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2023.06.19 UP

職員の働きやすさ向上を目指して、定着率向上と残業削減の取り組み「週休3日・1日10時間勤務制」の導入/社会福祉法人 幸知会

「週休3日・1日10時間勤務制」を2018年に導入。現在まで運用と改善を行い、職員の定着率向上と、残業時間削減を実現させた社会福祉法人幸知会。施策の取組における背景や、いかにしてこの施策を導入し、運用を実現することができたのか。栃木県内で介護・障がい保育の事業所を運営する、社会福祉法人幸知会の事務長角田さん、岩崎さんにお話を伺った。

心身ともに健康な状態で働き続けてもらうためには?

――「週休3日・1日10時間勤務制」を導入した経緯について教えてください。
「週休3日・1日10時間勤務制」を導入する以前は、残業時間の長さや、休日数の少なさからメリハリをつけて働けないという問題がありました。そのため離職率が高く、介護職は専門性の高い仕事であるにも関わらず、十分なスキルを身に着けるまでに、採用した新人が育たたないという現実でした。
また、リフレッシュ休暇制度はありましたが、現場では結局取得することができないという問題があり、ゆっくり休みメリハリをつけて働ける環境を作りたいと考えました。

採用においても、日勤や事務職への応募はあるものの、365日24時間稼働の部署では採用が難しく、採用が決まっても定着せず、ベテランがいない勤務の中、新人が新人を指導し、新人の退職が人手不足を招くという悪循環に陥っていました。その中で、人材確保と、定着のためには、どうすればいいのか、日々頭を悩ませていました。

加えて、介護サービスでは、施設の定員を超えての利用者募集はできず、売上には限度があることから、職員の給与を上げることは容易でありません。そのため、昇給以外に離職率を下げ、働き続けたいと感じてもらう職場にするには労働環境の改善が最善の手段であると考えました。

――どのように制度は決まったのでしょうか?
労働環境の改善として、残業時間を削減し休日を増やすことで、肉体的にも精神的にも、しっかりリフレッシュできる環境を整えていくことを目標としました。
改善に向けて総労働時間は変えず、人件費もかけずに改善するにはどうすればいいのかを考え抜いた末に、社会保険労務士との打ち合わせから「週休3日制、1日10時間勤務」を考案しました。
この制度を職場改善策として職員に提案し、約1年間の準備期間を経て2018年1月より導入を開始しました。

導入にあたり、アンケートの実施、業務の組み直し、モデルシフト作成、面談による説明、就業規則の変更を行い、まずは正職員として施設で勤務をする介護職員ついて2018年1月から「10時間勤務×週休3日制」を導入。1回あたりの労働時間を10時間とし、1週間のうち公休日を3日・労働日数を4日としました。

公休が多くなる為、職員増員が必要かと思われがちですが、現行の人員配置のまま業務改善を進め、1日の必要職員数を減らすことで、現在の人件費の枠でシフトを組み10時間勤務を完成させていきました。
1日の必要職員数は「17人→14人」、月の総労働時間は「4970時間(残業250時間込み)→4960時間(残業10時間込み)」として設計をしました。

――導入にあたって職員から不安な声はなかったのでしょうか?
1日の労働時間が2時間長くなるため、不安に感じる職員も中にはいました。ですが、現在の施設の状況や変化後の具体的な勤務形態イメージや、職員にとってのメリットをしっかりと伝えることにより、ほとんどの職員がいいねと賛同をしてくれました。

例えば、1日の必要職員数は減員しているため、一人当たりの職員負担が増えるのでは?と心配の声がありました。業務整理を行う中で、実は必要なときに必要な職員数が足りておらず、業務がそこまで発生しないタイミングで、職員が多くいることで、朝晩などピーク時には人手が足りず、残業が発生しやすくなっていました。

一方で日勤帯などは業務がそこまで多くないタイミングで職員が多く、手が空いてるからということで、シーツ交換などを行っていました。そこで改めてどのタイミングでどの業務を行えば適切な職員配置となるかを考え、職員へ共有をしました。そうすることで、人手が不足しがちな時間に職員が充足し、職員の負担を増やすことなく、ケアの充実にも繋げることが出来ると納得してもらえました。

また、導入にあたり、制度を変えることで休みが増えることだけではなく、残業時間の削減により、浮いた経費を賞与でどれくらい還元できるかなど、職員にとってのメリットをしっかりと伝えていたこともあり前向きに捉えてもらえたかと思います。

事業所、職員、利用者三方よしの運用

――施策の導入後どのような変化がありましたか?

