HMJ活動紹介
2023.03.16 UP
2022年11月9日にHELPMAN JAPANは、オンラインイベント「未来につながる共創と対話」を開催。当日は、福岡県福岡市、大阪府豊中市、奈良県生駒市の担当者に事例を紹介いただきました。また、自治体職員として「対話」の必要性を伝えるために活動されている福岡県の今村氏にファシリテーションいただき、各事例について対話を軸に全登壇者でトークセッションをいたしました。今回は、当日のイベントの様子について概要を報告します。プログラム内容など、詳しく知りたい方は、HELPMAN JAPANへお気軽にお問い合わせください。
目次
・“共働”するには、納得が大切。市は大きな方向性を提案し、話し合う時間を多くとることを重視。(講演テーマ1:「立場を超え共働で発信する『福祉介護人材の魅力』」福岡市)
・定量評価ではないエピソードとしての実感をメンバー全体で共有。「エピソード」として積み上がる風景について、共同作業を通じてつながったメンバーと共有することで共感性を育む。(講演テーマ2:市民参加型のオープン会議が生んだイベント「いきてゆくフェス」豊中市)
・新しい機能やサービスを追加することで、多様な主体に参画してもらう仕組み。多様な主体が参画する複合型コミュニティ(講演テーマ3:「『自治体3.0』をベースとした地域包括ケアと地域コミュニティ」生駒市)
・私たちが互いに交わす「対話」は多様な意見を持つ多種多彩な市民同士の情報共有、相互理解のためのもの(トークセッション:「対話」が拓く私たちの未来)
複数の関係者が存在する福祉・介護業界で共創するためのヒントを得る
当日のイベントは、HELPMAN JAPANがこのイベントを開催する背景をお伝えすることからスタート。イベント開催にあたってのHELPMAN JAPANの想いとしては、「複数の関係者が存在する福祉・介護業界で共創するためのヒントを得る」こと。
複数の関係者がかかわる福祉・介護業界において、共創が必要な場面が多くあります。一方で、それぞれの立場からの視点では理解が不足することもあり、分断が生じてしまうことも起こりえます。今回のイベントを通じて、共創するためのヒントを得ていただき、明日からの介護・福祉業界の魅力発信・人材確保の取り組み向上につなげていただくことを狙いとして、開催いたしました。
講演テーマ1:「立場を超え共働で発信する『福祉介護人材の魅力』」福岡市
講演テーマ1では、立場を超え共働で発信する「福祉介護人材の魅力」と題し、福岡市福祉局高齢社会部 高齢社会政策課福祉人材係長 福留 裕一さんよりご講演を頂きました。
はじめに、対話と議論の違いについてお話をいただきました。「対話には共通理解を目指して協力するという態度の大切さや相手を理解しようというベースが必要」。続いて2つの事業【地域住民と外国人介護人材との草の根交流事業】【福祉人財共働ワーキング】をもとに、対話についてお教えいただきました。
【地域住民と外国人介護人材との草の根交流事業】では、「地域住民と『よく話をする、交流がある』外国人介護職員の60.1%が、5 年後も『日本で介護の仕事をしたい』と答えているという厚生労働省のアンケートから、外国人の介護職員が地域社会に馴染み、そして定着していただけるようにと始めた」とのこと。年3回の地域・外国人介護職員との交流会を実施することになりますが、各部門、関係団体、市民との連携に至るすべてのプロセスにおいて、相手を立てる対話の要素が入っており、結果として地域の伝統行事に外国人介護職員が参加するなど、交流が継続しているそうです。
続いて【福祉人財共働ワーキング】 の事例を紹介いただきました。福祉人財共働ワーキングは、国・県・市、介護関係の職能団体や介護福祉士養成校等が共通の目標を持ちそれぞれの強みを生かしながら、業界全体で連携して人材を呼び込むための方策を講じる一つのチーム。年3回程度の全体会議の開催の他、そこで出たアイディアをもとにパイロット事業も行っているとのこと。令和2年度には、中高年者向けに介護の多様な働き方を紹介する「ふくおかKAIGO人ファイル」を作成。月の最大PV数が2,000件となるなど、多くの方に介護の仕事を知っていただく機会を作ることができたそう。
この連携が至るまでに重視したことは、「福岡市がやりたいことを承認して欲しいというスタンスではなく、市は大きな方向性を提案し、議論用の簡単な資料を準備した上で、話し合う時間を多くとること」。
