ヘルプマン
2013.09.28 UP
障がい者のサポートセンターで、相談員として働く矢野友里恵さん。サービスの紹介はもちろん、必要とあれば他の施設や就労支援センターへも同行。本人の希望に耳を傾け、一緒にベストの方法を考えています。そうして、「できない」とあきらめていたことが実現したり、一歩を踏み出せたり、その方の人生が輝きだす瞬間に立ち会えることが何よりうれしいのだとか。 (※この記事は2012年以前のもので、個人の所属・仕事内容などは現在と異なる場合があります)
小学生と障害がある方の間に見えた「絆」
神奈川県相模原市の実家周辺には、障害者や高齢者の支援施設がいくつかあって、中学生の頃から自然と福祉への興味が芽生えていました。上智大学の社会福祉学科に進み、「障害がある人たちが地域の中でもっとあたり前の存在となるお手伝いがしたい。そのために自分が学校や地域とのパイプ役になりたい」という思いを抱くようになり、教授にもその思いを伝えると、実習先として真っ先に紹介されたのが「訪問の家」でした。
実習期間中、ちょうど小学校との交流会があり、そこには私が学生時代に思い描いた、子どもたちと障害のある方の自然な交流の姿がありました。小学校の1・2年生から6年生が対象で、1・2年生は高齢者の施設で過ごし、3・4年生は重度の障害の方の施設「朋(とも)」で、5・6年生は同じくサポートセンター「径(みち)」を訪れ、パン作りやアルミ缶の回収などの作業を一緒に体験します。毎年数回、施設を訪れることで、お互いの理解を深めていき、小学校の卒業式には施設の利用者の方も花道に並んで「おめでとう」と声をかけ、一緒に写真撮影したりします。
実習を終えた時には、迷うことなく「ここで働きたい」と心を固めていました。
5人のチームワークで挑む「竹炭づくり」
1年目はサポートセンター「径(みち)」で、利用者さんと一緒に竹炭製品(消臭や浄水に効果があります)を作るグループ「たけっこ」に所属、重度の自閉症や知的な障害がある5人の方と一緒に竹炭づくりや販売のお手伝いを担当しました。施設のある横浜市栄区にはまだ竹林があちこちに茂っていて、懇意にしていただいているお宅の竹林から竹を伐り出したり、提供してもらったりします。その青竹を10cm大に等分にカットし、炭窯で数日間焼き、焼き上がった炭を選別し、使える炭はさらに磨いた上で、台紙と説明書を一緒にラッピングして完成です。
この一連の作業を5人の方と一緒に行うのですが、みなさんのほうがベテランなので、私が教えてもらう立場。5人の中での人間関係もあり、その間を上手く調整したり、誰かが調子が悪くてパニックにならないよう、例えば音に敏感な方はなるべく静かな場所で作業してもらったりなど、事前に環境を整えることが私の役割でした。
みんなで成し遂げる充実感
ある利用者さんの場合は、他の人が自分と別な作業をしていると気になってしまうため、なるべく他の人が視界に入らないよう、作業に集中できる状態をキープするように配慮しました。作業が思うようにはかどらず、竹炭の生産ペースが遅れたりすると、職員が夜中まで炭を磨いたりすることもあり、一連の作業を終えて商品ができ上がった時や商品が目の前で売れた時が、何にも勝る瞬間です。
「たけっこ」のメンバーには言葉のコミュニケーションがうまく取れない方もいらっしゃるので、「わーっ、できたーっ」と声をかけて、みんなで充実感、達成感を味わう雰囲気づくりを心掛けました。売れたことを自分で理解されている方もいますし、雰囲気で何となく実感される方もいろいろですが、みなさんそれぞれにものづくりへの自負があるようで、やはり自分たちの作ったものが評価されて売れるというのは、すごくうれしいことなのだと思います。
「他人の人生」に寄り添うということ
2年目には同じ「径(みち)」の相談支援室に異動。地域の障害のある方やそのご家族、学校の先生などの相談に乗り、どんなサービスが利用できるかをご紹介したり、実際に他の施設や区の就労支援センターなどへ同行したりします。また、相談をうかがう中で「こういう資源があったら、もっと暮らしやすいのではないか」というニーズを汲み上げ、自治体に対して新しい資源を創る提案なども行っていきます。
よく先輩に言われるのが、私たちが対峙しているのは「他人の人生」だということ。サービスを利用するのは自分ではないのだから、ご本人がどういう暮らしをしたいのかに耳を傾けることが大切です。私たちにできるのは選択肢を提示し、一緒に最善の生き方を考えること。ついついそれがいつの間にかこちらの主観にすり変わってしまったりしがちなので、なるべく区のソーシャルワーカーや他の施設の相談員、看護師さんなどと組織や職域の枠を超えたチームを組んで、支援の方向を探っていくようにしています。
その人にとっての社会への扉を開く
ある40代の男性の方の場合、身体に障害があり、家に引きこもりがちで、一般の企業で働くのは少し難しいけれども、もっと社会参加できるにはどうしたらいいかと支援者のチームで考えていきました。ご本人は働いてみたいという意志はお持ちだったのですが、長年ご自宅で暮らしていたのでいきなり就業は自信がない部分もあり、チームで議論を重ねた結果、まずは週に数回ヘルパーを派遣して一緒に外出することから始めてみようということになりました。
最初、ご本人は「自分1人でも外に出られるから…」と消極的だったため、少し迷いつつも「試しにやってみましょう」とお勧めして、渋々ご了解いただきました。ところが実際に始めてみると、通院や買い物をきっかけに、誰かと一緒に歩く安心感や少しずつ外に出る楽しさを思い出していただけるようになりました。「今度はちょっと遠出したいね」とおっしゃっていて、筋トレも始められたそうです。
こんなふうに利用者さんが一歩ずつ前に進む喜びを一緒に共有できることが、何よりもうれしいですね。
矢野さんからのメッセージ
障害のある方が道を歩いていても何の違和感もない日常の風景……それが私の理想です。でも実際は、関係機関に連絡しても「サポートセンター『径』って何?お宅はいったいどちら様?」という反応があったりして、まだまだ施設の存在感も大きくありません。
もっともっと、一般のみなさんにも障害のある方のことを理解してほしいと思います。そのために少しでも自分が力になれたらうれしいし、同じ思いをもつ方にはぜひ参加してほしいですね。
【文: 高山 淳 写真: 山田 彰一】