facebook
twitter

最新トレンド

2021.08.06 UP

「サッカー×福祉」で地域貢献。元プロサッカー選手とフットサルコート併設施設を実現

2021年3月、千葉県茂原市に、フットサルコートを併設したサービス付き高齢者向け住宅が開設された。同施設を運営する社会福祉法人信和会の積極的な活動は注目を集め、新卒採用には全国の学生たちから応募があり、若手世代が定着・活躍する好循環も起きているという。同法人の理事長、杉田大樹さんと、房総ローヴァーズ木更津FCの代表、カレン・ロバートさんに、これまでの経緯や今後の目標についてお話を伺った。

ミッションは「地域のニーズに応え続けること」。
地域や子ども向けの支援にも取り組んできた

社会福祉法人信和会は千葉県外房地域を拠点に、グループホームや訪問看護、居宅介護支援、デイサービスなどを展開している。

▲杉田大樹(すぎた・だいき)さん。社会福祉法人信和会理事長。「地域のニーズに応え続けること」をミッションに掲げ、独居高齢者の方の支援や、地域交流のお祭り、商店街を活性化するイベントの開催なども行う

そのほか、地域の子どもたちの学習を無料支援する「寺子屋ジャンプ」を、同法人が運営するデイサービス施設に併設するなど、子ども向けの支援も数多く行っている。

▲商店街の活性化を図るために、絵を描いて楽しむ「子ども遊び広場」を開催。信和会で働く若手スタッフが中心になって活動している

「私たちが運営するのは介護施設ではありますが、地域や日本の将来を担うのは子どもたちです。地域の子どもたちのための活動に、より注力していきたい思いがありましたし、施設を利用する高齢者の方々も、子どもと触れ合う中で笑顔や元気をもらい、生きていく活力につなげることができるのではと考えました。『介護施設の運営を通じて、何ができるのか』を常に考えながら、新しいアプローチに取り組んでいるという背景がありますね」(杉田さん)

 

元プロ選手のカレンさんとの出合いから
スポーツを通じた地域貢献事業の構想へ

2021年3月、信和会は日本ではまだ珍しいフットサルコート併設のサービス付き高齢者向け住宅「ファミリークラブあかね雲」の開設を果たした。これは、Jリーグや海外リーグで活躍してきた元プロサッカー選手、カレン・ロバートさんとの出合いから始まるという。

「私はサッカーが大好きなので、カレンさんのことはもちろん知っていました。カレンさんは現在、千葉県木更津市を中心としたサッカーチームを経営されていて、共通の友人が紹介してくれたことで出合いました。とてもフランクな方で、サッカーへの熱い思いを話し合う中、すぐに打ち解けました。それから間もなく、地域イベントのサッカー教室に協力してもらえるようお願いしたんです」(杉田さん)

▲カレン・ロバートさん。ローヴァーズ株式会社代表取締役。2004年、ジュビロ磐田に入団。2005年、Jリーグ新人王を獲得。2010年にオランダリーグのVVVフェンロに完全移籍し、背番号10番を付け活躍。ヨーロッパ1部リーグで10番を付けた数少ない日本人選手

杉田さんは、もともと外房地域にはサッカー関連施設が少なく、以前から「スポーツ環境に恵まれていない地域の子どもたちのために、できることはないか」と考えていたという。

「サッカーをやっていた学生時代、『外房地域は、サッカーをする環境が整っていないために、サッカーをやめてしまう人が多い』と痛感したことがありました。この先、子どもたちにそんな思いをさせたくない。カレンさんにそんな思いを話したら、快く引き受けてくれましたね。当日、サッカー教室には100名が参加し、地域イベントではあり得ない人数が集まったことに驚きました。『“カレン・ロバート”というカリスマの力を借りれば、外房地域のスポーツ環境をより良いものに変えていける』とあらためて実感し、介護施設にフットサルコートを併設する構想につながっていきました」(杉田さん)

一方、木更津をホームタウンにサッカーチームを経営するカレンさんにもまた、「子どもの夢をかなえるクラブを作りたい」という思いがあったという。介護施設に併設したフットサルコートの運営を引き受けたのは、杉田さんの思いに共感したからだとカレンさんは話す。

「僕は2014年に房総ローヴァーズ木更津FCを立ち上げ、以来、地域に根差したクラブを目指してきました。子どもたちに向けたサッカースクールや、フットサルコートの運営なども手掛け、木更津のスポーツ振興に広く貢献していきたいと考えています。一番の目標は『千葉県で第3のJリーグのクラブチームとすること』ですが、その背景には、木更津の町とサッカー界を盛り上げたい思いがあり、いつか日本代表がワールドカップで優勝できるような未来へとつなげていきたいと思っています。ですから、『サッカーを通じて地域に貢献し、ひいては日本のサッカー振興に貢献したい』という杉田さんに強く共感しましたね」(カレンさん)

▲地域イベントのサッカー教室を開催したときの風景。茂原市や長南町、大多喜町にある小中学校で開催され、長南町でのサッカー教室は100人もの参加者が集まった

 

フットサルコートを施設に併設することで
入居者が子どもと触れ合う機会を作った

杉田さんが、フットサルコート併設の介護施設を構想したのは、4年以上も前のことだという。

「もともと大型福祉施設を開設するために広大な敷地を保有しており、その近くでカレンさんが試合をすることもありました。そこで、『フットサルコートの運営に協力してもらうのはどうだろうか』と考えたのです。カレンさんに協力をお願いしたところ、すぐにOKの返事をいただくことができました。カレンさんには本当に感謝しかありません」(杉田さん)

