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2016.07.01 UP

熊本の被災地支援活動から見えた 災害現場のリアルと取り組むべきこと

地震大国の日本において、大規模災害はいつ発生するか分からないもの。介護業界でも、平時から対策を考えていくことが必要だ。小規模多機能ホームを営む株式会社ぐるんとびーの代表取締役・菅原健介さんは、東日本大震災で被災地支援のボランティア活動を経験し、2016年4月に発生した熊本地震においては、異業種の団体と連携して被災地支援に取り組んでいる。被災地域を回り、その状況を見てきた菅原さんに、介護の視点も含めた「被災地において今後必要とされる取り組み」についてお話を伺った。

熊本地震発生の3日後に現地へ
長期的な支援を行うチームも発足

菅原さんは、東日本大震災の際にも、母・菅原由美さんが代表を務める全国訪問ボランティアナースの団体(現NPO法人キャンナス)における被災地の支援を行った経験を持つ。延べ1万人を越す看護師を被災地に派遣したキャンナスで、菅原さん自身は各地に必要な人材をコーディネートする後方支援をしたという。2016年4月に大きな被害を受けた熊本地震においても、直後から迅速に動き、キャンナスとともに支援活動を続けている。

「熊本地震の発生から3日後、4月17日に現地入りし、各地の避難所に支援物資を運びながら状況を把握していきました。現地では看護師や理学療法士、介護福祉士など、医療・介護系の人手が圧倒的に足りず、避難所も医療団体も疲弊している状況でした。そこで、すぐにキャンナスとともに、後方支援のコーディネーターとして活動をスタートしたのです」

さらに、 “災害時、子ども死者ゼロを目指す”を掲げ、湘南エリアで地域防災に取り組むボウサイダー制作委員会と連携。長期的に現地で活動できる人材を集め、コーディネートしていくことを目的とした「ぐるんとボウサイダー熊本災害対策チーム」を発足させた。

「現地における医療・福祉のボランティア活動をスムーズに行うには、状況を把握して取りまとめる人材が必要だと感じました。そこで、長期的に人材を派遣するための仕組みを作ろうと考えたのです。現在まで、現地に看護師や支援物資を送り届ける活動や、自社の看護師を現地コーディネーターとして長期派遣するなどの支援を続けています。また、運営活動応援寄付金を募るサイトも立ち上げ、運営資金に充てています」

一緒に活動するボウサイダー制作委員会の代表・川島勇我さんは、菅原さんの高校時代の先輩だという。

「東日本大震災の直後、地元の藤沢地域で異なる業種や職種の人々がつながりを持つことが大事と考え、仲間と一緒に『絆の会』という交流会を開催しました。川島さんとはそこで再会し、今回の活動につながりましたね。現在、この会は40名のメンバーで構成されていますが、『ぐるんとボウサイダー』の運営資金の支援をしてくれたり、別の形で支援活動に取り組んでいる人と互いに情報交換できたり。こうしたつながりが、災害発生時に生きてくるものだと実感しました」▲熊本地震の3日後、物資とともに現地へ。中央が菅原さん、左がボウサイダー制作委員会の川島さん。各地の状況を把握し、どういった支援が必要とされているかを把握していった

行政や支援団体は早期に活動開始
一方で現地に情報が届かない現実も

熊本地震発生直後、現地入りした菅原さんは、東日本大震災のときとは違い、すでに組織立った支援体制がとられていることに気付いた。

「東日本大震災の経験を生かし、行政や自治体をはじめ、さまざまな災害支援の団体が動いている状況でした。介護業界においても、介護福祉士会やグループホーム連絡会、リハビリ支援関連団体のJRATなどが協会レベルで連携し、サポートを行う組織的な体制ができていたのです」

一方、益城町を中心に熊本市内各地の避難所を回りながら情報収集を行う中で、バラバラに分断されたエリアごとに、被害の格差があることが分かった。

「東日本大震災のときのように大きな被害を受けたエリアが広範にわたっているのではなく、被害の激しい地域が局所的に点在していました。また、知人が身を寄せていた避難所では、5人家族でもおにぎり2つ、ビスケット5枚、水2本しか支給されていなかった。ところが、そこから徒歩5分のコンビニは営業していて、ジュースなどを購入できる環境があり、さらに車で15分離れたエリアでは焼肉店が通常営業をしていたのです」

少なくとも、熊本市内においては、生活に大きな支障が出ているエリアと、通常通りに機能しているエリアが混在していたのだ。飲食店のライフラインは、経済活動の復旧のために優先されたという背景もあったが、このとき、菅原さんは、情報を共有することの難しさを実感したという。

