業界最新トレンド
ハイヤー並みのホスピタリティと介護技術を持った精鋭たちが乗務員を務める日本交通のケアタクシー。チームを統括する大橋康弘さんは、ケアタクシーは介護タクシーでは対応できない、利用者の“願いを叶える”サービスを提供していると言います。お買い物やお墓参り、美容室への付き添いから、日帰り旅行、歌舞伎のお供まで。単なる移動の介助という枠を超え、乗務員が利用者との信頼関係を育みながら、お出かけのサポートをするという温かいサービスの形が、そこにはあるようです。
プロフィール紹介
大橋康弘さん(写真・左)。1964年東京都生まれ。国士舘大学卒業後、自動車セールスを経て、日本交通株式会社に入社。タクシー乗務員や現場の運行管理などを担当し、2000年より総合営業部に所属。2011年からは、ケアタクシーチームの統括責任者を務める。

日帰り旅行からお墓参りまで
あきらめていたお出かけをサポート

画像/ケアタクシーの利用シーン(日本交通提供)
日本交通では2011年8月から「ケアタクシー」というサービスを行っています。これは、「ケアタクシー」「キッズタクシー」「東京観光タクシー」という3つのサービスからなる「エキスパート・ドライバー・サービス(EDS)」のひとつです。

ケアタクシーの乗務員は、黒タク(※)乗務員としての高いホスピタリティと、ホームヘルパー2級、普通救命技能認定(AED)といったスキルを兼ね備え、高齢者や身体の不自由な方のお出かけや、お客さまのやりたいことをサポートしています。

いわゆる“介護タクシー”は、介護保険制度における「通院等乗降介助」という領域になりますから、通院などのための車の乗り降りや屋内外への移動時の介助などはできますが、お買い物のお手伝いやお出かけの際の付き添いなど、個人的な用事に乗務員が関わることはできません。

一方で、重度の要介護者への対応はできないものの、ご自宅の玄関から病院窓口までの介助、デパートでのお買い物のお供、日帰り旅行の付き添いなど、介護タクシーではできないサービスを率先して提供しているのが、ケアタクシーなのです。

※ 安全運転・サービス品質など、日本交通独自の社内基準をクリアし、専門の教育を受けた乗務員のみが乗務できる黒塗りのタクシー。従来車両よりも高級感のあるハイグレード車両を採用している。
もっと読む

ハイヤー並みのこまやかなサービスをめざし
スマホでお客さまの情報を共有

画像/ケアタクシーチームの情報共有画面。乗務員は仕事がない日でも、積極的に情報共有に努めているという
こうしたサービスは、「ハイヤー並みのサービスを、個人のお客さまにも展開する」という思いから始まったものです。先進的な取り組みを行っている全国のタクシー会社を視察し、商品開発を進めてきました。

実は、首都圏で営業しているタクシー会社でも、ケアタクシーのようなサービスを行っていたところはあります。ただし、お客さまの健康状態や要望に応じて乗務員を手配しなくてはならないので管理コストがかかる上、乗務員の拘束時間も長時間に及びますから、通常のメーター制の料金では採算が合わず、撤退してしまうケースがほとんどでした。

私たちの場合、料金については、時間制運賃を導入し、最初の1時間を4,550円、その後は30分ごとに2,050円加算という貸切料金(※)を設定することで解決しましたが、一番のネックは、多様なニーズを持ったお客さまの依頼に合わせて、最適なサービスができる乗務員をどう手配するかということ。

アイデアを出し合った末、スマートフォンを使った独自のシステムづくりに取り組みました。ケアタクシーを利用したいと思ったお客さまからの問い合わせを乗務員がスマートフォンで確認し、会社を通さずに、ダイレクトにお客さまとやりとりできるようにしたのです。

ケアタクシーの乗務員は全員、タクシーの予約状況から、お客さまの健康状態、道順などの引き継ぎまで、すべて自分のスマートフォンで共有しています。

これにより、業務が効率化できましたし、乗務員自らがお客さまとの関係をつくることで、より柔軟なサービスも提供できるようになりました。お客さまとの信頼関係も生まれ、それが「もっといいサービスを提供したい」という乗務員自身のモチベーションアップにもつながったのです。

※ 2014年4月1日から、消費増税に伴い運賃を改定する予定。詳細は日本交通ホームページ参照

7,000人から選抜された乗務員が
専門知識と特技を生かしサービスを提供

画像/各々の専門知識と特技を生かし、サービスを提供するEDSの乗務員たち(日本交通提供)
私はサービスのスタート時から、ケアタクシーチームの統括責任者を担当しています。チームは日本交通グループにいる約7,000名のドライバーの中から選りすぐられた9名の乗務員で始まり、現在は24名までに増えました。

当初は介護資格を持っていない乗務員もいましたから、すぐに資格取得のための勉強を始めてもらいました。弊社では以前、デイサービス事業を行っていたこともありますので、講義だけでは補えない介助技術などの実践的な部分は、その経験を生かしてしっかりフォローしていったのです。

チームには、デイサービスや特別養護老人ホームで働いていた者、働きながら親の介護を行っている者、美容師や着物着付け師の資格を持っている女性乗務員、観光ガイドの資格を持っている者など、さまざまな経験や得意分野を持った乗務員が集まっています。

通常の料金と比べると高額な金額をいただくわけですから、安心・安全な運転や、確かな介助技術についての教育はもちろん、お客さまに充実した時間を過ごしていただくために、乗務員それぞれが工夫を凝らしているのです。

「ケアタクシーを使い始めたら
母がどんどん元気になった」

ケアタクシーが一番多く使われるシーンは、通院の介助。次にお買い物のお付き合いや、お墓参りなどです。

面白いところでは、「一緒に歌舞伎を見にいってほしい」というご依頼も。歌舞伎の公演では、役者さんが記念品の手ぬぐいを舞台からまいてくれることがあるのですが、「何が何でもとってきてくれ」とお願いされまして(笑)。結局、乗務員が必死になってゲットし、とても喜んでいただいたこともありました。

そのお客さまは、もともと介護タクシーを使われていたそうです。しかし、介護タクシーでは個人的な依頼に対応することができませんから、介護タクシーと弊社のケアタクシーをうまく使い分けていらっしゃる。こうしたお客さまも最近は増えていますね。

他のお客さまからも、「ここまでやってくれるとは思わなかった」というご意見をいただいています。「ケアタクシーを使ったら美容室にも買い物にも自由に行けるから、母がどんどん元気になっているんです」とお話しいただいたときはうれしかったですね。

介護が必要な方も元気な方も
安心とともに気軽に外出してほしい

“ケア”という言葉から、介護ばかりがイメージされがちですが、ケアタクシーは介護が必要な方でも元気な方でも、気軽に使っていただきたいと思っています。万が一のときには資格を持った乗務員が対応してくれるという安心感とともに、ぜひお出かけしてほしいんです。

今後は東京オリンピック・パラリンピックを見据えた観光タクシーも商品化したいと考えていますし、大手百貨店と提携し、百貨店の研修を受けた乗務員がショッピングをサポートするコンシェルジュサービスや、航空会社、鉄道会社と提携して旅行のサポートを行うなど、さまざまなコラボレーションも進めているところです。

移動を軸に、お客さまの願いをできる限りサポートするサービス開発に、これからも取り組んでいきたいですね。
[
文: 成田敏史(verb)
写真: 高橋定敬
]