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2022.10.20 UP

新卒2年目の方がトップとなり組織が動くことも。ICTは役職や経歴に関わらず同じ情報を手にいれるための共有ツール。―ICT導入編―

介護業界におけるICTの未導入率は25.8%、介護ロボットの未導入率は80.6%(*1)という状況の中で、ICTの導入に躊躇される法人様の声をお聞きします。そのような法人様に向け、ICTや介護ロボットを導入することによるメリットや課題解決の可能性など、積極的に活用されている法人様の事例を通じてご紹介します。導入を検討する介護事業所の方のほか、これから介護業界を目指す方や「介護業界のICT化の状況はどうなっているのか」を知りたい方にとっても、役に立つ情報です。

株式会社メグラスの代表飛田さん、ICT担当加藤さん、人事担当の浅井さんに詳しいお話をお聞きしました。

(*1)令和2年度介護労働実態調査 事業所における介護労働実態調査 結果報告書 介護労働安定センターhttp://www.kaigo-center.or.jp/report/pdf/2021r01_chousa_jigyousho_kekka.pdf

インタビューダイジェスト

ICT導入に重要なことは、ツールからではなく、実現したいことから解決策を選ぶこと。

――ICTやロボット導入に積極的な理由を教えてください。

加藤さん:弊社では、CREDO(メグラスが大切にしている「価値観」)が全ての原点になっております。その中でも、ICTの導入については「育もう! 信頼を」という考え方がベースになっています。お互いの信頼関係を作るためには、情報開示や自己開示が大切。そのツールとしてICTを活用しています。また、CREDOの中には「立ち上がろう!自分で」という自主自立という考え方もあり、Megler(メグラスで働くスタッフの意味)一人ひとりが輝くためには、役職や経歴に関わらず同じ情報が手に入れられる状態が必要であると考えているからこそです。

▲メグラスが大事にしている価値観を載せた「CREDO」(一部)

――そもそも介護業界においてICT部門が存在していることが珍しいですが、なぜ置いているのですか?

飛田さん:介護業界にも経理や労務部門はあるかと思います。「経理・労務部門はなぜあるのか?」というと、専門性が必要だからですよね。私たちは、ICT関連業務は片手間でできない専門性の高い業務だと考えており、専属の部門が必要だと判断しています。逆になぜICT部門をもつことが珍しいことなのか疑問に感じます。もしかすると、介護業界では事業所の寡占化が進んでおらず、システム部門をまかなうだけの十分な規模をもつ法人が少ないからかもしれませんね。

――どのような課題からICTを導入することになりましたか?経緯をお教えください。

加藤さん:私自身、入職時は現場の介護職として利用者さんにサービスを提供していました。その現場経験がきっかけでICTツールの必要性に気づいたのです。以前は、PCとメールをメインとした情報共有を行っていましたが、介護業務にあたっているとPCを見る時間がないのです。PCの前に座り、ブラウザを立ちあげ、ログインし、とてつもない量のメールから必要なものを取り出して…という行為は、前職でシステムエンジニアをやっていてITが得意な私でさえも不可能だったのです。だったら他の職員はもっと不可能だろうと思い、隙間時間で情報を共有できるようにチャットツールと個人のスマートフォンを使うことにしました。また、現場職員が共有PCを使い、管理職だけが専有PCを持っている場合には、管理職に比べ現場職員は情報をとりづらくなります。その結果、職員と管理者の間に情報格差が生まれたり、情報伝達がうまくいかなかったりもしました。管理者が口頭やメール等で伝えると、伝える人によって情報が変わったり、情報が抜け落ちてしまったり、止まってしまったりすることが起こりやすいです。

▲スマートフォンを活用し情報共有。各施設のいい事例や緊急情報など幅広い情報を共有する。

そのほかにも、デジタルサイネージ(以下の写真参考)も活用しています。スマホをポケットから出し、アプリを開く時間や余裕すらないというときに、常に情報が見えているようにしようと思い使っていますね。

▲職員が簡単に情報を目にしやすいように置いている「デジタルサイネージ」

――これまでICTの導入にあたり困難はありましたか?どのようにICTの導入をされているのですか?

