行政・自治体の取組
2022.07.19 UP
福岡市では、介護人材の担い手を確保するために、行政だけではなく、多様な関係機関が連携することで、良い化学反応が生まれ、新しい取り組みにつながっている。今回は特に、未経験者層への魅力発信や、外国人人材の定着に向けた施策について、福岡市高齢社会政策課福祉人材係長の福留裕一さんに、詳しいお話を伺った。
目次
・「介護人材すそ野拡大の参入促進事業」の考え方について
・「ふくおかKAIGO人ファイル」の具体的な取組について
・外国人介護人材の受入促進について
・今後福岡市で取り組みたいと考えていること
・お知らせ:11/9(水)自治体担当者4名が登壇!「未来につながる共創と対話」オンラインイベントのお知らせ | HELPMAN JAPAN
多様なターゲットに向けた魅力発信と外国人介護人材の受入促進
―福岡市が目指す「介護人材すそ野拡大の参入促進事業」の考え方について教えてください。
福岡市では、介護業務の担い手を確保するため、いくつかのテーマに分けた総合的取組を行っています。その一つのテーマが「参入促進」。高校生や大学生等の若年層や、介護業界以外で就業し転職を検討する層、高齢者層など、介護業界に関わりのない方にも興味・関心を持っていただけるようなすそ野拡大の取組みを進めています。それに加え、外国人介護人材の受入促進にも力を入れています。
具体的には、「ふくおかKAIGO人ファイル」「外国人介護人材と地域住民の方との交流」「ふくおかカイゴつながるプロジェクト」などの取り組みを行っています。その中の「ふくおかカイゴつながるプロジェクト」は、平成30年度から行っている、年に1回の介護の魅力発信イベント。
このイベントを始める前は、本市のほか、介護福祉士養成校や介護施設などの団体が、個別に魅力発信の取組を行っていました。そこで一緒に発信したらもっと多くの方の注目を集めるのではないかと考えて、横の連携をスタート。例えば、学生と認知症とともに生きる方々が運営するお店「注文をまちがえるめんたい屋さん」を九州で初めて出店するなど、魅力発信につながるイベントを開催しています。
▲「ふくおかカイゴつながるプロジェクト」の広報用ポスター。介護職のイメージを変えたいという想いから、一見すると介護職とはわからないような服装や雰囲気で撮影。プロジェクト名に含まれる「つながる」というコンセプトを実践していくため、本プロジェクトのための曲を作り、一緒に歌を歌う企画を実施し、さらなる「つながり」を強めることを期待した。実際に制作された「つながるプロジェクト」の曲はこちら。https://youtu.be/XuTvUJW4mYc
―「参入促進」の取り組みの一つである「ふくおかKAIGO人ファイル」の具体的な取組について教えてください!
「ふくおかKAIGO人ファイル」は、福岡市内の介護事業所等で働く方を紹介する取り組みです。
このアイデアは、介護業界関係者や地域団体、行政など30団体で構成する「福祉人財共働ワーキング」から生まれたもの。「福祉人財共働ワーキング」とは、福祉人材確保に取り組む多様な関係機関が一堂に会し、団体の垣根を越えて連携を進めるためのグループです。福岡市における課題・目標の共通理解を促進し、福祉人材の参入促進のための戦略・取組について、定期的に検討を行っています。
ワーキングのメンバーには、老人福祉施設協議会・介護福祉士会・地域団体・福岡県社会福祉協議会・福岡市社会福祉協議会・福岡労働局・ハローワーク等がいます。
インタビュー対象者である介護職の選定については、6つのペルソナを事前に決めました。議論を経ることで、企画にかかわるメンバー内でも共通認識を持ったうえで取材をすることができました。
インタビューをする上で留意したことは3つ。一つ目は、入職前後のギャップを聞くこと。二つ目に、ご本人の言葉でご本人の考える介護についてお話いただくため、質問する側が介護についての先入観を持たないこと。三つ目に、仕事のことだけではなくプライベートについてもお聞きすること。
介護職を身近に感じていただくことを目的に、特に転職を考えている方が「私に似てるかもしれない。こんな生活をしてみたい」と思い、自分らしく働くヒントにしていただけたらという願いを込めています。インタビューを終えた直後のご本人の感想としては、「介護の仕事を始めた時の自身を振り返るいい機会だった」、「当時を振り返ってみて、今は成長したと思う」など、とても前向きな感想を多くいただくことができました。
このインタビュー記事は、オンラインとオフラインのどちらでも閲覧できるようにしました。オンライン版については、福岡市ホームページに掲載。記事を掲載した月は、最大で延べ2,000人弱の方が閲覧しています。ホームページに掲載した後の反響としては、事業所やご本人から「このようにまとめてもらって嬉しかった」「他の職員もぜひインタビューして欲しい」という声をいただくことができました。
▼ふくおかKAIGO人ファイル
PDFファイルはこちら
