行政・自治体の取組
2022.09.01 UP
前回、奈良県生駒市の取り組みとして「自治体3.0」をベースとした地域包括ケアについてお聞きした。令和二年からは、住民が主体となり、高齢者だけではなく多世代の方も集まる地域コミュニティづくりがスタートしている。実際に生まれたコミュニティの事例や、住民主体で運営されるための工夫、行政内部の横の連携等について地域コミュニティ推進課の白川徹さんにお聞きした。地域コミュニティを作りたいと考える、自治体や福祉事業者の方の参考としていただきたい。
■目次
・前回:自治体3.0をベースにした地域包括ケア
・生駒市における複合型コミュニティづくり
・住民主体で運営。「こみすて」「二丁目図書室カフェ」「ワクワク農園」とは
・住民主体で取り組むために必要な自治体のサポートとは
・市民との協創を実現するために工夫していること
・庁内における他部署間の連携の方法
・生駒市が目指していること
・お知らせ:11/9(水)自治体担当者4名が登壇!「未来につながる共創と対話」オンラインイベントのお知らせ | HELPMAN JAPAN
市民が中心となり運営するコミュニティとコミュニティの自治を支えるヒント
――複合型コミュニティづくりの経緯についてお教えください!
複合型コミュニティづくりの事業は、令和元年度から始まりました。もともと生駒市には「いきいき百歳体操(住民が主体となり運営する交流や運動ができる場所)」等を中心とした高齢者向けの通いの場がありました。そこに、地域の方々が求める機能やサービスを落とし込んでいくと、生活の利便性も向上していくのではないかと思っています。住民や地域の方が歩いて行ける活動拠点を作ることで、前回お話しした「家から歩いていける距離」に様々な機能を持った拠点が立ち上がり、そこに人が集まりコミュニティが作られていくという考え方です。
――複合型コミュニティについて具体的な取り組みをお教えください!
このように様々な方が集まる場のひとつが「こみすて」です。「ごみ捨て」と「コミュニティステーション」をかけて名付けた名称で、「ごみ捨て」を通じて交流が生まれる場所となることを狙っています。ごみ捨ては基本的に全年齢の誰しもが行うということに着目しました。
この取り組みには2つの狙いがあります。1つ目に、人が集まる場づくりについて多世代の関わりを加速させること。2つ目に、ごみの削減をすること。この取り組みは、当時すでに他自治体で導入されていたもので、生駒市でも実現可能か、環境系の民間事業者と一緒に国の補助金を使って実証実験をすることになりました。
令和元年度は、2つの自治会で約2か月間実施。始まってみると様々な良い事例が生まれました。例えば、認知症の症状がある方が「こみすて」に通い、様々な方とコミュニケーションを取るようになりました。そうすることで、ご本人がお化粧をするようになり、元気も取り戻すように。さらに、冬場の取り組みだったこともあり、自治会館のゴミ出しの場にこたつを置いたところ、子どもたちが集まり、自然な形でお年寄りとのコミュニケーションが生まれる場にもなりました。子どもたちから「この“場”を自分たちで管理したい、集まる人のお世話をしたい」という提案も生まれ、今までになかった世代間のつながりを作ることができました。
一定の成果を得た上で実証実験を終えたことから、翌年度「こみすて」の取り組みを横展開することになりました。市で新たな補助金を創設し、コミュニティづくりをする自治会に対して、補助金を交付するようになりました。
▲自治会による「こみすて」運営の様子。様々な世代が自然に集まっている。
人が集まるきっかけはゴミ捨てに留まらず、自治会から地域の特性に応じた取り組みを自由提案していただいています。例えば、自治会館の一室を図書室にして地域の方が集まれる場を作ったり、野菜の移動販売と同時に自治会主催の屋台を開く自治会もありました。
その他にも、地域の中にあった耕作放棄地をみんなが集える場にした自治会もあります。自治会が耕作地を借り自治会のメンバーで開墾することで、コミュニティ農園のような形ができます。そこでは月に1回程度イベントが開催され、子どもから大人まで集える場になっています。
▲ワクワク農園と同時開催する出張図書館の様子。
本年度で3年目。そろそろ各自治会の取り組みをモデル化した上で、補助金を交付する方向性も視野に入れています。
――地域の方が主体的に進めるにあたり、自治体としてどのようなサポートをされていますか?
