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2021.04.26 UP

国内外の各所と連携し、「自立支援介護における4つの基本ケア」の考え方を広め、社会課題を解決していく

2021年、介護報酬改定のひとつとして、「自立支援」の取り組み推進が掲げられ、日本における介護方針は大きく方向転換したといえるだろう。自立支援の効果を裏付けるため、「科学的介護」が推進され、高齢者の状態、ケアの内容などを集積する介護データベース、CHASE、VISITなどの導入・活用も進むいま、大きく注目を集めているのが株式会社ポラリスだ。同社の代表・森剛士さんに、自立支援介護のいまとこれからについてお話を伺った。

祖母の死をきっかけにリハビリの道へ。
自立支援の概念を広めていくことを決意

株式会社ポラリスは、「住み慣れた自分のまちで、いつまでも元気に暮らせるように支えていくこと」をコンセプトに、2002年に自立支援に特化したデイサービス施設をオープン。同社代表の森さんは、もともとは心臓外科医であり、現在も自身のクリニックで院長として活躍を続けている。その一方で、リハビリの道に進んだのは、祖母が脳梗塞で倒れたことがきっかけだったという。

▲森剛士(もり・つよし)さん。1969年生まれ。兵庫医科大学を卒業後、外科医、リハビリ医を経て、2000年、リハビリ特化型のクリニックを開設。2002年、株式会社ポラリスを設立し、自立支援特化型のデイサービスを展開。現在、日本デイサービス協会理事長などを務める

 

「祖母は寝たきりの状態となり、やがて入院先の病院を出ることになりましたが、次の受け入れ先はなかなか見つかりませんでした。日本では急性期、つまり最初の1〜2年のリハビリは熱心に行われていますが、慢性期のリハビリに対応している病院や施設は非常に少ないです。祖母のように症状が固定されてしまった慢性期の人々に向け、『デイサービスでリハビリを行えればいいのではないか』と考え、社会のためにも、『家に帰ったらリハビリができない』という人々を支えていく仕組みが必要だと痛感しました」

また、これまで介護の世界では、国の介護方針や介護保険の仕組みによって、高齢者ができないことを手伝う“お世話型”の介護が推進されてきた。

「“お世話型”の介護を中心に行ってきた結果、寝たきりになったり、車いすに頼ったりすることになった高齢者も少なくはないと考えています。 “廃用症候群”という症状は、高齢者にとって進行が特に早く、1週間寝たままの状態を続けるだけで歩けなくなってしまうケースもあるのです。フレイル(加齢に伴い身体の予備能力が低下し、健康障害を起こしやすくなった状態)の進行なども、国の方針のもとに生まれた医療や介護の環境が影響していると考えています」

しかしその後、さまざまな事例をもとに議論を経た2021年には、介護報酬改定のひとつとして、「自立支援」の取り組み推進が掲げられ、日本の介護方針は大きく舵をきったといえる。

「2016年の未来投資会議で、安倍晋三首相(当時)から『2025年問題に間に合うように、“予防・健康管理”と“自立支援”に軸足を置いた新しい医療・介護システムを2020年までに本格稼働させていく』との発表があったとき、やっと国も分かってくれたかと男泣きしました。あれから5年、『ようやくスタートラインに立てた』という万感の思いがあります」

 

2021年の介護方針転換は「スタート地点」。
国内外の各所と連携しながら自立支援介護を広めていく

現在、株式会社ポラリスの取り組みは介護業界の枠を超え、さまざまな企業や団体との連携のもとで自立支援介護の考え方を広めようとしている。そのひとつとして、大手電機メーカーのパナソニック株式会社と共同で、IoT技術を活用した自立支援介護プラットフォーム構築に向けた実証実験を開始し、自立支援アプリの実用化やAI活用によるケアプランの作成などにも役立てていくという。

▲パナソニック株式会社と共同で取り組む自立支援アプリでは、在宅時のデータをアプリに集約できる仕組みを構築している

 

また、独立行政法人国際協力機構(外務省所管)による、ベトナムにおける「機能回復を目的としたリハビリサービス導入事業案件化調査」にも参画し、自立支援介護の海外展開実現に向けたプロジェクトに取り組むなどといった活躍をしている。

「究極的には、IoTやAIを活用し、アプリのみで自立支援介護ができるような世界を実現できればと考えています。また、アジア圏などの海外では、日本のように多くの財源を使う介護保険制度を実現することは難しいため、地域に合わせた合理的かつコンパクトな自立支援介護の仕組みを提供できるように尽力し、社会課題解決の一助となることができれば、と思っています」

