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2024.05.07 UP

富山の社会福祉法人の人事制度改革を、首都圏在住の経験者が「副業」で支援/社会福祉法人 おおさわの福祉会×リクルート「サンカク」

介護業界では、現場でケアに当たる介護職スタッフが人材マネジメントなどの管理業務も兼務しなければならない状況が多く見られます。また、採用難や離職などの課題解決のためには人事制度の整備が必要であるものの、経営層は幅広い業務に対応する必要があることから時間が作れず、予算にも余裕がないことから、見直しに取り組めない法人も多いようです。

今回ご紹介する社会福祉法人 おおさわの福祉会(富山県)では、人事制度の改革にあたり、首都圏在住の副業者からの支援を受けています。
リクルートが運営する「サンカク(https://sankak.jp/)」では、副業人材を採用したい企業と副業したいビジネスパーソンのマッチングサービスを提供。同法人は「サンカク」を通じ、2名の副業者を迎えました。

常務理事・施設長の古柴政美さんに、法人が抱える課題と副業人材を迎えた効果について、また、副業で支援する木村さん、川合さんに、介護業界の人事制度改革に取り組んでみての感想を伺いました。

今回の記事を通じて、管理業務の見直しや将来を見据えた人事制度の改革を検討したい法人さまのほか、介護・福祉業界など社会貢献性の高い業界を副業という形で支えたい副業希望者の方の参考にしていただければ幸いです。

職員から評価・給与への不満が噴出。人事制度改革に向け副業人材を迎える

―― まずはおおさわの福祉会で常務理事・施設長を務める古柴さんに、人事制度改革に取り組まれた理由についてお伺いします。

2024年4月からの中期経営計画の策定に際し、「実績向上」「人材育成・定着」「地域貢献」を軸に骨子を作った段階で職員から意見を募ったところ、評価・給与面への不満の声が多く上がったのです。現在の人事評価制度の運用において、所属長と職員自身の評価に乖離が発生しているという課題も明らかになりました。
もともと福祉業界の評価・給与制度を一般企業と同水準へ底上げしていきたいという思いがありましたので、これを機に人事制度を刷新することにしました。

―― どのような経緯で、「サンカク」を通じて副業人材を受け入れるに至ったのでしょうか。

以前は人事コンサルタントへの依頼を検討したのですが、導入まで至りませんでした。パッケージで提案され、現場に即した形にはならないことに加え、非常に高額だったからです。
私は他の業務もあるので、人事制度改革に注力することができず思案していたところ、富山県が主催するイベントで「サンカク」を知りました。当時は「副業」というと、空き時間にコンビニなどでアルバイトをするといったイメージを持っていたのですが、大都市圏の企業で経験を積んだ専門人材がリモートで地方企業の業務支援を行っている事例が多数あると知り、サンカクで「座談会」を開いてみることにしたんです。

集まっても1~2名くらいかと思っていたのですが、10名を超える方に参加をいただきました。企業で人事を務めている方、人事コンサルタントとして独立している方など、バックグラウンドは多様です。私たちの課題に対し、「皆さん、こんなに真剣に考えてくださるんだ」と驚きました。


▲副業人材を募集した際の紹介ページ

 

―― 最終的に2名の副業の方に依頼されました。お二人を選んだ決め手は何でしたか。

座談会の中で「もっとお話を聞いてみたい」と思ったお二人、それが木村さんと川合さんです。
木村さんは、「経営理念と古柴さんの考えは果たして合っていますか」という質問を投げかけてくださったのが印象的でした。「その視点はすごいな」と。私の立場になると、誰も手厳しい指摘をしてくれません。とても刺激的で、この方と組んだら面白いかもしれないと思いました。
川合さんは大手人材サービス企業で人事をはじめ幅広い経験をされ、キャリアがずば抜けていらっしゃったこと、お話ししていてのスピード感など「息が合う」と感じたことからお願いしました。

 

理念に共感し、自法人にマッチする制度を考えてもらえる

―― 11月から副業者のお二人との協業を開始されました。どのようなスケジュールで進んでいますか。

11月は、運用中の評価制度の把握、問題の調査・整理。当施設まで足を運んでいただき、職員へのヒアリングを行っていただきました。12月以降は、等級制度・評価制度・報酬制度それぞれについての策定を進め、3月時点で明文化、4月以降は職員や事務局からの意見も聞いてブラッシュアップしていきます。

