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介護業界を目指す方へ

2024.02.19 UP

福祉業界で働いていたからこそ見えること。人材・美容領域など異業種・異職種で働く3名が考える「福祉業界で得られる力」とは?①

介護・福祉の仕事を通じて得られる力を言語化する企画(https://helpmanjapan.com/article/12796)。本記事では、元福祉・介護職の方にインタビューし、介護・福祉の仕事で得たスキル・能力を異業種・異職種である現在の仕事でどう活かしているかをお伺いし、介護・福祉業界で得られる力の共通点を見つけます。第四回目では、株式会社リクルートで働く3名にインタビューをし、2部構成でお伝えします。

●目次

(1部)
・異業種、異職種として働く3名 が、過去に福祉業界で働くこととなったきっかけ
・児童分野で活躍していた金淵さんが考える「福祉のしごと」で身につく力とは?
・障がいのある子ども が楽しく過ごす「放課後等デイサービス」で働いていた佐藤さんにとって「福祉のしごと」で身につく力とは?

子どもたちと接する中で、自分と他人の問題を切り分け、鳥の目 のように視野を広く持てるようになった。

――福祉業界からリクルートへ転職というのはイメージがつかなかったのですが、もともとどのような福祉の仕事をして、今どのような仕事をされていますか?
金淵さんのキャリア年表

私は大学時代に児童相談所でアルバイトをし、大学卒業後は一時保護所の児童指導員として勤務しました。その後、専門商社で営業事務・営業を経験。 現在は「リクルートエージェント」という採用支援を行うサービスの法人営業(リクルーティングアドバイザー)として勤務しています。

佐藤さんのキャリア年表

私は現在、「ホットペッパービューティー」という美容系サロン検索・予約サイトにおける営業職のチームリーダーをしています。新卒で障がい者福祉分野における放課後等デイサービスの支援員として3年間働き、 現職に転職しました。

寺原さんのキャリア年表

私はリクルートにおいて、企画職をしています。大学で看護学部を卒業後、6年間保健師の仕事をしていました。その後、大学院に通い、地域看護学を専攻。その時はボランティアとして、ひとりで暮らす地域の方へ向けた訪問看護なども経験しました。 大学院卒業後は、看護職に戻るつもりでしたが、たまたまエージェントにリクルートの総合職を勧められ受けてみることに。看護職とは離れる職種としての内定ではありましたが、リクルートが人の生活の様々な場面を支えるサービスを提供している世界観に興味を持ち、何か看護職とつながるところがあるかもしれないし、自分に合わなければ辞めて看護職に戻ったらいいかな、という軽い気持ちで、リクルートに入ることを選んでみました。 現在7年目です。

――福祉業界の中でも別の分野で活躍されていたんですね。福祉業界で働くきっかけを教えてください。
金淵さん

家族や親戚に医療従事者が多く、もともと誰かを助けたいという思いが当たり前にあったんです。また、「体」は元気でも「心」が元気でない人が、心も元気になることにアプローチすることにより効果があり、分野として伸びしろがあるのではないかと思ったんです。そこで、大学では1年生から心理学の研究会に入り、先輩に付いて学びました。その先輩から「心理に興味があるなら、児童相談所の一時保護所でのアルバイトがあるよ」と言われ、心理と子ども、教育にも興味がありましたので、一時保護所でアルバイトを始めたことがきっかけですね。
一時保護所は、緊急に保護が必要だと行政が判断した子どもたちが、 次の行き先が決まるまで、または帰る場所の環境が改善するまで過ごす一時的な場所です。ケースワーカーが家庭や学校など様々な調整を行うのですが、私の役割は子どもたち自身に向き合い、日々の課題に取り組むことでした。ただ、様々な個別事情が子どもたちの背景にある中で、私ができることは長い人生の中での目の前の関わりに限られます。子どもの人生を大きく変えることはできないという無力な想いを感じながらも、それぞれの子どもが中長期的に役立つ考え方を持ってほしいという思いで、限られた時間の中でできることを探し求めて取り組みました。

佐藤さん

私は新卒で障がい者福祉の仕事に就きました。きっかけは、幼少期から現在も通っているミュージカルスクールですね。もともとは単純にダンスをしたい!という思いから、そのミュージカルスクールに入りました。そのスクールでは、障がいがある子もない子も一緒に歌やダンスのレッスンを行い、年に3回オリジナルミュージカルを上演しています。そこでの活動を通じて「障がい があってもなくても関係ない」という考えが当たり前のように育っていました。なので、障がい者福祉の仕事に携わることを選んだ理由としては、ミュージカルスクールの経験と仕事での経験とを相互に生かすことができると思ったからでした。
「人の役に立ちたいという想いから福祉業界に入職した」という想いは強くはなかったんです。例えば、友達が「運動が苦手」だからと言って、何かしてあげようと思うことってあまりないですよね。
結果として、福祉業界での経験は新しい発見を通して視野が広がり、自分自身の成長の機会を多く得られました。

