行政・自治体の取組
2022.08.29 UP
奈良県生駒市では、住民が主体となり地域づくりをする「自治体3.0」を実践している。その「自治体3.0」の考えをベースとした地域包括ケアや複合型コミュニティづくりについて担当者にお聞きした。今回は、地域包括ケアの取り組みである通所型サービスC「パワーアップPLUS教室」や4つのケア会議、地域包括センターとの横の連携へ向けた工夫について、地域包括ケア推進課の澤辺誠さんにお聞きした。地域包括ケアを通じた地域づくりに関心がある、自治体や福祉事業者の方に参考にしていただきたい。
■目次
・生駒市における「自治体3.0」の考え方
・生駒市における「地域包括ケア」の取組み
・高齢者の方にとっての「15分の壁」を乗り越える予防事業
・地域の通いの場である「いきいき百歳体操」
・地域包括支援センターとの連携
・次回:住民主体のまちづくり(2022/9/1更新)
・お知らせ:11/9(水)自治体担当者4名が登壇!「未来につながる共創と対話」オンラインイベントのお知らせ | HELPMAN JAPAN
「自治体3.0」をベースに、その人らしい生活を支える数々の施策
――生駒市の「自治体3.0」という考え方について教えてください!
「自治体3.0」とは、小紫雅史生駒市長が提唱している市民主体のまちづくりの考え方のことです。簡単に言うと、「自治体1.0」は「お役所仕事」を続けている自治体を指します。「自治体2.0」は、改革派の首長のトップダウンで市民ニーズに応じたきめ細かいサービスを提供している自治体を指します。「自治体2.0」のサービスは一見良さそうですが、高齢化や人口減少により税収が減り、市民の価値観や生活スタイルは多様化する中で、市民を「お客様」とみてそのニーズを汲み取って応えていくだけのやり方を継続することは難しいのが現状です。
そこでまちづくりを行政だけで担おうとせず、民間事業者や市民など多くのプレイヤーと共に進めていくのが「自治体3.0」です。市民を単なるお客様扱いせず、イベントやサービスなど自分がまちに望むものを自ら実現する労を取っていただく。地域の民間企業や生駒市外に住んでいる方も、生駒市というフィールドに魅力を感じていただければ、一緒にまちづくりを進めていきます。この考えが、生駒市におけるまちづくり全般の基本的な考え方となっています。
また、「自治体3.0」には市への「愛着」を促すという効果も期待されます。行政側の足りないリソースをカバーするだけでなく、市民自身がまちづくりの一部を担っていくことで、地域と関わる実感の中でまちに愛着が生まれ、結果として定住にもつながるはずです。少子高齢化に伴う人口減少により自治体間の競争が高まる中、市民をお客様として扱ってしまうと、よりサービスの良い自治体が現れたときに魅力を感じて市外へ転出することにつながってしまう。
一方で、まちへの愛着が生まれると、自治体間のサービス競争に巻き込まれることなく、むしろ地域の良いところを発信してくれるサポーターになってくれます。そして、まちに関する情報や住民自身の想いを地域内外に発信することで、「あのまちおもしろそう」「住民がまちを楽しんでいる」ということが伝わり、さらに生駒市に人が集まる好循環が期待できます。
▲市民が主体となって作る、子どもから大人まで集まるコミュニティ「ワクワク農園」
――生駒市における「地域包括ケア」の取組みについて教えてください!
介護保険法の一部改正により、日本では平成27年度から「介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)」が始まりました。生駒市は同年の平成27年と早い段階から総合事業に移行します。それができたのは、生駒市が総合事業よりも前から介護予防事業に取り組んできたからこそです。
――介護予防事業に取り組むまでと、総合事業へ移行するまでの経緯を教えてください!