「被災して命からがら逃げてきた方々は、ひどく動揺している状態であり、避難所の外で何が起きているのかも分からないまま動けなくなっていました。熊本は地震の少ない地域だったので、精神的なダメージも大きかったはず。また、お年寄りも多いため、情報収集の手段は、被害が甚大な地域を中心に取り上げるテレビやラジオがメインになりますし、Twitterなどを利用している若い人も、膨大な情報の中から自分たちに直接関わるような情報を探しきれないようでした」

実際、避難所で他のエリアの様子を話すと、多くの人が驚いていたという。一方、近隣で飲食店が営業していると知っていた人もいたが、先が見えない避難生活への不安が大きく、動くに動けない心情だったという。必要な情報が行き渡らず、被害の大きさのみがクローズアップされていたことから、不安ばかりあおられる状況があったようだ。▲益城町の避難所で炊き出しの手伝いをする作業療法士。現地に一カ月以上の長期滞在をしている。ぐるんとボウサイダーの支援の一環として、ぐるんとびーのスタッフの看護師も長期派遣しており、現地の状況を把握しているコーディネーターとして活動中だ

平時から地域が連携すれば
地域包括ケアの準備につながる

それでは、もしも被災したときのために、介護に携わる人たちはどのような準備をすればいいのだろうか。菅原さんは、「東日本大震災の際には、平常時から“顔の見えるつながりがある地域”は、助け合いができていた」と話す。

「例えば、石巻には福祉避難所ができましたが、それまでの間、各地の避難所や仮設住宅では、住民の皆さんとボランティアの人々が協力して介護の必要な方を支えていました。災害時には、既存のサービスや制度では対応しきれないもの。平時から既存の枠を超え、地域住民やさまざまな団体が連携・協力し合える体制を作ることが大事ですし、それがこれから先の『地域包括ケアが必要とされる時代』の準備にもつながると考えています」

菅原さんの運営する小規模多機能ホーム「ぐるんとびー駒寄」は、団地内という立地を活用し、子どもからお年寄りまでつながりを持つ立体的な人間関係づくりに力を注いでいる。「団地内を一つの家族にすること」を目標としているが、これと同様に、地域で助け合うきっかけとなる仕組みが必要だという。

「災害時の課題は、平時の課題でもありますから、日頃から相談し合い、まめに連絡を取り合えるような、少しおせっかいなくらいの環境を作った方がいいと考えています。現在、僕は地域の自治会役員も務めているので、今後は防災をキーワードに地域全体がつながりを持てるような取り組みを始めていくつもりです。人間は、想定外のことが起きると動けなくなるので、まずは事前防災の訓練を行うことが重要ですね」

また、若い人には、電気が止まればご飯が炊けないとパニックになる人もいるが、年配者であれば、すいとんで急場をしのぐなどの知恵を持っている。「地域が連携すれば、若い人に助けてもらうだけでなく、年配の方からいろんなことを学べる機会も作れる」と菅原さんは考えている。▲ぐるんとボウサイダーの応援寄付金を募るホームページ。看護師1名の長期派遣費用と今後の情報発信に必要な費用を集めることができたという。今後は熊本市内に長期滞在して取材活動を行うライターを募集する予定だ

行政や地域のさらなる連携に期待
今後は情報発信の課題に取り組む

菅原さんは、今後、行政や自治体による周辺地域との連携の仕組みができることにも期待していると話す。

「隣組や姉妹都市のように地域間が連携し、お互いに助け合えるような仕組みがあればと考えています。熊本市内のように、局所的に被災エリアが分断された場合、被災エリアの隣町の方々が水や食料を運ぶような仕組みがあったら、よりスムーズに物資が行き渡ったのではないかと思います。例えば、隣接する市や町の小学生が交換留学のようにホームステイする仕組みを作ったり、中学や高校、大学などの学校間で姉妹校のような交流活動を行ったりすれば、より地域間のつながりも強くなる。災害時も迅速な支援ができるのではないでしょうか」

ぐるんとボウサイダーでは、情報の発信・共有についての方法を模索していくという。

「救援物資の情報発信などは、自治体サイドで整備が進んでいますが、インターネット上には膨大な情報があふれているため、必要な情報が埋もれてしまいがちです。介護の必要な人、障がいがある人、子育て中の人など、立場に応じた支援情報をまとめ、フォローできるような仕組みがあればと感じました」

また、Twitterなどで個々人が情報を発信する場合には、被害状況の取り上げ方が主観的になるケースもあり、それが不安をあおってしまう可能性もある。

「これから熊本の被災地を一人のライターが回り、さまざまな状況や取り組みをまとめて発信する活動を始められないか検討している。主観的ではなく、客観的に判断できる情報を一元化することで、被災時の情報発信における問題提起の一助になればと考えています」

こうした状況を踏まえ、いま、わたしたちが災害に備えて“できること”は、日頃から地域のコミュニティに参加するなど「顔の見える関係性」を築くことかもしれない。

【文: 上野真理子】

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