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2018.07.06 UP

買い物困難者の課題解決に向けて地域と連携 「移動店舗」「買い物送迎」モデルで生活を支援

高齢化や地元の小売店の廃業、商店街の衰退などによって、住んでいる地域で日常の買い物をしたり、生活に必要なサービスを受けることが難しい人たちを「買い物困難者」という。内閣府によると、その数は高齢者を中心に全国で700万人と推計されており、2025年まで増加する見通しだ。生活協同組合コープこうべでは、それらの人を対象に、宅配事業・店舗事業の両輪で、買い物支援事業に取り組んでいる。今回は店舗事業に焦点を当て、2011年から始まった「移動店舗」、2016年から始まった近隣店舗に無料で送迎する「コープ買いもん行こカー」の施策について、店舗事業部 次代コープこうべ推進 店舗統括の平井寛さんにお話を伺った。

当時は未知数だった移動店舗
開始当初は赤字が続いた

コープさっぽろ、福井県民生協に続き、2011年に始まったコープこうべの移動店舗。2tトラックにコープの商品を詰め込み、公民館や共用スペースなど、決まった曜日(月〜土)・時間・場所に毎週行くシステムで、その品揃えは800品目以上だ。車内には鮮魚や肉の生鮮食品から新鮮な野菜や果物、惣菜までズラリと並ぶ。利用者は、手にとって確かめながら買い物をし、その料金にプラスして税込金額×10%(最大上限150円)の移動店舗協力金を負担する。

「コープこうべの買い物支援事業は、自立生活ができるけれども『自宅近隣までしか外出できない』『外出が困難』という方にアプローチします。当時はまだ、買い物困難者という言葉も定着していなかったころですが、他エリアの実績を受け、西宮市の組合員の方から移動店舗の問い合わせがあったこともあり、コープこうべでも先を見据えて取り組むことになったのです。コープ西宮北店から実験的にスタートし、買い物施設が少ない中山間地域を中心に拠点となる店舗を広げていきました。組合員や宅配事業の地域担当者たちの声も聞きながら、店舗から車で1時間圏内の住宅地や高齢者が多く生活する地域に停留所を設置しました。しかし、この事業はなかなか軌道に乗らず、利用者が1日3名だったこともありましたね。利用者が少ない停留所の場所を変えたりするうちに、こちらから『買い物困難者を探しに行く』という事態になり、2016年までの約5年間は赤字続きでした。定着には時間がかかりましたね」

▲店舗統括の平井寛さんが店舗事業部にやって来たのは2016年。赤字が続いた買い物支援事業の立て直しを担った

▲2tトラックの移動店舗。手すりのついた階段を上がって、車内で商品を手にとって確かめて買うことができる。停留所は、利用者の交流の場にもなっている

▲店内の商品は800品目以上。冷蔵ケースには鮮魚や肉類、新鮮な果物や野菜、すぐ食べられる惣菜、冷凍庫にはアイスクリームや冷凍食品、日用品などが揃う

行政・地域の自治体・住民・コープこうべが
連携協定を結び、成功した「小野モデル」

そんな中、兵庫県小野市での移動店舗が大成功を収める。小野市はコープこうべの店舗はなく、宅配の個配が1,917軒、組合員は8,740名。2016年9月に大きなスーパーが閉店したこともあり、小野市総合政策部より移動店舗について依頼があったという。

「移動店舗は赤字続きだったので、二の足を踏みました。ボランティアではないので、利益を確保しないといけないですから」

利用者がいなければ移動店舗は実現しないと、小野市は地域住民と連携。市の主導で、地域のコミュニティセンターで地域住民に移動店舗車両のお披露目をしたり、市内の約3,000世帯にアンケートを行うなど事前調査も実施した。結果、住民からは「来てほしい」との声が多数寄せられたという。そこで、小野市とコープこうべで「地域支え合いに関する協定」を締結。その後、小野市・小野市市場地区地域づくり協議会・コープこうべの3者で「連携協定」を結ぶことになった。

