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ヘルプマン

2013.09.29 UP

サービスを起点に、日本を変える。 介護は「究極のサービス業」だ!

スタートから10年で社員数8,879名の企業に成長し、有料老人ホームの運営数でトップになったベネッセスタイルケア。新会社を立ち上げるとき、社長の小林仁さんは「介護を狭い意味の福祉ではなく、お客さまが評価するサービス業に変えていく」と決意したそうです。「よく生きる」を掲げるベネッセが考えるケアサービスとは、どのようなものなのでしょうか?  (※この記事は2012年以前のもので、個人の所属・仕事内容などは現在と異なる場合があります)

揺るがなかった創業の志

ベネッセの介護事業の原点は、福武總一郎(現ベネッセホールディングス取締役会長)の個人的な経験でした。福武は祖母が亡くなる1年前から介護ヘルパーを依頼、しかし、祖母はなかなか家を訪ねるヘルパーとの信頼関係を結べず、3人目でようやく安心して余生を送ることができました。

これを見ていた福武は「戦後何もない時代から今日この国の基礎を作ってくださった人々が人生の最後で我慢を強いられていいのか」「最後の最後まで自分らしく尊厳を持って生きられるようにしたい」と起業を決意。

しかし、取締役会でこの話があった時は、「まったく未経験の分野」「始めたら撤退できない仕事」「想いだけではビジネスはできない」といった意見が噴出、会長以外は全員反対でした。しかし、最終的には会長の「これはどうしてもやらなければならない仕事」との必死の想いに導かれ、全員が覚悟を決めたのです。

介護は「究極のサービス業」

スターティングメンバーの1人に自分が選ばれた時は、正直複雑な気持ちでした。社会的な意義とビジネスとして成功するかは別物ですから。

しかし、現場を見て回り直感したのは、介護は「究極のサービス業」だということ。モノの販売や特定のサービスの提供とは根本的に異なり、介護は24時間365日の生活そのものをお手伝いします。私はこのビジネスを狭い意味の福祉ではなく「サービス業としてお客様が評価するもの」にしていかないといけないと決意しました。

ベネッセでは「ケアプラン」をあえて「生活プラン」と言い換えていますが、これもその姿勢の表れのひとつ。過去の「生活歴」や「入居のきっかけ」を詳細に伺い、お客様の人生の道筋を知った上で、個々のお客様のQOL(生活の質)を高めるための対策を考える。

介護とは、例えば金融で言うところのプライベートバンカーにも匹敵し、コンサルタント+αの資質を必要とする高度な仕事です。

世代間、地域との交流拠点として

私たちは創業から10年で売上589億円、社員数8879名の企業に成長しました。当面の目標は入居者1万人ですが、達成は目前に迫っています。数にこだわるのは、お客様が今の介護の状況をどうお考えになっているか、サービスに何を期待しているのか、といった声を国や地方行政に届けていくためには、一定の規模がないと説得力を持たないためです。

一方で運営についての新たな試みも始めています。例えば2008年には練馬区にベネッセ初の介護と保育の複合施設として「くらら大泉学園」と「ベネッセチャイルドケアセンター大泉学園」をオープン。

1階が保育園と地域との交流スペース、2階以上が老人ホームになっており、囲碁好きのおじいちゃんが小学生と囲碁を楽しんだり、その街の名人と勝負できたりすることで世代間、地域との交流が生まれ、今後は外部とシームレスに繋がるコミュニティへの発展をめざしています。

オペレーションからクリエイティブワークへ

介護が「究極のサービス業」だと断言する以上、提供者となる社員のモチベーションは何よりも重要です。若手社員たちは、「よく生きる」ための介護という理想に燃えて、より柔軟な、入居者に寄り添ったサービスを志向します。

しかし以前の現場は、ともすればオペレーション中心の仕事に流れがちでした。そんな現実とのギャップに我々は大きな危機感を感じ、2007年に業務の再構築に踏み切りました。人事制度の改定とともに「活性化推進部」を立ち上げ、社員同士が成果を共有し、刺激しあう環境作りを進めました。

