ヘルプマン
2014.03.24 UP
「なんて、居心地がいいんだろう」。中学生のとき、たまたまボランティアで訪れたデイサービスセンターで、“介護の空間”に惹かれた石動智子さん。それから迷わず一本道。「現場が大好き」という彼女にとって、この仕事は巡り合えた天職。2014年春からは、埼玉県の「介護の魅力PR隊」隊長として新たな活動にも参加、その笑顔とエネルギーはますます輝きを増しています。
介護の世界に導いてくれた、優しい時間
中学1年のとき、学校の隣に、ここ杏樹苑系列の施設ができたんです。それがデイサービスセンターだと聞いたものの、当時はまったく知識などありませんし、なんとなく「病院みたいなところ?」と思っていたんですね。そんな私がデイサービスセンターに出入りするようになったのは、同じころ、学内にできたボランティア委員会の活動を通じてのことでした。
驚いたのは、ご利用者の皆さんがすごく明るかったこと。初めて行ったとき、ちょうどパターゴルフのレクリエーションをされていたんですけど、まあ楽しそうで。正直、イメージとはずいぶん違いました。「よく来てくれたねー。若い子のエキスをもらうわ」なんて私の手を握りながら、最高の笑顔を見せてくださる。なんとも居心地のいい空間だったのです。
ちょうど転校したばかりで環境に馴染めず、ちょっと精神的に不安定な時期だったので、逆に私が癒やされたというか…。おじいちゃん、おばあちゃんの家に遊びに行くような感覚でした。思えば、これがきっかけ。「人の役に立つ!」という構えた気持ちじゃなく、ただ、この世界に流れる優しい時間が好きで、介護の仕事に就くと決めたのです。
「できない」ではなく
「できる」ことを見いだす
こちらの主観で、ご利用者さんの“限界”を定めないこと。一番大切にしていることです。たとえ寝たきりの方や、意思の疎通がしにくい方であっても、「できないから仕方がない」では、それまでになっちゃいますよね。できることは何か。日常の小さなことでいいんです。例えば、ちゃんとおいしいお茶をお出しすれば「いつもと違うね」と反応してくださるし、少し外に出て「暖かくなりましたね」と風を感じるだけで、ご利用者さんには刺激になるんです。日々の、そして個々の小さな“いい反応”を見つける機会を増やし、そこを伸ばしていくよう努めています。
そもそも、私たちが建前的な仕事をしていると、すぐに見抜かれてしまいます。特に、認知症の方などはとても敏感ですから。むしろ、私たちスタッフの表情や声のトーンから「大丈夫? 疲れていない?」と労ってくださることもあるんですよ。孫のように可愛がってくれるのが、うれしくて。そんなときは素直に甘えて、「よしよし」してもらうんです(笑)。そう、素直に普通に接していれば、必ず気持ちは伝わるし、いい関係が築けるのです。
小さな挑戦の積み重ねで、喜びを分かち合う
ご利用者さん、そしてご家族からも希望を募って、伊豆へ1泊旅行に出かけたことがありました。埼玉県から大型バスを借りて、一行30人くらいで。施設内では、衛生面への配慮からなかなかお出しできないナマものやお刺身を一緒に食べたり、温泉に入ったりと、皆さん本当に喜んでくださいました。環境が変わったせいなのか、普段、自力ではお箸が使えないと思っていた方が、ちゃんとご自分で食べているのを見ると、驚くと同時に喜びも。
道中、看護師さんの同行、車いすでの移動に問題はないかチェックするなど、万全の体制で臨むための準備は大変だったけれど、ご利用者さんの笑顔を見ると本当にやってよかったと思うんです。
昨年末は忘年会を企画して、お鍋やノンアルコールビールで大盛り上がり(笑)。私が担当しているユニットは、要介護度が平均4.5と高いのですが、私たちが当たり前にやっていることを、老人ホームにいるから「できない」と、環境のせいにするのって悲しいですよね。実際、挑戦してみたら「できた」ということはあるので、スタッフが制約してはいけないとつくづく思うのです。まずは、できることから変えていく―常に心にあることです。
純粋な介護の魅力を、
広く知ってもらうために
2014年2月、埼玉県福祉部の高齢介護課が主催する支援プロジェクト「介護の魅力PR隊」に任命され、しかも隊長に選出していただきました。隊員は18人、皆20代の若い人ばかりですが、「私に務まるだろうか」と、今はまだ緊張しているところです。これから、県内の大学や高校を訪問し、介護の仕事の魅力、やりがいを伝えていく活動に参加していきますが、気負わず、私らしくやっていこうと思っています。純粋に「この仕事が好き」ということを伝えて、かつての私のように、介護の世界に興味を持ってもらえればうれしいですね。
日々精一杯やっているつもりでも、「もっと何かできることがあるんじゃないか」と悩むことや、あるいは「今、こうしたい」という急なご要望に応えきれないもどかしさは、やはりあるものです。だからもっと、業界に人が増えるといいなぁって。そうすれば、各現場に余裕が生まれて、よりきめ細かな介護や支援ができるようになると思うのです。ご利用者さんの「長生きしててよかった」という言葉と笑顔を紡ぎ出すこと、それが私たちの喜びなのですから。「介護の魅力PR隊」の任命証を手に。写真左は、埼玉県福祉部高齢介護課・主幹の岩崎正史さん
【文: 内田丘子 写真: 飯島 裕】