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ヘルプマン

2019.12.11 UP

“チャラ男”キャラで人気沸騰中のお笑い芸人りんたろー。さん。介護の悩みを抱える人たちに笑いとエールを

ネオ渋谷系漫才と称される新たなスタイルで、“チャラ男”キャラの個性的なしゃべくり漫談を繰り広げるお笑いコンビ「EXIT」。結成2年目ながら、テレビや劇場を席巻し快進撃を続ける注目の若手二人組だ。そのツッコミ担当のりんたろー。さん(本名:中島臨太朗さん)は、23歳のときから8年もの間、「芸人」と「介護」という二足のわらじを履き続けた。
“チャラ男”と介護。振れ幅が大きい二つが交わることで、笑顔をもたらす化学反応が生まれるのではないかとの思惑があったという。昔からおばあちゃん子だったことから介護に関心を持ち、「経験したどのアルバイトよりも介護の仕事が自分に合っていた」と話すりんたろー。さん。介護の仕事を通じて感じたことや思いを伺ってみた。

 

ピン芸人として腐っていた自分を
助けてくれた仲間と相方

「EXIT」は、りんたろー。さんとボケ担当の兼近大樹さんによって2017年12月に結成された。以来、東京・渋谷の「ヨシモト∞ホール」を中心に活動し、“ネオ渋谷系漫才”と称されるように。翌2018年7月のテレビ番組で「いまのバラエティで売れそうな若手芸人」部門で第1位に選ばれたことで注目を集め、バラエティ番組の出演が急増、ブレイクを果たした。

結成前は、現在とは別の相方とコンビを組んでいた。しかし2016年にコンビが解散。ピン芸人としての道を歩み始める。道半ばでの突然の解散に、「ピン芸人をやりながらも、がんばる対象や意義が見いだせなくなり、『何の意味もない』という思いにとらわれ、こんなんじゃ絶対に売れないって腐っていました」とりんたろー。さんは当時を振り返る。

そんなとき、りんたろーさん。のステージを見て「チャラ男二人で『M-1』かき回しましょう!」と威勢よく声を掛けてきたのが兼近さんだった。
「当時の腐っていた自分に、同期の仲間が『アクションを起こし続けていれば、何かにつながるから、どんなことがあっても舞台に立ち続けた方がいい』って言ってくれて。その言葉を信じて活動を続けていたところに、兼近が声を掛けてくれたんです。そしてネタ合わせをした瞬間、『売れる!』って思えたんですよ。いまの『EXIT』があるのは、その同期と兼近のおかげ。自分一人ではどうしようもなかったけど、兼近と組んで芸風が完成し、信頼関係が築けたことがすごく大きかったと思っています」

▲「EXIT」はボケ役の兼近大樹さん(右)とツッコミ役のりんたろー。さん(左)による“チャラ男”コンビという新しい領域を開拓し、若者を中心に人気を集めている(写真提供:吉本興業株式会社)

 

プロサッカー選手をケガで断念、芸人の道へ。
生活のために始めた介護のアルバイト

静岡県浜松市出身のりんたろー。さんは、小学2年生のころからサッカーを始め、大学時代は、ゴールキーパーとして活躍。幼いころからプロサッカー選手を目指していたが、大学4年のときに臨んだプロテストでケガをしてしまう。
サッカーは断念するしかなかった。しかし、就職という選択肢は浮かばず、そこで目指したのが以前より興味があった芸人だった。
その後、上京してNSCに入校。芸人を志し、新たな道を歩み始めるも、すぐに食べていけるほど甘くはない世界。当時は芸人の傍ら、生活のために飲食店やパチンコ店など、多くのアルバイトに精を出していた。介護の仕事と出合ったのも、このころである。
「住んでいたところの近くにデイサービスが新設されて、オープンメンバーを募集していたんです。しっかりした志があったわけじゃなくて、元々、自分のおばあちゃんが大好きだったし、お年寄りと接していればほっこりできるかなと思い介護のアルバイトを選びました。それに、振れ幅の大きい介護と“チャラ男”が一緒になったら、面白い化学反応が生まれるんじゃないかといった期待もあって(笑)」

▲介護と“チャラ男”が一緒になったら化学反応が起こせるかもしれない。同時に、“ネタにつながりそうなエピソードが生まれるんじゃないかとの期待もあったという

 

「がんばってね」「いつもありがとう」の言葉が
切羽詰まっていた芸人生活から自分を解放してくれた

介護の仕事は決められたことをやるだけでなく、話し相手になったり、レクリエーションを考えて実行したりと、毎日が変化に富んでいて自分にはとても合っていたという。

日常を共に過ごし、毎日のように車いすを押して散歩に出掛け、道々で季節の変化を感じる。「春は花見に行ったり、水筒に入れる飲み物が夏は冷たいスポーツドリンクで、秋には温かいお茶になったり。そんなことで季節を感じるアルバイトって、他にないですよね」
そして、施設で利用者とゆっくり会話しながら時間を過ごすことに、ほっこりできた。
「その時間だけは、売れなくて切羽詰まっている芸人の生活から解放されるんです。利用者から『芸人やってるのね。がんばってね』とか『いつもありがとうね』とか言われると、それだけでうれしくなります」