加藤さん:導入後、使ってもらえるようにしむけることが大変でした。

飛田さん:基本的に、変化を嫌うという現状維持バイアスがあるからかもしれませんね。それを緩和するために、ICTの導入ステップとしては、3つの段階をもうけました。

1.  ICTツールに興味がある人を集め、その人たちを説得し試験導入への合意を得ます。ここでは、5~6人のグループにOKをいただきます。組織全体の5%くらいですね。

2.  試験導入において大きな課題がないことを確認したら、手上げ制により30%くらいの人に展開します。そして「これって便利だよね」という社内世論を形成していく。

3.  30%までいくと組織の中でマイノリティでなくなるので、ここで一気に100%の浸透を進めていきます。導入する中で、変化に耐えられない社員は自ら去って行くなど、苦しい経験もしました。ここで変化しない社員に合わせることに労力を使うのではなく、我々の試みを応援してくれる人たちに労力を使おうと思いました。このように労力の配分を取捨選択することも、経営判断の一つだと捉えています。その後はCREDOに共感する方のみを入職させていることもあり、結果的にビジョンに共感する人の純度が高まっています。加藤さん:こうしてビジョンに共感する人の純度が高まっていくことで冒頭にあった情報の透明性などの文化が作られていっているという過程に今あるのかなと思います。

――ボトムアップ、トップダウンのどちらで導入を進めているのでしょうか。

加藤さん:弊社は管理職などの役職者がいる階層型構造をなくしたフラットな組織形態ということもあり、意思決定におけるボトムやトップというのが一般的なボトム・トップという概念とは違います。トップダウンではあるのですが、この場合のトップは飛田だけではない。時々私がトップにもなりますし、時々浅井にもなる。もちろん、現場のケアスタッフということもあります。

飛田さん:一般的にトップやボトムは個人に紐づいていることが多いと思うのですが、当社では役割に紐づいています。その結果、新卒2年目の社員がトップの役割を担って組織が動くことだってあります。

――役職がないということですが、どのように合意形成を進めていくのでしょうか?

加藤さん:CREDOに照らし合わせて考えていますね。「何かやりたい」というとき、CREDOに基づいてその主張がどう正しいかということを、みんなに説明し納得してもらいます。

飛田さん:そうやって納得してもらうために時間をかなり使いますね。ICT導入の際も、CREDOに基づいて、「よいめぐり(理念の実現)になるのか?」「社会に対してどういうインパクトがあるのか?」ということを話し合いました。合意形成を大事にしましたが、全員の合意を得ることは求めませんでした。

加藤さん:このように進められるのも、全員がどこでどういう議論が起きているのかが、ICTの力を通じて見える化できているので成り立っていると思います。また、実現したいことから解決策(ツール)を選ばなければならないということは考えています。「私が使いたいから導入したいになってないか?」という問いは常に確認しています。

――ICT導入において失敗はなかったのでしょうか。

飛田さん:弊社も初めの頃は、役職権限によるトップダウンで複数の機器を入れてみたのですが、全然うまくいきませんでした。失敗事例に共通するのは、問題解決から進めずにツールから先に始めてしまったこと。また、導入の仕方も雑で「いいからこれ使ってよ」と無理に進めてしまっていました。少しずつ段階を踏んでというような展開はなかったですね。また、重要事項説明書の電子化ツールも導入しましたが、その時は紙という他の選択肢を与えてしまったことが理由にあるかもしれません。さらに、システム部門が何かやり方を考えてくれるだろうとユーザーに思わせてしまったことも理由の一つにありそうです。

――採用におけるICT導入のメリットについて教えてください。

浅井さん:中途採用活動を行うなかで、他介護企業からの転職者の志望理由としてよく聞かれるのが、デジタル面に魅力を感じたという声です。「前職(他の介護施設)では具体的にこんなことに困っていて、こういうICTツールを使いたいと思っていたけど、導入されることはなかった。だが、メグラスにはそのICTツールが存在する。だからメグラスを志望した」という言葉をいただくことも。介護業界全体を俯瞰したときに、デジタル化が推進されていないように見えて、実はデジタル分野にぼんやり興味を持つ介護士はきっと多いはず。そういった方は、弊社で水を得た魚のように生き生きと働かれていますね。ただ、逆もしかり。退職理由の一つに「メグラスの積極的なデジタル化に、ついていけない。他の介護施設のように、アナログに業務を行いたい」という声が挙がることもあります。

