介護業界を目指す方へ
2023.09.11 UP
美容師として働く元介護士の山田さん。「私の心の中が見えるのか、気持ちを汲み取ってくれて本当に嬉しかった!」というお客様の声は、介護業界で働いていた時に身についた「察する力」があったからこそ
介護・福祉の仕事を通じて得られる力を言語化する企画(https://helpmanjapan.com/article/12796)。本記事では、元福祉・介護職の方にインタビューし、介護・福祉の仕事で得たスキル・能力を現在の仕事でどう活かしているかをお伺いし、介護・福祉業界で得られる力の共通点を見つけます。第三回目のインタビューでは、介護福祉士の資格を学ぶ中で、福祉美容に興味を持ち美容師の資格を取得。介護の仕事を約10年間続けた後、現在は美容師として働く山田梓さんにお話を伺いました。
●山田さんのキャリア年表
●目次
・介護士だった山田さんが美容師として働いている経緯
・約10年の介護士経験で身についたスキルや能力
・介護以外の仕事を経験したからこそわかる、介護の仕事の魅力
福祉美容師を目指し、介護福祉士と美容師の資格を取得した山田さん。介護業界で身に着けた「多様な世代とのコミュニケーション力」「周りを見る力」「察する力」を活かし、お客様からも喜ばれる存在に。
――現在美容師としてご活躍ですが、そもそも介護の仕事を始めようと思ったきっかけを教えてください。
福祉に興味を持ったのは、小学生5年生くらいの頃に聴覚障害を持つ友達がいたことです。何か手助けがしたいという想いというよりも、その子と話ができるようになりたいと思って調べたところ、手話通訳士という資格を知り勉強をしました。
その後、介護福祉士になろうと思ったのは高校生の時です。介護福祉士という資格があることを知り、「この仕事がしたい」と思ったこと、今後さらにニーズがある仕事に就いた方が良いと思ったこと、母にも勧められたことから、介護業界に飛び込みました。
――親御さんも後押ししてくださったんですね。介護の仕事はいつから始めたんですか?
専門学校の時に、在宅訪問介護のアルバイトをするところから始めました。資格が必要なサービスではありますが、高校三年生のときにホームヘルパー2級(現:介護職員初任者研修)を授業で取得できていたので、働くことができました。
訪問介護を選んだ理由としては「ちょっと待ってね」って言いたくなかったからです。特別養護老人ホームを見学したときに、職員数が限られていることもあり、時間帯によってはどうしても利用者さんを待たせてしまうことがあったんです。それがすごく嫌で訪問介護をやっていました。訪問介護であればケアの時間は1対1で対応できるじゃないですか。一人の利用者さんにだけ時間を使えるというのが魅力的でしたね。
――訪問介護のアルバイトがはじめての介護の仕事だったんですね。「福祉美容師」に興味を持った理由も教えてください!
訪問入浴の実習で出会った女性がきっかけです。意思疎通ができず重度の要介護の方で、ご家族が自宅で介護をしていました。そのご家族が女性の髪の毛を坊主にしていたのを見てすごいショックを受けたんです。
そこで、色々と調べたていたら『福祉美容師』という職業がある事を知り、要介護の方たちの髪を切れたら素敵だなと思い目指してみようと考えました。福祉美容師には美容師の資格が必要だとわかり、介護福祉士の資格取得後、3年間の通信教育を経て美容師の資格を取得しました。
――美容師の資格を取得した後に、介護の仕事をされたのはどうしてですか?どれくらいの期間、働いていましたか。
アルバイトとして働いていた訪問介護の仕事が楽しかったこともあり、就職先も介護の仕事にしました。当時は、美容師の資格も取れたし、入職して介護の仕事が自分に合わなかったら辞めたとしてもいいか、という軽い気持ちでしたね。ただ実際働いてみて、働きやすい環境だったこともありますし、すごく楽しくて長く続けられましたね。
最初の就職先はデイサービスやグループホーム、特別養護老人ホーム、ショートステイがある複合施設でした。知人に就職先の相談をしたところ、組織で働くことで介護のスキルだけではなく、社会的なスキルも学べるから、大きい法人に入職した方が将来のためになると助言をもらったことがきっかけです。
その法人のショートステイで2年程度働いた後、今度は特別養護老人ホーム、老人保健施設やデイサービス、グループホームなどの高齢分野だけでなく、障害分野も運営している法人に転職しました。その特別養護老人ホームで3年ちょっと働いていました。アルバイトの期間を含めると、合計10年程度、介護の業界で働きましたね。
――それから美容師になろうと思った理由を教えてください!
介護の仕事がどんどんと楽しくなっていたのですが、ちょうど結婚したタイミングで、夫の住まい先の地域に引っ越しをすることとなりました。その時に主人から「美容師はやらなくていいの?」と聞かれたんです。学生時代の夢を思い出させてもらい、応援してもらえたことで、ちょうどいい機会と思い切って転職しました。現在美容師として3年目を迎えたばかりです。
――介護の仕事が楽しかったものの、もともとやりたかった美容師の仕事をやりたいと、パートナーの方が思い出させてくれたんですね。介護の仕事を続けられた理由はありますか?
人と関わるのが好きだから介護の仕事が向いていたのかもしれません。人に対して好奇心旺盛なんですよ!
というのも、兄弟が多く人に囲まれている生活をしていたことが理由の一つにあると思います。また、自分のおじいちゃんやおばあちゃんが近くに住んでいたので、お年寄りと接することが日常だったこともありますね。人のために何かしたいというよりも、人と関われるという点で介護の仕事が楽しかったですね。
――介護の仕事を長く続ける中で身についたスキルについて教えてください!