寺原さん

私は学校の先生になりたいと思っていました。もともと好奇心が強く、知らないことを教わって世界観が広がるということが楽しいと感じていたので、自然とその道に進みたいと考えていました。中高校生になると勉強が苦手なクラスメイトに勉強を教えていたこともあり、周りからも「先生になったらいいよ」と言われることが多くなりました。
そこで、大学進学のタイミングで、改めて私がやりたいのは「人を支援すること」で、誰かの役に立って教育的な関わりもできる仕事が面白そうだと感じたんです。また、家庭の教えとして「どこで暮らしても自立して行ける職業を選びなさい」と言われていたので、看護師であれば国家資格であり、広くニーズがあることから興味を持ちました。その中でも、教育的な関わりが深い要素のあるものが看護師の領域にないのかなと思って探したところ、保健師という分野を知って選択肢としました。


――みなさんそれぞれの思いをもって福祉の業界に飛び込まれたんですね。福祉の業界で得られたと思う力について教えてください。
金淵さん

私が働いていた一時保護所は、2歳から17歳までの子どもたちが男女それぞれのグループに分かれて、フロアには10人から20人ほどの子どもたちが過ごしていました。 職員は交代でシフトに入り、24時間365日保護所を運営していたので、チームで連携して子どもたちの状況を把握する必要がありました。
その際、子どもたちそれぞれの特性や発達上の課題も考慮しつつ、集団の中での問題解決に対応していきました。そのため「観察」をして「とっさに判断する」という力は日々鍛えられていましたね。子どもたちそれぞれの話を受け止めて聞くことも重要で、言葉にできない子どもたちの思いを代弁することもありました。「こういう気持ちだったのかな」と尋ねつつも、子どもたちが自分で考えて言葉で伝えられるような支援を行いました。背景には、子どもを第一に考えるという、今の仕事に置き換えると 「顧客志向」を大事にしていましたね。

 

――たくさんの力を身に着けることができたんですね。具体的なエピソードについてもご紹介いただけますか?
金淵さん

例えば誰かに嫌なことをされたとしても仲の良い友達等でない限り、「なんでそんなことするの?直してよ」と言うことはしないと思います。相手と合わないと感じれば、離れる選択をするでしょう。でも、保護されている子どもたちは、過去に傷つく言葉を受けたり、嘘をつかれたりした経験もあるので、どんな言葉を言えば相手が「ぐさっ」と傷つくかよくわかっていて、あえて攻撃してくる子も多いんです。そんな時に楽なのは平気な「フリ」して対応することですが、そうするとその子どもは今後も同じように他の人を傷つけるかもしれず、相手の人に避けられたりしてしまうのではないかと想像できたんです。なので、私は自分の感情を出して、「傷つけたことを謝ってほしい」とか、「それすごい悲しんだけど」みたいに言いつつも、でもどこか冷静にコントロールするスタンスで取り組んでいました。
ある日、そのバランスを取ることが難しく、その子の怒りの感情が出過ぎてしまって、その子が情緒的にしんどくなってしまうということがありました。後からその子の気持ちを聞いて、自分の伝え方が悪かったことを謝り、その子は「いいよ」と言ってくれたんです。そしてその子は、後で他の職員に「大人も謝ることがあることを初めて知った」と話していたようなんです。ミスをしちゃったと思ったエピソードでしたが、結果的にその子にとっては「謝ってくれる大人がいること」をわかってもらえたという、とても思い出深い出来事でした。

寺原さん

今は企業支援をするリクルーティングアドバイザー(法人営業)をされていますが、求職者を支援するキャリアアドバイザーの仕事にも興味があったりされますか?

金淵さん

実は、キャリアアドバイザーの仕事が向いているなと思いますし、上司もそう言います(笑)リクルートに入社する際、配属先の希望を聞かれたのですが、私としては営業力を伸ばしたい気持ちもあり、結果としてリクルーティングアドバイザーの配属となりました。寄り添って支援をするという福祉で得た経験からすると、求職者支援の方がやりたいと思っていることに近いようにも思います。

寺原さん

弊社のサービスもどんどんと多様化していることもあるので、求職者 の気持ちの機微を理解できると幅広い支援に対応できるのではないかと思います。なので、金淵さんの時代がくるんじゃないかと思いました(笑)

金淵さん

ありがとうございます(笑)。今の仕事をしている理由のもう一つに、 社会の不を解決できる仕事だと思っていることもあります。保護されている子どもたちと接する中で、親が変わらなければ子どもも変わらないのではと思う一方、親も社会全体からの抑圧を受け、そのストレスを子どもにぶつけている場合もある。そのため、そもそも社会自体を変える必要があると強く感じていました。私はリクルーティングアドバイザーとしてこれまでマッチングが難しかった方々の就業機会を広げていけたらと考えています。そのためには、求職者の思いを理解しながら、その根拠を持って今まさに変革が求められている企業とともに、一つでも多くの就業機会を創っていけたらという思いで、今頑張って取り組んでいます。

寺原さん

福祉の仕事を通じて、苦手だったことが得意になったことってありますか?

