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2018.08.06 UP

有料老人ホーム46施設の入居率99%超!地域に根ざし、愚直に取り組んだ改善策とは

ある調査機関の報告によると、介護付き有料老人ホームの入居率は全国平均で約87%である一方、約4分の1の施設が入居率80%未満だ*。そうした状況の中、1都3県を中心に有料老人ホームなどを展開する株式会社らいふは、2017年7月、入居率99.9%を達成した(全2,050室・空室数3)。2016年4月時点では、全1,964室の入居率が89.8%。約1年で10%も上昇したことになる。改善の背景には、地域密着にこだわり、理念に則った愚直な取り組みがあったという。そこで、活動を主導した取締役の小林司さんにお話を伺った。

*野村総合研究所「高齢者向け住まい及び住まい事業者の運営実態に関する調査研究報告書」(平成29年3月)より

3つの理念のもと、
具体的な施策で実践を徹底

株式会社らいふは、1995年に設立された独立系の介護サービス事業者。2018年7月現在、東京・神奈川・千葉・埼玉の各都県に計46施設・2,266室の介護付き有料老人ホームおよびサービス付き高齢者向け住宅を運営しているほか、訪問介護や居宅介護支援にも取り組んでいる。

同社は、千葉県は千葉市以西、埼玉県はさいたま市以南と、人口が多く所得水準が高いエリアに集中して施設を展開するドミナント戦略をとっている。これには、ある施設に空きがない場合でも、周辺の施設を案内できるため集客しやすく、また、組織運営をシンプルにして経営の目が届きやすくし、サービスの質を均一化させるといった狙いがある。

掲げる理念は、「高齢介護弱者の救済」「地域高齢者が高齢者を支える社会づくり」「生きる力を引き出す介護®と生きる力の介護®」の3つ。他の介護施設では入居を断るような重度の認知症の高齢者なども即日受け入れる、地域の元気な高齢者を「パワフルスタッフ」と称する介護サポートスタッフとして採用する、介護施設に入居する際のマイナスな気持ちを改善し、生きがいを持ってもらえるような非日常のイベントを数多く実施する、といった具体策で、理念の実践に徹している点が同社の大きな特長だ。

▲2018年7月現在、1都3県で有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅46カ所を運営している

入居率の改善に向けて、
“ドミナント戦略”による強みを生かす

同社に2016年4月、56歳で入社した小林さんは、他業界からの転身である。その経緯を次のように話す。

「私は北海道の出身で、離れた実家にはすでに他界しましたが年老いて弱くなった父親がいました。その姿が将来の自分と重なって見えてきたんですね。なんだか切なく感じてきて、ならばまだ自分が元気なうちに介護業界に転職して表(良い点)も裏(改善すべき点・分かりづらい点)も見ておこう、そうすればいざ自分がお世話になるときも家族に迷惑を掛けずに済むだろう、と考えたのです」

創業者であるらいふグループ代表の吉田伸一氏に次ぐナンバー2として、施設部門・在宅介護サービス部門担当取締役に就任し、実質的に同社の経営を担うこととなった小林さんは、真っ先に入居率の改善に取り組むことにした。

「経営基盤は決して強くはないので、広告宣伝や入居者紹介ブローカーに多額のお金を使うことはできません。そこで、まずはドミナント戦略の強みを発揮させることを考えました。例えば東京であれば、小田急線の経堂、千歳船橋、喜多見、狛江といったように同一路線の駅ごとに施設を出す戦略をとっています。これによって、空きがない経堂に入居希望者が来た場合、断るのではなく、いったん隣の千歳船橋に入居してもらい、空くのを待っていただく、といった対応ができます。さらに、海が好きな入居希望者なら、地元の施設に空きがない場合でも、施設長が神奈川県真鶴町の施設を薦める、といったご入居者起点での融通もし合っています」

入居希望者を他の施設に案内し、入居に結び付いた施設長には、1万円のインセンティブを支給して促進しているという。

▲施設部門・在宅サービス部門担当取締役として戦略を推進する小林さん

地域住民とのつながりを深めるため
“地元の顏”に働き掛ける

また、他事業者も実施している入居希望者の体験入居も内容を見直した。業界平均1泊1万5,000~1万7,000円のところ、らいふでは5,400円で6泊7日まで応じることにした。「地域包括支援センターやケアマネジャーから真っ先に紹介してもらいやすくなった」と小林さん。

