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2024.11.12 UP

「福祉」と「地域の人々の暮らし」を融合させる「複合タウン」をオープン/社会福祉法人しんまち元気村・株式会社日本ケアストラテジー

群馬県高崎市新町に、高齢者介護・障がい者支援・医療・商業施設・住宅など、多様な分野が一体化した複合タウン「TSUNAG takasaki®︎」がオープンしました。プロジェクトを企画・主導するのは「社会福祉法人しんまち元気村」の常務理事であり、「株式会社日本ケアストラテジー」の代表取締役社長兼CEOを務める八木大輔さんです。

高齢者福祉、障がい福祉、児童福祉など多様な福祉事業を展開してきた同法人が「複合タウン」を作った目的、タウン内施設の概要、取り組みの方針・戦略などについてお話を伺いました。

目次

・複合タウンの概要と目的
・異業種のテナント誘致における工夫
・福祉関連事業に関する取り組みと、その特徴
・スケール拡大による高水準の給与を実現。採用力の高まりも

福祉サービスの提供にとどまらず、「地域のデザイン」まで手がけたい


―― まずは複合タウンの概要と目的についてお聞かせください。
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▲「社会福祉法人しんまち元気村」の常務理事 八木大輔さん。複合タウン内の特別養護老人ホームにある、ご利用者さんやご家族が利用できるラウンジでお話を伺った

敷地は8,000平米あり、多様な施設が集結しています。介護・福祉分野としては特別養護老人ホーム、障がい者グループホーム、就労継続支援A型事業所、児童発達支援事業所、放課後等デイサービス、当グループの給食を調理するセントラルキッチンなどを設けています。医療分野では、クリニック、保険薬局、病児・病後児保育施設。商業施設として美容室と飲食店がテナントに入っています。また、「人が当たり前に暮らしている場所」でありたいと考え、デザイナーズアパート、分譲住宅も含めています。2023年から順次開業し、2024年度中に全施設が開業に至る予定です。

複合タウンの運営によって目指すのは、真の意味での「インクルーシブ社会(あらゆる人が尊重し合い、支え合う包括的社会)」の実現です。社会福祉法人はよく「地域に開かれた施設」を目指すよう求められます。そのため、お祭りやイベントを主催して地域の人々に参加してもらったりすることもありますが、それだけで終わるケースが多く、日常的な出入りや交流を生み出すことはなかなか難しいのが現実です。

そこで、「介護」「福祉」の色をなるべく消して、介護・福祉施設が地域に自然に溶け込めるようにしたいと考え、この複合タウンを構想しました。事業計画書を作成して高崎市長に会いに行き、この地域での必要性や目指す姿を訴えると、「応援したい」と言っていただけて、事業の準備もスムーズに運びました。


―― 異業種のテナントの誘致において、工夫されたことはありますか。

若い世代はInstagramなどのSNSで発信するので、ブランド力があって話題に上がるようなお店を誘致しました。美容室は高崎駅前の人気サロン「FENICE by MINX グループ」に声をかけ、系列店として「FENICE ANNEX,新町」を出店していただきました。飲食分野では、高崎市ほか複数エリアで展開する人気パスタ店「CM2 CAFE」の系列店が出店。いずれも内装や設備にかかる費用をこちらで負担し、賃料も格安にしています。当社の「広告宣伝費」として捉えているので、テナント料で利益をあげるつもりはありません。多様な人に訪れてもらい、SNSで拡散され、タウンににぎわいをもたらしてくれることを期待しています。

▲「FENICE ANNEX,新町」の外観

▲「CM2 CAFE」の系列店である「MANIACTION」の外観(写真:社会福祉法人しんまち元気村 提供)

タウン内ではA型事業所のご利用者さんたちが洗濯や掃除などの仕事をしていて、ランチタイムにカフェを利用することもあるでしょう。障がいのある方々もふつうに地域で働いて生活している姿を見てもらいたいですね。

「しんまち内科・循環器内科クリニック」は社会福祉法人による公益事業の位置付けとして開業しました。施設入居者の受診だけではなく、地域の皆様に質の高い医療サービスを提供し安心・安全をお届けすることを目的としています。内科と在宅医療が専門の院長先生のほかにも、群馬大学で准教授も務める循環器専門医をお迎えし、大学病院と同等レベルの最新機器を導入して診断を行っています。エコー検査で異常が認められた場合、すぐに隣室に移動してCT検査を受けられるなど、大病院であれば何時間もかかる検査を短時間で手軽に受けられる体制・設備を整えています。このクリニックがあることで総合病院・大学病院の混雑の緩和につながり、地域医療に貢献できればと考えています。

▲「しんまち内科・循環器内科クリニック」の外観(写真:社会福祉法人しんまち元気村 提供)

▲「しんまち内科・循環器内科クリニック」の内装。待ち時間に看護師が患者へのヒアリングを行い、多面的な診察ができる仕組みにしている

僕たちは社会福祉法人として「地域の安心安全インフラ」を担ってきましたが、その枠を超えたいという思いもありました。僕は「社会福祉法人がもっと地域デザインに参画するべき」と考えています。地域に必要なものは何か、何があれば地域が豊かになるかを考え、それを提供したい。この地域になかったパスタ店や不足している美容室を招いたり、、高度な検査が可能なクリニックを開業したのも、その観点によるものです。

また、コストをかけてでも施設の外観を魅力的なデザインにしているのは、集客力を高めるのはもちろん、建物の価値を向上させ、ひいては地域の価値の向上につなげたいというこだわりからです。

