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2025.04.28 UP
千葉県習志野市で3月に開業。複合施設「実籾パークサイド」立ち上げへの想いと目指す未来/社会福祉法人 福祉楽団

2025年3月、千葉県習志野市に児童養護施設を中核とする福祉拠点「実籾(みもみ)パークサイド」が開業しました。
運営するのは、千葉県・埼玉県で子ども・障害のある人・高齢者・生活困窮者の支援事業を行っている社会福祉法人 福祉楽団です。
施設長の藤堂智典さんに、立ち上げに際しての想いや設計のこだわり、描いている将来像を伺いました。また、施設で働く3名のスタッフの方にも、施設への想い・期待を語っていただきました。
県職員として感じた課題――「子どもを守る施設が足りない」
―― 「実籾パークサイド」の全体像について教えてください。
実籾パークサイドは、子ども、高齢者、障害のある人など行政の福祉分野を横断し、地域と共に歩んでいく福祉拠点です。子どものための施設を「実籾パークサイドハウス」、高齢者のための施設を「実籾パークサイドテラス」と呼んでいます。
中核となるのは「児童養護施設」です。親から虐待されている子ども、親の死亡・行方不明などで養護する大人がいない子どもが生活する場所です。また、生命・身体に危害を加えられる恐れがある子どもを一時的に保護する「一時保護所」、親が病気・出産・仕事などで育児ができないときに子どもが一時的に宿泊できる「子どものショートステイ」、地域の家庭の子育てや子どもに関する相談に応じることができる「児童家庭支援センター」もあります。また制度外の取り組みとして、ここから巣立った人が「里帰り」できる部屋も設けています。
このほか、高齢者のグループホーム、看護小規模多機能型居宅介護、障害のある子どもの放課後等デイサービス、障害のある人の就労継続支援事業所、誰でも使えるバスケットボールコートなどを併設しています。
▲施設のイメージ図
▲完成したバスケットボールコート
―― どのようなきっかけ・経緯でプロジェクトが立ち上がったのでしょうか。
私が福祉楽団に対し、「児童養護施設を作ってほしい」と相談を持ちかけたのがきっかけです。
私は21年間、千葉県の児童福祉の専門職として働いてきました。児童自立支援施設で行動上の問題を抱えている子どもたちと生活を共にした時期もありますし、児童相談所の現場では、施設に入る前の子どもたちがどんな生活を送ってきたのかを目の当たりにしました。
昨今、子どもの数は減っていても虐待は増えています。通報があれば調査に出向き、場合によっては子どもを保護してきました。一時保護所には定員の1.5~2倍もの数の子どもたちが入っていて、相談室や学習室に布団を敷いて寝なければならない状況を、とても切なく感じていたんです。
そこで、以前からユニークな取り組みをしていることを知っていた福祉楽団を訪ねて現状を話し、「児童養護施設を作ってもらえないか」と直談判しました。
理事長の飯田大輔さんも課題意識を持っていて、約半年後にはこの拠点の構想がまとまりました。私は当初、「誰かがやってくれないか」と考えていましたが、自身でこの問題を何とかしたいという想いもありましたし、飯田さんも「一緒にやりましょう」と言ってくださり、転職を決断しました。娘が大学に進学するタイミングだったので、家族には心配をかけましたが、人生を懸ける意義があると思ったのです。
▲研修にて職員同士の想いや考えを共有しあう様子
多様な人との交流を通じ、子どもが自己肯定感を持って成長できるように
―― 立ち上げにあたり、工夫したこと・こだわったことはありますか。
子どもが暮らす場が「施設」というより「普通の家庭」に近い環境であるようにと、定員6人の木造戸建て住宅を6棟作りました。また、公園と高校に隣接している立地なのですが、施設の周囲に塀やフェンスなどは設けていません。公園利用者や学生など、地域の人々が行き交い、交流が生まれるような工夫をしています。福祉施設はともすると閉鎖的になりがちですが、地域と空気が入り混じるような設計としました。子どもたちが地域社会の中で、多様な人と交流しながら育つことを目指しています。
実際、隣接する高校に出向いて、生徒さんたちにこの施設についてお話ししたり、スポーツイベントに招かれて地域の高校生や大学生と交流したりする機会もあります。
▲開設に向けて地域住民の方々と意見交換を行った
―― この拠点での子どもたちの暮らしや成長を、どのように描いているのでしょうか。
親から罵倒や虐待を受けて傷ついてきた子どもたちが、併設の介護施設で暮らす高齢者から孫のように可愛がってもらえば自己肯定感を持てるかもしれない。障害のある人が就労継続支援事業所で一生懸命働く姿を見て、努力することの尊さを感じられるかもしれない。放課後等デイサービスに通ってくる子と一緒に遊んだり、施設内で働く職員や地域の人たちとコミュニケーションをとったりして学べることもあるでしょう。
私が前職で施設職員だったとき、「将来は施設の先生になる」「保育士」になると言ってくれる子どもたちがいました。うれしくもありますが、その世界しか知らないともいえます。子どもたちにはいろんな生き方があることを学びながら、自分の道を選んでいってほしいんです。「守られている」という安心感を与えながら、成長を支えていきたいと思います。
一方、この拠点内で生活する高齢者も、子どもたちが遊ぶ姿を見たり、何かを教えてあげたりすることが生きがいにつながる可能性があります。この施設内で人同士のさまざまな掛け算が生み出され、さらに地域で活動している人や困っている人の掛け算も加わって、多様な化学反応が起きるのが楽しみですね。人とのつながりを感じて心が潤い、心の栄養になっていくことを願っています。
