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2017.03.01 UP

団地を多世代が生き生きと暮らせるまちに URが進める「地域医療福祉拠点化」とは?

地域包括ケアシステムの構築実現に向けて、各所で多様な取り組みが行われている昨今。UR賃貸住宅の供給・管理を行う独立行政法人都市再生機構(以下、UR都市機構)は、大規模団地などのストックを活用して「多様な世代が生き生きと暮らし続けられる住まい・まちづくり」に取り組み、国の施策のもとで団地の地域医療福祉拠点化を進めている。2017年2月現在、81団地で地域と連携し、地域活性化や高齢者から子育て世代までさまざまな世代をつなぐミクストコミュニティづくりに積極的に携わる。同機構でこうした取り組みの中心を担うウェルフェア総合戦略部ウェルフェア戦略推進チームのチームリーダー、古賀夏子さんにお話を伺った。

団地を地域の拠点として活用
多様な世代が共生するまちづくりを目指す

大都市や地方中心都市にて、賃貸住宅の提供・管理を手掛けてきたUR都市機構。現在、大規模団地などのストックを活用し、地域包括ケアシステムの一端を担うまちづくりに取り組んでいる。具体的には、団地内への医療福祉施設の誘致や、住宅や共用部におけるバリアフリー環境の整備、さらには、高齢者、若者世帯、子育て世帯など、多世代の交流を実現するためのコミュニティ(ミクストコミュニティ)づくりなどを行っているのだ。こうした取り組みを開始した背景について、同機構の古賀さんはこう話す。

「現在、約74万戸のUR賃貸住宅を管理していますが、1960年代から70年代にかけて大量供給した大規模団地では老朽化が進んでおり、かつ、UR賃貸住宅の世帯主の平均年齢や、高齢者がいる世帯率は全国平均を上回っています。建て替えやバリアフリー改修の必要性にとどまらず、『団地ごとのコミュニティや、ゆとりある建物配置を有効活用しながら、これからどのような住まいを提供していくのか』について有識者検討会を立ち上げた結果、UR賃貸住宅を活用した地域医療福祉拠点化(ミクストコミュニティ)という提言がなされ、国の施策でもある地域包括ケアシステムの一端を担うこの取組みを進めることとなったのです」

2015年より第三次安倍内閣による地方創生推進、「まち・ひと・しごと創生戦略」がスタートしたが、この中でUR団地の地域医療福祉拠点化も位置付けられ、2016年には「2025年度末までに大都市圏の150団地を拠点化する」という閣議決定がなされた。

「1990年代初頭から、高齢者向けのバリアフリー環境整備には取り組んでいましたし、建て替え時には医療福祉施設の誘致なども行っていましたが、ハード面だけではなく、ソフト面でも多様な世代が生き生きと暮らし続けられる住まい・まちづくりに取り組むこととなりました。目指すのは、『若者から子育て世帯、高齢者世帯など多様な世帯が共生するこれからのミクストコミュニティづくり、住み慣れた地域に、最期まで暮らし続けられる住まい環境づくり』です。まずは2020年までに100団地の地域医療福祉拠点化という目標を掲げ、行政や医療・福祉事業者、大学機関など、各地域で産学官の連携を図りながら、住民はもちろん、地域にも役立つようなコミュニティを形成していきます」▲ウェルフェア総合戦略部ウェルフェア戦略推進チームにて、チームリーダーを務める古賀さん

自治体、自治会、事業者など
地域の理解を深める活動からスタート

2017年2月現在、81団地で地域と連携する多様な取り組みに着手しているが、こうした ウェルフェア業務にさらに力を入れ、地域医療福祉拠点化を進めていくために、ウェルフェア総合戦略部が2016年に設置された。各団地を管轄するエリア経営部などの関係部署と連携しながら、それぞれの地域性を把握した上で、具体的な戦略を立てているという。

古賀さんは、「“地域医療福祉拠点化”という概念そのものが世間に浸透していなかったことなどから、各地での連携体制を構築していくまでの難しさがあった」と語る。

「地域の自治会や医療・介護の事業者、NPO団体などに理解と協力を仰ぐために、“地域医療福祉拠点化とは一体何なのか”という説明を丁寧に行ってきました。地域の関係者によってはこうした取り組みに対する理解に時間を要することもありました。連携体制を作るために、地域の関係者が集まる会合に参加したり、顔合わせの場を設けたりすることもあります」

拠点化を進めるにあたっても、自治会活動との連携や、 近隣にある大学機関と互いに声掛けをし合うことから新たな取り組みが始まるなど、各地域との関わりを大切にしていたという。

「まずは2020年までに100団地の拠点化という目標があるため、スピード感を心掛けると同時に、地域との関係性をしっかりと構築するようにしています」

産学官で行動連携し
24時間対応の地域包括ケアシステムを構築

産学官の連携事例としては、千葉県柏市の豊四季台団地が代表的だという。柏市と東京大学高齢社会総合研究機構と連携しながら、超高齢社会に対応する先進モデル団地としての取り組みを進めている。

「団地の全面建て替えに伴い、団地内に24時間対応の在宅医療サービスを提供できるサービス付き高齢者向け住宅を誘致しています。また、特別養護老人ホームやグループホーム、柏地域医療連携センターなども誘致しました」

