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2023.03.07 UP
墨田区内で地域の高齢者を対象にしたデイサービス施設の運営、力士のキャスティングや相撲イベントの企画・運営を行う株式会社シリウスの代表でありながら、一般社団法人 力士セカンドキャリア推進協会にて力士のセカンドキャリア支援を行う上河啓介さん。ご自身も元関取である経歴を活かし、介護職員として勤務をする傍ら、一般社団法人 力士セカンドキャリア推進協会も設立し、引退する力士の就職相談を行っている。30年住む墨田区に根付くデイサービスを目指す元力士が、異業界での経験・スキルをどのように生かし事業を展開されているのか、上河さんにお話を伺いました。
▲上河啓介さん
墨田区でデイサービス施設の運営、力士のキャスティングや相撲イベントの企画・運営を行う株式会社シリウス代表取締役。1977年、北海道根室市生まれ。根室市立光洋中学校を卒業後に間垣部屋に入門し、93年に初土俵を踏み、01年に新十両へ昇進するも11年に引退。株式会社シリウスを設立する。介護ヘルパーの資格を取り、13年にデイサービス花咲を開業。中学校卒業で角界入り、33歳で社会に出てた際は、自身も戸惑いを感じたことから、力士のセカンドキャリアを支援する一般社団法人 力士セカンドキャリア推進協会も設立。
――上河さんが力士を引退後、デイサービスを設立された経緯を教えてください。
33歳で力士を引退した後、中学校を卒業後すぐに角界に入り、学歴も一般社会の経験もなかったため、まずは高卒認定を受けました。その後、自身で会社経営をしたいという思いがあったため、デイサービスを立ち上げました。
会社を設立するにあたり介護事業を選んだのは、小学校時代からの友人が小規模型に特化したデイサービスで福祉の仕事をしていた関係で、実際に介護の仕事を目にした際に、自分の経験が生かせると直感的に感じたからです。
それからは当時のヘルパー2級の資格を取得。力士引退後の翌年には株式会社シリウスを設立し、その翌年にデイサービス花咲を開設しました。開設にあたり、最初に声をかけたのが間垣部屋(親方は元横綱二代目若乃花)時代の兄弟子だった阿嘉さんです。介護の経験があった訳ではないのですが、力士時代にお世話になったことや、仲間としての信頼感から声を掛け、現在も施設長として活躍してくださっています。
力士として墨田区で生活をしてきたことから、事業所を開設する場所は墨田区と決めていました。元力士が、墨田区内でデイサービスを運営しているということが、地域の方にとっても身近さを感じていただけるのではと考えたからです。
▲デイサービス花咲なりひらの事業所内風景
――介護業界への挑戦にあたりギャップはありましたか?
知人がデイサービスで働いてたことや、資格取得のため勉強をしていたことで介護職を始めてからのギャップはなかったです。一方で経営をしていく中で請求書や領収書など事務作業一つとっても経験がなく、すべて新しいことに取り組んでいたため、日々少しずつ理解していきながらケアワーカーと事業所の運営を両立させていきました。そうしていくうちに、力士を引退した後の「セカンドキャリア」について相談を受けることも多くなり、私自身も引退後に不安や戸惑いを感じたことから、力士のセカンドキャリアを支援する一般社団法人 力士セカンドキャリア推進協会を設立しました。
相撲という体一つで仕事をしてきた力士は、中学卒業と同時にその道に進む子も多く、高校や大学を卒業し就職をした方たちが20歳前後で経験するようなことを、30歳を過ぎたあたりで経験をしていくのは厳しさがあります。自分が何をしたいのか、何ができるのかわからないですから。
そのため引退後は、肌感覚ですがこれまでの経験が活きる仕事として、飲食店や整体関係を選ぶ人が多い。それ以外の選択として、介護職も力士の引退後のセカンドキャリアの選択肢になる得ると考えています。
力士は身体が大きく力があることはもちろん、ボランティアとして老人ホームに訪れる機会もあり、高齢者の方と関わる機会が多いことや、老人ホームの雰囲気なども知っていることから働く上でのギャップも少なくなります。
力士はいわゆる一般的な社会人経験と呼ばれる経験が少ないことから、次のキャリアの選択について戸惑い、さまざまな可能性がある選択を知らず知らずのうちに狭めてしまっています。
必ずしも「介護職へ」と誘導するわけではなく、あくまでも選択肢の一つとして介護の仕事があることを伝えていきたいと思っています。
――力士としての経験は、介護分野でどのように生きているのでしょうか?
力士たちは相撲部屋という場で共同生活を送った経験があります。番付が上だったり、先輩力士の世話をしたりすることが身についており、相手を観察し何を求めているかを考える力や協調性がある。そういう点は介護の仕事に向いていると思います。
また、力士の経歴を活かした観点だと、料理を作る機会も多く、経験を活かしてちゃんこ鍋を振舞うと利用者さんに喜んでいただけることや、レクリエーションで相撲の四股を踏むことや、相撲の中の動きについて説明することで、動作の意味を知ることを楽しんでもらえています。
そういった、これまでの経験を活かしていくことで利用者さんには一日の時間の流れを通して、「今日も楽しかったよ」とか、「ご飯が美味しかった」など、プラスの考えになるような時間を提供することができると考えています。
▲元力士により振舞われるちゃんこ鍋
――利用者さんたちはどのような過ごし方をしているのか、一例を教えていただけますか。
デイサービスとして、朝の送迎から、帰宅時まで健康体操や、食事、レクリエーションの提供など決まったサービスの提供は行いますが、基本的にはお一人おひとり、自分がやりたいことをしています。
現在2店舗のデイサービスを運営していますが、ともに墨田区内に位置しており、東京スカイツリーや浅草寺、両国国技館など東京らしさや情緒を感じられるものが多いため、散歩やドライブで観光場所を見に行くこともできます。
近くには、春になると桜が綺麗な錦糸公園もあり、天気が良い桜の時期には、散歩に出かけると日光浴にもなり桜も見れるので利用者さんも喜ばれます。
▲レクリエーションで四股を踏む様子
――今後の「株式会社シリウス」の取り組み、目指す将来像を教えてください。
私が30年間過ごしてきた墨田区で地域の方々が楽しめる場所として運営を続けていくために、力士のプロモーション事業も行っている強みを生かして、町内へのイベント参加など墨田区に根差した活動もますます広げていきたいです。
ただ単に施設数を増やして、やみくもに売上を伸ばしていくということは考えていません。力士の方がセカンドキャリアとして介護の仕事に興味を持ち、施設運営を行いたいと感じられた場合には、施設長として経験を詰むために施設を増やすことはあるかもしれません。その場合も基本的には墨田区内でと考えています。
改めてですが、必ずしも「介護職へ」と誘導するわけではなく、あくまでも選択肢の一つとして介護の仕事があることを伝えていき、少しでも多くの力士のセカンドキャリアを支援していきたいです。
【文: HELPMAN JAPAN 写真: 株式会社シリウス】