ヘルプマン
旅行客からの予約電話が入るほどユニークな施設を生み出す湖山医療福祉グループ。施設の形は、南プロバンス風や高級旅館風などさまざま。医療・介護といった専門の枠組みにとらわれず、スタッフがやりたいやり方でサービスをつくっているからこそ、アイデア満載の施設やサービスが生まれています。代表の湖山泰成さんにインタビューしました。
プロフィール紹介
1955年東京都生まれ。三井信託銀行勤務を経て、父・聖道氏が院長を務める銀座菊地病院の経営を引き継ぎ、その後福祉の世界へ。順天堂大学スポーツ健康科学部客員教授。広島経済大学特別客員教授。趣味は映画鑑賞で雑誌の映画評論なども手掛ける。

湖山医療グループの成り立ち

銀座の救急病院経営からスタートし、徐々に老人医療へと展開していきました。今から20年前は老人医療といえば悪徳医療法人の代名詞。当時の看護師にアンケートを取るとほぼ100%「自分の病院だけは親を入れたくない」という時代です。ですから「自分の親を入れたくなるような病院をつくろうじゃないか」をグループのモットーにしました。

ただ、10年くらい経って、親のことよりも自分のことが心配になってきました。親は自分が責任を持って面倒を見るけど、果たして自分は大丈夫だろうか?と。そこで、自分が入りたい病院とか老人ホームをつくろうと思い、ちょっとスマートな言葉で企業理念を「自らが受けたいと思う医療と福祉の創造」としました。
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高齢者サービスは
自分自身が将来必ず使うもの

高齢者サービスを利用するということは、今や「超お金持ちで家族がいない」とか「お金がなくて政府や行政に面倒を見てもらう」とかということではなくなりました。人が長生きするようになった今は、それが自分自身の将来の当り前の生き方になっています。それに高齢者はだんだん老境に入っていくわけですから、日常生活を営むレベル、生きる楽しみ、喜びを認めて維持することが大事になります。

これまで医療はそういったこととトレードオフ、つまり一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ない関係でした。ですから、これからは一人の人間に対して全方位的に対応していけるサービスが必要になります。

求められるのは、「普通の生活」

医療福祉の世界では、これまで供給者側の考えで、「ウチは病院だから医療だけ提供してればいい」「華美な部屋は要らない」とか、「ぜいたくな食事は提供しない」というのが通例でした。生活保護は「税金で面倒を見ているのだからぜいたくであってはならない」というのが理由です。今はそういった考えが取り払われ、医療と介護が融合し、「普通のマンションに住んでいるような生活」が要求されます。

だから私は、病院にも、特養にも、老人ホームにも、すべての施設に医療やアメニティの個室、おいしい食事が必要だと言って実践しています。病院では良く生きるためのカルチャー教室やお祭りイベントを実施して、特養には常勤医師を付ける。有料老人ホームは個室料金だけど、保証金はなしにして入りやすくするなど、それぞれの良いところを、お互いに重ねあわせるようにしています。
南プロバンス風の介護老人保健施設「星のしずく」

専門領域の枠を少しはみ出せる人材

医療や福祉で働く人は、それぞれの専門性を高め、付加価値を高めていくということでこれまではよかったと思います。

しかし今、私たちが、支援が必要な高齢者にしていくべきサービスとは、医師や薬剤師が提供する医療ももちろん含まれますが、それ以外の生活を含むもっと柔らかいものであるはずです。高齢者の健康や生きる意欲を維持し、それぞれが生活を可能な限り自分で行えるようにする。そのために、医療の専門職は「介護」のことを理解し、介護の専門職は「医療」のことを理解する必要があります。

とくにこれからは科学的に説明しにくい「介護」の部分が大事になってくると思います。採用でもそれぞれの専門領域の枠を少し越えたサービスを提供できる人材を私たちは求めています。

「介護」はマニュアルの徹底ではつくれない

昔、新人の子が不慣れでおむつ替えがうまくいかず、泣きそうになっていたことがありました。うまく装着できずお年寄りに「ごめんね、へたくそで」と謝っていたのです。でもだからといってお年寄りはみなさん怒るでしょうか?むしろ、自分の孫のように感じ、うまくて1分でできてしまうよりも、へたくそで5分居てくれた方が、嬉しいこともあると思います。そうやってお年寄りに愛されて育つ中で、「介護」しようという気持ちが湧いてくるのです。これはマニュアル通りにという仕事ではできない体験です。

「医療」は科学ですが、「介護」はいわば地域生活文化。

そうすると、何千人という人間に教えるような共通なものをつくることは難しい。だからマニュアルを徹底することよりも、その人の人間性や愛情をもとにして、やりたいやり方で、「介護」はつくった方がいいんです。
暖炉やアンティーク家具を配置した特別養護老人ホーム「楓の丘」

「高齢者向けサービスの幹部が務まる」
人材を増やす

専門領域を少しはみ出せる人材を増やしていくため、私たちは2つの取り組みを行っています。

1つは全国の研究発表大会、もう一つは介護福祉士の資格取得支援です。前者は全国の事業所の「介護」の事例を発表する学会で、地方予選を経て本選という形で本格的に実施します。自分の専門領域以外のことに目を向け、事例から自分の引き出しを増やすきっかけになります。後者は、介護サービスを提供するための最低限のエビデンスとして、栄養士や薬剤師、ケアマネなどを含む全職員が、介護福祉士の資格を取得できるよう支援しています。

こうした施策で各自が自分の専門性におぼれないようにし、「私は病院の営業しかできません」とか、「私は老人ホームのヘルパーしかできません」というよりは、高齢者向けサービスをトータルに経験し、高齢者医療介護施設の幹部が務まるような人間を育てていきたいし、育ちつつあるというのが実感です。

自分を生かした施設を作ってほしい

これだけたくさんの施設を展開していると、画一的な設計で、同じような家具や食器をまとめて発注しているのでしょうと言われることがありますが、実は同じものは一つとしてありません。

新しい施設をつくる時は、トータルの予算だけ決めて、あとは施設長のセンスで自由にやってもらうというのが湖山流。施設長は店主みたいなもので、それをやっている人の趣味、センスが反映されます。夫婦経営のペンションで旦那さんがギターを弾いたり、奥さんが料理好きだったり、お風呂にこだわっていたらそこの売りはライブや食事やヒノキ風呂になるでしょう?

例えばリハビリの専門家がつくった「鶴舞乃城」という施設の外観は、加賀百万石みたいな優雅な建物で、老人ホームなのに勘違いして「この部屋に泊まりたい」と宿泊予約をされる人もいます。でも実際には中は先進的なリハビリ施設になっていたりします。
高級老舗旅館のような外観の「鶴舞乃城」

介護を経験するという新しいキャリア

よく聞かれることですが、介護の仕事は、専門学部出身者しかできない仕事ではありません。
一般の人にとっても十分に魅力的な選択肢になりうると思っています。

その理由は、日本にいる以上、どんなファッショナブルな、どんな大企業に行っても、高齢者は外せないマーケットだから。

例えば、あなたが不動産会社へ行っても、老人ホームの担当になるかもしれないし、百貨店に行っても、シルバー向けの商品開発の担当になるかもしれない。コンビニだって、すでに商品開発は若者向けからシニア向けに変わってきています。だから、介護の仕事を経験していることは、転職する際にどんな企業に行ってもその経験と能力が活きる一つのキャリアになります。それにやがて来る親の介護に対する備えにもなります。

ぜひみなさんにチャレンジしていただきたいですね。
[
文: 高山 淳
写真: 山田 彰一
]
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