また、子育て支援施設として認定こども園なども併設し、多世代が共生できるように環境を整備した。

「生涯就労による生きがいづくり研究の一環として実験的な取り組みも行っています。保育園で絵本の読み聞かせをするなどの役割を高齢者に担ってもらうことで、生きがいにつなげていこうという仕組みです」▲柏市豊四季台にあるサービス付き高齢者向け住宅「ココファン柏豊四季台」。小規模多機能型居宅介護、グループホーム、定期巡回・随時対応訪問介護看護、訪問介護、居宅介護支援、訪問看護ステーション、多世代交流スペースを運営。在宅療養支援診療所や子育て支援施設なども併設している一方、板橋区の高島平団地は、区や医師会と連携。団地内の空きテナントに地域医療・介護のワンストップ窓口を持つ在宅医療センターを誘致。地域包括支援センター、訪問看護ステーション、在宅ケアセンター、療養相談室の機能を備えている。また、既存の賃貸住棟の空き住戸を民間事業者に一括して貸し出し、その民間事業者が分散型のサービス付き高齢者向け住宅「ゆいま〜る高島平」を運営している。

「団地改修の際には、住戸内のバリアフリー化も進めています。また、分散型のサービス付き 高齢者向け住宅のサービス拠点では演奏会などのイベントを開催し、地域のコミュニティとして役立つ取り組みを行っています」▲高島平団地内のサービス付き高齢者向け住宅の室内。洋室化してバリアフリーを図り、玄関やトイレのスペースも広くとっている

学生が住民の交流拠点を運営したり、
入居して自治会活動に参加する団地も

一方、多世代間の交流に取り組む団地も多い。京都府八幡市の男山団地では、関西大学の学生が主体となって多世代交流のスペース「だんだんテラス」を開設し、365日学生が中心となって運営している。

「もともとは、関西大学による研究活動の一環で、団地内の空き施設を利用して開設したコミュニティ拠点でした。大学側が積極的に取り組み、学生が高齢化の実態を学ぶ機会として、イベントや食事会、バーの運営、ラジオ体操の定期実施まで行っています。また集会所を改修した“おひさまテラス”は、有志の地域住民を中心とした任意団体が親子で遊ぶイベントを開催したり、子どもの一時預かりも行っています」▲男山団地のコミュニティ拠点「だんだんテラス」。京都府がまちの公共員(非常勤職員)として学生を採用し、365日間運営。地域住民が参加するラジオ体操やまちづくりに関する話し合いなども開催し、ミクストコミュニティの活性化を図る愛知県豊明市の豊明団地では、近隣に位置する藤田保健衛生大学に働き掛けて、多くの学生が入居し、自治会活動に積極参加してもらう体制を作った。

「大学の教員や医療専門職の方が、乳幼児から高齢者までの医療・介護・福祉の無料相談を受け付ける『ふじたまちかど保健室』も設置しました。育児や介護に携わる多世代が立ち寄れる拠点となっています」▲豊明団地の「ふじたまちかど保健室」では、健康に関するミニ講座も開催し、健康体操のイベントなども行っている

若者世代向けの家賃の減額制度も
交流拠点が高齢者の外出機会にもつながった

このほかにも、若い世代に向けて魅力ある提案をするため、無印良品やイケアなどと連携したリノベーションプロジェクトを推進したり、「U35割」という若年層向け定期借家制度の導入などにも取り組んでいる。

「『コソダテUR』と銘打ったブランディングも行い、子育てに配慮した住戸プランや設備、ママサークルなどの支援、『子育て割』などの減額制度をもうけています。また、2016年、福岡県宗像市にオープンした『団地の農場 日の里ファーム』では、団地内に野菜を育てられる農業施設を設置しており、高齢者や若者世代、子どもが集まる場となっています。将来的には、高齢者の生きがい就労の場として機能できればと考えています」

地域医療福祉拠点化やミクストコミュニティ形成の取り組みは、団地の付加価値向上につながる。UR都市機構では、各団地の特性を生かした魅力的な住まいを提供していくことが、将来の収益構造にも好影響を与えると考えているという。

「まだ取り組みをスタートしてから2年で次第に効果が現れてきているところですが、ご高齢の住民の方からは『交流拠点のおかげで、毎日外出できる』『出掛けることが楽しみになった』などの声もいただいています。気軽に外出したり、住人同士が触れ合ったりする機会を作ることで、介護予防にも貢献していきたいと思います」

閣議決定通り、2025年までに150団地の地域医療福祉拠点化を目指すが、古賀さんは「そこで終わりではなく、先駆的なモデルケースとして広げていきたい」と話す。

超高齢社会であるいま、団地という資源をもとに、地域の力を生かす取り組みを続けるUR都市機構。地域と連携して地域医療福祉拠点化を目指す活動は、地域包括ケアシステム構築の一端を担う。事例でも紹介したように、持続可能なまちづくりのためには、施設を作るだけではなく「地域ごとのコミュニティ形成を促す仕組みづくり」が何より重要ではないだろうか。▲東京都多摩市にある多摩ニュータウン永山では、無印良品と連携して企画した住宅プランを取り入れ、若者世代や子育て世代に向けた魅力ある住まいの提案を行う

【文: 上野真理子 写真: 四宮義博】

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