スタッフ同士が気持ちを共有するSNSを立ち上げる者、施設のイベントとして天然酵母を使ったパン作り教室を始める者、得意の音楽療法で大正琴を使ったリハビリを企画する者…、次々と新しくクリエイティブな試みが、各地の現場から誕生していきました。

介護士の先の多様な選択肢を用意

ベネッセスタイルケアでは介護と生活支援を担当するサービススタッフとして、新卒のみなさんを採用。入社後は、個々のキャリアプランに応じて、サービスリーダーやホーム長、人事、教育・研修 、営業(お客様相談窓口)などへの道を選択できるようになっています。

もちろん、「ずっと介護の現場にいたい」という志向の人はそこでスキルを磨いてもいいですし、営業部門など他部門を希望する場合は、努力次第でキャリアのチェンジが可能です。

また、ケアマネジャーや介護福祉士などの資格取得支援制度も設けています。実際にサービススタッフからホーム長など、マネジメント側に進むケースもかなり増えています。

サービスを起点に、日本を変えていく

次代を見据えたプロの育成も当社の重要なテーマ。2009年春から愛媛女子短期大学と提携し、2年間の介護コースを新設しました。現場のスタッフをできるだけ派遣することで、学生の介護の仕事の本質的意義に対する理解を深めてもらったり、現場での介護技術の実習を行ったりして教育機関との連携を深めています。

内定者の4割はこうした福祉関係の出身ですが、残りの6割は法学部、経済学部、文学部など介護・福祉とは無関係の学部の人たち。

「よく生きるため」という介護の本質的な意義に共感いただいた方がいる一方で、日本の現状に閉塞感を感じ、少子高齢化問題や待機児童の問題、人材の行き詰まり感などの構造的な問題に対して、「サービスを起点に日本を変えていきたい」という志を持つ応募者も増えています。そんな流れがあちこちで生まれれば、やがて業界を変えていく巨大なうねりになっていくはずです。

現場にすべての答えがある

今後この業界を支えていくのはコミュニティや人を意識し、人間への洞察力を持った人はもちろん、日本の構造問題など大きな課題に対する革新意欲を持った人。その両方を兼ね備えた人が理想ですが、いずれにしても、まず現場で力を発揮できる人でなければ難しい。

私の理想は、現場を知り抜いた職員が、いつか社長になること。この仕事は現場を知らない人が経営をやっても決してうまくいきません。お客様の満足度や入居率を上げることは、現場の人間の働きがいを高めたり、働きやすい職場をつくることとほぼ同義語です。

だから、この会社のトップは、介護の仕事の本質的な価値は何なのかということと常に正面から向き合わなければいけない。そしてそれを一番知っているのは現場の人たちなのです。

アクティブ層を睨んだ
「トータルシニアリビング」

次の3年に向けて構想しているのは、介護以前の段階の人たちへのアプローチ。新しいホームをつくると初回問い合わせの6割は、実はまだ介護の必要のないお元気な方からだったりします。

地域コミュニティが崩壊する中、将来的な不安や一人住まいの不安を抱えている方に、そうした不安を払拭でき、元気に自分らしくふるまえる、居心地の良いコミュニティを用意する。万が一、介護が必要になった時には介護対応可能なホームをご紹介するなど、お客様がどんな状態になっても対応できる「トータルシニアリビング」というコンセプトを確立していきたいと思います。

生活インフラを支え、変えていく誇り

「何のために働くのか」「世の中とどうかかわっていくのか」は、私自身50歳になっても追い続けているテーマです。みなさんも社会に出るまでに一度、立ち止まってこのことを考えてみてください。

介護サービスは人との接点が無数にあり、お客様に教えてもらいながら成長できる機会が毎日ある世界。決して狭い意味で介護を捉えて欲しくないし、実際に挑戦していただく価値のある仕事です。

大きな視点で見れば、これからの日本をどの方向に向けて舵を切るかのベースにあるのが、介護や保育などの生活インフラです。

人が生きていく上での幸福感や生きがいを形作っていく大きな要素が介護だと思いますし、そんな日本の大切な部分を支え、変えていくという高い志を持って挑戦してほしいですね。

【文: 高山 淳 写真: 山田 彰一】

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