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2015.12.24 UP

介護職の可能性を広げたい―― 20代が面白くする介護職の未来とは?

秋本可愛さんは、介護に志を持つ20代を中心とする世代が活躍できる環境づくりに取り組む介護業界の若きキーパーソンだ。卒業とともに起業し、〈超高齢社会を創造的に生きる次世代リーダーのコミュニティ〉「HEISEI KAIGO LEADERS」を立ち上げ、いまやイベントを開催すれば毎回満員御礼になるほどの求心力を持つ。最近では、IT企業やメーカーなどの介護や福祉の新商品の開発にも携わるなど、他業界からの注目度も高い。「人の可能性を発揮できる環境をつくりたい」という秋本さんの活動と想いを聞いた。

介護職の価値は想像以上!
その可能性と活躍の場を広げたい

「団塊の世代が後期高齢者となる2025年に、先陣を切っていかないといけないのは、まぎれもなく私たち20代です。だからこそ私は、介護職の活躍の場を増やしていきたい。例えば、もっともっと“稼げる介護士”を誕生させたいし、介護職の新しい働き方の提案もしていきたいんです」と、目を輝かせて語る秋本可愛さん。

秋本さんは、20~30代を中心とした〈超高齢社会を創造的に生きる次世代リーダーのコミュニティ〉「HEISEI KAIGO LEADERS」を運営。「KAIGO MY PROJECT」や「PRESENT」などの取り組みを通して、介護に携わる若手たちのネットワークを広げている。参加者は介護、看護や医療などの専門職、学生、行政、ITや金融などの異業種など様々。活動を通じて異なる立場の人の想いや、それぞれが抱く問題意識に触れる日々だ。

そんな彼女の元にはいま、企業から商品開発の共同企画依頼が増えているのだという。

「介護や福祉の商品は、すでに飽和状態にあります。その中でどんな新商品を出していくかというところで、私たち若い世代のアイディアや現場の視点が求められているように感じます。その要望に応えていくことができれば、また一つ、介護職の活躍の場が広がると思うのです」

「これから要介護者が増えていく中で、介護現場での経験はさまざまな場面で活かされてくるでしょう。そんな中で、例えばいままで一つの事業所からのみお給料をもらっていた介護士が、既存の現場を越えて、収益を生み出すことも可能になるはずです」

ただし、誰もが活躍できる人材となるかといえば、「それは無理ですね」とキッパリ。

「介護について日々勉強し、現場で起こるさまざまな問題に対して、不満を言うのではなく、〈どうすれば解決するか〉を積極的に考え行動する人が活躍すると思っています。だから、私は、『HEISEI KAIGO LEADERS』を通じて、その人たちが学べる場や、仲間の輪を広げる場所をつくりたいのです」▲「『HEISEI KAIGO LEADERS』に参加すると、一つの現場にとどまらずいろいろな働き方をしている人を知り、自分の可能性に気付くことができると思います」(秋本さん)

幸せな人生を生む介護って、関わる人で決まる
だから、「人」をつくる場をつくりたい

介護職の活躍の場を増やしたい――秋本さんがその想いに邁進するわけは、秋本さん自身が「介護職が社会において、いかに価値があるかということを、介護職の人たちが想像している以上に実感しているから」だという。

大学卒業と同時に23歳で会社を立ち上げ、活動を開始した秋本さんだが、意外にも、大学入学当初は介護や福祉についてまったく興味がなかったという。

きっかけは、大学1年生の終わりごろ。偶然見つけた起業サークル「For Success」だ。同世代の人たちが、自分のやりたいことをイキイキと語る姿に衝撃を受けた。「ここにいたら成長できるかもしれない」、そんな期待を感じ、入会。チームを組んだメンバーに、認知症のおばあさんがいたことから、「認知症予防につながるコミュニケーションツール」になるフリーペーパー「孫心(まごころ)」を制作した。

秋本さんは、認知症についてもっと知識を深めたいとデイサービスのアルバイトを始める。▲お年寄りとの会話のネタになる昔話や介護の基本知識など幅広い記事を掲載。全国学生フリーペーパーコンテスト「Student Freepaper Forum2011」で準グランプリを受賞した2年間働く中で、介護業界には、認知症に関すること以外にもたくさんの問題があることを知った。介護離職や介護うつ、家族の介護放棄など……。

「介護の現場で働いて実感したのが、関わる人次第でその人にとっての幸せが決まるんだということ。利用者さんの中には、ご本人の意思では想いを実現できない方もいます。ご本人の言葉にならない意思を汲み取るのも、些細な変化に気付けるのも介護職員なんです。だから、何か目の前で問題を見つけたときに、アクションにつなげることができる人が増えるといいなと思い、その一歩として『HEISEI KAIGO LEADERS』を立ち上げました」

メンバーとともに、まずは若い世代の人たちに介護に興味を持ってもらおうと〈介護×テクノロジー〉〈介護×葬式〉など、斬新なテーマのイベントを開催した。「HEISEI KAIGO LEADERS」の活動はたちまち注目され、1周年記念イベントには、120人以上の人が集まった。だが、イベント自体の満足度は高くても、現場で問題を解決するアクションが実際に生まれたかといえば、まったく手応えがなかった。