大きく以下の3つの効果により生産性を向上させることができました。
1. 週休3日により年間休日が107日から156日に増加
2. 業務効率の最適化により、残業時間の削減
3. 離職率の低下

1. 週休3日により年間休日が107日から156日に増加
休みが増えたことにより、メリハリをつけて働けるようになりました。職員の中には毎月3連休を取得して、趣味や家族との時間として有意義に使っている方もいますし、休みが多すぎてやることがないと嬉しい悲鳴も上がるようになりました。また、1日の必要職員数を減員し休みが増えたことで、職員の急遽の欠勤時にもバックアップとして代わりに出勤してくれる職員が多くいるため、安定した施設運営が可能となりました。暇だからと進んで出勤してくれる職員も多く、コロナウイルス禍でも全員で協力をすることで残業もほとんどなく対応することができました。

2. 業務効率の最適化により、残業時間の削減
業務内容の見直しにより、これまで時間外で行っていた業務が勤務時間に組み込まれ、残業をほぼ無くすことができています。また、10時間勤務にしたことにより、朝夕の食事提供の時間帯では、以前よりも多くの職員が係われるようになり、担当の利用者さんに手厚く関りコミュニケーションがとれるようになったことや、朝、昼、夕を通して同じ職員が一利用者の食事を担当することで、より利用者の理解が深まるなどケアの充実にも繋がりました。

3. 離職率の低下
特別養護老人ホームでの離職率は制度導入前の2017年は17.9%でしたが、導入後の2020年、2022年は離職率0%と大きく減少することができました。退職者数も、2018年4月の制度導入から現在(令和4年度10月)までの退職者は4名と1年に1人いるかどうかとなり、採用にかかる予算が大幅に減少し、減少した予算を職員への賞与に還元するなど、より良い循環が回るようになっています。

上記のことより、職員からは「利用者、同僚とゆっくり話せる時間が作りやすくなった。言葉遣いも良くなり、ギスギスした雰囲気がなくなりました」「休日が多いことで、友人との交流もしやすくなり、仕事のストレスが発散できている」など従業員の心にゆとりが生まれたことにより、職員間の関係が良くなったことも想定外の効果としてありました。

▲職員の交流会

また法人としても、10時間勤務について、厚生労働省の働き方改革サイトや宮城県からモデル施設として取り上げていただいたことで、法人としても自信となり、その後の働き方改革(有休取得率向上、在宅ワークの実施、WEB会議、男女問わずの育児休暇取得、令和3年度男女取得率100%・女性社員復帰率100%、フレックス勤務の導入)の成功にもつなげることができました。

その他、採用に関してこれまで特別養護老人ホームでは1ヵ月求人を出しても応募が0件のことがほとんどでしたが、最大で1ヵ月に16件の正社員応募があり、これまで応募が無かったことが嘘のように採用面でも大きな成果に繋がりました。

職員毎に合わせた働き方をまだまだ模索したい

――今後の「社会福祉法人幸知会」の取り組み、目指す将来像を教えてください。
幸知会では設立以来、介護スタッフ目線で大小さまざまな働き方改善の取り組みを行ってきました。週休3日制・10時間勤務の成功はこれまでの取り組みの一つの集大成かと思います。
しかし、働き方の改善に終わりはないはずです。スタッフ一人一人に合わせた労働時間や働き方を模索し、今以上に働きやすい環境を作りたいと考えています。そうすることで、スタッフの気持ちに余裕が生まれ、より良いサービスの提供にも繋がります。

労働環境改善は介護業界にとって永遠のテーマかと思います。これからも時代の流れに適応しながら業務改善を繰り返すことで、お客様やスタッフ、地域の方々も含め、幸知会のファンを増やしていきたいと思います。

【文: HELPMAN JAPAN 写真: 社会福祉法人 幸知会】

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