―― 副業者の方と協業してみてどう感じていらっしゃいますか。また、どのような効果が得られたのでしょうか。

専門的な知識と経験を生かして、どんどん前へ進めていただけるのをとても心地よく感じています。
いま使っている人事評価制度は私ともう一人の職員が作ったのですが、人事制度とはどのような考え方に基づき、どのように設計していくかが、根本から間違っていたことに気付きました。人事の考え方の根源にある著名な学者さんの理論など、初めて知ることも多かったですね。私は、描いているイメージとスケジュールなどをお伝えするだけで、木村さんと川合さんが主体的に進めてくださるので、安心してお任せできています。

以前、コンサルタントに依頼した際は、ビジネスライクで淡々とした対応でした。しかし、お二人は理念にしっかりと共感して、当法人にマッチする制度を考えてくださっています。その姿勢をうれしく思います。

また、職員にヒアリングしていただいた際には、私たちがアンケート調査で把握していたのとは異なる実態も浮かび上がりました。外部の方にヒアリングしていただいたことで、職員が本音を言いやすかったようで、これもよかったことのひとつです。

―― 今後の期待、展望についてお聞かせください。

適切な人事評価制度を導入することで、法人は職員に何を期待しているか、職員はどこに向かって仕事をすればいいかが分かると思います。明確な目標を持って仕事に取り組んでいけば、法人の理念の実現にもつながっていくでしょう。

今後は職員と共にブラッシュアップしていきますが、そのなかで「自分たちの声がしっかり反映されている」と気付いてもらえれば、モチベーションアップにつながるとも期待しています。
来年度、新しい人事制度を運用してみて、それをもとに再来年度はさらにブラッシュアップして……と、「次へ次へ」をイメージしています。副業のお二人には、可能なかぎりお付き合いいただけるとありがたいです。

―― 今後、副業人材の受け入れを検討されている介護業界の法人さまに向けて、メッセージをお願いします。

介護業界にいると、この業界の慣例に縛られがちです。私たちは副業者の方との出会いにより、違う世界を見せていただき、イメージがどんどん広がっていきました。
もともと当法人は「とりあえずやってみよう」をモットーとしていますが、皆さんも最終的にやるかやらないかは別として、違う世界をちょっと覗いてみるといいのではないでしょうか。責任ある立場の人が、足を踏み出してみることが大切なのではないかと思います。

介護業界は資金が潤沢とはいえませんが、副業というスタイルであれば、コストをかけられない法人にも向いていると思います。実際、「こんなに一生懸命やってくださって、この料金でいいんですか」と申し訳なくなるくらいですから。

▲WEB会議システムを通じて副業者と打ち合わせをする様子

 

<副業者の声>「理念の実現を支えたい」と参画。課題の本質は他業界と同じ

―― ここからは副業でおおさわの福祉会の人事制度改革を支援している木村さん、川合さんにお話を伺います。ご経歴と、おおさわの福祉会での副業を決めた理由をお聞かせください。

木村さん 複数のベンチャー企業を経て、現在は約200名規模のインターネットサービス企業で管理部門の責任者を務めています。経理・財務・経営企画も含め全般を統括していますが、人事の経験が最も長く、人事評価制度をほぼゼロから作る経験もしてきました。

副業を始めたのは、これまでと違う業界に触れて知見を広げるためです。父の介護を通じて医療・福祉関係の方々との接点も多かったこと、自分の経験を生かして貢献できると考えたことから、おおさわの福祉会の案件に興味を持ちました。座談会で古柴さんとお話しして、非常にリーダーシップがある方だと感じ、この方をお手伝いしたいと考え、副業での参画を決めました。

川合さん 大手人材サービス企業で約25年、さまざまな部門・職種を経験してきました。現在は事業企画職ですが、最も長く関わった業務のひとつが人事です。国家資格キャリアコンサルタントの資格も取得しています。最近、仕事も家庭も少し時間にゆとりが出てきて、「外の世界を見てみたい」と思い、人事領域の知見が生かせる副業を探しました。