オフライン版については、ハローワーク、福祉人材センターなど、人材確保につながる場所で活用できるようにしました。特にハローワークで配布した理由としては、採用につなげたいメインターゲット層である中高年の方が集まる場所であることからです。資料ラックに置き、求職者が各自自由に手に取って閲覧できるよう設置されています。
▲介護に関わったことのない方も、仕事のイメージができるよう1日のスケジュールをインタビューしているほか、具体的なキャリアステップも記載し、入職後のキャリアイメージも描けるようにしている
「ふくおかKAIGO人ファイル」と合わせて、求職者向けの動画も作成。介護業界未経験者の求職者に、動画で介護施設を見ていだくことで、仕事のリアルなイメージを持っていただくことが狙いです。コロナ禍の中で、介護施設への見学が困難になったことを問題視する声がワーキングメンバーでもあるハローワークの職員から上がり、動画を作成しました。
動画撮影は、複数の角度から撮影したり、テロップや音楽をつけたりと、飽きない工夫をしました。留意したことは、介護職員が働くシーンだけでなく、ご本人が明るく求職者に語りかけるように解説するシーンも入れたこと。解説シーンでは、同施設の先輩職員がインタビューする形式を取ることで、明るい職場で良好な人間関係であることも、間接的にお伝えしました。
この動画については、「介護職セミナー」という介護の仕事に興味がある未経験者を対象に毎月開催しているセミナーで活用しました。動画を見た方からは「介護資格がない方などの一日として非常に分かり易い」と評判だったと聞いています。
―「参入促進」の別の取り組みである、外国人介護人材の受入促進についても教えてください!
外国人介護人材と地域住民等の交流事業として、福岡市内の事業所・法人で働く外国人介護人材と地域住民等との交流機会をつくる取組みを実施しました。狙いは「定着支援」です。
地域との交流を通して、福岡に愛着を感じ、「長く住みたい」「所属施設で長く働きたい」と思ってほしい。というのも、愛着が育たないと、賃金が高い施設や友人のいる施設に短期で転職してしまうケースが少なくないからです。
愛着があることで、その方が母国に帰国したとしても、母国で福岡市の魅力を伝え、その話を母国で聞いた方が来日されて、福岡で働きたいと思っていただけるような循環も生まれることを目指しました。そのため、一過性の交流に留まらず、日頃からあいさつを交わし、地域の中で暮らしやすい関係が構築できるよう、人の優しさや温かさが感じられ、参加者が楽しめるイベントを行いました。
▲イベントの参加者。介護施設からの参加者が11名、うち外国人(全てミャンマー人)が6名、地域住民15名が参加した。地域の高齢者が集まる場を開催場所としたのは、地域の方に「介護」を意識していただくこと。かつ、一時的ではなく継続的な交流につなげることを狙うため、今ある社会資源を生かした形で実施した。
イベントのコンテンツは、本事業を受託した福岡市社会福祉協議会が中心となり、地域や介護事業所に個別に声をかけ、打ち合わせを重ねて内容を企画しました。具体的には、外国人スタッフからの母国・自己紹介、体を動かすゲーム、母国ミャンマーの伝統の踊りを参加者全員で踊ったりと盛りだくさんの内容。
地域の方が外国人スタッフの方と同じ時間に、同時に行うコンテンツにしたことで、交流会が終わるころにはすっかりうち解けて、楽しく会話する姿が多く見られました。
地域住民の声としては、「施設のことは知っていたが外国人介護人材がいることは知らなかった」「せっかく遠い国から福岡に来てくれた。サロンや行事に参加して、この地域の良さをさらに知ってほしい」といった声が寄せられました。
外国人介護職員からは、「みんな優しくて楽しかった。」、「これからも参加したい。色々な地域の方とも交流したい。」といった声がありました。
この交流会をきっかけに、年明けに開催される地域行事に外国人の方が呼ばれて参加するなど現在も交流は続いています。今回の交流会は、参画を希望した介護事業者に所属する外国人職員が、ミャンマーの方だけでしたが、今後は多国籍の方に向けても交流活動をしたいと考えています。
―今後福岡市で取り組みたいと考えていることをお教えください!
福岡市では、人生 100 年時代の到来を見据え、誰もが心身ともに健康で自分らしく暮らせる、持続可能な社会をめざすプロジェクト「福岡 100」を推進しています。
そうしたプロジェクトも活用しながら、介護職の役割・仕事の価値を地域の方へ伝え、介護職の地位向上も意識しつつ、介護人材が輝くまちを目指し取り組んでまいります。
そのためにも、介護人材のすそ野拡大について、様々な団体等との連携をさらに拡大し続け、他自治体の例も参考にしながら、より効果的な発信について工夫していきたいと考えます。
―福留様、ご紹介いただきありがとうございました。
▼おしらせ
11/9(水)自治体担当者4名が登壇!「未来につながる共創と対話」オンラインイベントのお知らせ | HELPMAN JAPAN
【文: HELPMAN JAPAN 写真: 福岡市】