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2023.06.20 UP

ICT・ロボットを活用し、「働きやすい職場」「入居者のQOL向上」の実現へ/社会福祉法人 青森社会福祉振興団 特別養護老人ホームまるめろ

介護現場の負担軽減策として、ICT・ロボットの活用が注目されています。ICT・ロボットの導入に対しては、「導入コストが高い」「機械的な介護では、温かさが失われるのではないか。人のケアは人の手で行わなければ」といった声も聞かれます。

しかし、青森社会福祉振興団・理事長の中山辰巳さんは、導入しての手応えをこう語ります。
「導入コストがかかっても、人件費を削減できる」
「ICT活用で作業効率を高めれば、スタッフに時間的・精神的な余裕が生まれ、一人ひとりに合わせた丁寧なケアが可能になる」
「『働きやすい職場』となり、採用がしやすくなる」

今回は、青森社会福祉振興団が「未来型施設」として運営する『特別養護老人ホーム まるめろ』を訪問。実際にどのようにICTが活用され、どのような効果を生み出しているのかをお聞きしました。

目次

・地域の人々も利用できる地域交流ホール、図書室、美術館なども併設。ICT・介護ロボットを活用したケアを行う「特別養護老人ホーム まるめろ」とは
・「夜勤の負担を軽減したい」――「見守り」のシステムを導入
・夜間の巡回・訪室が減れば、入居者は「安眠」できる
・「調理スタッフの負担減」と「美味しい食事の提供」を両立
・採用にもプラスの効果。「長く働けそう」と応募する人が増加
・管理部門、介護の「本業務」へのICT・ロボット活用を進化させていく

<施設概要>
特別養護老人ホーム まるめろ

青森社会福祉振興団が本拠であるむつ市で培った45年のノウハウを集結・発展させ、2022年春、宮城県仙台市太白区で開業。「まるめろ」はポルトガル語に由来する果実の名前。『花や実が美しい樹の下には、その香りに誘われて人々が集い、自然に道ができる』という思いを込めた。「福祉と文化の融合」を目指し、地域の人々も利用できる地域交流ホール、図書室、美術館なども併設。居室(個室)は基準の約1.4倍の広さで、トイレ・天井走行リフトを設置。ICT・介護ロボットを活用したケアを行う。

▲駅(レンガの外壁)・学校(大時計)・噴水など、「人が集まる場」をイメージして設計された

▲「癒やしの空間」を提供するため地域向けの「まるめろ美術館」を運営している

▲屋上は災害時には地域の人々の避難所としても活用できるように想定されている

「夜勤の負担を軽減したい」――「見守り」のシステムを導入

青森社会福祉振興団がICT・ロボットの活用に積極的に取り組み始めたのは、2011年。その必要性を感じた背景には、「夜勤スタッフの負担の重さ」という課題がありました。

中山理事長 「介護施設がスタッフを募集しても人が集まらない理由のひとつに『夜勤』の問題があります。実際、夜勤はつらいですよね。少人数で、あちこちからナースコールが鳴るたびに駆け付けなければならない。夜間の急変や事故など何が起きるか分からない緊張感もある。何とか負担を軽減できないか……と考え続けていたところに、『見守り』のシステムが開発され、『これだ』と思いました。ICTに見守りを任せることで訪室の頻度が減れば、心に余裕ができます。余裕ができればミスも防げるし、創造的な仕事に取り組めるようにもなるでしょう」

同法人が導入・運用しているのは『A.I.Viewlife(エイアイビューライフ)』(エイアイビューライフ株式会社)。居室内に設置した広角赤外線センサーが、入居者の特定の動作を検知するとスタッフのモバイルに通知します。スタッフはライブ映像を確認し、状況を把握した上で訪室の必要があるかどうかを判断できます。

このシステムでは、以下の検知が可能です。

●危険予兆動作の検知……ベッド上での「起き上がり」「離床」など
●危険状態の検知……居室内での「転倒」「横たわり」、居室内トイレでの「トイレ異常」など
●生体異常状態の検知……ベッド臥位状態で生体反応(呼吸など)がない状態

このツールによって、訪室業務の効率化につながっています。
なお、検知前後の一定時間の動画が自動保存されるため、事故発生原因などを確認でき、今後の対策に生かすことも可能です。

