facebook
twitter

介護業界人事部

2017.09.06 UP

~『人』が中心の、介護記録を~ 現場を見える化し、日々進化する『ケアコラボ』とは―

スマホ・タブレット・PCを使いながら、日々の介護記録がその人の情報としてタイムラインで統合されていく。バイタルや食事量などの基本的な記録はもちろん、アセスメントからケアプランの作成がチャートでわかりやすくなっているほか、写真や動画でも記録ができる。それはSNSを使う感覚に近いかも知れない。そうした記録はスタッフ同士で共有でき、公開範囲の設定によりご利用者の家族も自分のスマホで介護記録を見ることができるのだ。
更にはご利用者1人1人のプロフィールには、その人の生い立ちを記録する「人生録」というものがあり、ご利用者の歴史を知ることで、さらに良いケアにつなげていくという。「人生録」は、さながらその人のWikipediaのようである。スタッフ同士だけでなく、スタッフとご利用者、スタッフと家族の相互理解が深まり、介護現場でのコミュニケーションが進化していく。スタッフがやりがいを感じられる場面が増えたり、業務効率化にも寄与しているという。
介護報酬請求システムのオプションとして存在していた従来の介護記録システムは「サービス」が中心にあるが、ケアコラボは「記録」に特化し、中心はあくまでも『人』。介護記録システムの世界に新しい風を吹かせているケアコラボはどのように誕生し、どのように日々進化しているシステムなのか?
そのキーマンであるケアコラボ藤原氏、福祉楽団飯田氏、愛川舜寿会馬場氏にお話を伺った。

 

▲ケアコラボの実際の画面。スマホで簡単に操作できるのが魅力だ。

 

福祉楽団飯田氏がオランダでビュートゾルフを見に行ったことがきっかけに

「2012年にオランダの訪問介護事業者、ビュートゾルフ(Buurtzorg)に興味を持ち、現地に視察に行きました。最大12人のケアスタッフでチームが組まれています。いまでは、オランダに800カ所以上のケアチームがあるといいます。チームでは自主性が重んじられ、事業所を開設する場所から勤務の形態、ケアプランの立案まで、全員がフラットな関係で話し合って決めていきます。そうした最適な意思決定を支援していたのがICTでした。ケアスタッフは全員がiPadを持ち、紙は全くありません。経営状況もスタッフ全員がWEBで見ることができ、自分たちのチームの改善に活かしていました。一方日本はというと、ICTといえば介護報酬の請求事務で使っているくらい。ICTのCはコミュニケーションですから、ICTというよりはパソコンを使っているという程度で、ICTを活用している施設は、まだまだ少ない状況でした。オランダのビュートゾルフとの差は一目瞭然でした。

『レセプト請求から脱した、チーム運営・組織風土醸成のための人が中心のICTの活用』が日本にも必要だと強く感じました。」と飯田さんは当時を振り返る。

 

~思いを共有でき、形にするために~探し出したパートナーは、『「納品」をなくせばうまくいく』の提唱者―

自分のこの思いを実現するには誰に依頼するのがいいのか。

「帰国後すぐに「人」が中心のICTシステムの開発にトライしようと考えました。私はエンジニアではないので自分で作ることはできないですから、自分のこの思いに共感してくれるパートナーを探すために、オランダで学んだことを踏まえ、現場で求めているICTについて自主開催で勉強会を繰り返し開きました。

大手のシステム会社、電機メーカー等の開発部門や営業に参加してもらい、これからの介護現場に必要なシステムのイメージを伝えてきたものの具体的な開発に乗ってくれる企業は現れませんでした。そんなとき『「納品」をなくせばうまくいく』という本に出会いました。これまでのシステム開発がうまくいかない理由が書かれており、「アジャイル開発」という方法が紹介されていました。それを読んで「これだ!」と思い、著者が代表をしているソニックガーデンというシステム開発会社を知りました。」

飯田氏はすぐにソニックガーデン社にメールをし、面談の機会を得る。当時連絡を受けたソニックガーデン社の藤原氏は言う。

「弊社はすぐに案件を引き受けません。依頼者の思いや、本当に成し遂げたいこと等、事細かにヒアリングした上で、システムを一緒につくっていくことができるかどうかを検討します。飯田さんともたくさんお話をしました。介護現場の案内も事細かにしていただきましたね。飯田さんのICTで介護現場を変えたいという熱い思い、福祉楽団の地域に根差す姿勢。そのすべてが私たちを納得させるのに十分なものでした。飯田さんの言う『人』を中心としたシステムは、日本の介護現場においてなくてはならないものと実感し、このシステムをつくるパートナーになることを決意しました。」

