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ヘルプマン

2013.11.13 UP

アイデア出し放題の現場で 楽しみながら成長してきました

実は一度、介護の仕事を離れて工場のラインで働いた経験があるという野中一臣さん。もくもくと作業をするうちに、あらためて人と接する仕事の楽しさに気付いたそうです。今ではアイデアをどんどん生かせる環境で、仕事を楽しんでいます。結婚、マイホーム購入、息子の誕生と、ワーク&ライフも充実な野中さんのキャリアに迫りました。

お年寄りが主人公として過ごせる
生活の場をつくる

「みずうみ」には2004年の立ち上げ時に新卒で参加しました。その後いったん個人的な事情で施設を離れましたが、2009年に復帰し、一から出直す気持ちで仕事に取り組み、翌年には主任に。2012年からは現場の責任者である介護部長のポジションを任されています。

みずうみが目指すのは、お年寄りが主人公として自分でああしたい、こうしたいと言える生活の場をつくること。そのためにご利用者と向き合い、いろんな工夫をし、ご利用者やご家族にどれだけ満足いただけたかが職員の評価にもつながるべきだと考えています。

もちろん人が相手の仕事ですから、明快な正解がない世界であることも確かです。

しかし、その中で考え続けて行動し、限りなくご利用者やご家族の望む生活に近づくよう努力していくことが、私の介護の仕事に向かう基本スタンスです。

想像し、試行錯誤する
クリエイティブな世界

1年目に担当したある90代のご利用者は、認知症が進み、夜になると人の部屋を片っ端から開けて回ったり、机の上に椅子を積み上げたり、非常階段から外に出て徘徊するなど問題行動がある方でした。

時々職員室の前を行ったり来たりして、「すいませんけど……」と訴えかける姿を見て、その不安な表情から漠然と「この人は自分の居場所がないのかもしれない」と想像しました。

問題行動の解決のヒントを見つけたくて、ご自宅までお邪魔し、過去の生活歴などを改めてお聞きしたところ、以前は染物屋さんを営んでおられて畳のある和の生活をされていたと伺いました。当時の道具をお借りして帰り、施設の部屋に畳を敷き、その方のための部屋をつくってみると、その後は少し落ち着いて過ごしていただけるようになりました。

認知症の場合、その方の生活歴や自宅の環境などをヒントに、自分とご利用者との関係性を築いていくことが大切です。

会話にならない場合もあるので、身ぶり手ぶり、声のトーン、あるいはそっと手を握って話しかけるなど、五感を使った非言語的なコミュニケーションも有効です。相手によってアプローチは千差万別。

だからこそクリエイティビティを発揮することができるし、手応えがあれば強烈な楽しさを実感することができます。

やりたい仕事を追求する間に
キャリアがついてきた

自分の場合、試行錯誤を繰り返し、少しずつ介護の引き出しが増えていくのがうれしくて、仕事を楽しんでいるうちに自然とキャリアがついてきたというのが正直なところです。

ケアプランについて詳しく学ぶためにケアマネジャーの資格を取得したり、ユニットで自分が実現したいアイデアを提案していくうちに「じゃあ、お前がやれ」ということでリーダーを任されたり。

介護部長になって一番変わったことは、日々の業務や1ヵ月先の計画を見ることから3年先を考えてどう動くかというふうに視野が広がったこと。部長就任後、組織をマネジメントする身として、施設全体のサービスの向上には何が足りないかを考えた時、「介護の原点に立ち戻ること」が大事だと気づきました。そこで今はこれをテーマに人の成長、組織の成長に取り組んでいこうと考えています。

例えば「座位」の大切さを見直すこともその一つ。座ることは生活の根本で、それがうまくできなくなると立ち上がれなくなったり、寝たきりや食べ物が気管内に入る誤嚥につながったりします。逆に言うと、姿勢一つ改善することで劇的に生活が変わる可能性もあるのです。

こうしたことをメンバーに伝え、施設全体で一つの方向に向かって取り組んでいく。言うのは簡単ですが、なかなか一朝一夕にはいきませんね。

介護は恋愛に似ている

人は恋愛をすると、相手に好きになってもらうために「あの人の好みは何だろう?」「どんな服が好きなんだろう?」「ふだんどんな生活をしてるんだろう?」と想像します。また、「どんなタイミングで声をかけたらよく思ってもらえるだろう?」と考えながら声をかけたりします。

相手がおじいさん、おばあさんでも、この人に認めてもらうために何ができるのだろうと考える点では、恋愛と似ていると思います。恋人として見る、家族として見る、人生の先輩として見る……介護は人間観でもあるので、ことあるごとに、若手職員にはそういった考えを伝えるようにしています。

「一緒にお風呂に入りましょう!」

ご利用者の中には、お風呂に入るのを拒絶される方もいらっしゃいます。考えてみれば、誰しも他人に服を脱がされるのは嫌ですし、恥ずかしいはずです。だからある時私は思いついて、自分の服を脱いでお風呂に誘ってみました。するとその方もご自分で服を脱がれ、一緒に楽しく入浴することができました。