最後に福留さんからは、「将来を見据えたときに、介護職員を増やす取り組みなど、今の内から準備を進めるという視点の大切さ」についてお話いただきました。
▲介護関係団体と共催で実施するイベント「ふくおかカイゴつながるプロジェクト」もご紹介いただきました。
講演テーマ2:市民参加型のオープン会議が生んだイベント「いきてゆくフェス」豊中市
講演テーマ2として、市民参加型のオープン会議が生んだイベント
「いきてゆくフェス」と題し、豊中市福祉部長寿社会政策課 図師 大介さんより講演をいただきました。
はじめに、豊中市で高齢者が住む土台となる地域づくりの大切さ、それに向けて行政として実行されている介護人材対策として、魅力発信とICTの推進についてお話いただきました。
続いて事例として「いきてゆくウィーク2021・いきてゆくフェス2022」イベントについてご紹介をいただきました。これは、約20年にわたって開催されていた「いきいき長寿フェア」をリニューアルしたイベント。当時、来場者は500人~700人で、高齢者の参加が7割から8割。イベント内容の固定化も続いていたそう。当時は市が主導して進める形だったことも課題だと捉えられていました。
そのような中で、高齢者だけではなく他の世代もターゲットにして、多世代交流ができるようにした方が良いのではないか、という事業者の方々の声が上がります。そこで参加者だけではなく運営側も楽しいと思えるようなイベントにしたいという思いもあり、イベントの刷新を図ります。
イベントを新たなものにするにあたり重要なプロセスとして、企画段階から市・介護保険事業者のみならず、学生や市民など誰でも関わることができ、みんなで進められる「オープンミーティング(市民に開かれた会議)」を設けたそうです。それだけではなく、広報サポーターとして市民が情報発信などの広報を行うなど、イベントのあらゆる制作過程をオープンにされました。
結果として、イベント参加者が460名から1,400名と増えただけでなく、イベントのあらゆる制作過程をオープンにしたこともあり、以前は30人だった実行委員の参加者が、70人にまで増えたことに加え、関係者としての「エピソード」としての実感をメンバー全体で共有でき、行政の主導ではなく、共創の楽しさをインストールしつつ共同作業を通じて公共の担い手として関わっていただくことができたそうです。そして、思わぬ好影響としては、商店街でフェスを実施することで街と交流することができ、地域包括ケアの土台となる地域づくりにも繋げられたのではないかと感じているとのこと。
今後は、打ち上げ花火的な取り組みではなく、市民の皆さんと対話の上で継続をしていくことが大事だと思っているというお話でまとめていただきました。
講演テーマ3:「『自治体3.0』をベースとした地域包括ケアと地域コミュニティ」生駒市
講演パートの最後である講演テーマ3では、『「自治体3.0」をベースとした地域包括ケアと地域コミュニティ』と題し、生駒市地域コミュニティ推進課 主任 白川 徹さん、生駒市地域包括ケア推進課 主幹 澤辺 誠さんより講演をいただきました。
はじめに、生駒市で実施している「自治体3.0のまちづくり」について説明いただきました。「人口が減る一方で、行政の予算やマンパワーが縮小の道をたどる中、まちづくりを行政だけで行うのではなく、民間事業者や市民など多くのプレーヤーと共に汗をかき、進めていくのが自治体3.0の考え方」とのこと。そうすることで、まちがより良くなるだけではなく、市民も満足度や定住の希望率が高まるものと考えているそうです。
続いてこの自治体3.0の考え方をベースに実践されている2つの取り組みをご紹介いただきました。一つ目が【地域包括ケア】の取り組み。地域包括ケアでは、本人の健康維持や介護予防が特に重要。それらのことを実現するために、市民が主体となって実施運営する様々な通いの場が生駒市では作られているようです。例えば、元気でいきいきとした生活を送るために市民が運営する通いの場「いきいき百歳体操」。
しかし、新型コロナウイルス禍という社会的に大きな影響のある状況の中では、市民だけで判断をすることや運営を行うことが難しくなったことから、行政もともに動く必要が出てきたそう。そこで、「いきいき百歳体操 代表者交流会」という会を実施されたとのこと。市民はもちろん市職員や地域包括支援センターの職員も含めて活発に意見交換を行い、対話の機会を作られました。
