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2013.09.29 UP

介護はアイデア勝負の エンタテインメント

小学校3年生から70歳まで、プロの役者から現役介護士まで総勢33人をまとめあげ、漫画『ヘルプマン!』の舞台化を成功させたのが脚本家・演出家のなるせゆうせいさんです。原作に惚れ込み「介護こそアイデア勝負のエンターテインメントだ!」と話すなるせさん。エンターテインメントのプロが見た介護職の面白さとはどこにあるのでしょうか? (※この記事は2012年以前のもので、個人の所属・仕事内容などは現在と異なる場合があります)

「ヘルプマン!」との出会い

マンガ「ヘルプマン!」に出会ったのは、2年ほど前のことです。青年漫画誌「イブニング」で「ヘルプマン!」を見かけ、これは面白いと、単行本を1巻からすべて読み直しました。

「ヘルプマン!」の魅力の一つは、「介護」そのものがメインではなく、介護という題材を借りて、“人と人とのつながり”を描いているということです。そして、もっと多くの人に広めたいという作り手として意欲が沸き起こりまして、作者であるくさか先生および講談社さんに企画書をすぐさま提出させてもらいまして。企画書と言っても、ほぼラブレターのような内容で、イブニングのターゲット層(主にサラリーマン層)以外の層、例えば親の介護に直面している女性や、介護というジャンルに漠然としたイメージしかまだ持てていない若者の層などに伝えるため、是非舞台化したいんです!といった熱いだけの企画書でした。

その企画書を気に入っていただけたのか、編集者さんの計らいで、くさか先生と直接会わせていただいて、その後、うちの舞台もわざわざ観に来ていただいたりして「なるせさんなら大丈夫」と、舞台化を快諾していただいたのです。

描きたかったのは“人と人のつながり”

舞台化するうえでは、コミック15巻分もある長いお話を、2時間にまとめるための解体作業が最初のハードルでした。原作の良さである“人と人とのつながり”をどう見せていけば良いか、エピソードを抜き出して、構成し直し台本を書きあげました。その時に大切にしたのは、誰か一人の視点で描くのではなく、いろいろな立場の人の視点で見せていきたいということ。

観客に近いであろう主人公・百太郎の視点、
ケアマネジャーである仁の視点、
百太郎が働く介護施設の職員の視点、
介護される高齢者側の視点、
介護に直面している人の視点。

それぞれの立場の中で、それぞれの葛藤があって、その人と人は必ずしも単体でなくて、どこかで繋がっているんだ、という多重構造を舞台化する時には意識しました。

一般のお年寄りからプロの介護士まで

この舞台の出演者は、役者のプロだけでなく一般の人も含めたオーディションで決定しています。下は7歳から上は70歳という実に幅広い年齢層の方が、オーディションを受けに来てくれました。特に高齢者の方は、生きた年輪がそのまま演技に出ますから、プロの方より素人さんの方が味があって面白いんです。

ただ一言台詞を言ってもらうだけでその説得力はぶっちぎりだし、シニアパワーを感じましたね。
それからオーディションを受けた方の中には、介護士や認知症ケアのNPOの方など、現職の“ヘルプマン”もいらっしゃっていて、実際に出演もしていただきました。

現場の人がいることで、高齢者を椅子に座らせるときの接し方や、食事のさせ方などアドバイスをもらって、かなりリアルな芝居になったのではないかと思います。

波瀾に満ちた稽古場

稽古が始まれば、稽古場には年齢差60歳近い役者が常に一緒にいる状態です。だからこそ、このプロジェクトそのものも“人と人とのつながり”が成功の鍵を握っていると思っていました。そこで顔あわせの時、僕が出演者のみんなに言ったんです。

今回、年齢も経験値もバラバラなので絶対稽古では予想不可能な事が起きます、と。年配の方はやはり若い役者たちに比べれば、長時間の稽古は辛いでしょうし、台詞覚えも悪い。それはもう仕方の無い事で、そういう「違い」をお互い理解した上で一緒の作品を作っていけるかどうか、そこが大事。

この構造は、介護の世界と何の変わりもなくて、そうやって支え合って一つの作品を創り上げるという事が、今回参加してくれた役者にとって貴重な財産になったのではないかと思います。なんてカッコいい事言っても、実際、ほんと稽古大変でしたけどね。それを楽しめるのも才能。それゆえ、役者、としてではなく、人間力のあるメンバーで構成させてもらいました。

アイデア勝負のエンタテイナー

僕から見た介護は、すごくアイデアが必要な仕事です。

今回のこの作品をするにあたって、数日間、施設にボランティアスタッフとして参加させてもらい、利用者さんと生活を共にしましたが、その時、ヘルパーの人たちそれぞれの接し方の違いに驚いたんです。

利用者さんを楽しませるアイデア、サービスっていうのかな。しかも相手は人ですから。マニュアルがあるわけじゃない。一人ひとりにその人に合ったサービスのアイデアが必要なんだと。その点で、自分たちの仕事と似ていると思いました。

