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2023.07.24 UP

「SNS」を活用し、介護の仕事の魅力を伝える。フォロワー獲得の秘訣は「心からの笑顔」/社会福祉法人 福住山ゆりの里 介護老人福祉施設「やまゆりの里」

あらゆる業界で、ブランディングやPRに「SNS」が活用されています。介護業界においてもSNSの活用に注目が集まっていますが、「何を発信すればいいのか」「どのように運用すればいいのか」など、お悩みの声が多く聞こえてきます。そこで今回は、介護業界随一のSNSフォロワー数を誇る施設の取り組みをご紹介します。
社会福祉法人 福住山ゆりの里が運営する介護老人福祉施設「やまゆりの里」のSNSフォロワー数は、Instagramが2.4万、TikTokが1.7万(2023年5月現在)。
SNSの運用は、人材採用、職員のモチベーションアップ、利用者の活性化、地域の人からの支持など、多くの効果を生んでいます。
この取り組みが評価され、2023年2月28日(火)に開催された「社会福祉HERO’S TOKYO 2022」(※)においてBEST HERO賞を受賞しました。
※社会福祉HERO’S/「社会福祉の仕事は、クリエイティブで面白い!」をテーマに、社会福祉の現場でさまざまな挑戦を実践している若手職員の声を伝えるイベント。2023年に開催された第5回では過去最高となる68名からの応募が寄せられた。

「やまゆりの里」SNSプロジェクトリーダーの稲葉夏輝さん、「社会福祉HERO’ S」を主催する全国社会福祉法人経営者協議会のPR戦略特命チームリーダー・大崎雅子さんにお話を伺いました。

目次

・SNSの運用体制、活用しているSNSは?
・SNSで発信している内容や反応のいい投稿とは?
・フォロワーが現在の数まで増えるに至った経緯とは?
・「バズる投稿」の秘訣とは?
・SNS運用の成功のポイントとは?
・「社会福祉HERO’S TOKYO 2022」のBEST HERO賞に選ばれたポイントとは?

Instagram、TikTokを中心に「動画」を発信

―― 稲葉さんは2017年、SNS担当としてプロジェクトを立ち上げたのですね。どのようなきっかけ・目的でSNSの活用を始めたのでしょうか。

100床規模のユニット型特養を新築移転して、従来型からユニット型に移行することになったのですが、職員が20~30人足りなかったんです。県境という立地で過疎化が進んでいる地域だけに採用は困難。もう何年も新卒の職員が入ってきていない状況でした。何とか注目を集めなくてはならない!と、SNSでのPRプロジェクトを立ち上げたんです。
当時の僕は個人のSNSアカウントすら持っておらず、広報・PRの知識もないところからのスタートでした。

―― まずは基本の運用体制について教えてください。どのSNSを利用していますか?

FacebookとInstagramからスタートし、その後TikTokも始めました。Twitterは使っていません。数十から数百文字の文章で魅力を伝えるような才能は僕にはありませんし(笑)、利用者さんが笑っている写真や動画の方が伝わりやすいと思います。

▲Instagramのトップ画面(左)とTikTokのトップ画面(右)

―― どんな内容を発信していますか?

「毎日楽しいことをしよう」と、さまざまな活動やイベントを行っているので、その様子を撮影・投稿しています。
とはいえ、一年中、毎日楽しいことを企画・運営していては職員が疲弊してしまうので、各ユニットが月ごとに持ち回りで担当します。例えば、「映画館」「レクリエーション」「カラオケ」「手芸」「俳句」「絵画」「畑仕事」「料理」「漬物づくり」「味噌づくり」「居酒屋」「温泉」など。ユニットに設けられた大会議室、和室、工房、大浴場などの施設を活用して開催しています。

開始当初は写真が中心でしたが、最近は動画の方が見てもらいやすくなりました。それも写真を組み合わせるのではなく、動いている様子を撮影したものの方が反応がいいですね。Instagramのリール(※)を使い、ショートムービーを作成・投稿しています。

※リール(Reels)/Instagram上で最長90秒のショートムービーを作成・編集・投稿できる機能

―― 投稿作業の所要時間はどれくらいですか?

