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2023.10.25 UP

「介護甲子園」――介護業界で働く人が主役となり、最高に輝ける場。2023年11月、第十二回・決勝大会を開催/一般社団法人 日本介護協会

日本介護協会が主催する「介護甲子園」。介護業界で働く人が最高に輝ける場を設け、夢や誇りを持てるようにすることを目指し、2011年から毎年開催されているイベントです。全国の介護事業所からエントリーを募り、独自の選考基準で選ばれた事業所が、数千人が集う大会場に集結。ステージ上で取り組みや思いを発表し、「日本一」を決定します。
2023年の第十二回は8,887事業所がエントリー。決勝大会が11月21日(火)、阪神甲子園球場で開催されます。

介護甲子園のこれまでの歩みと成果、今後の取り組みなどについて、最初に立ち上げた初代理事長の左敬真さん、2020年より2代目理事長を務める平栗潤一さんにお話を伺いました。

自分たちの仕事ぶりは、自分たち自身で褒めたたえよう

―― まずは初代理事長である左さん、日本介護協会を2009年に設立した当時の思いをお聞かせください。

左 敬真さん(以下、左) 私はもともと建築工学を学び、設計士を目指していたのですが、介護業界に進むことを決意しました。社会インフラの終着点にいるのは介護職であることに気付いたからです。介護職の方々が輝いていなければ、いずれ看取ってもらう側である自分やこれから年齢を重ねていく方々の最期も輝けないのかな、と。そこで24歳で起業し、デイサービスの会社を運営してきました。

介護スタッフたちは、「がんばっているね」と声を掛けられても「そんなことないです」と謙遜する傾向があります。しかし、人材不足が深刻化する中、自分たちで自分たちのことを誇りに思わなければ、この仕事に魅力を感じて入ってきてもらえないでしょう。
そこで、介護職個人にスポットライトを当て、イキイキと活躍している姿を世の中に発信しようと考えました。
それによって新たな仲間に来てもらいたいし、辞めようとしていた人もモチベーションを再点火できるようにしたい。そして利用する方々やそのご家族が「頼れるものがあるんだ」と安心し、悩みや苦しみから解放されてほしい。その取り組みを業界全体で推進するため、日本介護協会を設立しました。

―― 「介護甲子園」はどのようにして生まれたのでしょうか。

左 居酒屋で「どうしたらスタッフがイキイキと働けるだろうか」と話し合っていたとき、明るい笑顔で接客している店員さんの姿が目に留まったんです。「なぜ、そんな楽しそうに働けるの?」と聞いてみると、「『居酒屋甲子園』で優勝するという夢があるから」だと言います。早速、「居酒屋甲子園」の事務局に話を聞きに行くと、慢性的な人手不足の解消、業界の活性化を図る目的で始まったとのこと。そこで、同様の課題を抱える介護業界でもやってみよう、と企画しました。
こうして「業界の活性化」「介護スタッフの離職防止」「新しい人材の獲得」を目標に掲げ、「介護甲子園」を立ち上げたんです。

▲過去の介護甲子園開催の様子

 

ルーティンワークを繰り返す仕事から、「目標」「やりがい」がある仕事へ

―― 開催してみて、どのような手応え、効果を感じられましたか。

左 実は、私が経営する事業所は1次選考で落選してしまいました。スタッフは当初、「社長が理事長を務めているから出る」という感じで、やらされ感があったと思います。当然、気合いと情熱を持っている事業所に圧倒的な差をつけられた。するとやっぱり悔しいんですよね。2回目以降は自分たちの年間目標に「介護甲子園エントリー」を組み込んで、日常業務でも意識してよいアウトプットを繰り返していきました。

介護施設は、病院とは異なり「退院」という目標がありません。そのためルーティンをひたすらこなす日々を過ごしがちです。しかし介護甲子園という目標を持ったことでやりがいが生まれ、意識して取り組むうちに自分たちの成長にも気付いた。そうなると経営者から指示されなくても、自分たちで目標の設定・管理や仕組み作りができるようになり、「自走式組織」に生まれ変わることができました。

平栗潤一さん(以下、平栗) 私は理事長を引き継ぐ前、事業所側の立場で介護甲子園にエントリーしました。その事業所はM&Aによって買収された直後であり、私が経営を任されたのですが、スタッフは不信感や不安を募らせている状況でした。
そこで目標を共有するために、「何のために介護をしているのか」をテーマに話し合ったところ、「分からない」という人が多かったんです。そこで最初に掲げた目標が「介護甲子園で優勝しよう」でした。結果、第九回大会で優勝することができました。

介護業界はCS(顧客満足度)を評価しにくい業界です。認知症のご利用者さんにサービスへの感想を聞いても回答を得られませんから。第三者評価を入れるにしても、バイアスがかかって正当に評価されにくいと感じます。その点、介護甲子園という場で評価を得られれば自信を持つことができます。

なお、以前は求人媒体に30万円のコストをかけて2人応募があればいい方でしたが、優勝後は10万円のコストで280人の応募がありました。以降4年間、離職者もゼロです。どんどん人が集まってきてくれるので、有限会社から社会福祉法人に変更し、新たなサービスを増やしています。

他の優勝事業所も、職場の活性化や採用成功だけにとどまらず、地域からの評価を得て業績が向上したり、融資を受けやすくなったりといった成果につながっているようです。

 

135事業所からスタートし、8,887事業所の参加へと拡大

―― 第一回大会のエントリー数は135事業所。今年開催の第十二回では8,887事業所へ拡大していますね。コロナ禍を経てもなお、ここまで広がった経緯と成功要因をお聞かせください。

