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2021.10.12 UP

従業員数30人から、3年で120人へ。 SNSの活用により介護業界において「理念に共感してくれる人」の採用に成功/株式会社ビジョナリー

近年、多くの企業が新卒・若手の採用活動においてWebやSNSを駆使している。しかし、介護業界においてはまだまだ活用が進んでいないのが現状。戦略的・計画的な採用活動を展開する法人、採用において「ブランディング」を意識している法人も少ない。そうした中、SNSによって注目を集め、人材採用を成功させているのが株式会社ビジョナリーだ。愛知県で訪問介護ステーション、児童発達支援・放課後等デイサービス、障がい者向けシェアハウスなど18事業所を展開する同社は、3年ほど前にSNSでの採用活動に力を入れ始めた。それまで30人程度で推移していた従業員数は、現在120人ほどに拡大している。同社の代表取締役社長・丹羽悠介さんに、SNSの活用術や人材採用への思いを伺った。

SNSは、福祉に興味がない人にも
仕事の魅力を伝えられる最適な手段

「『恩返しがしたい』という思いで、福祉業界に飛び込み、起業しました。しかし、介護人材の取り合いに参戦したのでは、業界への恩返しにならない。そこで、福祉に興味がない人たちにこの仕事の楽しさや魅力を伝え、興味を持ってもらおうと考えたんです。その手段として最適だったのがSNSでした」

株式会社ビジョナリーの創業者・丹羽悠介さんの前職は「美容師」。しかし、思い描いていた仕事とは異なったため、退職してフリーランスに。その後、さまざまな事情から、家に引きこもる時期も過ごした。そんなとき、介護施設で働く姉からの提案で、施設利用者さんの髪を切るボランティアをした。久しぶりに聞いた「ありがとう」の言葉。丹羽さんは生きる気力を取り戻したという。「どん底」だった人生に光を与えてくれた福祉業界に恩返しがしたいという気持ち、そして、ボランティア活動で関わる中で介護事業に可能性を感じたことから、ビジョナリーを起業した。介護の仕事の面白さを広く伝えるため、TwitterとInstagramで自社の考えや日頃の活動を発信。すると、入社を希望する人からダイレクトメッセージが届くようになった。「採用に活用できる」と気付き、採用を意識した発信を増やし始めてからは、年間30人ほどが入社してくる。

▲丹羽悠介(にわ・ゆうすけ)さん。1985年、岐阜県羽島市生まれ。美容師、営業などの仕事を経て、23歳のとき、現在の会社を設立。「筋肉介護士」「マッチョ過ぎる介護福祉士」として、愛知県一宮市を中心に障がい者、高齢者への介護事業を展開している

SNSを活用した採用のメリットを、丹羽さんは次のように話す。

●理念に共感した人が来てくれる
「求める人材要件として譲れないのは、『当社の理念に共感できる人』。僕たちは、利用者さんに対して『お世話をする』ではなく、『人生を応援する』という気持ちで向き合っています。だから、『人生に影響を与えるような仕事がしたい』と思っている人に来てほしい。そうした思いをSNSで発信しているので、それに共感した人が応募してくれます」

●定着率が高まる
「スタッフの定着率は95%。SNSで当社の考え方や日々の活動を知った上で応募してくれるので、入社後にギャップを感じて辞めることはほとんどありません。もちろん、人によって解釈が異なることもあるので、ゼロではないのですが……。SNSと現実のミスマッチを引き起こさないように、嘘偽りない発信を心掛けています。入社後も、スタッフが『成長実感』を持てるように、人事評価制度の仕組みを整えていることも定着につながっていると思います」

●入社者の親御さんが見てくれる
「遠方から引っ越してきて働いているスタッフの親御さんがSNSを見てくれているようです。会社の考え方や日頃の様子が伝わるので、安心して応援していただけるのではないでしょうか」

 

Twitterでツイート拡散→Instagram訪問
→ホームページ訪問……の流れを作る

株式会社ビジョナリーのInstagramのフォロワー数は現在1万人、丹羽さんのTwitterのフォロワー数は1.8万人(2021年9月時点)。どのようにして、ここまでフォロワーを増やしてきたのだろうか。
「まずはInstagramからスタートしました。フォロワー数3,000に達するまでは毎日投稿しましたね。けれど、自分で全てやるのは大変なので、在宅ワーカーの方に外注しました。それまでブログに書いた素材をお渡ししたり、打ち合わせで話したことを文章化してもらったりして、『毎日、この時間帯に投稿してください』と。あとは、他の人のInstagramへのフォローやアクション(コメント)も積極的にしていました」

▲Instagramのトップ画面。フォロワーは1.1万人(2021年9月16日時点)。株式会社ビジョナリー Instagram:https://www.instagram.com/_visionary_inc/

しかし、Instagramには「写真を撮影しなければならない」というハードルがある。このひと手間をかける以上に、発信頻度を高めることを重視した丹羽さんは、メインのSNSをTwitterにシフトした。

「Twitterはリツイート機能があるので投稿が拡散されやすい。Twitterで僕のことを知った人がInstagramを訪れ、またInstagramのフォロワー数が増えていきました。そしてInstagramを見て興味を持った人が、次に当社のホームページを訪れる……という流れができたんです。ホームページを見て『面白い社長だな』と思ってくれた人が、また僕のTwitterに戻り、過去にさかのぼって投稿を読む。実際、応募者と面接すると『社長がTwitterでつぶやいていた、あの言葉に共感しました』と話してくれる人が多いんです。とはいえ、毎日ともなるとネタが尽きてきます。ですから、Twitterの場合は、3カ月以上前の投稿を消して、再度投稿することもあります。当時とは気持ちが変わっていたり、よりしっくりくる表現が見つかったりするので、内容を少し変えて。以前載せた写真を再投稿することもあります。新しいフォロワーさんがどんどん増えていくと、初めて見る方も多いので、それで構わないと思っています」

