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2018.02.19 UP

朝8時の朝食から始まるデイサービス登場! 利用者は早めの帰宅で午後の時間を有効活用

朝7時30分にお迎えに行き、8時からサービスを開始する画期的な“モーニングデイ”が、東京都北区に登場した。“介護保険適用カフェ型デイサービス”を標榜する「あさがお」だ。利用者は13時ごろまでに朝食、昼食、入浴を済ませ、14時には帰宅。午後の時間を自由に過ごせるという“朝型”のサービスに注目が集まっている。また、子育て中の介護スタッフにとっても働きやすいメリットがあるという。そこで、設立の経緯や特徴などについて、管理者の戸田昂志さんにお話を伺った。

おいしさにこだわった朝食は、
施設スタッフが作る自家製パン

「あさがお」の1日は、朝7時30分のお迎えから始まる。施設に着くと、まずはバイタル測定・健康チェックを行い、朝食を提供。その後、レクリエーション・健康体操などのプログラムがあり、入浴や昼食の時間を経て、13時15分には自宅に送るという流れだ。なお、利用者の要望に応じて、8時30分、9時30分のお迎えもあり、15時30分まで施設で過ごすことも可能だ。

施設内のメインスペースは約16畳の和室。玄関は、三和土で靴を脱いで上がるスタイルで、メインスペースとは障子の引き戸で仕切られており、室内は自宅のような落ち着いた雰囲気がある。

そして最大の特徴は、朝食のサービスだ。製パン機で作る自家製パンにこだわり、厚切りトーストにバターとジャム、サラダやハム、目玉焼きにコーヒーも付けた“モーニングセット”を出している。

▲「あさがお」管理者の戸田昂志さん。法人の介護事業統括責任者でもある

「室内にパンを焼く香ばしい匂いが漂っているので食欲が湧くせいか、それまで薄いパンを食べるのに時間がかかっていたご利用者さんが、厚切りのパンを短時間でペロッと食べておられます」と戸田さんは目を細める。利用者の方も「とってもおいしい」(田口孝子さん・85歳)と評判は上々だ。

▲自家製パンによるおいしい朝食に、会話も弾む

“モーニングセット”で
利用者に1日のリズムを

早朝から始まり、朝食まで提供するデイサービスは少なく、非常に珍しいといえる。2016年2月に「あさがお」がオープンした経緯について戸田さんに伺った。

「この施設は宗教法人の正光寺が運営しています。鎌倉時代に開山したお寺なのですが、現在の法人代表が、長く続けられたのも地域のおかげであると、地域に恩返しをするために社会福祉事業として始めたのが、保育園とデイサービスです。介護事業であるデイサービスには、高齢者が生活を楽しみ、輝ける場所を作りたいとの思いがあったと法人代表から聞いています」(戸田さん)

デイサービスを運営するにあたり、法人代表には“原風景”というべき記憶があったという。戸田さんは続ける。

「現在39歳の代表は、父親世代の人たちが、朝の出勤前に喫茶店でモーニングセットを食べて1日のリズムを作っていたという強い印象を持っていたようです。こうした代表の思いを受けて、喫茶店のようなモーニングセットを提供してご利用者さんにリズムよく一日を過ごしていただけるデイサービスをと考え、現在のスタイルとなったのです。朝食がご飯ではなくパンである理由もここにあります」

また、毎日10時からは同法人が運営する保育園とインターネット会議システムでつなぎ、“バーチャル交流”を行っている。

「ご利用者さんは、それぞれ保育園に担当の園児がいて、画面に映ると嬉しそうにその子の名前を呼んで、『大きくなったね』『風邪はもう大丈夫?』などと声を掛けておられます。楽しみのひとつになっていると思いますね」(戸田さん)

▲同じ法人の保育園と、毎週インターネット会議システムで交流

帰宅は14時前後のため、
午後の時間を自由に使える

一般的なデイサービスは、午前中から夕方まで施設で過ごすことが多い。「あさがお」では、早朝から13時15分までの間に、朝食、昼食、入浴を済ませるので、それ以降の午後の時間をまるまる自由に過ごせることが大きな特徴といえる。