左 最初は身内に声を掛け、共感してくれた人が周囲の人に伝えていきました。私自身も、全国百数十カ所の事業所を回って思いやビジョンを伝え続けた結果、ムーブメントが広がっていったんです。
しかし、何度か開催した後、「これでは身内の会だ」と言われてしまった。そこで当初の目的に立ち返り、介護業界以外の人への広報に力を入れました。決勝大会も大きな会場で行い、華やかなイベントとして業界以外の観客を呼び込みました。メディア編集者や大学教授なども審査員としてお招きし、幅広い分野の人を巻き込んでいったんです。
また、季刊情報誌「介護応援隊」を発行。著名人や政治家の方などに出ていただき、配布数を増やして認知度を高めていきました。

平栗 介護事業所の経営者たちも、介護甲子園の活用方法が分かってきたと感じています。ある法人は優勝を果たした際、高校野球の甲子園出場校が行うのと同様に自社施設の屋上から垂れ幕を掲げ、地域に向けて「介護施設・日本一」をアピールしました。また、優勝後に県庁を表敬訪問し、新聞の取材を誘致した法人もあります。このように、事業所が自分たちの取り組みに自信と誇りを持ち、「PRする」ことの重要性も知り、積極的に発信していけるようになってきました。

優勝まで至らなくても、決勝大会に残るだけでも訴求効果は十分にあると思います。SNSでも拡散されやすいよう、セミファイナル大会や決勝大会のプレゼン風景の写真や動画を公開しています。

▲関東セミファイナル大会の様子

飲食店などでは、自身でのPRには限界がありますが、食事したお客さんがSNSや口コミサイトなどで広くPRしてくれますよね。それと同様に、介護甲子園に触れた皆さんが自主的に発信してくれるように工夫しています。例えば「介護甲子園を応援します」パネルを作ったり、たくさん写真を撮影して共有したり。

とはいえ、初代理事長がそうしたように、仲間とお酒を酌み交わしながら「こんなことがやりたい」「一緒に日本を変えよう」と思いを伝えることも大切にしています。リアルな熱量が伝わってこそ、人は動くと思います。そして、それぞれが得意な手段で発信していってくれる。例えば20代の運営メンバーは、新しいSNSとして注目されている「Threads(スレッズ)」で発信し、介護分野では上位のフォロワー数を獲得してくれています。

 

第十二回の会場は「阪神甲子園球場」。気軽に遊びに来てほしい

―― 11月21日に開催される第十二回の決勝大会について、注目ポイントをお聞かせください。

平栗 初めて「阪神甲子園球場」で開催します。コロナ禍の影響で過去2回はオンライン開催となり、3年ぶりのオフライン開催なので「大々的にやろう!」と。実は第1回から、初代理事長が「甲子園球場でやりたいよね」と言っていたそうですので、今回かなえることができてうれしく思います。
私は関東出身で甲子園球場に行ったことがなかったんですが、初めて現地に立ったとき、「TVで見ていたあの場所だ!」とテンションが上がりました(笑)。「甲子園球場に来る」というだけでもワクワク感を持ってもらえると思いますので、気軽に遊びに来る感覚で多くの方に来場いただきたいですね。球場内の見どころスポットを案内するツアーなども企画しています。

▲介護甲子園第十二回大会の決勝会場である「阪神甲子園球場」

エントリー内容でも「初めて」が2つあります。グループホームでアルバイトしている10代の看護学生がプレゼンに立ち、学生目線での介護を語ってくれています。また、生活介護を行っているアトリエ運営者がVR(仮想現実)展覧会を世界に向けて発信しており、案内人を障がい者の方が務めている事例も発表されました。
「10代」「VR」と、新たな潮流を感じます。

―― 「万博のプレイベント」という位置付けでもあるとのことです。

平栗 日本介護協会は2025年に開催される「大阪・関西万博」の共創パートナーとなっていますので、万博のプレイベントとして盛り上げたいとも考えています。
日本は世界でもいち早く「高齢化社会」を迎え、介護の技術やノウハウを培ってきました。それをグローバルへ提供し、生かしていく未来を描いています。
日本で介護研修を受けた外国人の方が母国で介護施設を開業する支援も、すでに行っています。また、日本人の介護職の方が海外でサービスを提供して高年収を得ている事例もありますので、介護職がグローバルで活躍できる道をひらいていきたいですね。

―― 介護甲子園の「これから」をどのように描いていらっしゃいますか。

平栗 介護甲子園で活躍した皆さんが、よりキャリアを高めていける、あるいは収入を上げていけるように、キャリア開発を支援する仕組みを作っていくことを検討しています。

▲一般社団法人日本介護協会 2代目理事長を務める平栗潤一さん

左 介護甲子園というイベントに限定せず、「自分たちの仕事ぶりをいかに外部へ発信するか」という意識と取り組みを継続してもらいたいと考えています。さまざまな団体が各種イベントを開催していますので、機会はいくらでもあります。施設の「外」に成長する機会があることに気付き、「学び続ける介護職」を目指していただきたいと思います。

▲一般社団法人日本介護協会 初代理事長の左敬真さん

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第十二回 介護甲子園 決勝大会
・テーマ 【介護&障がい福祉×〇〇】
・日程 2023年11月21日(火)
・開場 11:30 / 開演 12:30 / 終演予定 16:00

▼第十二回介護甲子園 チケット購入ページ
https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/020y0zmk6fb31.html

▼一般社団法人日本介護協会
https://j-care.or.jp/
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【文: 青木 典子 写真: 一般社団法人 日本介護協会】

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