始めた当初は時間がかかっていましたが、いまは20~30分程度で1つの動画が作れます。文字入力などはすぐできますが、動画の雰囲気に合わせた音楽の選定、尺の調整などに時間をかけていますね。やはり音楽はあった方がいいと思います。

―― どれくらいのペースで投稿していますか?

最初の1年はイベントなどがあまりできなかったので、1~2週間に1回ペース。お出かけやイベントを増やしてからはほぼ毎日。Instagramにリール機能が入り動画中心の投稿になってからは、肌感覚ですが毎日では過多のような気がするので、3~4日に1回程度にして様子を見ています。

―― 役割分担はどのように?

活動やイベントの企画や運営は、各ユニットリーダーが主導。投稿用の写真撮影は職員の皆さん。イベント時だけでなく日常の写真もどんどん撮ってもらい、その中からいい写真を選んでいます。撮り方などは特に指示せず、自然な姿を撮ってもらっています。
写真選定・動画編集・文章作成などの投稿作業は僕が行いますが、寄せられたコメントへの返信は他の職員に任せることもあります。

―― フォロワー数はどのように増えていったのでしょう?

右肩上がりで増えていったのですが、その過程で何気なく投稿したものがバズって、1週間で1,000人フォロワーが増えるような「山」もいくつかありました。

―― 「バズった投稿」とはどのようなものでしたか?

最近では、106歳の女性に手作りアップルパイを食べてもらった動画が70万回再生されています。

また、もともと駄菓子屋の女将さんで、地域の人気者だったご利用者さん。その方のキャラクターを踏まえ、ご本人が何を望んでいるかを考えた結果、部屋を駄菓子屋風にしつらえて、いろいろな人がおやつを買いに出入りするようにしたんです。昔のようににぎやかに人と交流ができて、喜んでいただけたのが印象に残っています。その動画も5万回ほど再生されました。

再生回数はそこまで伸びなくても、見た方の心を動かし、フォロワーさんが根付いた投稿もあります。
難病で身体が不自由になり、部屋に閉じこもりがちな男性がいます。その方の経歴を調べると、農業関係のお仕事をされていた。そこで職員から「スイカを育てて、お友達に届けませんか」と提案し、一緒に畑仕事をして、収穫したスイカを旧知のご友人に届けたことがあります。その方が車から畑に下りた瞬間に見せてくださった笑顔が印象的でした。
その動画は再生回数こそ伸びなかったものの「感動した」というコメントが寄せられました。

目的は「SNS投稿」ではなく「ご利用者さんの夢を叶える」こと

―― 稲葉さんのご経験から、「バズる投稿」の秘訣とは何かを教えてください。

どの投稿も、バズることを狙ったものではないんです。
「どうすればご利用者さんの思いや願いを叶えられるか」を職員たちで本気で考えて実行した結果、ご利用者さんが心から喜んで笑顔で見せてくださり、投稿を見ている人にもそれが伝わるのだと思います。
「はい、笑ってー。ピースしてー。イエーイ!」と、表面的に楽しい雰囲気を作って編集した動画では、やはりダメなんです。

私たちのSNSの基本コンセプトは「ご利用者さんの夢を叶える介護」です。それを体現できてこそ、投稿が支持を得られると考えています。

―― SNSを運用していくにあたり、壁にぶつかったことはありますか? それをどう乗り越えましたか?

立ち上げ当初は、職員からの反対の声もありました。SNSのための作業が加われば負担が増しますから、「ケア業務に集中させてほしい」と。
しかし、よくよく対話してみると、SNS運用そのものに反対なのではなく「やり方」への反対であることや、反対する理由などが分かってきました。そこで「どのような形ならできるか」という意見を取り入れていったんです。

運用が進むと、反対していた人たちの意識も変わり、職員のモチベーションが高まっていきました 。
自身の何気ない行動が記事になり、そこにたくさんの「いいね」が集まり、「素敵です」といったコメントが寄せられれば、やはりうれしい。自分が直接関わらなくても、仲のいいご利用者さんについての投稿に反響があればうれしい。「次はこんなことをやったらいいんじゃないか」と、アイデアも出てくるようになりました。


―― SNS運用の成功のポイントは、どこにあると思われますか?