二つ目に【複合型コミュニティづくり】についても紹介いただきました。「こみすて」という、ごみの回収の機会を中心とした多様な世代が集まる仕掛けを作り、多世代のコミュニティ形成を図るという事業。活躍の場を探す市民が、このような場を通じで街づくりへ参加すること、生きがいややりがいを感じることで、地域への愛着を育む目的があります。さらに現在は、この取り組みを他の自治会へ横展開し広げようと試みていらっしゃるそうです。
多様な主体に参加してもらう仕組みを作ることで、重度の要介護状態になっても住み慣れた地域で自分らしく暮らすことができるほか、住民による相互扶助や新たなニーズ、サービスが生まれ地域が活性化。さらなる好循環に近づけるよう今後も進めていきたい、と締めてくださいました。
トークセッション:「対話」が拓く私たちの未来
トークセッションのパートでは、福岡市職員 今村 寛さんをコーディネーターとしてお迎えし、「対話」が拓く私たちの未来と題し、登壇者への質疑応答も交えながら、各事例の成果などについてさらに理解を深めるために講演をいただきました。
はじめに、今村さんが「対話」に向き合うきっかけになったエピソードをお教えくださいました。当時財政課課長だった今村さんは、様々な部署の予算をそれまで以上に削らなければならない状況だったそう。現場の課長・係長からは、「なんでうちの課の予算が削られるのか」とよく怒られていました。
そもそも自治体には「お金」がない中で、万人が満足する方策がない時代。困難を極める市民の合意形成の中で、縦割り・意思疎通の不足による連携阻害が生まれる。つまり、うまくいかないのは「対話」が足りないから。対話でないとこのような対立は乗り越えられないと感じたそうです。
特に行政職員は公平公正に事務を執行することを市民から期待されていることから、精緻な分業を行っています。この分業は、決まったことを決まった通りにやる場合には良いのですが、隙間に落ちた事業を行うときは、たらいまわしになってしまいがち。真面目だから新たな業務を敬遠してしまうのです。ただ一方で、使命感を持っている職員が多いので、納得すれば動くという事実もあると教えていただきました。
▲自治体職員として「対話」を用いてどんな役割を果たせばいいかについてご紹介いただきました。
そして、対話には納得感や当事者意識を高めるという役割もあり、議論の前に対話を進めるということで議論の質を高める、結果的に結論の実効性を高める効果もあるということも、今村さんの財政課時代の経験から教えていただきました。また、どうしても行政の取り組みは、行政が主体となって行政がやりたいことを実施しがちですが、市民を対等な立場として見ているかというと違う。また、市民は行政がやるのが当たり前、市民はお客様の立場でみてしまうということからも、改めて同等な立場として認め合うことが重要であると考えているというお話もいただきました。
今村さんから見た福岡市、生駒市、豊中市の皆様が紹介した事例についてもコメントをいただきました。「どの事例も行政と行政以外のセクターが一緒になって、何か新しいことを起こしていく取り組みでしたが、始める段階で、いきなり誰が何をすると決めるのではなく、何をするか、何を目指すかということを、対応するプロセスの中でお互いに立場を超えてビジョンを共有し合ったことが成功につながったのではないか」と各事例を「対話」という切り口で読み解いていただきました。
今村さんより講演をいただいた後は、登壇者全員が再度集まり、各事例の深堀を「対話」を軸にお話しいただきました。
「立場の違う者同士が同じ方向を向くことができた成功要因」や、「たくさんのプロジェクトを短期間で進めることができた理由」、「市民の方を巻き込むにあたり対話を意識されたか」などについて、それぞれのご意見をいただきイベントは終了しました。
イベント参加者様からのアンケートでは、「新たな参加者・担い手の発掘事例として参考になりました」「対話の話は、とても興味深く、参考になりました」「公務員の仕事に対する姿勢、良い面も悪い面もあること」「議論と対話の違いについて、相手の間違っているところを証明するのではなく、共通の理解を目指して協力するという観点を再認識しました」という言葉をいただくことができました。ご登壇いただいた5名のみなさま、そして参加されたみなさま、ありがとうございました!
次回開催は、3月22日(木)を予定しています。
【文: HELPMAN JAPAN 写真: HELPMAN JAPAN】