000円まで補助しています。
2つ目に「潜在介護士再就職支援事業」があります。一度介護現場を離れた後に、介護現場へ再就職したいと考えている方に対して、最新の介護技術や介護制度の実態をセミナーで伝えています。
3つ目に、日本全体の生産年齢人口が減少傾向にあるため、外国人介護職員が注目されており、外国人介護職員を受け入れたい施設向けに、受け入れの手順などをわかりやすくお伝えするセミナーを実施しています。

――今回の「コウベdeカイゴ」のサイト運営をスタートしたきっかけを教えてください。
上記のように、介護職員の定着率については改善傾向が見られていた一方で、令和元年度介護労働実態調査にて、介護職員が不足している理由について、「採用が困難である(90%)」、「離職率が高い(18.4%)」との結果がでています。この結果から、介護人材不足解消のためには採用支援がカギとなるとの仮説を立てて支援に取り組み始めました。また、令和元年度に神戸市内の全施設に実態調査をし、介護人材の確保や育成に対する行政への期待をお聞きしたところ、一番期待が高かったのが「学生等に対する介護職のイメージアップの取り組みの推進」でした。
そこで、神戸市内の関係団体に対して、「介護職のイメージアップの取り組みの推進」として、Webサイトを中心とした広報活動を行うことへの意見を求めたところ、前向きな反応をいただき、後押ししていただけるような形で実施に至りました。
広報活動は様々にあると思うのですが、Webサイトを中心とした理由としては、介護の仕事に関する情報のプラットフォームを作りたかったことがあります。現状では、市以外にも国、県として、介護職員の確保に係る施策や支援金、貸付金などがたくさん用意されていますが、情報がバラバラに発信されており、「知られていない」「活用されていない」ことが問題と考えています。そこで、国・県・市の支援に区別なく情報をまとめて発信しようと取り組みました。介護の仕事にこれから就く方や今働いている介護職員、介護施設の方にとっても、わざわざ各サイトを探さずに済み、支援が活用されやすくなるのではないかというねらいがありました。


▲介護業界に関する支援をまとめたページ「コウベdeサポート」。

――「コウベdeカイゴ」のメインターゲットを教えてください!
初年度は、介護の仕事に一定の関心がある方、例えば、介護業界で働くことを目指して勉学に励む方、介護福祉士の養成校に通う方を対象としています。というのも、介護の仕事を目指す方の中には、ご家族から「介護の仕事は辞めておきなさい」と反対されることがあるほか、介護現場がメディアで取り上げられる時は、虐待事件などのネガティブな内容が取り上げられやすく、介護職として働くという自分の決断に、自信を持てない方がいらっしゃるということが課題だと考えたからです。
加えて、すでに業界で働いている方もターゲットに置いています。もちろん、介護に全く関心がない方への魅力向上も図りたいのですが、まずは現職の方への発信を最優先事項と捉えて取り組んでいます。というのも、介護業界で働く方から「仕事に誇りを持ち切れない」「どういうキャリアパスを踏めばいいかわからない」という悩みがあると聞いたことが理由です。介護福祉士を取得されても、将来的なキャリアや未来が見えにくく、迷われている方もおられるそうです。
そこで、実際に神戸市で介護職員としてイキイキと働かれている方の声や働き方を見せることによって、それらの課題を解消していけるのではないかと、コンテンツを練りました。

――「コウベdeカイゴ」という表現やサイト全体のデザインに込めた思いを教えてください!
神戸市の介護政策っていうところも伝わりますし、韻を踏んでいて割と耳に残りやすく、わかりやすいフレーズにしています。フレーズが広がり、ひいては取り組み自体も広がったらと思っています。福祉・介護の制度は漢字が多いですが、難しい言葉では頭に入ってこないですし、敬遠されてしまう場合もあり得ますので、少しでも興味を持てるような表現にできればと工夫しました。
また、デザインは若年層が好むものにしているほか、色にも工夫しています。福祉・介護現場には「優しさ」という魅力的な側面もあり、優しさ・柔らかさを表すデザインや色を使うこともできるのですが、介護の仕事へのポジティブな想いを持って、介護の仕事で働きたいという選択に対する自信や、ご自身の介護の仕事に明るく誇りを持っていただきたいという思いを込めて、自信・誇りを表すような原色・明るい色で表現をしています。

