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2019.03.22 UP
株式会社スーパーホテル、社会福祉法人聖綾福祉会(1996年設立)の創業者であり、現会長の山本梁介氏が、「社会福祉法人の介護力とホスピタリティを持ち合わせた介護施設を創りたい」という思いから、2000年に立ち上げたのが、株式会社スーパー・コートだ。キャッチフレーズは、「安全・清潔・イキイキした生活」。有料老人ホーム「スーパー・コート東住吉1号館」を皮切りに、現在では、サービス付き高齢者向け住宅やグループホーム、デイサービス、病院と、サービス内容も多岐にわたって展開。ホテルで培ったホスピタリティを介護施設で実践し、2018年には「日本経営品質賞 大企業部門」を受賞するなど、民間企業ならではのサービス開発や人材育成能力が評価された。スーパー・コートが考えるホスピタリティとは? 代表取締役・山本健策さんに、話を伺った。
「親を任せたいと思える介護施設を」
と立ち上げた介護事業
創業者の山本梁介会長が、「母親に温泉を楽しんでもらいたい」とスーパーホテルに温泉を導入したように、「親を任せたいと思う理想的な介護施設がないのなら、自分で創ろう」と立ち上げたのが、スーパー・コートだ。介護施設の立地は駅から遠いことも多いが、そこはスーパーホテルグループ。駅近にはホテル、駅から徒歩10分圏内には介護施設という方針で、関西圏を中心に約50の介護施設を展開している。ホテル事業で培った、「安全・清潔」という空間提供と人材育成のノウハウを生かし、そこに「イキイキした生活」をプラス。それをキャッチフレーズとした。
「スーパーホテルグループとして、ホテル・賃貸・介護事業を手掛けていますが、ホテルはデイリー、賃貸は年間、介護は生涯と、スパンが違うだけで、おもてなしの考え方は同じです。特に介護施設は、『状態が悪くなったら行く』という概念を払拭したかったので、高齢者の方が第二の我が家以上に思ってくださるような、元気になれる施設を目指しました。なので、設立当初から『イキイキした生活』をキャッチフレーズに掲げました」
▲スーパー・コートの代表取締役・山本健策さん。「2018年に、株式会社では初めて『日本経営品質賞 大企業部門』を受賞したときは、とてもうれしかったですね」
スーパー・コートが求める人物像は
「自律型感動人間」であること
同社では、サービス品質の追求のため、幅広い研修制度を実施しているが、研修内容は、現場スタッフやヘルパーが自発的に作っているものが多いという。その背景には、「自律型感動人間を育成する」という独自の教育方針がある。同社で働く人物像のベースである「自律型感動人間」とは、どのような人を指すのだろうか?
「ズバリ、感性と人間力です。山本会長の教訓で、ビジネスで成功するのは、学業優秀者より、運がいい人だと。それは、『運を自らたぐり寄せる人』という意味で、そのためには感性と人間力が必要だと教えられました」
感性を磨くには、努力と経験が必要となると山本さんは言う。
「だから弊社は現場主義。会長も私自身もそうですが、いまでも現場に顔を出し、そこで自分の目で見たこと、肌で感じたことを大切にしています。そして人間力とは、ピンチのときに手を差し伸べてもらえるかどうかです。一人ではできないことも、支えてもらってできることがたくさんある。支えられる人には『感謝の気持ち』があり、そこから責任感も生まれます」
五感をフルに使ってご入居者が求めることを敏感に察知し、喜んでもらうためには何をすればいいのか自分の頭で考える。そして、常に感謝の気持ちを忘れない。同社が目指す接遇とは、介護スキル+マインドを持つ自律型感動人間によるおもてなしなのだ。
人間力研修をはじめ様々な研修を実施
「感動プロジェクト」では同期が団結
「研修が充実しているので、この会社を選びました」とは、介護事業本部・運営部の安野光紀さん。新卒採用者は、内定後から月に1回の内定者研修、入社後は新人研修と人間力研修を受講し、資格をとるための初任者研修、半年・1年のフォローアップ研修と続く。
「人間力研修は、新卒はもちろん、中途採用者や管理職にも受けてもらいます。1週間じっくりと自分と向き合う時間を作り、親への感謝や、自分が何者かを探求する研修です。会長の言葉を借りると、『凡時徹底』(当たり前のことを徹底的に行うこと)ですね」(山本さん)
研修とは別に、入社後1年を通して毎月1回、同期でチームを組み、社会貢献活動を行う「感動プロジェクト」も実践する。例えば、震災があった年には物品を集めてバザーに参加し、集まったお金で今必要なものを購入して被災地に送ったり、発展途上国の子どもたちにワクチンを贈るためにエコキャップ運動を行ったり。テーマはチームで決め、目標達成に向けて協力し、終わると報告会で活動内容をプレゼンする。
「この会社に引かれたのは、自律型感動人間になるための学ぶ機会が多いこと。正直、人間力研修は1週間缶詰め状態なので心が折れることもありましたが(笑)、優秀なスタッフのよいところを真似し合う『コンピテンシー』や、スキル向上のための『ケアマイスター制度』など、ためになる制度もたくさんあります。いまは施設長になるのが目標です」と安野さんは目を輝かせる。
▲介護事業本部・運営部の安野光紀さん。「おばあちゃんっ子で、『デイサービスで折紙を作った』と楽しそうに話す祖母の姿を見て育ったので、自然と介護系の大学に進んでいました」
スーパーホテルでの実地研修で
「接客スタンダード」を習得