「成功のポイントは、行政やコープこうべだけでなく、自治体が中心となって、運行を準備したことです。アンケート結果をもとに停留所案が作成され、設置場所の確保は地域住民が主体となって検討しました。運行開始前後には、移動店舗の訪問時間を知らせるチラシを自治体が住民に配布して、積極的に広報活動もしてくれました。結果、訪問開始週の利用者は323人、供給高(売上)は33.3万円。目標170%の達成率でした。

移動店舗が来ればそこに人が集まって井戸端会議が開かれたり、婦人会や行政がボランティアで当番を決めて、階段を上がるのが難しい方を手助けしたり、足が不自由な高齢者の方の荷物を持ってあげたり、家までお送りしたり……。地域住民同士が助け合いながら移動店舗を活用してくださり、運営する私たちとしてもうれしいことがたくさんありました」

「もっとフットワーク軽く、住宅地を回りたい」
そんな思いから生まれた、軽車両の移動店舗

連携協定を結んで成功した事例は「小野モデル」と呼ばれ、神戸市西区、垂水区、加東市へと広がった。また、赤字続きだった他の移動店舗についても改革に着手する。

「他店舗はすでに事業が進んでいることもあり、新たに『連携協定』を結ぶのは難しかったので、こちらの組織を整えました。まず、統括責任者がいなかった移動店舗に専任スタッフを配置。それまで店長に委ねられていた品揃えも購入データを分析して決める形に変更。定番商品+季節感を重視し、手に取りやすい陳列にも配慮しながら日々研究しました。移動店舗ごとの売り上げ速報も、本部に加え各店長に配信するようにしました。業績の「見える化」で意識が高まり、店舗ごとの事業だった移動店舗がコープこうべ全体の事業として成長し、供給高(売上)も前年比120%底上げされました」

一方で、2tトラックでは都市部の住宅街に停留所を作るのが難しく、そもそも入れない道も多い。今後増えるであろう、都市部の買い物困難者へのアプローチを考え、誕生したのが軽車両(軽トラック)だ。

「2tトラックでは駐車の難しかった住宅街も、玄関先まで近づけるのがポイントです。また、階段を上がるのが難しい方でも軽車両なら、荷台の壁が開くタイプなので商品も手にとりやすい。また、品目は400と2tトラックの半分ですが、その分コストも半分。まだ始まったばかりですが、潜在的なニーズはあると期待しています」

現在移動店舗は、2tトラック9台、軽車両1台。10拠点の店舗から週当たり590カ所の停留所を回る。1拠点の利用者数は週200〜400、1日当たりの供給高(売上)は3万〜10万円で平均は7.3万円だ。一人暮らしの高齢者が多いので、一人当たりの単価が低く、売り上げの確保が目下の課題だ。

▲軽車両の移動店舗は、荷台の壁が開くタイプで、商品が見やすいように展示

▲軽車両は腰をかがめた状態で商品がとりやすいと利用者に好評だ

「移動店舗が大変なら、利用者を連れて来よう」
から始まった無料買物送迎車「買いもん行こカー」

移動店舗を続ける中、店舗事業では新たな「買い物支援事業」に乗り出す。それが、2016年に開始した無料買物送迎車「買いもん行こカー」だ。

「移動店舗は、朝に商品をトラックに積み込み、夕方に店に戻します。その労力を考えると、当社の車両で店舗に来てもらう方が早いのではないか、という発想から始まりました。法的に送迎料金を頂くことはできないので、車代、ガソリン代、人件費は店舗の売り上げアップ分で賄う。そこで、『どういう人にアプローチするのか』『年齢』『利用条件』など、細かい戦略が必要でした」

店舗の中でも、まずはショッピングセンターを併設した大型店であり、組合員の多いコープデイズ神戸北町から開始。利用条件は65歳以上・障害者手帳の所持・未就学児有り、のいずれかの条件を満たす組合員で、家は店舗から車で片道20分以内、自力で車への乗降が可能であること。車両は、決まった曜日(月〜金)・時間に家の前まで迎えに来て、家の前まで送り届ける。店舗での滞在時間は、約70分だ。

