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ヘルプマン

2014.02.17 UP

お客さまを外に連れ出した1枚の絵 原子流アートセラピーを探求中

「昔から絵を描くことが大好きでした」という原子さん。美大でイラストレーションを学んだ後、介護業界に飛び込みました。ある日、部屋に閉じこもりがちなお客さまに頼まれて桜の絵を描いたところ、その方は、「外に出てみようかな」と一言。以来、外出を楽しむようになった姿を見て、「介護は絵を生かせる仕事だと実感しました」と話します。

絵を生きがいとして捉えてくれた高齢者

大学時代にボランティア活動で絵を教えたとき、熱心だったのは高齢者の方たちでした。皆さんは、絵を生きがいのひとつとして捉えてくださったんですね。

就職活動では制作会社も受けましたが、思い出すのはこのときの経験。
「会社の要望に合わせて絵を描くより、高齢者の方に絵を広める仕事のほうが魅力も将来性も感じる」と、介護の世界で絵を生かすことを決めました。

会社研究をしていたときに目に留まったのが、たくさんのアクティビティの様子が紹介された「ニチイケアパレス」のホームページ。「この会社なら、『仕事に絵を生かしたい』という私のことも受け入れてくれるのでは」。そう思ったのが、入社のきっかけです。

介護とは、小さな発見の積み重ね

介護というと、食事やお風呂などの生活介助のイメージが強いかもしれません。
でも、実はそれらは3割程度で、7割はお客さまとのコミュニケーション。「今日は食事の量が少ないかな」と思っていたら翌日緊急受診ということもありますから、日々のわずかな違いに気付けることが大切です。

お客さまごとに状態もケアのポイントも異なるため、ケアしていくのは容易なことではありませんが、その違いこそが個性でもあります。一人ひとりに目と耳を傾けて、「普段笑わない方だけど、こういうときは笑顔になってくださるんだ」と、気付けた瞬間がうれしいです。

例えば、ある認知症のお客さま。人気アイドルがテレビに出ていたときに「彼、格好いいですよね」と声をかけたところ、「私も昔、好きだったのよ〜」と、アイドル話で盛り上がり、うれしくなりました。介護とはこうした発見の積み重ねなのだと、最近は思っています。

桜の絵が引き出してくれた
「外に出てみたい」という言葉

入社当初は仕事を覚えるだけで精一杯。介護に絵をどう生かせばいいのか考える余裕もなく5カ月ほど過ぎたころ、ホーム長に運動会のポスターを頼まれました。
お客さまの笑顔をモチーフにした絵が自分でも意外なほど好評で、以降、毎月1枚絵を描いて掲示するように。

すると、入居以来外出もされず、ふさぎがちだったあるお客さまが、「あなたの絵を見ていると、自分も笑顔になりたいと思えるの」と、私の絵を部屋に飾ってくださるようになったのです。
しかも、「絵のおかげで毎日楽しく過ごせるわ」と、絵に向かって手まで合わせてくださいます。

また、やはり部屋に閉じこもりがちだった別のお客さまは、「桜が見たいな」と私に桜の絵を依頼されました。その絵を部屋に飾って眺めてくださっているうちに、「やっぱり、外に出てみようかな」。お花見レクリエーションに参加するため、約2年ぶりに外出をしてくださったのです。

今ではお2人とも、「こんなことやあんなことをしてみたい」と自分からおっしゃって、外出やレクリエーションを楽しんでくださるようになりました。

夢は、絵を通して多くのお客さまに
生きがいを見いだしていただくこと

私の絵をきっかけに外出してくださったのは本当にありがたく、介護における絵の可能性を信じることができました。
とはいえ、まだまだ発展途上段階。絵に触れることで、お客さまが日々をイキイキと過ごしてくださるようなレクリエーションやケアの方法を考えていきたいです。

私の1枚の絵のように、例えば1曲の歌がお客さまを外へと連れ出してくれることもあると思います。そういう意味で、介護は趣味や特技を生かせる仕事ではないでしょうか。

もちろん、自分自身の創作活動も続けています。勤務時間がきちんと決まっているので、作品制作の時間も確保できています。だから、やりたいことと両立できるということも伝えたいですね
いつか、私の作品展にお客さまをご案内することが夢です。

【文: 中西香織 写真: 中村泰介】

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