facebook
twitter

最新トレンド

2023.03.14 UP

高齢者施設にeスポーツを導入することで見えてきた課題とメリット。地域連携のきっかけにも!-eスポーツ-

介護業界におけるICTの未導入率は25.8%、介護ロボットの未導入率は80.6%(*1)という状況の中で、ICTの導入に躊躇される法人様の声をお聞きします。そのような法人様に向け、ICTや介護ロボットを導入することによるメリットや課題解決の可能性など、積極的に活用されている法人様の事例を通じてご紹介します。導入を検討する介護事業所の方のほか、これから介護業界を目指す方や「介護業界のICT化の状況はどうなっているのか」を知りたい方にとっても、役に立つ情報です。

(*1)令和2年度介護労働実態調査 事業所における介護労働実態調査 結果報告書 介護労働安定センター
http://www.kaigo-center.or.jp/report/pdf/2021r01_chousa_jigyousho_kekka.pdf

インタビューダイジェスト

今回のテーマは「eスポーツ」。高齢者施設にeスポーツをいち早く導入されている医療法人友愛会。静岡県沼津市にさとやま整形外科内科、デイケアさとやま、住宅型有料老人ホーム 聖人の家 風のガーデン等の医療・介護施設を運営する法人です。全施設のeスポーツ責任者として運用推進されている、経営戦略室 柳田礼央さんに詳しいお話をお聞きしました。

eスポーツをきっかけに新しい会話が生まれることも。eスポーツについて見えてきた課題とこれから目指すこと。

――eスポーツ導入に至るきっかけや理由をお教えください。
当法人の理事が日本アクティビティ協会(*1)の理事とつながりがあり、沼津エリアの高齢者施設にeスポーツを導入するというアイディアが出たことがきっかけです。
(*1)日本アクティビティ協会:アクティビティを通じて社会的課題の解決することを目的に設立された団体で、健康ゲーム指導士(*2)という民間資格を扱う団体。
導入の理由は、eスポーツの導入を検討するために事例を調べる中で、私たちが抱えるいくつかの問題を解決する手段となるのではないかと感じたからです。一つ目にレクリエーションのマンネリ化。毎週のようにレクリエーションを行っていると、似たような企画ばかりになってしまい、新鮮さがなくなってきます。二つ目にレクリエーションの参加率の低迷。レクリエーションは比較的社交性の高い方は参加率が高いものの、そうでない強制されているという認識を持たれやすいです。eスポーツは、様々なコンテンツがあり、性別や社交性関係なくできるため、抱えていた問題を解決するツールになりえると感じたんです。
さらに、現場の業務における問題解決にとどまらず、認知症の予防にも効果があるというデータがあることも決め手の一つです。日本アクティビティ協会が産学連携の上で実証実験を行い、認知症の改善につながるという結果が出ていることから、参考にすることができました。
加えて、全国的に事例が少ない上に時代の潮流に合っていること、eスポーツ市場が今後さらに伸びていくことも期待できることから、法人としても取り組みたいと意欲が高まりました。

――eスポーツを導入されるまでのプロセスを教えてください。
導入を開始したのは2021年からです。まずはeスポーツを全施設一丸となって取り組んでいくという方針を決めました。そして、当法人の職員に「健康ゲーム指導士」の資格を取得してもらうことから始めました。(*2)
(*2)健康ゲーム指導士:ゲーム(eスポーツ)を通じて「健康」と「交流」を応援し、健康寿命や社会参加寿命の延伸をサポートするための民間認定資格。
介護職にとどまらず、事務員の方や看護師など職種は関係なく、法人が費用を全額出して手挙げ制で実施。約30名が資格を取得することができました。日ごろの業務以外にも、eスポーツフェスティバル(後述)などに出展することもありましたので、eスポーツをレクリエーションとして実施する流れがわかる職員が多いことは、様々な面で役立ちました。
次の段階では、機材を購入。現場の設置場所を整えて取り組み始めました。機材の費用は、10万円以内ぐらいで揃ってしまうくらいの価格です。そして対象となる施設の管理者に、大体1回あたり1時間ぐらいの実施スケジュールを組んでもらいました。
そして実施の段階。準備するものは、備え付けのプロジェクターとスピーカー、eスポーツの機材のみです。