▲居室内に設置した広角赤外線センサー「A.I.Viewlife」

▲広角赤外線センサーで撮影された動画を手元のスマートフォンで確認できる

「A.I.Viewlife」のほかにも、スタッフの訪室頻度の削減を実現しているのが自動体位変換マット『ここちあ利楽flow』(パラマウントベッド株式会社)です。
これは、褥瘡予防のための体位変換を自動で行うエアマット。マット内の各ポジションのエアがゆっくり膨張・収縮を繰り返し、利用者に不快感なく体圧分布を調整します。

夜間の巡回・訪室が減れば、入居者は「安眠」できる

同法人では、『まるめろ』開業前の2021年、他法人やメーカーと共同で「安眠プロジェクト」を立ち上げました。
むつ市の特別養護老人ホーム『みちのく荘』において、居室見守りシステムや自動体位変換マット、高機能おむつなどの使用効果を検証するための調査を行ったのです。

▲自動体位変換マット『ここちあ利楽flow』

中山理事長 「私自身、入居者の疑似体験をするため、施設の居室で24時間過ごしてみたことがあるのです。すると夜中、2時間に1回の巡回のたびに目が覚めました。スタッフが廊下を歩いてくるヒタヒタ……という足音、隣室のドアを開ける音、懐中電灯の灯りなどで起こされるんですね。健常な私でもそんな状態ですから、体位変換やオムツ交換が必要な人は安眠などできないでしょう。夜間の巡回・訪室を削減することで、ぐっすり眠っていただきたいと思いました。もちろん、スタッフの夜勤業務の負担軽減にもつながります」

検証の結果、「臥床睡眠時間」と「離床時間」が増加。このデータは、「夜間は眠っていて、日中は起きている」ことを示します。コール数、体位変換数も減少しました。
さらには、バイタリティインデックス(意欲の指標)の増加が見られ、夜間安眠と意欲向上が結びついている可能性が考えられます。

中山理事長 「あるご入居者さんが、『25年ぶりにぐっすり眠れた』とおっしゃっていました。よく眠れれば、昼間の活動や他者との交流が活発化し、夜にはまたぐっすり眠れる。生活のペースが正常化し、いい循環が生まれます。夜に安眠できないと日中眠くなり、昼食にかかる時間も長くなりがちです。食事がスムーズになるという点では、スタッフの負担軽減にもつながるでしょう」

一方、夜勤スタッフの業務の変化も検証。排泄介助は14.1%減にとどまったものの、巡回業務:44.0%減、ナースコール対応:29.2%減、体位交換:45.2%減となり、効率化の効果が見てとれました。
スタッフへの介護負担感調査では、精神的負担:28.5%減、身体的負担:38.5%減、ねむけ:20.8%減という結果が表れています。

スタッフへのアンケートでは、「導入前はナースコールが鳴ると居室へ駆け付けて確認する必要があり、身体的・精神的な負担が大きかった。導入後は画面で確認し、不必要な訪問をすることなく見守りができるため、負担が軽くなった」というコメントが複数寄せられました。

「安眠プロジェクト」に携わった介護福祉士の佐賀宗敬さんは、「スタッフの負担軽減」の効果への手応えを実感しています。

佐賀さん 「スタッフから、『日中にやり残した仕事を夜勤の時間帯にできるようになり、残業の必要がなくなった分、気持ちに余裕ができた』という声を聞いています。空いた時間は、書類作成、備品補充、行事の準備や装飾物の作成などの業務にあてているようです。『時間ができたので、何かやります』と声をかけてくれることもあります。他施設から転職してきたスタッフからは『前職の夜勤では座っている時間がなかった。こんなに座っていていいんですか』と驚かれました。

ただ、ICTはあくまでも『道具のひとつ』であり、補助的な役割のもの。頼りきってしまったり使い方を誤ったりすると不利益となります。判断するのは自分たちであること、判断するためにはツールだけに頼らずご入居者さんの日々の様子を観察することが大事であることを伝えています」

