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2022.11.22 UP

新宿・歌舞伎町のホストの接客スキルを生かした「プロフェッショナルサービス」で、高齢者に幸せな人生を/新宿デイサービス(Smappa! Group/有限会社スクラムライス 手塚マキさん)

歌舞伎町でホストクラブ、飲食店、美容室などを運営する「Smappa! Group(スマッパ!グループ)」の会長・手塚マキさんが、新宿でデイサービス事業を開始。「これまで培ったサービススキルが介護分野でも生かせる」と気付いての挑戦。将来的には「ホストのセカンドキャリア」としての可能性も視野に入れています。「新宿デイサービス」の現場では、異業界での経験・スキルをどのように生かしているのか、手塚さんにお話を伺いました。

▲手塚マキさん(右)
歌舞伎町でホストクラブ、バー、飲食店、美容室などを20数軒構える「Smappa! Group」の会長。歌舞伎町商店街振興組合常任理事。J.S.A.ソムリエ。1977年、埼玉県生まれ。川越高校卒業、中央大学理工学部中退。97年から歌舞伎町で働き始め、ナンバーワンホストを経て、独立。ホストのボランティア団体「夜鳥の界」を仲間と立ち上げ、深夜の街頭清掃活動を行う一方、NPO法人green birdでも理事を務める。2017年には歌舞伎町初の書店「歌舞伎町ブックセンター」をオープンし、話題に。著書に、『自分をあきらめるにはまだ早い』『裏・読書』(共にディスカヴァー・トゥエンティワン)、『ホスト万葉集』(共著、講談社)がある。

ホストと介護職に共通する軸「プロフェッショナルサービス」

――手塚さんが介護事業の立ち上げに至るまでの経緯、介護業界参入を決めた理由をお聞かせください。
1997年からホストとして歌舞伎町で働き始め、19年前に「Smappa!Group」を創業。以来、ホストクラブ、バー、飲食店、書店、美容室、ギャラリーなどを展開してきました。
▲「Smappa!Group」が運営するギャラリー「デカメロン」

その中で、会社の存在意義として重要視してきたのは「教育」です。私たちのグループでは、「人々に高いQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を提供できるような知識・教養を持つことが、人としての価値を高める」と、日頃から皆に話しています。飲食業だけの閉じた世界では視野が狭くなりがち。教養を身につけ、さらには社会の課題にも目を向けられるようにと、さまざまな活動に取り組んできました。例えば、「ゴミ拾いボランティア」「ソムリエ資格取得制度」「書店運営」「オペラ文化系」などがあります。

一方で、社会課題のひとつとして「高齢化」「介護」の問題にも着目していました。歌舞伎町商店街振興組合の理事という立場から、地域の高齢者が楽しめる新しい場所を作れないかとも考えていました。そんなときに出会ったのが、社会福祉法人伸こう福祉会の設立者である片山ます江さんです。片山さんのお話を聴き、「ホストの接客スキルやサービスは介護分野でも生かせる」と気付いたんです。正直、利益をあげられる事業ではないと考えていましたが、「企業として社会課題に取り組むことに意義がある」と、デイサービス事業の立ち上げを決意しました。
加えて、ホストの「セカンドキャリア」の選択肢のひとつになり得るのではないか、という思いもありました。
ホストの世界はいま、30代半ばの世代が溢れている状態。彼らが引退したら、その先どのようなキャリアを歩んでいくのかを気にかけていました。ホストには「自分はこの世界でしか生きられない、輝けない」と思い込み、ホストとして培ったコミュニケーション力を他の業種・職種で生かすという発想を持てない方が多いんです。そのせいで、さまざまなセカンドキャリアの可能性を閉ざしてしまっている。
必ずしも「ホストを辞めたら介護職へ」と誘導するわけではなく、「自分の能力を生かせる場所・仕事は他にもたくさんあるんだ」と視野を広げるきっかけになればいいと思い、グループ内に異色の介護事業を置こうと考えました。

――ホストの方が身につけた接客スキルは、介護分野でどのように生きると考えたのでしょうか?
ホストクラブをはじめ、「Smappa!Group」の事業は一見バラバラに見えますが、一貫した「軸」を持っています。それは「プロフェッショナルサービス」です。これは、相手が何を求めているかを考えながら、思いやりを持っておもてなしするサービスです。マニュアルに従って画一的なサービスを提供するのではなく、お客さまごとに心地よさや満足を感じるものが異なることを念頭に置いて対応する。「主客一体」となって、お客さまと一緒に楽しい場を創ることが、私たちの目指す「プロフェッショナルサービス」です。
プロフェッショナルサービスを提供するために、私たちが身につけているスキルは次のようなものです。

●相手の表情や振る舞いをよく観察する力
●相手の背景を傾聴する力
●人を思いやり、相手を重んじ、おもてなしする力
●目上の人やお客さまへのマナー

これを介護サービスに置き換えると、「高齢者」「要介護者」とカテゴライズして接するのではなく、ひとりの人間として利用者さんに接することができます。その人をよく観察し、会話を引き出し、寄り添います。
また、介護サービスにおいては、介護スタッフと利用者さんとの1対1のコミュニケーションやサービスだけでなく、ケアマネジャーさんや利用者さんのご家族との連携も重要です。ホストは、仲間と協力してお客さまを楽しませるチームワークにも長けていますから、さまざまな関係者の皆さんと協力して利用者さんの生活を幸せなものにできると考えています。

「三種の神器」でパーソナルデータを更新・運用

――「新宿デイサービス」においては、どのように「プロフェッショナルサービス」を実践されているのですか?