――導入にあたり現場からの反発はありませんでしたか。
当施設は比較的職員の平均年齢が低く、このようなテレビゲームに慣れている職員が割と多かったこともあり、反対はありませんでした。「eスポーツ」という言葉も知っている職員が多かったため賛同を得やすく、抵抗なくやってみようという傾向にありました。また、スケジュールを作成するという業務負担があった管理者からも、特に反対はなく、むしろ施設の特色を出せるので乗り気でしたね。

――導入にあたり、困りごとはありましたか。
導入時には特にありませんでした。というのも、日本アクティビティ協会の導入の仕方からレクリエーションのやり方などをまとめたプログラムを活用できたので、実践しやすかったです。
一方で、その後のeスポーツの定着には課題があります。週に何回やろうとスケジュールを組んでいたのですが、不定期になってしまいました。日常業務にどう落とし込むかというのを模索しているところですね。

――日常業務に落とし込むのが難しかったのはなぜですか。
例えば体操などのレクリエーションですと、介護士が身一つで始めることができるのですが、eスポーツは機材の準備に時間と手間がかかります。加えて複数の職員の参加が必要です。前に立って盛り上げる役、やり方を伝える役、後ろで座ってる方を盛り上げる役などの役割分担をします。
誰が主になってeスポーツレクリエーションを行うかも難しい点の一つです。やる気や興味のある職員を仕切り役とするなど、人員整備の大切さを感じています。現在(取材当時2022年12月)、現場職員3名が中心となるチームを組み、定期的な実施を目指して準備を進めていますね。
その際は、ゲームを行った結果としてスコアが出るのですが、どう管理していくかも検討しています。例えば「前回のスコアは50点だったので、次は55点を目指しましょう!」など、目標設定ができると良いなと思っています。

▲eスポーツの導入について検討している様子。飽きない工夫を取り入れながら、マンネリ化しないようチームで企画している。

――活用されているeスポーツには、どんな種類がありますか。
「太鼓の達人」・「グランツーリスモ」の2つです。太鼓の達人は、ゲームセンターにあるものと同じ種類で、太鼓のモチーフの機械と撥(ばち)を使い、楽曲のリズムにあわせて太鼓をたたくように遊ぶゲームです。グランツーリスモは、運転シミュレーションゲームで、ハンドルやアクセル、ブレーキがセットになった機材を設置して画面に映る道路に合わせて運転をするゲームです。

▲「太鼓の達人」をプレイする様子

▲「グランツーリスモ」をプレイする様子

この2つのゲームは、日本アクティビティ協会でもおすすめされているもの。耳や目、体も使うことから、脳トレにもなります。女性は太鼓の達人、男性はグランツーリスモと結構好みが分かれるんですよね。太鼓の達人は、ゲームを通して一緒にみんなで盛り上がれるところが好まれるのかもしれません。プレイできる人は2人ですが、後ろにいる人も一緒になって膝や肩をたたいて楽しむことができるんです。
グランツーリスモは運転の経験が多い方や、運転が好きな方に興味を持っていただきやすいゲームです。