サンカクの座談会で古柴さんとお話しし、「よい法人にしたい。そのためによりよい制度にしたい」という情熱を感じ、実現を支援したいと自然に思えました。

―― 木村さんは経営寄りの視点で、川合さんは人事のスペシャリストとして関わっていらっしゃるそうですね。「介護業界の人事評価制度」にどのように取り組み、どんな感想を抱いていらっしゃいますか。

木村さん テーマは人事評価制度の策定ですが、「より上流から考えた方がいいのではないか」と提案しました。人事制度とはトップの考え方を組織に浸透させるためのものですから。
社会福祉法人には、一般企業と比較して「人や社会への貢献」が働く動機となっている人が多いと感じます。一方で、トップの方々はビジネスとしての観点も重視されています。トップ・幹部層・職員の視点を合わせていくことが重要で、それが人事制度設計のポイントになると考えました。

私は本業の会社で、創業10年を経てフェーズが変わった際、10年後を見据えた「バリュー」の変更に携わったことがあるんです。そのとき、トップの考えを社員に伝えて目線を合わせることの重要性を実感していて、その経験に基づいての提案でした。私の方で原案を考えたところ、受け入れていただけました。

古柴さんから「遠慮せずに何でも言ってほしい」と言われているので、異業界の自分から見て違和感を抱いたことは何でも言うようにしています。「これって普通なんですか」「なぜこうしているんですか」と。違う視点を提供することで、お役に立てるのではないかと思っています。

川合さん 私の基本的な考え方として、「どうなりたいか」「どうしたいか」といった「ありたい姿」、それに対して現状はどうなっているか、その両方をしっかり見て差分=課題をつかんでいます。

今回、人事評価制度を刷新するにあたって出てきた課題を見ると、介護事業者は決して特別ではなく、一般の事業会社の課題と根本的に共通していました。ですから、介護業界の経験がない私でも課題解決できるという実感を持てました。

一方、職員の方々と接して、介護職へのイメージが変わった部分もあります。メディアの情報からは、過酷な環境で大変な仕事をしているというイメージを抱いていました。けれど実際には「この仕事がすごく好き。やりがいがある」と、目をキラキラ輝かせている方もたくさんいるんですね。とはいえ課題も当然あります。人事制度を改善することで、もっと働くことを楽しみ、キャリアを前向きに目指せるようになってほしい。そのために、土台をしっかり作って活用していけるよう支援したいという思いが強くなりました。

木村さん 一般企業のように純粋に収益だけを追う組織ではなく、よいサービスをすれば単価アップ、売上アップにつながるような仕組みではないので、昇給制度の設計では自由度が低く難しい部分もあります。しかし、業務遂行プロセスを評価制度に落とし込むことは可能です。職員の方々は入居者さまに喜んでもらうことにやりがいを感じていたり、地域貢献への使命感をお持ちであったりするので、それらの体現度を評価項目に組み込むようにしています。皆さんが誇りを持って働き、成長を感じられるようになることを目指します。

【「サンカク」担当/瀧澤より】
皆さんのお話をお聞きし、古柴さんが強い思いや情熱を伝えたからこそ、そこに共感する木村さん、川合さんという支援者、仲間を得るに至ったのだと感じました。「サンカク」では多様な業種の副業募集案件を取り扱っていますが、介護業界には「もっと業界をよくしたい」「社会に貢献したい」という思いが強い方が多く、副業希望者もその思いに共感して応募いただくケースが多く見られます。

高齢化に伴い、介護職のニーズはさらに高まっていきます。「給与が低い」「大変」といったネガティブイメージを払拭し、人材を呼び込むためには、人事評価の見直しや待遇改善、DXの推進などが重要となります。
それらを担う企画・管理部門、ITなどの専門人材は、介護業界は他業界と比べて少ないのが実情です。副業という形であれば、スポット的に伴走してもらうことで、コストを抑えながら推進していけるでしょう。
▲今回、オンラインを通じて取材をさせていただいた

【文: 青木 典子 写真: 社会福祉法人 おおさわの福祉会 提供】

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