通所される利用者さん全員が同じことをして同じ一日を過ごすのではなく、お一人おひとりに合った一日を過ごしていただけるようにサービスを提供しています。そのために、次の仕組みを「三種の神器」として活用しています。

●連絡帳
通所ごとに、その日にしたことや出来事を写真付きで詳細にまとめて作成

●モニタリング表
毎月、通所介護計画書をもとに立てた目標と、それに対する考察・反省を記して作成

●プロフィール
食事の好み、日常習慣、機能訓練の希望、レクリエーションの希望(趣味・嗜好等)などを、利用者さん本人・ご家族・ケアマネジャーさんから情報収集。連絡帳・モニタリング表や日々の利用者さんとの会話をもとに更新

この3つを合わせた「パーソナルデータ」をご家族やケアマネジャーさんに共有しています。いつか要介護度が上がり、うちに通えなくなったとしても、移転先の介護施設などでこのパーソナルデータが役立てられ、利用者さんに幸せに過ごしていただければいいと考えています。

――利用者さんたちはどのような過ごし方をしているのか、一例を教えていただけますか。
お一人おひとり、自分がやりたいことをしています。体操をしている方もいれば、その横で塗り絵をする方、麻雀をする方もいます。

新宿・歌舞伎町は都心の立地でありながら、自然に触れて季節を感じられるスポットも近くにあります。新宿御苑、花園神社、稲荷鬼王神社、西向天神社など、よくお散歩に出かけていますね。「新しい服が欲しい」という利用者さんの希望を受け、歩行機能訓練も兼ねてデパートへ買い物に行ったこともあるようです。

▲利用者さんとお出かけをする様子

ある方からは「お花を育てたい」というリクエストを受け、ベランダに植木鉢を設置。来所のたびにスタッフと一緒に水やりをされています。音楽が好きな方の隣にはアレクサを置き、好きなタイミングで好きな曲を聴けるようにしました。「アレクサ! 美空ひばりの音楽流して!」と、楽しんで活用いただいています。当グループが運営しているギャラリーで展覧会を開く計画があるので、絵を描く方もいらっしゃいます。「働くことが好き」という方には、簡単な事務作業やサービス提供のお手伝いをお願いしています。

男性利用者さんには「麻雀大会」が好評ですね。当グループのホストクラブに勤務するホストも参加し、利用者さん2人&ホスト2人で雀卓を囲むような光景も見られます。利用者さんからは「いろいろな人と交流できて面白い!」というお言葉を頂いています。

▲利用者さんと将棋をする様子 ▼利用者さんと麻雀をする様子

食事のメニューもご本人の好みに合わせてご提供しますし、リクエストも受け付けるので、「おいしい」と喜ばれています。
いずれも、「サービスを提供する」というより「一緒に遊ぶ」「一緒に楽しむ」というスタンスで活動しています。それが利用者さんの人生の豊かさにつながればうれしいですね。

 

地域の人が集まる「たまり場」として価値を発揮したい

――今後の「新宿デイサービス」の取り組み、目指す将来像を教えてください。
私たちが得意とする「プロフェッショナルサービス」の対象は、デイサービスの利用者さんだけでなく、ご家族やケアマネジャーさんも含まれます。
特に、多くの利用者さんに「新宿デイサービス」を知ってもらい利用していただくためには、「ケアマネジャーさんが実現したいこと」にも思いを寄せ、自分たちにできることを考えていきたい。

また、ボランティアとして参加するなど、関わってくれる人を増やしていきたいですね。歌舞伎町という地域は、外国人、若者など多様な人が集まりますし、多様な人を受け入れる土壌がある。私たちの施設でも、ロシア国籍の職員が働き、中国国籍の利用者さんも通っていたことがありました。このような地域性を生かし、コロナ禍が収束したら、地域の多様な人が集まりつながる「ハブ」のような存在にしたい。言い方を変えると、地域の人々の「たまり場」になることを目指していきます。それにより私たちの会社も、社会課題の解決に貢献できる、社会意義のある存在でありたいと思っています。

▲利用者さんの描いた絵の前で撮影。オンラインで取材をお受けいただいた

【文: 青木 典子 写真: 新宿デイサービス(有限会社スクラムライス)】

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