金淵さん

「他者とのやり取りの中で生まれる感情のコントロール」ですね。もともと共感性が高くて、人を助けたいという気持ちも強かったのですが、SNSでしんどい思いをしている人に感情移入したり、大学時代に相談に乗ったりして、一緒にしんどくなってしまうこともあったんです。
新卒で非常勤特別職として働いた時は、受け止めたいし支援したいという気持ちはあるものの、自分と他人の問題を切り分けて、鳥の目 のように視野を広く持つことが大切だと取り組めるようになりました。

寺原さん

人間的な成長がすごいですね!

金淵さん

生まれや育ちって選べない中で、どんな家庭環境に生まれたとしても、子ども時代は保護される存在であり、保護者の存在が重要だと思います。恵まれた環境で育ったことに感謝をしつつも、自分にできることはないかと考えることがありますし、何かをしなければと思うこともあります。恵まれているからこそ、自分自身がその役割を果たさなければとも感じていますね。

 


――次に、佐藤さんにとって福祉の業界で得られたと思う力について教えてください!
佐藤さん

「表情や行動の些細な変化から気持ちを汲み取る力」と「臨機応変に対応する力 」が鍛えられましたね。私は放課後等デイサービスという、障がいを持つ子どもたちが放課後の数時間や夏休み等に過ごす場所で働いていました。基本的には子どもたちが楽しく過ごせる場所を提供することを目的に、利用者それぞれに合わせた支援計画を作成し、長期的な支援を行っていました。通っている子どもたちは様々な障がいを持っており、軽度の発達障害や学習障害のある子から、身体介護が必要な子や重度の障がいのある子もいました。もともと察することが得意だったのですが、言葉を話せない子どもたちもたくさんいたことから、彼らが何を伝えたいのか、どんな気持ちなのかを感じ取る力はさらに磨かれましたね。
例えば、同じ単語を繰り返す子がいたのですが、その子の話す声の高さ/速さから、その子が今日どんな調子なのかを読み取ることができるようになりましたね。このような微細な変化を見つけることで、相手と良いコミュニケーションができると思い、日常の中で意識し続けたことで、心情を理解する力がついたと思います。

二つ目に、その場の状況に応じて「臨機応変に対応する力 」も身につけたと思います。
利用者さんのその日の体調に合わせて過ごし方や職員の配置を変えるなど、いくら事前に計画を立てても計画通りにいかないことが沢山ありました。職員も利用者さん全員にマンツーマンでつけるわけじゃないので、その場の状況に応じて臨機応変な対応をすることが日常茶飯事でしたね。

 

―― ミュージカルスクールと仕事で得た経験を相互に活かすという話もありましたが、実際どうでしたか?
佐藤さん

ミュージカルスクールでは、障がい の有無に関わらず、みんな平等でダンスの指導方法も同じです。出来なかったら出来るようになるまでやる、厳しい指導は当たり前です。
▲ミュージカル公演の様子

ある日、周りの皆とダンスがズレていることが原因で怒られ、少し興奮気味になっていた子がいました。その際にその子の隣に行って寄り添いながら先生の言っていることをわかりやすく伝えたんです。そうすると、その子も少しずつ理解して落ち着いたということがありましたね。

 

――まさに仕事の経験が活かせていますね!
金淵さん

社会福祉士の勉強をしていた際に、障がい者施設での実習があったのですが、結構しんどくなっちゃったんです。思春期の男の子のコミュニケーションでどう対応すればいいのか葛藤があったことが理由なのですが、悩んだことはありませんでしたか?

佐藤さん

私たちの施設では、女性職員と男性職員が一緒に働いていて、それぞれが子どもたちとの関わり方に異なる役割を果たしていたので、特に大きく悩むことはありませんでしたね。
例えば、子どもたちがみんなのいる場で見るべきではないような映像をパソコンで見ていた時には、男性職員が「それは家でやることだよね」と注意をする役割を果たしてくれました。何が許されていて、何が許されないのかを教えてましたね。

――第二部に続きます!

【文: HELPMAN JAPAN 写真: 株式会社リクルート 金淵さん・佐藤さん・寺原さん】

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