「利用者の平均年齢は79.3歳、一人暮らしが半数近いですね。だいたい10名近いメンバーが乗り合わせるのですが、顔馴染みとなって、『今日は〇〇さんの家で降ろしてー』と買い物の後、しょっちゅう誰かの家に集まっておられるようです。基本、家の前まで送り届けるため大きな商品やストック商品なども買いやすく、移動店舗の一人単価が平均1,630円に対して、このサービスの平均は約4,500円です。利用者からも『毎週来るからいろんな食材が買えるようになった』『運転手さんに会うのが楽しみ』といった声が寄せられています」

▲利用者の買い物が終わると、店舗の方が付き添って荷物を「買いもん行こカー」に載せる

▲同じメンバーが乗り合わせるので、次第に仲良くなり、「おしゃべりが楽しい」との声も

利用者の少ない小型店舗では、
地元企業と連携する「稲見モデル」

「買いもん行こカー」は、大型店舗であるコープデイズ相生、コープデイズ神戸西へと広がっている。特にコープデイズ神戸西ではボランティアサークル「買い物助け隊」が店内での買い物をサポートし、普段歩くことの少ない高齢の利用者と一緒に店内を歩き、「ショッピング」×「リハビリ」のコラボも展開して好評だという。また、ここへきて小型店舗・加古郡のコープ稲美でもスタート、現在は4店舗5台が稼働している。

「ショッピングセンターの中にある大型店舗では組合員も多く、一定の成果を収めたものの、コープ稲美は、ニーズは多いけれども利用者は少なく、収益面の不安がありました。そこで、着目したのが稲美町の地元企業との連携です。店舗でも商品を販売している地元のメーカー『キング醸造』さんに、『買いもん行こカー』に協力してもらえないかとお声掛けをしたのです。すると、『地域の高齢者支援になるなら、ぜひやらせてください』と。『買いもん行こカー』の車両に企業ロゴを入れることで、車両費用の一部を負担いただけることになりました」

地元企業にとっては、地元住民へのアピールにつながり、コープこうべにとっては、採算面でのメリットが得られ、住民にとっては、買い物の利便性が向上する。この「稲美モデル」で得られたノウハウは、他地域の小型店舗での「買いもん行こカー」サービスはもちろん、移動店舗事業にも活用していくという。

▲キング醸造は「日の出みりん」で知られるメーカーだ。ロゴの上には、「地域の皆様と共に。」下には「日の出みりんは買いもん行こカーを応援しています」とのメッセージが添えられている

地域や企業と連携しながら
高齢者の自立した生活を支援していく

買い物支援事業を展開する中、コープこうべでは現在、店舗から車で片道30分程度の住宅地は「買いもん行こカー」、店舗から片道30分以上かかるローカルエリアは「移動店舗」として支援策を実施している。

「『買いもん行こカー』は、今後都市部でも大きな需要が見込まれます。一方、移動店舗は、都市部だけではなく、ローカルエリアでも軽車両など、よりフットワークの軽い車両を強化しつつ、行政や地域の自治体と協力する『小野モデル』方式にトライしていきたいと考えています」

最後に、今後のコープこうべの役割をどのように捉えているか伺った。

「小野モデル、稲美モデルを通して実感したのは、コープこうべ単体での展開は難しいということ。行政や地域の自治体、地元企業、利用者と協力しながら、社会的課題である、高齢化によって増加する買い物困難者の支援を広げていきたいですね。AIや自動運転機能といった技術の進歩にも期待していますが、買い物は、人が介在しないとできないことも多いのです。状況が刻々と移り変わる難しさもありますが、この事業の目的は、高齢者の方が自分の家に住み続け、自立した生活を長く続けるための支援をすること。そのために、常にサービスを見直し、得られたノウハウを生かしながら支援地域を拡大していきたいですし、地域や利用者の声を集めて新規事業にも取り組みたいですね」

と平井さんは熱く語ってくれた。

▲「移動店舗」「買いもん行こカー」の今後の展開が楽しみ

【文: 高村多見子 写真: 川谷信太郎】

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