「当初は入浴や排泄介助が自分にできるのかな、と不安もあったんですけど、実際やってみたら全然平気でした! 夜勤で、5分置きに起こされてトイレの介助や徘徊のケアをしたこともありましたね。そのときは大変というよりも、大して水分をとり続けているわけではないのに、どうしてこんなに出るんだろ、なんてことをずっと思ってました(笑)」

▲「与えられたことをやるだけのバイトの方が、自分で考えて対応する介護施設よりよっぽどしんどかった」と話す

 

伝わらない思い。
そんな状況も得意のツッコミと笑いで解決

介護の仕事に限らず、仕事をする上では、もちろんうれしいことや楽しいことばかりではない。仕事を始めた当初は、自分の介助が相手にうまく受け入れてもらえず、難しさやもどかしさを感じたこともあった。
「薬を飲んでもらおうと渡すと、投げ飛ばされてしまったり、手を払われたり、水をこぼされたり。薬を飲まなければ体調が悪くなってしまうから、飲んでもらいたくてこうしてケアをしているのに、どうしてその思いを分かってくれないんだろう。相手を思い真剣にやっているのに、それが伝わらないということが一番つらかったですね」
利用者の中には認知症を患っていたり、介護度によっては意思疎通が困難なケースもある。頭では分かっていても届かない思いに悩み、コミュニケーションの難しさを痛感したという。

そういった局面に正対しながらも、りんたろー。さんは自分なりの解決方法を導き出していった。相手を受け入れて、理解する。思うように受け止めてもらえないのは、認知症や病気の症状のせいであって、それも彼らの個性であると。身の回りで出会う“人”とのコミュニケーションと同じで、全てのコミュニケーションギャップを「真っ向から受け止めたら、自分自身が食らってしまう」。真摯に取り組みながらも、 “受け流す”術も自分には必要だった。そして、そんな状況もお笑いに結び付けることで気持ちが軽くなった。
「利用者に『さっき飯食ったやん!』『いや、それさっきも言ったやん!』ってつっこむんです(笑)。すると、その場が和んだりして」

そうはいうものの、りんたろー。さんは「そんな自分の考えなんて生ぬるいと批判されることも予想できる」と言う。受け流せるレベルの仕事しかしていないと言われればそれまでだという自覚も、きちんと持っている。


▲家族の介護に悩んでいる人から、Twitterによくリプライが届く。「溜め込みすぎて、中にはパンク寸前の人も。だから、できるだけ返信して励ますようにしています」

 

人の温もりが感じられる仕事。
それを知っているからこそ、いま力になりたいこと

介護のアルバイトは、8年間続いた。あくまでも芸人としての活動が主であったが、夜勤も含めて12時間働いたり、多いときで週6日働いたりした時期も。長続きできたのは、オープニングスタッフの連帯感も手伝って、芸人という本職を持つりんたろー。さんに対して他のスタッフが協力的だったことも大きかったという。
「芸人は急に仕事が入ることが多いんですが、そんなときは『代わるから行ってきなよ』と言ってもらえて。周囲の人に助けられましたね」

「介護の仕事は、いいことと嫌なことが交互にあって、感情を揺さぶられまくる仕事だって思います。そして、最期に立ち会うとき、この施設で過ごした時間が楽しかったと思ってもらえれば、もうそれだけでいいっていう思いがあるんです。人間くさい仕事ですよね」

そして、介護の仕事だからこそ感じられた魅力があったという。
“人の温もりが感じられる”仕事であること。例えば入浴介助などで、肌と肌が触れ合うことで感じる温もり。直接に触れなくとも、交わす言葉から感じられる温もり。日々のコミュニケーションや介助の一つひとつにおいて、常に近い位置で人に寄り添う仕事だからこそ感じられた。こんなに近くで、多くの人の温もりを感じられる仕事は他にはないと。

▲一緒に働くスタッフにとても恵まれたという。周囲の理解があったからこそ8年もの長い間、芸人との二足のわらじ生活を続けることができた

 

印象的なエピソードがある。トシオさんという利用者と散歩していたときのこと。書店の前を通りかかると、「本を買いたい」と言って入店した。手にとったのは、『ボケないための8つの秘訣』が書かれた本。りんたろー。さんが何でこの本を選んだのかと尋ねると、トシオさんは「女房の言っていることが分からなくなるのが嫌だから」と答えた。この歳になっても、そういう夫婦関係でいられるのは幸せなこと――。しかし、実はトシオさんがその本を買うのは4回目。
「ボケないため、って、ちょっと間に合わないかもしれないな、と(笑)。秘訣は32個になっちゃったと笑いました」

 

*********

売れっ子になってしまった現在は難しいことだと思えるが、もしチャンスがあればまた介護の仕事をしてみたいか、尋ねてみた。すると、次のような答えが返ってきた。
「その気持ちはあるけれど、いまこうなったからこそできることもあると思うんです。例えば、僕の介護に関するツイートに反応して介護の悩みを相談してくる方に励ましのリプライを返したり、こうした取材を受けたり、イベントで話したりして多くの方に発信できる。そういったことを通じて、皆さんの力になれたら、って思っています」
「EXIT」というコンビ名は、つらさやストレスを感じている人の“出口”になれるようなお笑いをやりたいとの思いで命名したことを、付け加えておく。

(写真提供:吉本興業株式会社)

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【文: 髙橋光二 写真: 阪巻正志】

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