僕も、舞台を作る際、ワークショップという演技のデモンストレーションみたいなものを役者さんにやってもらうんですけど、そこでもやっぱりアイデアを出せない役者は、見ていて面白くない。ワークショップでは、台本なしで、フリーで演技をしてもらったりもしますが、アイデアの引き出しがない役者は何もできないまま終わってしまいます。役者も我々スタッフもお客さんを喜ばせるためのアイデアをひねり出す。

介護職で働く方々も、利用者さん一人ひとりを楽しませるためにアイデアをひねる。
そこがやりがいだと思いますし、人生の先輩であるじいさんばあさん相手に、彼らを喜ばせるアイデアを生み出せる事ができたら、これはもう最高のエンタテイナーですよね。

想像力とコミュニケーション

舞台の醍醐味であり、面白いところは、想像力を働かせることです。「わあ、海だ!」って誰かが台詞を発すれば、そこは海になってしまう、僕はそこに舞台の魅力や可能性を感じています。好きな子ができると、あの子は今どうしてるだろうと想像しますよね。この想像力が、相手を思いやる力につながるのだと思います。それから、もうひとつ舞台の面白さというのは、「会話」ですね。

僕は、学生演劇からこの世界に入りましたが、稽古をしていて「会話ができてない」とダメ出しをされた事があるんです。台本の台詞通りに読んでいるのに「会話が出来てない」ってどういうことだろうと悩みましたが、それは本当にただ「台詞」を声に出しているだけで、相手の会話も聞いてなかったですし、相手の話に心動いたり、自分の言葉で相手に伝えようとしてなかったって事なんですよね。

これって、お年寄りとの会話にすごく似ているなと思います。お年寄りは一筋縄ではいかないですからね(笑)。
想像力とコミュニケーション力、こんなところも舞台との共通点かもしれません。

介護のイメージが変わった

出演者たちも、「ヘルプマン!」を通して介護のイメージが変わったようです。

最初は、「つらそう」「陰気そう」「大変そう」など介護に対し、そんな漠然としたイメージを抱いてた人も、舞台「ヘルプマン!」を通して、介護はそれほど敷居の高いものでもないし、堅苦しいものでもない仕事だと思ったようです。

確かに技術は必要だし、辛い事もあるけれど、その中で面白さややりがいを見いだすのは、自分のアイデアや考えひとつなんだと。また、何より、高齢者たちとのつながりの中で得られる喜びは沢山ある、相手をどう喜ばせるかを考える事で、自分もまた成長できると。

役者を目指している大学生も参加していましたが、やはり役者に近い部分を感じたのか、きっかけがあれば介護のボランティアやアルバイトをしてみたいと言った人もいます。観客のアンケートには、「感動した」「自分の身におきかえて考えた」といった感想が多く、なかには、自分のおじいちゃんを思い出したりして、開始3分で泣いたという人もいました。

若い人の中には、「介護について調べてみたい」「就職先の選択として考えようかと思う」と書いてくれた人もいて、介護を知らない若い人たちや介護に直面している人たちに見てもらいたいという思いは、実現できたと思います。

誰でも「ヘルプマン!」になれる

舞台は無事成功を収めましたが、僕としてはまだまだ物足りない。潜在的に介護に興味を持っている人たちがいるという実感が持てたので、もう一歩先につっこんで、その人たちを動かしたいと、強く思うようになりました。本当は、舞台の全国ツアーをやりたいのですが、まずはDVD上映会から。

介護って、専門の学校以外では習わないですよね。だから、ぼんやりしたイメージで、なんとなく堅苦しくて、別世界という境界線を引いている気がします。

でも特別なことじゃなくて、自分が思いさえすれば、誰もが“ヘルプマン”になれるんです。
「おじいちゃん元気?」って声をかけるだけでも、話し相手になるだけでも、電車で席を譲るみたいなことでも。観終わった人全員が“ヘルプマン”になれるきっかけになればいい、そこに舞台「ヘルプマン!」をやる意味があります。

自分を楽しませるのも才能

仕事を探す上では、給料とか、ステータスとか、いろんな決め手があると思いますが、やっぱり楽しくないと続かない気がします。どんな仕事であれ、自分のなかで面白さを見出して欲しい。

仕事を楽しめるかどうかは自分次第で、これもひとつの才能です。介護業界でも、それは必須条件じゃないかな。辛い事があってもその場その場で楽しいことを見つけ出せて、それをネタにできるぐらいの能力があるといいだろうなと思います。

期待したいのはやんちゃな人。クリエイティブにもつながると思うのですが、制度に従うことも必要だけど、少しだけふみはずす勇気があるやんちゃな人材がいると面白い。間違っていると思うことは間違っていると、自分の信念を貫き通せる人が理想的です。僕の好きな百太郎の台詞に、「(ジジババたちにとって)いつだって“今日”が最初で最後の最大級のチャンスなんだよ!!」というのがあります。

信念を持って、自分が楽しんで、お年寄りを最高に楽しませる。そんな“ヘルプマン”の登場に期待しています。

なるせゆうせい公式ブログ…
http://nanaruse.jugem.jp/

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http://www.inveider.com/

【文: 鹿庭 由紀子 写真: 山田 彰一】

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