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2022.03.31 UP

令和3年度介護報酬改定を機に、介護保険サービスにおける活躍の幅が拡がった管理栄養士・栄養士。「自立支援」実現のために栄養ケア・マネジメントが果たす役割とは?

介護保険制度の基本理念のひとつである「自立支援」。介護が必要な状態になったとしても、その人が自己実現に向けて自身の能力を維持、増進、活用することを支援する。これが、介護保険サービスが目指す姿のひとつである。介護保険サービスは、3年に1度の介護報酬改定を通じて、目指す姿に向けて進化してきた。令和3年度の報酬改定において、自立支援の実現に向けた重要な役割として期待されているのが、管理栄養士・栄養士である。管理栄養士・栄養士が介護保険サービスの現場で果たす役割とは何か。長年、管理栄養士として介護保険サービスの現場で栄養ケア・マネジメントに取り組む社会福祉法人福寿会・特別養護老人ホーム松林荘(公益社団法人日本栄養士会・福祉事業推進委員会副委員長)の石村敦志さんにお話を伺った。

令和3年度の介護報酬改定から読み解く管理栄養士・栄養士への期待とは?

まずは、2021年度の介護報酬改定における管理栄養士・栄養士に関わる改定のポイントを伺った。

「私が勤めている特別養護老人ホームをはじめとする施設系サービスにとって最も大きなポイントは、人員基準に栄養士に加えて『管理栄養士』が明記され、運営基準に『栄養管理』が規定されたことです。栄養管理は、管理栄養士が利用者の栄養状態に応じて計画的に行うことと定められているため、栄養士のみ配置していた施設にとっては、事実上、管理栄養士との複数配置が進められることになります。また、これまでは栄養ケア・マネジメントの実施は加算対象でしたが、3年の経過措置期間を設けた上で、今後は栄養ケア・マネジメントが実施されていない場合には、基本報酬が減算となります。つまり、施設系サービスにおいて栄養管理が基本サービスとして位置付けられたことを意味しています」

▲令和3年度介護報酬改定における管理栄養士・栄養士に関わる改定のポイントの詳細は、日本栄養士会のホームページにて解説されている(https://www.dietitian.or.jp/data/nursing-reward/

施設系サービス以外においても、自立支援の実現のために栄養ケア・マネジメントの重要性を踏まえた改定が行われている。

「改定にあたっての基本的認識として、自立支援や重度化防止を効果的に進めるためには、リハビリ、栄養、口腔の取り組みが一体となって運用されることが重要であるという認識があります。その認識をもとに、通所サービスでは、利用者の口腔の健康状態及び栄養状態のスクリーニングに対する加算や、栄養状態のアセスメントに対する加算が新設されました。また栄養改善に対する取り組みとして、利用者の居宅への訪問も評価対象となりました。認知症グループホームにおいても、管理栄養士による介護職員への技術的助言や指導の実施に対して新たに加算が創設されました。全体を通じて、介護保険サービスにおける管理栄養士・栄養士の活躍の幅が拡がった報酬改定であると言えます」

管理栄養士・栄養士の活躍の幅が拡がることがもたらす、介護保険サービスの現場での効果とは?

管理栄養士・栄養士の活躍の幅が拡がったことによって、介護保険サービスの現場では、どのような変化・効果が現れているのだろうか。石村さんが働く特別養護老人ホームを事例として伺った。

まず、報酬改定前後で体制はどのように変わったのだろうか。

「これまでは管理栄養士1名という栄養管理体制だったのですが、報酬改定を機に管理栄養士を1名増員しました。加えて、厨房の調理員として勤務していた方を栄養士として配置し、その方に給食管理を担当してもらうことによって、私は勤務時間のほぼ全てを栄養ケア・マネジメントに集中できる体制になりました」

体制の変化によって、どのような変化があったのだろうか。

「まず、利用者に対しては、『全員を細部まで見られるようになった』ことが大きな変化だと感じています。以前は限られた時間のなかで、低栄養状態リスクがある方を優先的に見ていましたが、今では利用者全員の食事の様子を見ることが出来ます。同時に、ひとりひとりの様子を細かく観察できるようにもなりました。例えば、食事中に姿勢が徐々に悪くなってしまう、食事をスプーンですくう時に食器からこぼれている、口元まで食事を運べずにこぼれている、食器をもちかえることが出来ないことで思うように食事が進められていない…といった様子です。このような様子は、介護職員や看護師の方々にとっても、食事介助の必要な利用者の対応や他業務があるなかで、利用者全員について細部まで見ることは難しかったと思います。今では、管理栄養士から情報共有することで、環境調整や介助方法の工夫が出来るようになりました」

このような変化は、利用者の状態に定量的な効果をもたらしている。

「利用者の低栄養状態リスクにおいて、中・高リスク者の割合が、2021年4月時点の57%から、2022年1月時点では34%に減少しました。特別養護老人ホーム及び介護老人保健施設の利用者における中・高リスク者の割合は54.8%だったという調査結果(*1)もあるなかで、34%という結果は、栄養ケア・マネジメントを推進した効果と感じています」