「『大相撲が始まるまで2時間あるから散歩に行く』『ゆっくり好きな編み物ができる』『日が暮れる前にお買い物に行ける』といったご利用者さんの声をよく聞きます」(戸田さん)

利用者の赤沢ヨシさん(92歳)は、次のように話す。

「一人暮らしをしています。転んで打撲したことを機に、息子が『あさがお』に通うように手配をしてくれました。ここに来ている間は、安心して時間を過ごすことができ、午後は好きな読書などをしています」

モーニングデイサービスは、子育て中のスタッフにとっても働きやすいというメリットがある。朝、保育園に子どもを送りがてら出勤し、勤務が終わってからお迎えに行けるのだ。そのためか、2016年度の離職者は“ゼロ”だったという。

一方、利用者を送った後、自由に過ごせるようにしてしまうことは、目が届かなくなるということでもある。そこで、法人として訪問介護事業もスタートさせ、午後のサポートも手掛けられるようにしている。自己負担にはなるが、買い物など外出の付き添いにも応じるという。

「訪問介護のスタッフはデイサービスのスタッフが兼務しています。知っているスタッフが担当するのでご利用者さんは安心できると思いますね」(戸田さん)

▲在宅時間を充実させるためにも、機能訓練に力を入れている

利用者の選択肢を増やし
参加率は約95%という高さ

周辺地域には一般的なデイサービスが4カ所あるが、戸田さんは、他の事業所とは「競合ではなく、協調関係にある」と捉えているという。

「私たちは、あくまでも“モーニングデイ”や“在宅生活支援”という機能と役割を明確にして、そのニーズをお持ちのご利用者さんにサービスを提供したいと考えています。ご利用者さんの中には『ここで夕方まで過ごしたい』とおっしゃる方もおられますが、そういった場合は、近隣のデイサービスをご利用いただくようにお願いしています」(戸田さん)

つまり地域の利用者にとっては、利用する時間帯に応じてデイサービス施設を選べるため選択肢が増えることにもつながる。「あさがお」は、ニーズに対応する形で運営しているためか、参加率は約95%だ。通所介護を行うデイサービス(一般型)の平均参加率は約7割*であり、その数値はかなり高いといえるだろう。

「早朝のニーズに対応する、というだけでなく、来ていただいたら、ご利用者さんに心から笑っていただけるようにスタッフ一同努めています。そのためか、休むご利用者さんはとても少ないですね」(戸田さん)

*独立行政法人福祉医療機構「平成 27 年度 老人デイサービスセンターの経営状況」より)

▲チラシをポスティングするなどして地域の認知度向上を図っている

課題は、地域の認知度向上
地域への浸透に努める

「あさがお」では、商店街にある立地の良さを生かし、利用者が帰宅した午後以降に、地域の趣味の会や商店街の会合の場所として施設のスペースを開放して活用を働き掛けている。

「介護保険の使い方が分からない、といった方はまだまだたくさんいます。そんな地域の方にとって、私たちが窓口になり、地域包括支援センターにつなぐといったことにも今後は積極的に取り組みたいですね。そのため、介護について分からないことは戸田に聞けば何とかなると思っていただけるよう、商店会に参加するなど地域に溶け込むことにも努力しています」(戸田さん)

当面の課題は、周辺地域の認知度向上であるという。定員10名で登録は約20人ほどであるが、目下、常時6~7人の利用だ。戸田さんは次のように話す。

「ケアマネジャーさんは通常のデイサービスに慣れておられるので、朝7時30分にお迎えにいくサービスをどのようにご利用者さんやそのご家族に案内したらよいかなど、迷われることも少なくありません。そこで、特に一人暮らしの高齢者の方には、早朝の送り出しをサポートするヘルパーさんを稼働していただくといった提案をしながら、サービスの浸透を図っているところです」

デイサービスを必要とする利用者のニーズも多様化している。“モーニングデイ”という選択肢が増えるだけで、その地域の利用者にとっては利便性が高まるといえるだろう。今後、各地に増えていくことが望まれるところだ。

▲「あさがお」は、地下鉄南北線「志茂」駅から徒歩7分の商店街の一角にある

【文: 髙橋光二 写真: 刑部友康】

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