地域の人々の悩みを一緒に考え、解決につなげるハブでありたい
―― 地域にとっては、どのような存在でありたいとお考えですか。
いまの社会は、人と人とのつながりが希薄になっています。だからこそ、地域のすべての人にとって、友人や親戚のような存在でありたいです。ふらりと立ち寄ってお茶を飲みながら近況を話して、困りごとがあるなら一緒に考える。福祉楽団は多様な事業を持っているので、その中に活用できるものがあれば活用します。自分たちにはなくても、問題解決できる人につなげるハブの役割を担いたいですね。
例えば、困窮してガスを止められた人には私たちの施設でお風呂に入ってもらったり、食事をとれていない人にはおにぎりを提供したり。毎日は難しいですが……。DV(ドメスティック・バイオレンス)から逃げたくても県のシェルターの利用は敷居が高いと感じる人がいれば、今後を考える間だけでもこの施設で過ごしてもらえれば。すべてのニーズに応えるのは難しいですが、「何かできるかもしれない」という視点で地域の人たちと関わっていきたいと思います。
このプロジェクトの資金調達では、基金を設立して寄付を募ったほか、クラウドファンディングも実施しましたが、多くの地元の人たちに協力いただきました。上棟式での餅投げには、50~100人くらい来てもらえればいいと思っていたところ、300~400人が集まってくださり、驚きました。地域の人たちに共感いただき、応援されていると感じているので、期待に応えたいと思います。
そして、これから入職いただく人たちにも、「人とのつながりを通して成長し、自身の成長によって誰かを支えたい」という想いを持って来てもらえればうれしいです。
▲上棟式での餅投げの様子
―― ここからは、「実籾パークサイド」で働くスタッフの皆さんの声をご紹介します。入職の動機やこの施設への想い、取り組みたいことを語っていただきました。
子どもたちが安心して暮らし、愛情が注がれる場所でありたい
児童養護施設担当/須藤 結さん
教育大学で福祉を学び、中でも「更生保護」の分野が印象に残っています。福祉楽団には、「幅広いことを勉強できそう」と考えて4年前に入職し、高齢者介護を担当してきました。
人生の大先輩方とたくさん関わる中では、幼少期にどのように育ったかが人格形成に大きく影響するのだと学びました。大人になって犯罪などに手を染めてしまう人は、幼少期の家庭に問題があったケースも多いようです。「人から愛されることで、幸せに大人になれるのであれば、いくらでも愛情を注いであげたい」と強く思うので、この施設をそういう場にしていきたいです。
「実籾パークサイド」で働く前の1年間、研修のため外部の児童養護施設2カ所に勤務したのですが、その施設では子どもたちが自由に、安心して生活できていると感じました。この施設も子どもが安心して寝転がっていられるような家になればいいなと思っています。そして、さまざまな大人たちが周囲にいて関わる機会が多いというこの施設のスタイルが、子どもたちの成長にどう生かされるのか楽しみです。
高齢者が地域社会の中で、最期まで自分らしく生きられるように
看護小規模多機能型居宅介護担当/吉田 響さん
大学時代は文学部英文科でしたが、スタディツアーで北欧に行った際、それまで薄暗いイメージを抱いていた老人ホームがとてもおしゃれで、高齢者がイキイキと暮らす姿を見たんです。それを機に高齢者ケアの分野に興味を持ち、老人ホームでのアルバイトを経て福祉楽団に入職しました。
これまではショートステイで介護職を務め、「実籾パークサイド」では看護小規模多機能型居宅介護を担当します。一般的な施設でのケアは、よい面も多いのですが、社会から除外されてしまうような雰囲気を感じていました。この施設では、地域の中で、最期までその人らしく生きることを支援したいと考えています。
子ども、障害のある人、地域の人たちなどが集まっているのは、特別な環境のようで、でも本当は当たり前のことのはずです。いろいろな人と関わる機会があり、ここに来るだけで皆が元気になれるような場所になれればと思います。私自身、利用者の皆さんの孫になったような気分で、家族のような感情を抱く瞬間が多くあります。人との関わりによって生まれる感情を、多くの人と共有できる場にできればうれしいです。
多様な人と関わることで、人生の選択肢を増やせる環境を作りたい
児童養護施設担当 /熊澤 蒼介さん
高校時代から、高齢者や障害者、震災のボランティアに携わり、大学では社会福祉を専攻しました。大学在学中は、中学・高校生の居場所づくりを支援しているNPOでのインターンを2年経験しました。
特に児童養護に興味があり、1カ月間、施設実習に行きました。その児童養護施設は高台に設けられ、学校のような門があり、地域の人が入って来ない場所でした。施設内に公園もあり、生活がすべて完結する。決して悪いことではありませんが、「人としての生活環境」としては違和感を抱いていたんです。
就活中、「実籾パークサイドハウス」の計画を知り、「地域に開かれ、多様な世代の人と関わる」というコンセプトに魅力を感じました。施設に入所していても特別な目で見られずに過ごせることが大切だと思い、入職しました。
人は失敗を経験して成長していけると思うので、子どもたちが安心してチャレンジし、失敗できるように支えていきたいです。そして、「この人かっこいい」「こんな人になりたい」というモデルが近くにいれば、人生の選択肢が増えるでしょう。そのためにも、隣接する高校や近隣の大学、地域の人たちなどと多く関われる環境を作りたいと思います。
▲福祉楽団のみなさま、ありがとうございました!
【文: 青木 典子 写真: 社会福祉法人 福祉楽団】