飛田さん:「選択と集中」という戦略が故ですね。我々の企業カルチャーは、個人を大切にすることや役職者もなくフラットであることなど、すべての文化が若い世代に向いています。そうなると、ICTを入れない理由はないですよね。一方、平均年齢が高い法人の場合であれば、ICTを無理に導入することで反発する人が多いこともあり、逆に非効率になる可能性もあると思います。自法人の企業文化を踏まえたうえでツールを使うことが大事かと思います。たとえば、ヒエラルキーを重んじる法人であれば、情報格差があった方がコントロールしやすい。その場合は、ICTが全面的に良いとは言い切れないと思います。

――「選択と集中」について詳しく教えてください。

浅井さん:弊社は「このビジョンのもと、これを実現させる!」という突破力や、グレーな状態に明確な白黒をつける力が強いように思います。最適解を選ぶための目的意識が、非常に強いのです。

飛田さん:例えばご家族やご利用者さん、職員の不満に対して何かしら解消しようとしがちですよね。合理的な不満は解消したほうがいいのですが、感覚的な不満というのもある。弊社では、そのすべてに応えてはいません。弊社でなくてももっといい会社があると思うので、そちらを選んでいただければいいと思っています。お客様から選ばれる立場なので謙虚になる必要もあると思うのですが、理不尽なものは「ごめんなさい、対応できません」というようにお答えするようにしていますね。加藤さん:例えば、ご家族への連絡をSMSでやっています。反発がこれまでにまったくなかったといえばウソですが、最終的には受け入れてくださいましたね。浅井さん:そのプロセスでお客さんを失ったとしても、その人たちの声だけに耳を傾けたためICT導入しないという選択になることはしたくないんです。

――ICTに関して求めていること、今後実践されたいことについて教えてください。

浅井さん:今後やりたいことは、CREDOを実践し続けることだともっています。特に、CREDOの中に「介護業界の手本となるというような事例を発信する」というものがありますが、メグラスで育まれた成功事例を社外に発信し続けることで、介護業界全体、社会全体に問いを投げ続けられる会社でありたいと、私は思っています。

加藤さん:多分、みんなに聞いたらそれぞれの答えが返ってくると思います(笑)一人一人がCREDOにそって、何をやればいいのかを考えながら進んでいるので。今後実現していくことも、どういう人が集まってくるか次第だと思っています。

飛田さん:そういう意味では行き当たりばったりかもしれませんね。私も、10年後の目標など持っていません(笑)

――やりたいことを実現するにあたり、予算はどのように立てていますか?

加藤さん:経営にかかわるお金もオープンになっています。なので、自分のやりたいことを実現するには、費用がどれくらいかかるか、全体の収支に対してどれだけのインパクトがあるか、実現できることに対してそれは適切かということを考え、やりたい人自身が説明します。

浅井さん:ビジョンドリブン(ビジョンを起点とすること)であって、予算を起点にしてはいないのが特徴ですよね。ツールから入らないのと一緒で、予算から入らない。

飛田さん:逆に、もっとお金かけたらいいのにと思うこともありますね。

加藤さん:目安として、いくらくらいICTにかけているかというと、年間ネットワーク費も含んだSaaS(利用者が必要とするものだけをサービスとして配付し利用できるようにしたソフトウェアの配付形態)は、1,500万円くらいです。弊社の全従業員が200人ほどなので、年間一人当たり7万円くらい。SaaSだけで純粋にみると、2万5千円くらいですね。24時間365日動いているので回線の方がお金かかるんです。飛田さん:建物の修繕などについては、予算が必要だと思うのですが、新しい企画には予算という考え方は合わないと思います。一方的に決めて推進する権力がある組織であればいいですが、当社のように社長に権力がない組織だと、仮にそれをやったとしても計画倒れになってしまいますね(笑)

――飛田さん、加藤さん、浅井さん、ありがとうございました!

【文: HELPMAN JAPAN 写真: 株式会社メグラス】

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