そこからケアコラボの開発プロジェクトは急ピッチで進んでいく。

「弊社は『アジャイル開発』を得意とする会社で、システムの要件定義書や仕様書を事前につくりません。まずは利用を開始するために最低限必要となる中心的な機能を洗い出します。そこから小さく開発して早めにユーザーに使いはじめてもらって、フィードバックをもらい、ブラッシュアップしていく。そのサイクルをひたすら続けていきます。

今回もまずは何を実現したいか、具体的にどういうシステムにしたいかを考えるのに多くの時間を費やしました。プロジェクトメンバーみんなでブレストし議論する日々。この進め方自体飯田さんも私もこだわったやり方で、オランダのビュートゾルフのチームで進めるやり方を意識したもの。この議論の場を通じて相互理解が進み、サイクルを回す回数が増えれば増えるほど、メンバー間の意志疎通は円滑なものになっていき、とてもうれしく感じました。

また、ここである程度の方針が見えてきました。たとえば、ショートステイとデイサービスを利用している方がいた場合、その人の情報はサービスの種類毎に記録されるのが一般的です。同一人物なのに複数の情報が存在し、かつ分断されていました。このことでほかのサービスと連携したケアに結び付いていなかったんです。だから、まずはご利用者の記録を、1つのタイムラインで一覧できるようにしよう、点と点の情報を線にすることを骨子とすることなどが見えてきました。その結果、2014年7月に飯田さんから連絡をもらって、実際に開発に着手したのは翌年の2月からでしたね。7ヶ月間議論に費やしたことになります。(笑)」

 

日本全国で広めるには、1つの施設の意見だけではいけない。外の意見を取り入れ、よりよいシステム開発を目指すために愛川舜寿会馬場氏もプロジェクトメンバーに

開発が進んでいくにつれて、藤原氏は、『ケアコラボ』を日本全国の介護現場で利用してもらうことも視野に考え始める。そのために、ケアコラボのシステム開発と販売のため、ケアコラボ株式会社を設立し、テストユーザーを増やしながらさまざまな意見を聴いて開発をすすめていくことした。そして、そのテストに名乗りを上げたのが愛川舜寿会の馬場氏である。

「ケアコラボ社の藤原さんから開発に協力してくれないかと言われたとき、その内容を聞いてこれは日本の介護業界に必要なものだと理解し、すぐに協力を申し出ました。私は前職で外資系アパレル企業にいたのですが、業界内でも先進的なICTを導入したことで、バックオフィスと販売の現場が劇的に変わったのを経験していました。だからこの話を聞いたときに、このシステムはやり方次第ではものすごいイノベーションが起きるのではないかと期待を抱きました。」と馬場氏は当時を振り返る。

▲当時を振り返りながらの熱い議論。3者のケアコラボにかける熱意は本物だ。

2015年11月にスタートして、今では約15法人・30施設で利用されているケアコラボ。その開発及び導入において工夫した点とは?

開発においてどのような点を工夫しているのか。ユーザー側である飯田氏と馬場氏のご意見を聞いた。

「開発チームとは毎週ミーティングをし、実際のユーザーである介護スタッフとのミーティングは月に1回、スカイプなども駆使して実施しています。ミーティングで出てきた意見はみんなで議論し、やると決めたものは基本的には次のミーティングまでにシステムを改修しリリースします。現場スタッフにとっては自分が要望したことがケアコラボに反映されていくのですから、より良くするための意見を伝えようと当然、モチベーションも上がりますし、実際、うちの現場のメンバーからは、『この開発に携われてとても楽しい』と好評です。」と飯田氏。

「こちらからも率直な要望を出していきましたが、ケアコラボの良いところは言ったものをすべて作るということではないところ。みんなで議論し、本当に必要な機能だけをつくっていきます。使わない機能がたくさんできることは避け、本当に必要なものだけがあるシンプルなシステムにすることで「人」を中心にしたものになっていくと強く思っており、ケアコラボはこの私の思いを踏襲しています。特定の事業者の特定のニーズに特化したオーダーメイドのシステムではなく、全国の介護現場で使えるシステム、どこでも通用するシステムにしていくことを意識しています」と馬場氏。


▲開発では現場の職員の使いやすさを一番において開発した。ITに慣れていないユーザーも簡単に使える設計だ。

次に導入においてどのような点を工夫されたのか。

「システム導入することを現場の職員に伝えた際には、今までとやり方が変わるわけですから、色々と反対意見もありました。『導入するなら私は辞める』と伝えてきた職員もいたくらいで、結果的には誰もやめなかったんですけどね。(笑)