――ご利用者や職員からの反応はいかがですか。
最初は「前に出るのが恥ずかしい」という利用者の声がありました。ただ慣れるとのめり込まれる方も多く、「楽しい」という声に変化します。一方、「難しい」という声もあります。太鼓の達人は同じ曲で回数を重ねていけば必ず上達はするのですが、お年寄りにとっては難易度が少し高いようです。なるべく簡単な曲を選ぶのですが、今度は曲を知らない場合が多い。そうなると、一・二曲くらいしか、遊べるものがないんです。本当は童謡など利用者全員が知っている曲だといいのですが、その点で選曲が難しいですね。
また、皆が皆ゲーム好きではないこと、音も結構出ますので、「うるさい」と思う方もいると思うんですよ。全員を巻き込めるものかと言われたら難しいところかなと。介護度の差によるグループ分けの難さもあり、やはりまだまだ改良の余地がありますね。
職員からは、普段体操などのレクリエーションなどでは、興味を持たれない利用者が、積極的にグランツーリスモをやっている姿を見て非常に驚いたという声がありましたね。その利用者に話を聞いてみると、実は昔トラックの運転手をやっていたそう。職員も知らなかった過去なのですが、eスポーツをきっかけに新しい会話が生まれたことがよかったということはありました。
取り入れるハードルは割と低いために導入しやすく、新たな会話も生まれるというメリットがあるのですが、定着や活用継続という観点では、いろんな課題が見えてきたばかり。ここをクリアできればeスポーツは非常に良いコンテンツだと思っています。

――沼津eスポーツフェスティバルにも参加された経緯を教えてください。
eスポーツを導入したタイミングで、ちょうど沼津の青年会議所から、eスポーツのイベントを計画していること、高齢者向けに当法人のブースを出してほしいという提案があったんです。参加した理由としては、最近は高校にもeスポーツ部ができ、部活経験者が専門学校へ行くという進路が一般化している流れがある中で、病院や高齢者施設でも活用されているということを沼津市民の皆様へアピールしたかったからです。

▲eスポーツフェスティバルではブースの出展に加えて「高齢者施設でのゲーム活用」について、柳田さんが講演を行った。

――イベント当日はどのようなブースを出されたんですか?
「健康」×「シニアeスポーツ」をテーマとした「健康ゲーム体験会」というブースを出し、太鼓の達人がプレイできるようにしました。そもそもシニア層はeスポーツに興味のある人が少ない層であることから、集客が難しいのではないか、という話がありました。そこで、簡単な脳機能測定、認知症予防体操などの健康にまつわるプログラムも織り交ぜ、3部制にすることで興味を持ってもいただくことができました。本来このようなイベントは、飛び込みで来た人が興味を持ってここで遊んでみようかなと思っていただくものですが、お年寄りはそもそもeスポーツフェスティバルの会場に来ない。将来的にはもっと認知度が高まり、ふらっと来たシニアの方が気軽に参加できるようになってほしいですね。


▲ブースでプレイをする様子(上)と健康体操を行う様子(下)。予約制ではあったものの、約40名の方が参加した。

また、沼津eスポーツ秋祭というイベントにも参加しました。今回は健康ゲーム体験ブースに加え、理学療法士によるお悩み相談ブースを併設し、体組成計を使った筋肉量測定のほか、体のコンディショニングなどを行いました。このようなブースを通じて、これまで医療や福祉に興味のなかった層が関心を持つきっかけとなればいいなと感じています。

――今後の「eスポーツ」へのお考えについて教えてください。
法人内外でそれぞれ取り組みたいと思います。まず法人内については、eスポーツを定期開催できるように整えていきたいと思っています。
法人外については、地域で行われるイベントへの参画を通じ、「eスポーツ」という共通のテーマをもとに地域連携を行っていくこと。そして沼津という地域全体で一丸となって実施していることを世の中の方に知ってもらいたいなと思っています。沼津地域の中で点々としているeスポーツの取り組みを集結させ、学生からお年寄りまで、世代問わずに携わることができるeスポーツを、沼津から日本全体に発信する。その役割を担う一員として参画し続けられたら嬉しいです。その結果、eスポーツに取り組む福祉施設が増えたらいいなと思っています。

【文: HELPMAN JAPAN 写真: 医療法人友愛会】

一番上に戻る