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2015.03.19 UP

過去の記憶にある目的地へ時空の旅をエスコート

きっと僕たちが認識してる世界とは、
まったく別の地図を持っているだけなんだ―

東京の高名な建築家の設計事務所で見習いとして働く恭平は、祖父危篤の知らせを受け、熊本に帰省し、認知症の曽祖母・トキヲと再会。彼女の瞳を見つめているとき、ふと、人間の視界は記憶によって描画されることを思い出し、記憶のない彼女の視界は漆黒なのではないかと考えます。それ以来、トキヲの言動が気になった恭平は、彼女がどこかに行きたがっているのではないかと思い始めます。そこで、祖父のワーゲンでトキヲを連れ出した恭平は、海を望む場所で彼女が「ヤマグチ」という言葉を口にするのを耳にします。それが、かつて住んでいた町だと知った彼は、認知症の人を目的地まで運んでいく「徘徊タクシー」という事業を思いつき……。

▲「徘徊タクシー」著者:坂口恭平/1978年熊本県生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築のあり方を考え直すため、日本の路上生活者の住居を収めた写真集を刊行した後、小説や絵などさまざまな表現方法を模索。本作で第27回三島由紀夫賞の候補になるなど、その活動は常に注目の的となっている。(C)新潮社

★★HELPMAN Point!★★

久しぶりに再会したトキヲの目を見て、彼女の見ている世界を想像する恭平。彼女がしっかりとした足取りでどこかに向かって歩きだすのを見たときも、恭平はそれが単なる“徘徊”ではなく、記憶に一番残っている場所に戻ろうとしているのだと捉えます。そして、認知症の人を安全に目的地へ連れていきたいという思いから、「徘徊タクシー」をスタート。事業内容を紹介するチラシで、「二十一世紀の福祉の鍵は『介護』ではなく『新しい知覚』です! 現実は一つだけでなく、人それぞれに違うのです。認知症は病気ではなく、新しい世界への入口なのかもしれません」と宣言します。

そもそも、「徘徊」とは目的もなくうろうろしている状態を指す言葉ですが、著者は認知症の人たちのそうした行動には実は理由や目的があり、そこに目を向けることが今後の突破口になると示唆しています。

たしかに“徘徊”を問題行動と考えると介護に不安がつきまといます。しかし、なぜそこに行こうとしているのか、相手の心の地図を想像してみることで、介護する人とされる人にもう一歩進んだ関係が生まれるのかもしれません。


★「徘徊タクシー」
価格:1300円+税

【著者】坂口恭平 【発売日】2014年7月31日 【ISBN】978-4-10-335951-7 【発行】新潮社

【文: 岡本のぞみ(verb)】

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