また、施設の庭には畑もあって、リハビリのために野菜を育ててもらったりもしています。農作業で汗を流して手が泥だらけになれば、じゃあ、ひとっ風呂浴びて来ようというふうになって、入浴がスムーズになる場合もあります。

クリスマスを楽しんでもらうためなら
レストランだってつくっちゃえ

イベントごとは徹底して楽しんでほしいし、自分たちも楽しみたいので、みんなで真剣に演出のアイデアを出し合います。

例えば、去年のクリスマスには施設のホールを高級レストラン風に改装して副施設長はシェフの格好、職員も全員スーツを着てご利用者を迎えました。実際のレストランに来たように施設内だけの通貨をつくって、メニューも用意しました。ローストチキンやピザはその場で焼いて熱々をお出ししました。

もちろん食事で無理のないようにむせやすい方には特製スープを提供するなど配慮も怠りません。でも私たちの心配をよそに、そんな演出を加えることで、ふだんはそういった料理を口にしない方でも食べていただけたりするものです。

食べること=生きること

みずうみでは食べること=生きることだと考えています。
だから病院で胃ろうやチューブで栄養を摂っていたご利用者であっても、ここにいる間は何とかして食べる方法を探します。もちろん、食事の硬さや量、口に入れる角度などは気管を詰まらせたりすることのないように細心の注意を払って食べていただきます。

食事は一つの例ですが、サービス業の中でも、衣食住すべての生活を支える介護って、ありとあらゆることに挑戦できるすごい仕事だと思います。

一度職場を離れたから
見えて来たこと

ある時期、個人的な事情で人に関わるのがつらい時期があって施設を離れ、人となるべく会話をしなくて済む工場のラインの仕事に転職しました。でも、半年ほどして作業に慣れて来た頃、「待てよ、これって本当に自分がやりたかったことだっけ?」と改めて人と接することの大切さに気づき、牧之原の実家に舞い戻りました。

介護の世界に復帰し、デイサービスと特別養護老人ホームに勤めましたが、そこにあったのは旧態依然としたやり方。効率を優先するあまり、ご利用者をオムツを換える対象、ごはんを食べさせる対象として捉えていました。「介護は人を支える仕事のはずなのに、人として見ていなかったら僕らの仕事って何なのだろう?」という疑問が湧き、いつのまにかみずうみのことを思い出していました。

外の世界を知ったことで僕はみずうみで学んだ、介護の本質、お年寄りを恋人や尊敬の対象と考える人間観、そしてその人の生活の場を創ることの大切さに改めて気づきました。施設長も出戻りなら誰でも受け入れるという考えではありませんでしたが、お願いすると「君なら戻って来ると思っていた」とおっしゃっていただき、それから全力で求める介護の実現に取り組み始めました。

介護技術の習得にも励み、昨年行われた静岡県の介護技術コンテスト〜ケアコン2012〜では部門最優秀賞をいただくこともできました。

みかん畑や浜名湖
自然に囲まれた生活

妻とは以前の施設に勤めていた頃、牧之原市の介護事業所の連絡会で知り合いました。結婚をきっかけに家を買い、最近は早く子どもの顔が見たくて自宅に一直線ですが、子どもが生まれる前はマラソン、パラグライダー、マリンスポーツなど手当たり次第にやっていました。

休日ももっぱら子どもの相手。1歳になったら妻も職場復帰の予定なので、今のうちに3人でいられるかけがえのない時間をしっかり楽しんでおこうと思います。

三ヶ日はみかん畑があちこちにあり、自然が豊富なので、家族で近所を散歩するのが何よりの楽しみです。ただ時々は体を動かすために所属する野球部に顔を出して連敗記録を塗り替えたり、先日は見よう見まねでゴルフも始めました。大好きなものに囲まれて過ごせるのもこの地域だからこそだと思いますね。

10年後を想像すると
ちょっとワクワクします

10年後は44歳。10年前の自分より今の方が少しは成長しているので、やりたい介護にまた一歩近づいているといいなと思います。

まずは今の「介護の原点に戻る」「座位を大切にする」といった方針を職場の中で徹底し、お年寄りが主人公の生活の場を実現したい。組織長として目的達成のため日々の行動を実践し、少しずつ自分も組織も成長していきたい。そのためには仲間にそれを伝え、きちんと腹に落としてもらう必要があるし、自分なりの答え、マネジメントを見つけないといけないと思っています。

自分の場合は数打ちゃ当たるで、いろんなアイデアを上にぶつけてはどんどん採用してもらって成長してきたので、10年後には周りからそういう提案がどんどん生まれてくる状況を作りたい。それを想像すると、なんかワクワクしますね。

【文: 高山 淳 写真: 飯島 裕】

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