実際導入してみると、写真や動画を撮る機会が増えましたし、また看護師はケガや傷の経過をみるのに積極的に活用しています。若い世代のスタッフがベテランスタッフにスマホの使い方を教えているような風景も見られるようになり、新しいコミュニケーションも生まれています。今では60代のスタッフもフル活用していますよ。

そして、記録ごとに公開範囲も選べるので、ご利用者の家族もその人のスマホから介護記録を見ることができます。スタッフがご家族に読みやすいようにと、専門的な略語を使わないようになったり、言葉の表現も丁寧になりました。ご家族もタイムラインに記録ができるので、家族から励まされたり、アドバイスをもらえたり、よりよいケアの実現に幅が広がったほか、スタッフがケアされるということにも繋がっています。
その他、うちの施設ではメンバーと管理職とのコミュニケーションツールとしても活躍していて(このタイムラインには「いいね」の機能もあるのですが)、管理職から「いいね」をされると、メンバーもきちんと自分のことをみてくれているようで嬉しいと感じているようだし、その翌日には必ず管理職へお礼をしにいくスタッフもいるほど。

高齢者以外の障害・保育の施設もありますが、今では、すべての施設でケアコラボを導入しています。『人』に関する記録ですから、分野が異なっても特殊性はないですからね。保育では園児の日々の記録を写真でタイムラインにアップして親御さんが楽しみながら確認するなどの使われ方もしていて、高齢分野に関わらずすべての事業で活用できていますね。」と飯田氏。
「私もメンバーとのコミュニケーションに大いに活用しています。たとえば夜勤で大変な思いをした職員がいれば、そのタイムラインを出勤前には読んでおき、出勤後即座に『昨日は大変だったみたいで本当にお疲れ様。●●がいてくれて本当によかったよ。今日はゆっくり休んで。』等と声をかけています。更にケアコラボの利点は、業務効率向上に寄与しているところですね。
すべての記録をケアコラボにしますから、申し送りの時間が大幅に削減されました。事前に内容を確認しておき、質問がある場合にのみ質問します。これによって朝夕の申し送りの時間が15分から5分になりました。今では朝からすぐにマネジメント業務がスタートでき、夜勤で疲れているメンバーも、業務完了次第すぐに帰ることができていますね。
実際に導入した私から言えることは、ICTを活用するという意思決定が組織としてきちんと宣言され、導入するときには一気に進めることが重要であるということです。うちでは1カ月ですべてのご利用者の記録がケアコラボに移行しました。組織の中で一部の人だけが使っていても、それはコミュニケーションテクノロジーにはならないんですよ。」と実際の導入を指揮した馬場氏は言う。

 

▲実際の業務もケアコラボを中心に。これさえあればご利用者様の状況がひとめでわかる優れもの。

▲ご利用者様のご様子を撮影する現場の職員。ケアコラボのおかげで、ご利用者様のお写真が増えてご家族にも好評だそう。

 

ケアコラボがビッグデータに。スマホの活用が鍵。
キーマンが目論む、ケアコラボの未来―

ケアコラボは、より多くの方々に使われることではじめて社会の役に立つ。
「今後、より多くの人がケアコラボを使ってくれるようになれば、ビッグデータになります。そうなれば、そうした(匿名化された)データを用いてエビデンスのある政策提言ができるかもしれない。特別養護老人ホームを利用されている方は、こういう傾向があるとか、そういうことがデータとして社会に示せるようになります。また、法人単位でみれば、A施設とB施設のご利用者の状況の比較や、それに対応した最適な人事の判断が支援されるなどが期待されます。
そして、ケアコラボの導入はもちろん、さまざまなシステムを組み合わせて使うことで、介護現場の業務は劇的に改善される可能性を秘めています。その鍵が「スマホ」です。スケジュールや起案書、共有ファイルなどを管理する「グループウェア」と呼ばれるソフト、スマホのボタンを押して話すとグループ全体に無線機のように話すことができる「無線アプリ」、余暇やちょっとした空き時間にYouTubeを活用してご利用者のリクエストに応えることも簡単にできる。そうしたさまざまなアプリケーションとケアコラボがスマホによって統合されます。
ケアコラボのシステムがすべてクラウドで提供され、1ユーザー(職員)月額800円という料金形態であるのも、より多く介護事業所に気軽に利用してもらいたいから。スマホの導入も月額が基本なので、利用しやすい料金体系にしました。
ICTの活用で介護の現場が今より良くなることに確信をもっています。ケアコラボの導入をすすめていくことはもちろんですが、ICTの活用という視点をもって介護現場に提案していきたいと考えています。どんなときも「人」が中心であることは忘れずに。」

【文: 坂本 宗庸  写真: 坂本 宗庸 】

一番上に戻る