コミュニティは自主的に地域の方々で運営していただいています。地域の自治会のみなさまからすると、特定の事業にのみ補助金が出る制度を市から案内すると、「また仕事が増えるのか」と感じられてしまう。そのため、求める場や人が集まる機能は、地域のみなさまで考えていただく方が、本当に地域のニーズに合ったものが生まれやすいと思っています。
ただ、全てを地域の方々だけで考えて実施することは難しい。そのため、行政でもサポートをしています。例えば、翌年度実施したいという自治会に向けてワークショップを行ったり、外部講師をお呼びするなどして、段取りを立てて事業計画を立てるサポートをしています。
また、地域拠点の機能を充実させるために、地域拠点に自社のサービスを連携・展開する事業者を募るという役割を行政が担っています。一つの自治会が声を上げるだけでは事業者との連携が難しい場合も、複数の自治会から声があがっていることを踏まえ、行政が中心となってニーズがあることを伝える。そうして、連携いただける事業者を探しに行っています。
これから連携を考えているテーマは、買い物支援。キッチンカー等を使って移動販売をされているような事業者等のネットワークを作る予定です。そして、複合型コミュニティを運営している自治会の拠点を中心に回る。そのような形で拠点の機能の充実を図っています。
▲移動販売を通じて、地域の方が集まる様子
▲自治会を中心に行われた野菜を販売する朝市
――市民の方との協創を実現するために工夫していることをお教えください。
市民の方にとって都合が悪いと感じられるようなことも伝えています。お互いができることやできないことを理解しつつ、さらにベースに納得感と信頼がないと進まないからです。例えば、生駒市の生産年齢人口は、現在の6万7千人から2050年には4万7千人まで減少すると推計されていること。生産年齢人口の減少により、今後はお金があってもサービスは受けられないかもしれないこと。そのような、マイナスにも捉えられかねない未来の話も含めて、啓発しています。
そして、生駒市では「できません」ということも正直に伝えています。「今これを行うにあたり、1から7はできるけど、8や9はできない。具体的に8と9ができない理由はこうで、物理的に難しいのです」と説明することで納得していただく。このように説明した責任から、1~7は生駒市が確実にやらなければならない。その覚悟を伝えることにもなります。
このようなやり取りを通じて信頼を得ることで、市民の方の大きな力をお借りしながら、事業を進めることができています。市民の方からも「何でも行政にやってもらうのではなく、自分でできることは自分でやる。その方が自分たちも健康になる」との声も上がっています。
▲自治会が主体となって作る地域の方向けの二丁目図書室カフェ
――生駒市庁内における他部署間の連携をどのようにされているか、お教えください。
白川「福祉の分野は福祉課の管轄、地域コミュニティづくりはコミュニティ課の管轄、と縦割りになりがちかと思います。しかし、複合型コミュニティを進めるという同じ目標がある中で、私たち地域コミュニティ推進課と地域包括ケア推進課などの、自治体3.0をベースとした横串の連携が必要です。そのため、プロジェクトチームをつくり、全庁的に連携ができるようにしています。各部署同士で、『複合型コミュニティづくり』に関することを共通言語として考える組織づくりを、今まさに頑張っています」
澤辺「白川が所属する地域コミュニティ推進課を中心に、大きな制度から地域にアプローチする施策と、私たちが所属する地域包括ケア推進課として、1人の高齢者、1つの通いの場へとアプローチする施策。それぞれの立場・役割から、結果的に同じ目標である複合型コミュニティづくりにつながっていきます。例えば、私たち地域包括ケア推進課が関わる福祉の文脈で地域コミュニティづくりがなされる中、実は地域コミュニティ推進課とも裏側で情報共有し、より良い取り組みにするという連携を行っています」
――今後、生駒市が目指していることをお教えください!
今後目指していることは、複合型コミュニティ拠点に対して行政の機能もアウトリーチしていくことです。複合型コミュニティが広がった先にあるビジョンとして考えています。
コミュニティの場に、ちょっとした行政的窓口の機能を設け、相談・手続き機能を付ける。つまり、待ちの姿勢ではなく、ケアを求める一歩前の人と出会う場としてアウトリーチできる場にもしていきたいと思っています。そうすることで、坂が多い地勢である生駒市において、今後の高齢化の進展に伴い、何かお困りごとや相談したいことがあるにも関わらず市役所まで行くのが難しいという方が増えたとしても、身近な拠点で様々な行政サービスを受けることができる安心・安全なまちづくりにも繋がるのではないかと考えています。
――白川様・澤辺様、ご紹介いただきありがとうございました。
▲白川様(右)と澤辺様(左)。オンラインにて取材させていただいた。
▼おしらせ
11/9(水)自治体担当者4名が登壇!「未来につながる共創と対話」オンラインイベントのお知らせ | HELPMAN JAPAN
【文: 生駒市,HELPMAN JAPAN 写真: 生駒市】