――コンテンツの工夫についても教えてください。
サイト全体で共通して伝えたかった想いとしては、介護業界には、その方に合った様々な働き方・働く場所がある、ということです。いくつかサイト内のコンテンツを紹介します。
●「カイゴnoシゴト」・「カイゴnoキャリア」
職場としての介護保険サービスにどのようなものがあるか、そのサービスを提供するにはどのような資格が必要かを細かく紹介しました。介護現場に興味がなかった方に対して関心を向けていただく発信をする上で、情報整理をして発信しようとコンテンツを作っています。
●「カイゴnoホンネ」
神戸市の介護現場で活躍する介護職員を取材した内容です。例えば高齢者の力になりたいという想いを持つ方もいれば、ワークライフバランスを大事にしていきたいので時間に融通が利くということで頑張っている方もインタビューしています。仕事を選択するにあたって、「いろいろな想いから始めていいし、いろいろな働き方があっていいんだよ」ということを見せたかったこともあり、働き方の多様性について紹介する形にしました。


▲「カイゴnoホンネ」取材の様子。

●「カイゴnoゲンバ」
介護現場をもっと良くするために、さまざまな取り組みを行う施設を紹介しています。例えば、介護職員が働きやすいようにICT導入に力を入れていたり、外国人介護職員が多く活躍していたりする施設などをインタビューしています。就職先としての介護施設を探すにあたり、優しさや思いやりだけで回っている(=職員の負担が強い)のではないことを見せたかったため、このようなコンテンツにしています。


▲外国人職員向けの特設ページ「日本で働くなら!コウベdeカイゴ」も開設。ベトナム語を含む3か国語で閲覧できる。

――本サイトを周知するための広報についてお教えください!
オンラインでは、GoogleやYahoo、LINE、Instagramの広告を活用しました。Instagramでは、特定の場所にいる方に広告を表示させることができるのですが、例えば養成校に居る方をターゲットにして広告を表示させています。どの広告もホームページへのアクセスの創出を狙いにしています。
オフラインでは、神戸市の中心となるJR三宮駅にポスターを掲示するほか、神戸空港や駅ビルのビジョンに、動画プロモーションビデオを流しました。


▲コウベdeカイゴのプロモーション動画:https://kobedekaigo.city.kobe.lg.jp/video/promotion.mp4

加えて、リーフレットを作り、ハローワークや区役所の窓口、関係団体のほか、介護職員の初任者研修を実施する民間事業者や養成校の窓口にも置いていただきました。


▲「コウベdeカイゴ」のリーフレット:https://kobedekaigo.city.kobe.lg.jp/pdf/kaigo_leaf_school.pdf

――どのような反響がありましたか?
外国の方からの声が印象的でした。インタビューを受けた外国人介護職員が所属する施設から聞いた話ですと、このサイトに掲載されたことで「神戸市に認められた」と感じていただけたようで、今まで以上に仕事を頑張っているんですと教えていただきました。また、WEBサイトは海外からもご覧いただけるので、母国のご両親がご覧になり、安心いただけたというお声も頂戴しました。
また、「ここは働きやすい施設だ」と留学生の方からの申し込みが増えているほか、介護職員の定着率も上がったという声までお聞きすることもあり、一定の効果があったと思っています。
そのほかにも、関係団体からの評価としては、国・県・市の支援内容が総合的に網羅され、対象者別に支援内容が整理されているので、情報を探す手間が省けて事務負担も軽減したことや、受けられる支援がわかりやすくなったという声もいただいております。

――今後検討している人材確保の取組についても教えてください!
より多くのターゲットに見ていただき、何度も足を運んでいただけるようなサイトに育てていきたいと思っています。そのためにも、一定のスピード感を持って、求められる情報を積極的に発信していくことが大切だと思っています。
中長期的な目標としては、介護の仕事に関心がない方にも伝わるサイトにしていきたいです。介護職員として働かない方であっても、介護現場のリアルや魅力を感じていただけるような情報の発信も検討しています。

――中島様、ご紹介いただきありがとうございました。

【文: HELPMAN JAPAN 写真: 神戸市】

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