このような国内外の連携に至るまでに、株式会社ポラリスでは介護保険制度の創成期から科学的な自立支援リハビリプログラムに取り組み、これまで多くの要介護者を介護保険から“卒業”させてきたという。

「ポラリスに3か月以上通い、2013〜2015年に認定調査を受けたご利用者様を対象に2次判定改善状況について調査を行いましたが、5,032名の内204名が介護保険を利用しなくて済むほどに症状が改善されていました。私たちはこれを『介護保険からの卒業』と呼んでいます。さらに社内統計では、2013年から現在までの間に、合わせて550名ほどの方が“卒業”されています。要介護度が高い方ほど改善率も高く、要介護度5の方の改善率は50%を超え、リハビリ開始から3カ月で歩けるようになる方もいれば、5カ月でトイレもお風呂も自力でできるようになる方もいます。認知症が改善できたというデータもありますね。
“自立”とは『身体的自立』『精神的自立』『社会的自立』という3つの要素から成り立っています。私たちのデイサービスでは、まず4つの基本ケアを習慣化し、身体的な自立を支えていくことを第一歩としています。1日に必要な水分量と、1日に必要な栄養を補給できる食事、生理的な排泄、日中の運動がこれにあたります。 “生活動作”と“歩行”が自立できれば、次に『こんなことがやりたい』『こんなところに行きたい』といった精神面の行動変容が起こるのです。この変化が見られるようになることで『精神的自立』『社会的自立』も自然に回復していくのです」

▲自立支援プログラムによって、自分の足で歩く利用者の方。再びイキイキとした笑顔を取り戻し、家族から感謝の言葉をもらうことも多い

 

2020年には新型コロナウイルス感染症が流行し、外出しにくい状況となったことで、高齢者の身体能力の大幅な低下や認知症の病状の進行が懸念される状況が生まれた。これまでの介護における根源的な問題が明るみに出たといえるいま、これまでのリハビリプログラムをベースに、介護の世界に新たなイノベーションを起こす「ジジババプロジェクト」の取り組みも2021年にスタートさせる予定だという。

「1つ目は『お寺』によるデイサービス。もともと地域社会の中心は『お寺』であり、人が集い、人が助け合い、人と人とが寄り添うことで多くの人が救われてきたと考えています。瞑想や住職の講話等の活動や精進料理を取り入れた食生活支援などお寺ならではのサービスと融合し、ご利用者様がイキイキと生活できるようなケアを実施していきます」

▲三重県津市 曽洞宗塔世山 四天王寺と連携し、2021年中にお寺でのデイサービスを展開する予定だ

 

「2つ目は、石垣島で提供するリゾート滞在型の自立支援です。離島でのリラックス効果もプラスした『要介護高齢者を元気にするため』の施設で、3カ月間しっかりと自立支援のケアを受けていただくサービスを提供します。

▲石垣島の滞在型リゾートステイは、南の島を満喫できる環境にある。地元の人も、島外の人も利用できる仕組みとする予定だ。新型コロナウイルス感染症の感染状況や社会情勢を鑑みてスタートさせる

 

そして3つ目が、世界一周旅行中に自立支援を提供する『ポラリスクルーズ』です。ピースボートなどの旅行企画を主催する株式会社ジャパングレイスと提携し、100日前後世界を巡るクルーズを楽しみながらリハビリをしてもらいます。『乗るときは車いす、降りるときは自分の足』を楽しむ旅、というコンセプトです」

▲クルーズ船で世界一周しながらリハビリを行うツアーも新型コロナウイルス感染症の感染状況や社会情勢を鑑みたタイミングで実現する予定

 

今後も、さまざまな領域のプレーヤーが共同し、社会課題を解決していく仕組みを作っていくことを目指すという。

「ポラリスが軸となって自立支援クラブを作りながら、介護に携わる多くの企業や人々と協力し合っていこうと思います。ソーシャル・インパクト・ボンド(行政から民間へ委託する際の手法のひとつ)なども活用し、全国の地域に自立支援の仕組みを広げていきたいですね」

これらの仕組みを広げていくにあたり、キーパーソンとなるのが“介護職”だという。

「これまで介護の現場で働いてきた皆さんは、“お世話型”の介護のもと、ご利用者様の思いに寄り添うことにフォーカスするしかない状況だったと思います。しかし、今後は、ご利用者様の生活に寄り添う介護職の皆さんこそが、リハビリ領域で最も力を発揮できる存在であり、多くの高齢者の明日を一緒に変えていくことができると思うのです」

【文: 上野 真理子 写真: 株式会社ポラリス 提供】

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