利用者さんだけでなく、ご家族の支援にも関われたことで、年齢問わず多様な人と接するためのコミュニケーション能力がついたと思います。「夜間の様子はこうだった」「今日はこういうことができた」など、ご家族からお聞きする機会が多くあったのですが、すごく楽しかったですね。
当時は「最期だからこうしてあげたい」という家族の想いに、可能な限り寄り添っていました。「これを着させてあげたい」「この飲み物が好きだったから、唇を湿らす程度だけど飲ませてあげたい」「この食べ物が好きだったから食べさせてあげたい。でも食べられないから匂いだけでも嗅がせてあげたい」など、様々なご家族の想いを実現するため、一緒に取り組んでいました。
お亡くなりになった時には家族の方からお礼を言ってもらえて、やっていたことは間違ってなかったんだなと感じていました。このように、利用者さんだけでなく、ご家族とも繊細な想いに寄り添いながら深く関わることで、人とコミュニケーションをする上での大切なことも学べた気がします。
▲介護現場で働いていた時の山田さん(真ん中)
――コミュニケーションに関して、美容師の仕事で活かせている点はありますか?
1つ目に、ご高齢のお客様を接客する際に活かせています。例えば杖をつくご高齢の方が来られた時、段差につまずいたりされないように、自然と体が動いてサポートできていますね。また、年齢差があると会話が成り立たない、何を話せばいいかわからないと悩まれる方もいらっしゃると思うのですが、会話も弾んでいます。
2つ目に、多様な世代のお客様とのちょうどいい距離感をつかむことに役立っています。知り合いには話せないような内容もちょうどいい距離感・信頼関係を築くことで気兼ねなくお話いただけます。人との距離感のとり方やつかみ方の感覚は介護の仕事で培ったと思います。
――距離感はどのように見極めているんですか?
少し話をしてみての反応やお洋服の雰囲気、メイク、髪型の好きな傾向から把握することがありますね。あとは、こちらから話しかけた時に壁を感じるような時は、時間をかけて相手の方を把握しています。
介護の仕事を通じて、ある程度接する上で相手の方の反応パターンを身に着けることができている気がします。
――介護の仕事を通じて、人と接する上で必要な力を身に付けられたんですね。そのほかにはどんな力が身についたと思いますか?
美容室で働く仲間からは「周りがよく見えている」と褒められますね。例えば、ほかのスタイリストが接客をしている時に「次はこれが必要だろうな」と察して対応することができています。介護の仕事を通じて、人の動きをよく見られるようになったと思いますね。
利用者さんに対しても「今座っているけど、いきなり立ち上がって転んじゃったらどうしよう。じゃあ立ちやすいように杖をこっちに置いとこう」と察して、前もって対応することができていました。このような「周りを見る力」は常に利用者さんの様子を把握しながら、チームで働く介護業界だからこそ、身につけることができたんだと思います。
▲介護現場で働いていた時の山田さん(左)
――「周りを見て察することができること」は、どの仕事においても大切な力ですね。お客様から頂いた言葉で印象に残っている言葉はありますか?
ストレートモデルでいらした方がいたんですが、毛先のブリーチ部分が随分傷んでいたのでさらなるダメージを負わせてしまう可能性が高いとカウンセリングをしました。「切ってもいい」と仰っていましたが毛先のブリーチ部分を気に入っている様子だったので、できる限り薬剤を弱くして毛先を切ることなく施術をさせていただきました。すると後日「ホントはブリーチ部分はカットもしたくなかったのに、私の心の中が見えるのか、勿体ないと言って頑張って全体のストレートをして下さり、本当に嬉しい限りです!」という口コミをいただきましたね。
――介護の仕事を通じて、相手の方のお気持ちを汲み取る力を得ることができていらっしゃるんですね。訪問美容についても考えていらっしゃったりするんですか?
最近カットの練習をするようになったこともあり、まだまだ先の話ではあるのですが、将来的に取り組みたいと思っています。
今、福祉美容は白髪染めとカットとパーマが主流で、、みんな同じ髪型になってしまいがちなんです。今の60代、70代の方たちがご高齢になって福祉美容を必要とした時に、おしゃれな方も増えてきていますし、そのメニューだけではだめだと思っています。それに、綺麗でいたいっていう想いはいくつになっても一緒だと思うんです。福祉美容にバリエーションができることで、歳を取ることがネガティブに捉えられ過ぎずに、楽しむことができたらいいなと思っています。
――これから介護の仕事を目指す方に向けて、介護以外の仕事を経験したからこそわかる、介護の仕事の魅力を教えてください!
美容師の仕事も介護の仕事もどちらも素敵な仕事だと思っています。それぞれの違いとしては、美容師は結果がすぐ見える「その人らしい魅力」を引き出す仕事だと思っています。一方で、介護は長期的な目線で「その人がその人らしく生きること」を考え支える仕事だと捉えています。少しでも食べていただくために「これだったら美味しいって言ってもらえるかな」と工夫したり、お風呂を嫌がってた利用者さんに何とか入浴していただいて「やっぱ入って良かったわ」と言っていただいたり、そういうちっちゃい積み重ねに達成感があります。人生レベルで長期的な視点で関われて、しかもあんなに感謝される仕事はなかなかないのではと思いますし、深い喜びを得られる仕事だなと思います。
▲今回、オンラインでのインタビューをさせていただきました。
――山田さん、ありがとうございました!最後に、山田さんが現在働いている美容室Cogic hair & eyeの紹介です。
◆Cogic hair & eye:https://hair-lounge-cogic.net/
「最高の癒し時間をオーダーメイド」をキーワードに、どんなに忙しい毎日でも、簡単にオシャレを楽しめるヘアスタイルを第一に考え、ヒヤリングと提案をしている美容室です。
【文: HELPMAN JAPAN 写真: Cogic hair & eye】