地域に密着した営業活動にも注力する。同社では、財務戦略上、土地のオーナーに施設を建ててもらい、30年間一括借り上げる方式で施設を展開している。このため、長い付き合いとなるオーナーには同社の理念に共感してもらうことを重要な選定条件としている。

「理念に共感いただいた上で、地域の町内会、自治会、商店会、消防団、老人会などあらゆる団体を紹介してもらうのです。そうした“地元の顔”でもある人たちに施設を説明して、潜在入居者やパワフルスタッフを紹介してもらうよう働き掛けるわけです」

また、地域の老人会には、趣味活動で制作した作品を展示したり、踊りや歌などを披露してもらう地域交流イベントの場として施設を提供する。その際になるべく多くの友人を連れて来てもらうように働き掛け、最後に必ずパワフルスタッフ募集の説明を行うという。こうした地域交流イベントは全施設で毎月2~6回と頻繁に行っている。

▲地域の老人会などの発表会に施設を提供、仲間も呼び込んでもらう

地域のシニアを「パワフルスタッフ」として
積極的に採用し、人材不足を解消

このパワフルスタッフとは、55~80歳ぐらいの地域の元気なシニアを時給制のパート従業員として雇う制度。その数は、現在400名近くと、全従業員の4分の1程度にまで達している。腰が悪い人は移動や移乗はしないなど、本人の体調面や得意不得意、時間的都合といった要因を勘案し、できる業務だけやってもらえるようにしてシフトを組む。

「業務内容によってランク分けし、時給も差をつけています。時給が1,500円と最も高い『パワフルスタッフS』は、ご入居者さんに対して1対1の保険外サービスを提供する『らいふ・ケア・コンシェル®』(後述)を担当していただきます」

パワフルスタッフは、将来の潜在入居者ともなり、さらに周囲の潜在入居者に口コミで施設を広めてくれる存在ともなる。そして、この制度は全社的に人件費の大幅な削減とケアの質の向上というインパクトをもたらした。小林さんは次のように説明する。

「私が着任したとき、派遣の介護スタッフが全スタッフの60%を占めていたんです。その人件費がかさんでいた上に、取り組みに対するロイヤルティが低い人も少なくありませんでした。これを2年間で徐々にパワフルスタッフに置き換えていき、現在派遣スタッフはゼロです。もちろん、当社の研修センターで基本知識や技術を教えてから各現場に送り出しますが、当初は『そんな素人の高齢者を入れてどうするんだ』といった内部からの反発もかなりありました。しかし、そのうち『若い人に比べて仕事の覚えは遅いが、穏やかで世代が近いご入居者さんの本音も引き出せる』と見る目が確実に変わっていったのです。閉鎖的になりがちな施設に地域の目が入るメリットもあります。やりがいを感じて真面目に取り組んでくれますから、この人材不足の中、なくてはならない貴重な労働力です」

▲地域のシニアをアルバイトの「パワフルスタッフ」として積極雇用

対外的なPR活動は、施設ごとにブログを運営させている。最低週2回の更新を義務付けているが、これも当初は現場の反発があったという。しかし、施設を探している人の検索にかかり、見学者が徐々に増えると様子が変わっていった。

「2カ月に1回、ご入居者さんとご家族を本社にお招きして、なぜうちの施設を選んだのか、入居生活の感想はどうか、何か問題はないかといった話をお聞きしています。すると、施設選びの理由では、『家から近い』ということに加え、『ブログで施設長が信頼できそうと感じたから』といったコメントが出てくる。もう、続けるしかなくなりますよね(笑)」

入居者に寄り添い、望みを実現して
“生きる力”を引き出す

さらに、同社では「生きる力を引き出す介護®と生きる力の介護®」という理念に基づき、サービスの充実にも取り組んでいる。入居者の要望を聞き出し、実現させるというサービスだ。目玉は、1対1の保険外サービスを提供する「外出企画」や「らいふ・ケア・コンシェル®」。前者は、箱根の富士屋ホテルに日帰りで行き檜風呂の温泉を楽しんだり、銀座に買い物ツアーに出かける。後者は、例えば「車いすだけど孫の結婚式に参列したい」「もう一度囲碁を打ちたい」「孫とLINEをやりたいから教えてほしい」といった願望に対応する。これらのサービスは、本社の職員が現場職員と共に一日エスコートして実現させている。