管理栄養士・栄養士の活躍の幅の拡がりによる効果は、サービスの経営や運営にも波及している。具体的には、介護報酬の増額はもちろんだが、それだけには留まらない。

「介護報酬=『売上』に対する効果という観点では、栄養関連加算については、報酬改定前と比較すると、併設する通所介護も含めるとおおよそ倍増している計算になります。また、食材費の管理を担当しているので、経理の方々と連携しながら『原価』の管理にも一部携わっています。他にも、国保連請求業務や科学的介護情報システム(LIFE)の入力最終確認も担当しています。報酬改定によって利用者と接する時間が増え、委員会や担当者会議に参加するようになったことで生まれた動きです。サービス経営や運営に対しても管理栄養士が貢献できることはたくさんあると感じています」

管理栄養士・栄養士として介護保険サービスの現場で働く魅力とは?

一般社団法人全国栄養士養成施設協会が、2020年度に管理栄養士・栄養士の就業状況について調査した結果では、養成施設を卒業後、介護保険施設や社会福祉施設で働く管理栄養士・栄養士はおおよそ2割程度(*2)。介護保険サービスで活躍する管理栄養士・栄養士の数は、その期待や効果の大きさに対してまだまだ少ないと言える。

そもそも、石村さんは何故、管理栄養士を志したのだろうか。

「栄養士という資格があることを知ったのは、高校の進路選択の時でした。母が料理好きで、私も幼稚園の時から母と一緒に台所に立って、おやつをつくったりしていたので、調理にもともと興味があったのです。また、祖母が糖尿病で入院していたことがあり、その時に、食事を通じて大切な人を守ってあげたいと思ったこともきっかけのひとつです。栄養士であれば、献立を考えることから携われるので、私がやりたいことにあっていると考えました」

大学では家政科を専攻し、卒業後、管理栄養士の国家試験に合格。管理栄養士として就職活動を行うなかで出会ったのが、現在勤めている特別養護老人ホームだった。

「当時、そのホームに勤めていた管理栄養士が退職されることになり、その方の仕事を引き継ぐ形でキャリアをスタートしました。管理栄養士としての仕事を教わる過程で、『これからの時代の管理栄養士は、厨房に引きこもっている仕事ではなくなる』と言われたことが今でも印象に残っています。たしかに、2005年(平成17年)に栄養管理体制加算・栄養マネジメント加算が介護報酬に新設されて以降、管理栄養士は介護現場にいることが当たり前の仕事になりました。現場で利用者や他職種の方々と関わりながら、利用者の理解を深め、利用者のよりよい生活のために、食を通じてできることを考え、試行錯誤することが、介護保険サービスにおける管理栄養士の役割だと私は考えています」

介護保険サービスにおける管理栄養士・栄養士への期待が高まる過程と共にキャリアを歩んできた石村さん。石村さんにとって介護保険サービスの現場で働く魅力とは何だろうか。

「私が就職活動をしていた当時、栄養管理の最先端は、病院等の医療現場というイメージを抱いていました。『病院で働く=かっこいい』というイメージですね。でも、今は、『介護保険サービスで働く栄養士が、一番かっこいい』と思っています。利用者が最期を迎える日まで、日々の生活のなかで、食事も含めてやりたいことを実現するために、みんなで考えて支援していくことが、とても魅力的な仕事だと感じています。例えば、ある利用者の方から『最期に、これを食べたい』とお話があった時に、どのような形であっても食べさせてあげたいと知恵を絞り、工夫を凝らして叶えて差し上げられる。また、利用者の日々の生活を深く知っているからこそ、何かの節目や行事の際に、その方の好きな食事をこっそりお出しして、微笑んでいるお顔を見ることができる。そんな日々の小さな喜びもたくさんあります。「自立支援」というと表現が固いですが、食においては、栄養が摂れれば良いではなく、食を通じてその方の生活を彩ることが出来るのが、この仕事のやりがいです」


▲石村さんへの取材はオンラインで行われた

終始笑顔で、ご自身の仕事への誇りを滲ませながらお話して下さった石村さん。石村さんが最後に語った今後の目標は、これからの介護保険サービスにおける管理栄養士の将来像とも重なる部分があるのではないだろうか。

「まずは、今回の報酬改定を機に、より一層利用者と関わる時間を増やしていきたいと考えています。加えて、職場においては、管理栄養士という立場を超えて、職種間の連携を更に促進・調整できるようになりたいと思います。そしてその先に、現在携わっている特別養護老人ホームを起点として、他サービスや地域社会に貢献の幅を拡げていきたいですね」

【出典】
*1 公益財団法人長寿科学振興財団「介護保険施設における低栄養と栄養ケア・マネジメントの課題」
https://www.tyojyu.or.jp/net/topics/tokushu/koreisha-shokuji-eiyo/teieiyo-eiyocaremanagement.html

*2 一般社団法人全国栄養士養成施設協会「卒業生の就職率と就職先」
https://www.eiyo.or.jp/about/shushoku.html

【文: HELPMAN JAPAN 写真: 公益社団法人日本栄養士会 提供】

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