一方、カレンさんは、この話を受けた際に、「絶対に成功させたいと思った」と話す。
「声を掛けてもらったとき、素直にめちゃくちゃうれしかったです。僕には『千葉県をサッカー王国にしたい』というビジョンがあるんですが、そもそも、サッカー場を設けられるような広い土地自体、なかなか見つからないんですよ。このプロジェクトが成功し、世間が注目してくれたら、『サッカー×福祉』のコラボレーション施設をたくさん生み出すことにつなげていけると思いましたね! それに、いまの時代、子どもと高齢者の交流機会が減っています。僕らがそうした場を作ることで、おじいちゃん、おばあちゃんは元気になり、子どもたちも高齢者の方からいろんなことを学べる。地域にとっても、非常にプラスになることだと感じますね。杉田さんからいただいたこの素晴らしいチャンス、絶対に成功させたいと思っています」(カレンさん)

2021年3月に開設したサービス付き高齢者向け住宅に併設するフットサルコートでは、ローヴァーズによるサッカースクールも開催しており、スクールをオープンしてから2カ月の時点で、40名もの生徒が集まった。杉田さんは「入居者の方がスクール生や地域の人々と触れ合える機会を作りたい」と考え、施設の1階にはフットサルコートの利用者やスクール生も使える地域交流室を設け、2階からはフットサルコートを一望できるようにしたという。
「スクールが始まってからは、子どもたちが整った環境の中、のびのびとサッカーをしていて、その姿を見ることがうれしくてうれしくてしょうがないですね! 施設の入居者の方は、新型コロナウイルスの影響でまだ少ない状況ですが、『母は子ども好きだから、スクール生の子どもたちと交流できそうなこの施設に決めた』というご家族もいます。」(杉田さん)

▲地域イベントの親子サッカー教室の開催風景。施設で働く女性スタッフの中には、窓の向こうの楽しそうな様子を見るうち、サッカーに興味を持ち始めた人もいるそう。「子どもたちがサッカーを続けるには保護者の理解が必要ですが、母親世代の女性にサッカーを普及させていくことにも役立つと感じました」と杉田さん

フットサルコートの運営を手掛けるカレンさんは、今後、ローヴァーズが営む3拠点のスクール生を集め、地域を超えて交流する機会などもつくっていきたいと話す。
「サッカーのいいところは、友達が増えていく点にもあるので、各地の子どもたちが練習や試合で交流できるようにしていきたいですね。コロナ禍が落ち着いたら、信和会とコラボしての夏祭りを開いたり、グラウンドにプールを設置して子どもたちに水遊びさせたり、地域交流のイベントもどんどん開催していく予定です。この茂原の地域だからこそできることに挑戦し、形にして残していこうと思います」(カレンさん)

 

若者が集まり、育ち、
新たな地域貢献にチャレンジする。
人材育成と採用活動に尽力し、好循環を生んだ

このようなスポーツの振興活動、地域・子どもたちへの支援は、採用や定着にも好影響があったという。信和会では若手人材の育成に注力し、5年前から新卒採用もスタートした。定着率は非常に高いため、現在では20代の職員が最も多いという。一体、どのような考え方で人材を育成・採用しているのだろうか。

「介護施設の仕事は、日々、触れ合う人にも業務内容にも大きな変化がないため、落ち着いて働ける一方、閉鎖的な空間でもあると考えています。そのため、スタッフには、カレンさんと共同でイベントを企画開催したり、寺子屋ジャンプで子どもたちに学習指導したりなど、地域や子ども向けの支援事業も含め、いろんな経験をしてもらっています。学んだことを新たな提案に生かす意識が身につくので、介護の業務においてもサービスの質が高まり、施設の経営向上につながっていくのです」(杉田さん)

▲「寺子屋ジャンプ」にて、たけのこ掘り体験を企画。地域貢献など、介護業務以外の活動は、興味を持っていそうな若手スタッフと面談した上で「やりたい人にやらせる」という

新卒や若手人材の採用活動においても、 “逆選考”など、新たな手法を取り入れる工夫を凝らしている。

「応募者の皆さんに、知りたいことを納得いくまで質問してもらった上で、『信和会が就職先として合格かどうか』を判断し、自分で自由に合否を決めてもらう仕組みです。応募者にインパクトを与えることが目的ですが、根底には、スタッフの個性と自由を大切にしたい思いがあります」(杉田さん)

運営する施設が地域の人々のハブとなることを目指しており、最終的な目標は、「地域の子どもたちみんなが誇りに思ってくれる福祉法人になること」と、杉田さんは笑顔で語ってくれた。
「近所の方がふらっと遊びに来て、スタッフに気軽に話し掛けてくれるような場を作り、地域のニーズを理解して、課題を解決していきたいです。今後もさまざまな地域貢献の取り組みにチャレンジし、地域と次世代を担う子どもたち、そして介護業界全体に、より良いものを残していきたいですね。」

地域貢献活動の取り組みを通じて入職した若手人材が、定着・成長し、また新たな地域貢献活動にチャレンジしていく好循環が生まれる。今後、福祉事業者にますます求められる姿ではないだろうか。

【文: 上野 真理子 写真: 社会福祉法人信和会 提供】

一番上に戻る