「何のためにやっているか」を明確にすることだと思います。
私たちも、当初は「採用のために注目されたい」からスタートし、活動やイベントも「SNSの投稿のために」という感じがありました。
けれど、「ご利用者さんの夢を叶える介護」というコンセプトを定め、「ご利用者さんに喜んでもらうためにやっている」という理解が根付いてから、うまく回るようになったんです。
「喜んでもらいたい」「笑ってもらいたい」を目指した結果、ご利用者さんの笑顔が増え、SNSを見る人を惹きつけられるようになったのだと思います。

SNSをしていると、ネガティブなコメントを目にすることもあります。例えば、「お年寄りにこんなことをさせるなんて」「撮影していないで手助けすればいいのに」などです。実際にはご本人が意欲的にしていたり、介助しなくても問題なかったりするんですが、思い込みや自身の価値観で批判するコメントがあるのも事実です。
けれど、「何のためにしているか」が明確であれば、そうしたコメントに惑わされることなく、軸をぶらすことなく進めていくことができます。

―― ご利用者さんの笑顔、職員の皆さんのモチベーションアップのほか、どのような成果があがっていますか?

当初の「採用」の目的も達成できています。「SNSを見た」という応募者が増え、毎年18歳の新人が入職しています。 SNSで当法人を知って入職した人は、30人ほどに達しました。「理念・方針に共感した」と、青森・東京・福岡などから来てくれた職員もいます。

ご利用者さんの家族も、開始当初はSNSへの露出を「NG」とする方が2割ほどいましたが、いまは100%顔出しOK。「どんどん撮ってほしい」というご家族も多いですね。
「以前は施設に預けることを否定的に捉えていたけれど、おばあさんがイキイキと暮らしているので、いまは『預けてよかった』と思う」というDMを頂いたこともあります。

―― 今後のプランや展望をお聞かせください。

コロナ禍の影響でこれまでできなかった、外部の皆さんとの交流を促進したいと思います。地域の方はもちろん、「農作物の収穫体験」などの企画で、遠方からも足を運んでいただきたい。多くの人との交流が、ご利用者さんの喜びにつながるのではないかと思います。
また、オフラインでの介護技術セミナーも開催し、介護の仕事の魅力を伝えていきたいと思います。


―― 福住山ゆりの里の取り組みは、「社会福祉HERO’S TOKYO 2022」でBEST HERO賞を受賞しました。主催者である全国社会福祉法人経営者協議会の大崎さんにもお話を伺います。BEST HERO賞に選ばれたポイント、稲葉さんのお話を聞いての感想をお聞かせください。

SNSを目的にするのではなく、小手先のテクニックを駆使するでもなく、「喜んでもらいたい」という福祉の本質にフォーカスして取り組まれているところがすばらしいと思います。
介護施設でのイベントの写真や映像は、世の中に星の数ほどあります。それらとどこが違うのかを考えると、やはり職員の皆さんが本気でご利用者の夢に向き合うからこそ、生命感にあふれた「一瞬のきらめき」が表れる。「本物」を感じられ、見る人の琴線に触れるのだと思います。
職員の皆さんもまた、ご利用者から多くのものを与えられていることでしょう。まさに「生き合っている」と感じます。

介護技術の動画も投稿されていますが、スキルも高いのですね。介護の専門知識・技術と、アクティビティやコンテンツなどのソフト企画力、そしてマインド。それらのバランスがとれていることが強みといえるのではないでしょうか。
福住山ゆりの里さんの取り組みの発信により、介護の仕事がクリエイティブであることに多くの人が気付いてくれればうれしく思います。

【文: 青木 典子 写真: 社会福祉法人 福住山ゆりの里、全国社会福祉法人経営者協議会】

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