▲「日帰り温泉ツアー」での一コマ

「以前、居室にこもりきりだったご入居者さんの部屋で職員が有名歌手のCDを発見し、ご入居者さんから『コンサートに行きたいけれど諦めていた』と聞き出しました。そこで、自分たちがサポートするからと励ましたところ、『自分の足で歩いて行きたい』とリハビリを始めたのです。残念ながら車いすでの外出となったものの、コンサート当日はお化粧もして念願を果たし、『次は絶対に自分の足で行く』とリハビリを継続しています。こうしたサービスこそ、“生きる力を引き出す介護”です」

そのほか、全施設で毎月1回、“移動居酒屋らいふ”を開催している。食堂に居酒屋風ののれんをかけ、カウンター風の席を作り、給食会社に要請して唐揚げや厚焼き玉子、枝豆といった居酒屋メニューを用意してもらい、お酒も出すという企画だ。

「これも、昔通った居酒屋にまた行きたいというご入居者さんの声から始めたものです。8割の人はノンアルコールですが、バラバラに席を用意しても皆さん一つ所に集まって、楽しそうに飲んだり食べたりしていますね」と小林さんは目を細める。

▲“移動居酒屋らいふ”では、施設内に提灯やのぼりなども設置し雰囲気づくりも工夫

「あまりにも準備が大変なので、年2回を1回に減らしたい(笑)」と小林さんが言う“施設対抗カラオケ合戦”という企画もある。エリアごとに代表者3人を選出し、5エリア15人の入居者と家族、また代表者を応援する入居者とその家族が、本社近くのホテルで決勝戦に臨むという。

「歌声を競う企画で、毎回盛り上がりますね。審査員はわれわれが務めるわけですが、後でご入居者さんから『あいつより俺の方がうまいのに、なんであいつが勝ったんだ』というクレームが入ることもありました(笑)。それだけ意気盛んになってもらえるということです」

こうした数々の施策によって入居者の満足が伝播し、集客力を高めていることは想像に難くない。

人材確保では、社員の“出戻り促進”や
入居者家族に手伝ってもらう“奇策”も

職員の確保でも、社員の紹介を奨励するほか、退職者を再雇用する「らいふUターン制度」という制度もある。懲戒以外の諸事情で退職した職員の“出戻り”を促進する制度で、退職時の給与と再入社直前の他社の給与を比較し高い方の給与で迎える。また、再入社時の試用期間中の給与は、通常は90~95%のところ、100%支給するという優遇策だ。退職者には、退職時に有効期限5年の「らいふUターン制度 資格者証」を渡す。

「当時のメンバーと合わずに辞めていったという職員に『メンバーも変わったことだし、そろそろ戻ってこないか』と声を掛けるわけです。即戦力ですから、これほど強力な中途採用もありません」

これまで5名がUターンを果たしている。

さらにユニークな策もある。「ファミリー・ヘルパー制度」だ。入居者の家族に居室内や“向こう三軒両隣”の清掃を手伝ってもらうというもので、10分程度手伝った家族には「新生活サービス1,000円無料券」をプレゼントしている。

「奇特なご家族が空き部屋やオープンスペースを掃除してくれているのを見て、『ご家族も協力していただこう』と思い付きました。もちろん有志ですが、これも施設内に人の目を行き渡らせる副次効果があります」

これらの施策が奏功した要因はどういったところにあるのだろうか。小林さんは、「愚直にやり続けたことに尽きる」と言う。

「私が就任した当時、職員からは『クオーターの外国人が来た』と思われたようです(笑)。『何を偉そうに』と思われていたでしょうね。偉そうにするつもりはなかったので、本気を見せようと、現場でおむつ交換や夜勤などを一通りやらせてもらいました。それで、見る目が変わっていったのかもしれませんね。ブログも当初は現場から反発されましたが、ブログをみたという見学者が増えれば考え方が変わるのは分かっていましたから、じっと我慢して『更新してくれ』と言い続けたんです。地域交流イベントもそうです。集客人数や獲得数をチェックしていますが、自分が前面に出ると角が立つので、エリア本部長を通じて督励しています。なんであれ、『あれがダメなら次これやろう』と、率先垂範し愚直にやり続けるしかないと思っています。今後も、雇用を重視しながら、安定的・持続的に成長を続ける“身の丈経営”を目指します」

▲同社では、自分の意志で上の職位や業務にチャレンジできる「自己申告昇格制度~トライアル制度」がある。その合格者たちと

【文: 髙橋光二 写真: 阪巻正志、株式会社らいふ】

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