僕たちは介護・福祉の域にとどまらず街づくりの一翼を担っていきたいし、社会福祉法人はそれを提案できる土壌を持っていると考えています。


―― 福祉関連事業に関する取り組みと、その特徴についてもお聞かせください。

2002年、特別養護老人ホームの運営からスタートしていますが、創業間もないころから「自立支援」のための環境づくりや介護力を重視しています。日中夜間の「オムツゼロ」を実現しているほか、胃ろうから常食への移行、寝たきりから歩行再獲得、認知症状の改善、在宅復帰など。要介護4だった80代女性が要介護認定消失となった事例もあります。

施設の外観もおしゃれにして、居室は無垢材の床板に塗り壁。入居者ご本人が心地よいのはもちろん、ご家族が抱きがちな「施設に預ける罪悪感」も薄れるようで、入居希望者が集まりやすいんです。稼働率が高いので、入居費を相場より安く設定できています。


▲複合タウン内にある「特別養護老人ホーム 待望館」(上)。キリスト教を信仰するご利用者さんのために教会を併設しており、日曜には礼拝を行うこともできる(下)

高齢者の方々のご相談に応じていると、「8050問題」「9060問題」(*)に直面することが少なくありません。子どもが障がいを抱え、引きこもり状態になっているケースも多い。僕たち法人の本部の建物には、地域包括支援センターと障害福祉の相談支援事業所が同居していて、親と子が同時に対応できるようになっているんです。高齢者福祉と障がい者福祉の垣根をなくすことを目指しています。運営する施設の中では、高齢の親が老人ホームに入居し、障がいのあるお子さんが障がい者グループホームに入居して就労継続支援A型事業所で働いている事例があります。
*「8050問題」「9060問題」:80・90 代の親が 50・60 代の子どもの生活を支える問題

▲障がい者グループホーム(女性専用階)の内装。完全個室で世話人の方が常駐しており、その人らしい生活を送ることができる環境を提供している

児童発達支援に取り組んでいるのは、「かんのむし研究所」です。多くの児童発達支援事業所では、保育士と看護師がお子さんの対応にあたっていますが、かんのむし研究所には「言語聴覚士(ST)」が常駐しています。発達障がいが疑われる子どもの8割以上には発語の遅れが見られますが、発語訓練によって定型発達児と同じ状態へ改善できることもあるんです。いまは2施設を運営していますが、ニーズが高いので施設を増やし、発語訓練サービスを一般化させていきたい。それによって親子の支援はもちろん、STの活躍の場を増やせると考えています。

▲児童発達支援事業所内の遊び場で職員と子どもが遊ぶ様子

スケールの拡大により、高い給与水準を実現。採用力も高まった

―― 事業を多様化し、スケールの拡大を図ってきた背景にはどのような意図があったのでしょうか。

そもそも僕が福祉業界に入った時点から、「経営」の視点を持っていたことが大きいと思います。僕は大学卒業後に就職した大手企業を退職し、大学院に通っていました。そのころ、生活費を稼ぐために特養でアルバイトを始めたんです。すると、経営学を学んでいる視点から「もっとこうすればいいのに」という改善の余地が見えた。MBA(経営学修士)取得後、コンサルティング会社に入るつもりでしたが、「しんまち元気村」の理事長から「好きにやっていいからうちに来れば」と誘われ、「自由に経営改革ができるなら」とやりがいを感じ、入職しました。

福祉業界に入ったとき、「こんなレベルの仕事をしているのに、こんなに給与が低いのか」と愕然とし、就業者の給与と地位を向上させたいと思いました。マーケットニーズをつかみ、それに応えるサービスを提供していけば職員に分配できるだけの収益をあげられるはずだ、と。

社会福祉法人の事業といえば、特養とデイサービスあるいは居宅介護支援くらいにとどまっているケースが多いかと思います。すると役職者の数が限られるので、多くの職員さんは職位を上げていくことができず、給与も上がりません。だから、施設や事業を増やし、主任・リーダー・施設長などのポジションを増やしていきたいと思いました。それに、事業規模が拡大すればスケールメリットが働き、運営コストが抑えられて配分できる原資も増えます。

このように「職員の活躍の場を増やし、給与を上げる」という目標を掲げ、拡大路線へ踏み込んでいったんです。もちろん、それは地域ニーズがあったからこそ。地域ニーズに応えることが、職員の活躍の場を増やすことに直結していました。そのプロセスで、社会福祉法人では手がけられない事業については、日本ケアストラテジーを設立し、そちらで展開しました。

事業規模を拡大したことで、実際に業界でも高水準の給与を実現しています。そのため、新卒採用においても多くの応募者が集まり、選考によって求める人物像にマッチした人を採用することができています。よいマインドを持つスタッフがよいサービスを提供して評判が上がれば、さらなる集客にもつながり、好循環を生み出します。

ただし、給与額だけに魅力を感じて応募してくる人も増えてしまったので、最近ではあえて諸手当額などを差し引いた、業界平均に近い給与額を求人票に記載しています。それでも多くの応募者が集まってくれます。事業領域が広いことから、地域への貢献性に魅力を感じてくれる人が多いんです。

なお、中途採用も行っていますが、託児所を設けているので「仕事と育児を両立させやすい」と応募してくださるケースがほとんどです。短時間のパートから入職され、無期雇用パート、正社員登用とステップアップする人も多いですね。

今後もニーズを捉えながら新しい事業を開発していきます。例えば、会員制のラグジュアリーなショートステイサービスにも可能性を感じています。「社会福祉事業」と「ビジネス」のバランス調整には経営力が試されるでしょう。正直、成功するか失敗するかまだ分かりませんが、挑戦を続けたいと思います。結果、よいモデルケースとして成功させられれば、さまざまな地域で展開していけるのではないでしょうか。

【文: 青木 典子 写真: 平山諭、建物外観写真の一部:社会福祉法人しんまち元気村 提供】

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