「調理スタッフの負担減」と「おいしい食事の提供」を両立

新しい技術の導入は、介護の現場だけにとどまりません。バックヤード業務である「食事の提供」においても、最新機器の活用により効率化と人員削減を実現しています。

中山理事長 「食事は健康や命に関わるものだけに、1日3回、きちんと出さなければいけません。しかし、調理スタッフは早番だと朝4時30分に出勤、雪が降ると前泊しなければならないなど、大きな負担がかかります。また、雪で交通が遮断されれば食材が届かないリスクもあります。さらに東日本大震災を経験し、非常時に対応するリスクマネジメントの重要性も再認識しました。そこで、調理業務もICT化する必要があると考えたのです」

同法人が導入したのは、料理の再加熱カート『ミールシャトル』(株式会社中島製作所)。マイクロ波方式加熱により、一度に複数の料理品目を適温に加熱することができる機器です。
従来の熱風式再加熱方式では70分程度かかるものが多いのに対し、加熱時間を10分に短縮。これにより、食事時間の変更など、柔軟な対応も可能となります。加熱時間が短いことで、電気料金の削減にもつながります。
まるめろでは、外部業者から調理済みのチルド食品を仕入れ、ミールシャトルで加熱して提供。停電時には湯煎で加熱できることから、この方式を選択しました。

調理部門を取り仕切る管理栄養士の小笠原敬さんによると、従来型と比較し、半数以下のスタッフで運用できているとのことです。

小笠原さん 「介護施設の調理スタッフといえば、一般的には朝5時には出勤しますが、当施設では8時出勤。8時30分には温かい朝食をお出しできます。50食の提供を通常3人のスタッフで対応できており、場合によっては2人でも可能です。スタッフは調理ができなくても、盛り付けや機器のボタン操作ができればOK。『食事の準備時間の短縮』と『食事の品質の保持』を両立できています。
効率化できた分、私は管理栄養士として『よりおいしい食事の提供』を目指し、ミールシャトルに合わせた味付けや最適な加熱時間などの研究に注力しています」

採用にもプラスの効果。「長く働けそう」と応募する人が増加

「ICTの活用は人材採用にもプラスの効果をもたらしている」と語るのは、常務理事/施設長の中山暁さんです。

中山施設長 「採用面接で志望動機を聞いたとき、『ホームページを見て最先端の機器を活用していることを知り、働きやすそうなところに魅力を感じた』と話す方が結構多いんです。実際に施設を見学し、確信を得て入職を決めてくださいます。
60代などシニア層の応募者の場合、『身体に負担がかからない』ことが当施設を選ぶ決め手になっていることも多いですね。夜勤業務の負担が軽いほか、『天井走行リフト』は移乗介助を楽にすることができ、腰への負担が軽い。75歳定年なのですが、『ここなら定年まで働けそう』と、応募につながっています」

中山理事長 「身体的負担が軽くて働きやすいというだけでなく、介護職としてのやりがいや喜びを感じられると思います。機械ができることは機械に任せてしまえば、介護スタッフは時間と心に余裕ができた分、『人対人』のサービスをより深めることができる。ご入居者さん一人ひとりに寄り添い、個性や嗜好にマッチしたサービスを追求できるでしょう」

管理部門、介護の「本業務」へのICT・ロボット活用を進化させていく

同法人では、今後もICT・ロボットの活用の可能性を探っていきます。

▲施設内を掃除するロボットを導入している

中山理事長 「いま、取り組んでいるのは『労務管理』のシステムの強化です。すでに実証実験を始めていますが、出・退勤管理に『顔認証』を導入し、シフト管理システムとつなげます。完成すれば給与担当は1~2人で運用できるでしょう。
介護現場に関しては、周辺業務のICT化・ロボット化は充実しつつありますが、「排泄」「入浴」といった本業務の自動化には至っていません。在宅介護向けは出てきていますが、施設向けはまだありません。介護人材の枯渇を防ぐために、本気で取り組む必要があると感じています。
また、AIを活用すれば、個々人に対してよりマッチしたケアプランの作成が可能になるでしょう。ご入居者さんの生活を豊かにするためにも、介護スタッフがより働きやすくなり、この仕事に魅力を感じるようになるためにも、進化させていきたいと思います」

▲マスクを着けたままで顔認証や体温測定ができ、シフト管理システムとも連携する予定

 

【文: 青木 典子 写真: HELPMAN JAPAN】

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