「試行錯誤した結果、イベントに参加するだけで終わってしまうような受動的な学びの場ではなく、次のアクションに繋がることを意識したイベントやプログラムを設計するようになりました」

そうして、2015年4月にスタートしたのが、「KAIGO MY PROJECT」だ。
▲『HEISEI KAIGO LEADERS』の参加者は、介護、看護や医療などの専門職、学生、行政、ITや金融などの異業種など様々。コミュニティでつながったメンバー同士で新たなプロジェクトが生まれることも

一方的な学びの場ではなく、
みんなで思いを深める場所をつくる

「KAIGO MY PROJECT」とは、慶應義塾大学SFC井上英之研究室によって開発・実践されてきた教育手法「マイプロ」を、秋本さんが介護の領域に応用して生まれたもの。自身の問題意識に基づいてプロジェクトを立案・設計し、実現に向けたプロセスを設計していく。「KAIGO MY PROJECT」は、介護施設を運営する企業などからもその効果が注目され、2015年7月から法人向けにもスタート。新入社員の研修や学生のインターンシッププログラムなどに取り入れられている。

第3期メンバーによる「KAIGO MY PROJECT」が開催されると聞き、その様子を見せてもらった。

この日の参加者は、介護士、理学療法士、エンジニアのほか、社会福祉や医療を学ぶ学生など計12名。3人グループに分かれて、各々が抱く想いから生まれるプロジェクトについて20分間×3クール話す。「主催している認知症カフェを、もっと多くの人に利用してもらいたい」「自分が勤務している病院で、イキイキと働く人を増やしたい」——など、テーマはさまざまだ。

「介護業界に入って問題意識を持ったものの、どうアクションにつなげていいか分からないという人が多いと感じています。相談したくても、介護の現場ではなかなか時間がつくれなかったり、思いを共有できる人がいなかったりして、結局、何も進まないまま終わってしまう。せっかく高い意識を持っているのにもったいないですよね。それどころか想いを体現できない環境は、次第にその想いを諦めさせてしまうようにも感じています」▲ プログラムは3カ月で計7回開催される。定員は毎期15名。個人や法人向けに開催される体験型の企画も含めると、参加者はこれまでに延べ500名を超えている。実際にアクションを起こしたメンバーもいる。第2期メンバーの折田和歌子さんは「〈家族〉の枠にとらわれない居場所をつくりたい」と、友人とともに「さいたま子ども食堂」を立ち上げた

一から学ぶ時間はない
先輩に学び、平成世代の役割を考える

2015年5月には「PRESENT」という学びの場もスタートさせた。介護業界の中で活躍している識者を講師に呼び、一つのテーマについて参加者とともに学ぶ。20代を中心に毎回幅広い職種の人たちが80名ほど集まり、大盛況だ。

「すでに超高齢社会に突入している現代において、私たちには、一から学んで、失敗して、また学んで……という時間はありません。でも、本当にありがたいことに、すでに素敵な取り組みをされている先輩方がいらっしゃいます。だから、先輩方が積み重ねてきたものやその選択の背景、どんな失敗をしたかを教えていただき、その上で自分たちは何をしていくのか、一人ひとりが考えていく。私たち20代は、もっと積極的にそこを学ぶ必要があると思っています」

「同時に、私たちは“平成世代”の役割を考えていかなければなりません。企業や地域単位で行われている素敵な取り組みを、限られた時間の中でいかに広げていくか。学びの場を開いていくうえで、私たちに課せられたテーマのように感じています」

単なる講演会とは違い、ゲストとの対話を入れながら進めるプログラムに、参加者の理解度や満足度は高い。そして、「KAIGO MY PROJECT」や「PRESENT」で出会った人たちが意気投合し、他のプロジェクトやイベントを始めるという動きも出てきているという。
▲2015年10月4日に開催された「PRESENT_03 堀田聰子 地域包括ケアシステムって結局、何?」の様子。2016年は、「これからの地域の健康づくり~政策と実践~」「“福祉”って何?地域の声から生まれる新たなカタチ」などのテーマを予定

「正直、私も現場がほしいなって」(笑)

「『HEISEI KAIGO LEADERS』を通じて、本当に多くの先輩方にお世話になっているのですが、話を聞く度にすごくうらやましいなと感じています(笑)。素敵な現場をつくっている先輩方はものすごくかっこいいんです。正直なところ、自分も現場が欲しいなって思うことがよくあります。色んな人にふれるたびに好奇心旺盛な私は発想が広がり、やりたいことがどんどん増えていくんです。ただの欲張りですね(笑)。色んな葛藤はありますが、原点を忘れず、常に向き合いながら挑戦し続けたいと思っています」

チャレンジを続ける秋本さんだからこそ、彼女に出会った人は皆「私も一歩を踏み出したい」と、歩み出すことができるのだろう。2025年を待たずして、きっとその想いは次々に形になるはずだ。介護職の枠を超えた、若きリーダーたちの取り組みが楽しみだ。
▲現在、会社のスタッフは14名。「KAIGO MY PROJECT」のOBや、学生、介護士、看護師、医師、企業の人事担当者などさまざまな領域の人たちがボランティアで運営に関わる。写真は秋本さんと、取材に訪れた日の「KAIGO MY PROJECT」にも参加していた運営メンバー

【文: 齋藤春菜(デコ) 写真: 濱津和貴、join for kaigo】

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