同社は、「介護はサービス業」という考え方のもと、介護サービスのレベル向上を目指している。言葉遣いはその都度徹底的に指導するほか、接客にまつわるスキルやマインドを磨くツールとして「接客スタンダード」というDVDを活用。スタッフは、スーパーホテルの接遇研修も担当するインストラクターから、言葉遣いやあいさつ、表情、アイコンタクトなどを学ぶ。また、スーパー・コートプレミアムのコンシェルジュはスーパーホテルで3カ月の研修も行い、接客を実地で学ぶ機会もある。さらに、各施設では介護職員の中から選ばれた「接客リーダー」を育成し、定期的なチェック、評価を自主的に行っているという。
スーパー・コート プレミアム池田でコンシェルジュとして働く川人千紗さんは言う。
「もともと介護職員だったのですが、コンシェルジュのオファーがあり、驚きました。スーパーホテルで3カ月間の研修は受けていましたが、異動した当初は緊張しましたね。でも、次第に人と関わるのが楽しいと思えるようになりました。仕事内容は、ご入居者のご家族からの相談にお応えすることです。目標は、ご入居者やご家族、そして施設のために、しっかりと接遇を身につけて『接遇のプロ』として、みんなの見本になることですね」
▲スーパー・コート プレミアム池田はコンシェルジュがお出迎え。川人千紗さんは入社3年10カ月でありながら、堂々とした振る舞い
▲まるでホテルのようなスーパー・コート プレミアム池田
ご入居者の満足度を高めるためにも
従業員満足度を高めることが大切
同社では、新卒採用者対象以外にも、豊富な研修プログラムがある。中途入社研修、2年目・3年目研修、4年目のキャリアデザイン、階層別研修、コーチング研修、施設長育成プログラムなどだ。
「例えば、施設長育成プログラム。いままでは『現場で仕事ができる』という曖昧な基準から施設長になることが多かったのですが、現場職員と施設長では必要なスキルが異なるため、うまくいかないことも多かった。そこで、このプログラムではマネジメント教育と理念の浸透を徹底しており、これを修了した人だけが施設長になれるシステムに改善しました」
「ご入居者がイキイキした生活を送るには、まずは、従業員から」と山本さん。その考えのもと、実践する施策のひとつに、「サンクスバッチ」がある。これは、働く仲間がウェブ上で感謝の言葉を送り合うシステムだ。「サンクスバッチ」の運営会社が主催した2018年のレコグニションアワードでは、「サンクスバッチを一番送り合った会社」として表彰された。
「小さな感謝でもお互いに伝え合うことで、職場全体のモチベーションが高まります。従業員満足度が上がると、それがご入居者満足度につながります。介護施設を決めるときに大切なのは、『親を任せたい施設か』ということ。つまり、『人』です。だから、『あなたに任せたい』という人材を、たくさん育てていきたいですね」
スーパー・コートプレミアム池田のご入居者・道林サヨ子さんに話を伺った。
「息子がここを探してくれて入所しましたが、施設も部屋もすごくきれいで気持ちいいです。スタッフの皆さんは優しくて、何かイベントがあるときは必ず呼びに来てくれますよ。魚料理もきれいに骨をとってくれていて、こまやかな心遣いがうれしいです。食事のときは他の仲間とテーブルで長話していますね」
▲運動したり、みんなとおしゃべりしたり。スーパー・コート プレミアム池田で楽しく過ごす道林サヨ子さん
日本は課題先進国。高齢者に最適な
ソリューションを提供するのが使命
同社では、現場まで理念を浸透させるため、施設長が集まる毎週月曜日の朝礼に創業者である山本会長が出席し、自律型感動人間や人材育成について語る場が設けられている。各スタッフがお守りのように持つ小冊子「Faith」には、理念や接客スタンダードなどが載っている。施設ごとの朝礼では、「Faith」の一項目を唱和した後、朝礼の担当者が日々感じていることを発表して施設長がフィードバックする。
「その成果が表れたのがスーパー・コート東住吉2号館です。余命幾ばくもないご入居者がいらして、スタッフが最後の夢を叶えてあげたいと思ったのですが、お聞きしても当のご入居者が諦めていて、当初は心を開いていただけなかった。でも、辛抱強く寄り添ううちに、『牛丼を食べたい』と。嚥下(えんげ)が難しい状態でしたから、口腔ケアで嚥下のためのトレーニングをしてドクターから許可をいただき、牛丼を食べることができたんです。家族の方からも、『夢をかなえてくれてありがとう』というお言葉をいただきました」
幅広い研修制度や現場での実践により、「自律型感動人間」を育成するスーパー・コート。ここで学ぶサービスのスキルやマインドは、どの業界であっても通じるものであり、介護職の地位向上にもつながるのではないだろうか。そこで、山本さんに人材育成のあり方について重視していることを伺った。
「特に、20代30代の若い層に対しては、コミュニケーションを通してマンツーマンで教えることが重要です。弊社では半期の目標を、職員は『目標管理シート』、役職者は自分の目標・部下育成・自律型感動人間になるための『チャレンジシート』に記入します。そしてチャレンジシートの目標達成のために『ランクアップノート』を活用し、月/週/日と細分化して目標を記入します。また月1回、上司と部下が面談する機会を設けています。そこでは、自分がどうなりたいか、そのために何をすればいいか、話し合います。そんな、上司と部下の1対1の話し込みが、人材育成やレベルアップにつながっていきます」
最後に今後の目標について伺った。
「日本は、超高齢社会、少子化、医師不足など課題が山積みの課題先進国で、日本がどう解決していくのか海外も注目しています。ですから、介護や医療など、高齢者に最適なソリューションを考え、それを提供することが、弊社の使命だと思っています」
▲スーパー・コート プレミアム池田には、認知症専門フロアや天然温泉もある。ご入居者が「おもてなし」を満喫
【文: 高村多見子 写真: 川谷信太郎】