「中小企業こそ広報担当者を置くべき」と、丹羽さんは言う。
「『大手企業のように広報に予算をかけられない』と考えるのは間違いだと、僕は思います。中小企業こそ、多くの人に認知してもらうために、広報のポストが大切。だから当社では、Twitterで僕と同じくらいフォロワーがいる方を見つけて、口説いて、広報担当として採用したんです。文章を書くのが得意で、コツコツとこまめに投稿してくれる方です。広報担当を雇用するだけの予算がないなら、いまは副業でサポートしてくれる方もたくさんいるので、そうした方々を頼るのもアリだと思います」

丹羽さんは、SNS・Webを通じた採用強化を図る企業に対し、こんなアドバイスも送る。
「ホームページの問い合わせフォームを『メール』にしている企業さん、まだまだ多いと思いますが、絶対にやめた方がいいです。いまの若い人たちはメールフォームを見た時点で、『面倒くさい』と思ってしまうんですよね。メールを打とうと思ったらGoogleアカウントの入力を求められたり、パスワードがわからなかったりで、『もういいや』となってしまう。当社では、気楽に問い合わせができるように、チャット機能を設けています。チャット機能を導入してからは、明らかにホームページからの問い合わせが増えました」

フィットネス実業団を設立。
より多くの人に注目されるように

福祉に興味がない人にもリーチするようSNSで注目されるために仕掛けたのが、フィットネスの実業団『7SEAS(セブンシーズ)』の設立だ。「体を鍛えてコンテストで日本一になりたい」というスタッフの夢を支援するために立ち上げたが、これをブランディングにも活用しようと考えた。

「フィットネス×介護士」の発信でより多くの人の目に留まるようになり、スポーツ系専門学校の新卒生などが入社してくるようになった。意外にも、集まってきたのはフィットネス競技会の選手ばかりではない。
「新しく入ってくるスタッフは、フィットネス選手ではない人の割合の方が高いんです。たまたまフィットネス実業団の投稿が目に入り、『面白そうな会社だな』と思って当社のInstagramへ飛び、そこで当社の理念や社風に魅力を感じて、『一緒に働きたい』と来てくださる人が多いですね」

採用以外の効果も生んでいる。新しい取り組みが注目され、福祉業界内外からのアプローチが増えた。芸能界からコラボレーションイベントの声が掛かることもある。

▲丹羽さんのツイート「日本一マッチョの多い介護の会社。弊社に入社して結婚式を挙げると余興はこんな感じになります!!」には5.8万の「いいね」がつき、1.5万回リツイートされた。 丹羽悠介さんのTwitter:https://twitter.com/yusukeniwa32

理念は「世界中の人の人生を応援する」。
それを実現する採用を展開していきたい

丹羽さんは、採用のあり方をさらに変えていこうとしている。
「実業団を作ってみて実感したんです。『夢を持ってがんばっている人は輝いているな』と。いまはフィットネス競技選手として夢を追っているスタッフを応援していますが、他にも夢を持っている人を応援する雇用を広げていきたい。別の分野での目標を追いながら、1日に数時間だけ勤務するとか、副業として関わるとか。他の介護事業者と人材のシェアリングをするのもアリだと思います。ですから、これからは社員の『定着』にはこだわりません。もちろん、自社のメリットだけを考えれば、社員をがっちり抱え込んで、定着させる方がいい。けれど、それでは福祉業界全体の発展にはつながらないでしょう。もっとオープンになって、福祉業界と福祉以外の世界の往来が活発になった方がいいと思うんです」

福祉業界の課題として、「いままでの慣習に固執し、変化を嫌う傾向がある」と、丹羽さんは考えている。

▲Instagramの投稿内容。働く姿をイメージしてほしいため、職員の写真を多く投稿している

「当社の取り組みに対して、多くの人から『面白いね』と言っていただくんですが、他の業界なら珍しくないんですよね。実業団を持っている会社も、SNSで採用活動をしている会社も、世の中にはたくさんある。僕が独創的なアイデアを生み出しているかというと、全然そんなことはないんです。視野を広げて、さまざまな業界を見て、それぞれが持つ面白い要素を取り入れて、『福祉×○○』として展開するだけでも差別化が図れる。福祉業界は、そんなチャレンジがまだまだできる業界だと考えています」

福祉業界と他業界の対流を生み出す。そして、丹羽さんが最終的に目指すのは、「より多くの人が福祉に関わる世界」だという。
「最近はSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)の概念も広がり、『環境』に配慮する人が増えていますよね。ゴミのポイ捨てをしない、資源ゴミを分別する、エコバッグを使うなど、誰もが大なり小なり環境保全活動に関わっています。福祉についても、当たり前になってほしい。副業にしても、ボランティアにしても、誰もが何かしらの形で関わる世界になればいいと思っています。だからこそ僕たちは、福祉・介護を学んだ学生や介護職経験者だけを呼び込むのではなく、幅広い人に福祉に関わる場・きっかけを提供したい。そのための手段のひとつとして、これからもSNSをフル活用していきます。それが、この仕事に出会えたことで人生がどんどん明るくなった僕の、業界への恩返しだと思っています」

福祉や介護は「自分にはできない」「大変な仕事」というイメージがまだまだ強い。しかし、SNSによる発信を起点に、業界にさまざまな背景の方が入職することで、一般社会と福祉の垣根がなくなる日も、遠くないかもしれない。

【文: 青木 典子 写真: 株式会社ビジョナリー 提供】

 

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