生駒市では、一次予防、二次予防といわれていた時代から介護予防に取り組んでいましたが、ひとつのきっかけとして聞いているのが、現在実施している「パワーアップPLUS教室」の前身となった教室。これは、国のモデル事業として実施したもので、送迎なしの教室として市の公共施設を使いスタートしました。
それほど大きくない負荷のマシーンを使う簡単な運動ですが、参加した方の身体能力等が70%以上改善したということで、非常に良い結果となりました。このモデル事業をベースに、総合事業の通所型サービスC事業として「パワーアップPLUS教室」を実施しています。
▲パワーアップPLUS教室にて、スタッフが器具の操作方法を教える様子。
生駒市の通所型サービスC事業はクール制(全員が同じタイミングで教室をスタートする)で3か月限定。パワーアップPLUS教室では、参加者ひとりひとりに対し、「自立支援型地域ケア会議」という会議を開催しています。地域包括支援センターや市の担当者・セラピスト・事業所が集まり、参加されるご本人の意向や課題から、運動プランや目標設定、リスク管理等について議論を行い、教室参加の方向性を決めます。通所開始後は、中間月、終了月と1か月ごとに同様に会議を開催しながら、事業所・地域包括支援センター等もその方の状態を確認。その期間には訪問型サービスCとして、地域包括支援センター・セラピスト・市の担当者が家にも訪問し、参加者自身の「もう一度あの集会所まで行きたい」などの気持ちを大切に、今後の生活に向けた支援を行います。
その自立支援型地域ケア会議の中で議題なったのが「卒業後の参加者がどうやって状態を維持するのか」ということです。教室に通うことで状態がよくなっても、教室が終了した後に維持できなければ意味がありません。そのような議論から「教室そのものを活動の場にすること」、「いきいき百歳体操」の2つの取り組みを開始しました。
1つ目の「教室を活動の場にすること」の取り組みでは、教室を卒業された方が、その後ボランティアとして活動できるように事業所と検討し体制を整えました。現在では、認知症を発症されている方にもボランティアとしてご活躍いただいています。教室に通う中で少しづつお手伝いをしていただき周囲の環境に慣れながら、自然と参加できるようにしています。そうすることで、認知症の方も安心して活躍いただき、「自分にもできることがある」と自信をつけて活動いただいています。認知症というと、家族によっては「あまり外に出ない方がいい」「いろんなことができない」と思う方もおられます。しかし認知症と一口にいっても状態は様々。適切なサポートをすることで、ご本人の残存能力を活かし、その人らしく生駒市でご本人の望む生活を送れるようになります。このように生駒市では、必要最低限の介護サービスで、ご本人らしく生活ができることを目指して事業を展開しています。
▼通所型サービスC(短期集中予防サービス)の紹介動画https://youtu.be/UBPzjrJhhVU
そして2つ目に取り組んだのが、「いきいき百歳体操」。高齢者にとっての「15分の壁」という考え方をご存知でしょうか。高齢になると身体的な理由で行動範囲が狭くなり、15分以上かかるところへ出かけることは難しく、おっくうになる。距離にすると大体500メートルほどです。特に生駒市は、坂道が多いため、少し状態が悪化すると外出が困難になることが想定される地域です。つまり、住んでいるところから500メートル以内に通える場所があるか無いかが、その方の健康や生活に大きく影響するとも言えます。このことから、地域に通いの場を増やすという取り組みを平成27年度から行っています。
その中で生まれたのが交流・運動を目的とする場である「いきいき百歳体操」です。この「いきいき百歳体操」は、生駒市の担当者が老人クラブ連合会等の方々と一緒に先進地を視察し、コンセンサスを取って実施を決めました。
現在ではこの取り組みを広げるにあたり、住民や自治会長・民生委員の方には、健康寿命に関するデータを交えて案内しています。例えば、「週に1回、人と会うか否かによる健康リスクの差があり、要介護リスクが約1.4倍にもなる」というデータがあります。そこで、週に1回は人に会おうという提案や誰かと一緒に運動をしましょう、という提案をしています。
また、マンションの住民に向けて提案をすることもあります。例えば大きなマンションでは、マンション独自の自治会など独立したコミュニティがあるほか、集会所などの設備があるところも多く、「通いの場」を新たに立ち上げることに適しています。その一方で、マンションの場合は戸建て住宅が集まる住宅地と違い、近隣住民の顔が見えにくく、同じ建物に住んでいる人同士や管理組合でさえもわからない方がいらっしゃっるなど、「お互いを知らない」という問題もあります。そのような問題を、通いの場を通じて解決できると考えています。
このように、様々な観点を交えて様々な場へ提案した結果、「1人では続けることが難しい運動がここならできる」という声が広がり、現在「いきいき百歳体操」の場は約90か所以上に増えています。コロナ禍にある現在も、もともとある地域力を借りながら、難しいところは自治体がサポートすることで継続できています。
――4つの地域ケア会議についても教えてください!
先ほど説明した国のモデル事業を行う中で、地域ケア会議についても改めて整理する必要が出てきました。様々な議論の中で、4つのテーマで地域ケア会議を整理しました。
1つ目は、自立支援型ケアマネジメントの検討。2つ目は個別事例の総合的な検討。そして3つ目に地域づくり(地域課題)の検討、4つ目に認知症に関する課題の検討です。
地域ケア会議を通じて個別のケースを見ていくと、共通した課題を見つけることがあります。例えば、認知症の症状があるものの、運動機能には特に問題ない方。その方が介護予防教室に通う際に時間や日を忘れてしまい、体力があっても行くことができないというケースが発生することがあります。そのような時も、誰かが電話を一本入れることで無事に通えるようになる。そこで「認知症支え隊」というボランティアを募って、認知症の方を支える事業を始めました。
また、高齢になると、歩くスピードが変わってきます。スーパーに買い物に行きたいけど、帰り道にある片側2車線の道路を横断できないから行けない。そのようなケースが会議で共有された場合は、地域包括支援センターが警察と協議して信号の時間を変えてもらうということもします。目に見えないけど地域づくりにとっては大切なことです。このように、個別ケースを通じて施策につなげることをやっています。
――地域包括支援センターとの連携についてお教えください。
私たち生駒市の場合は、市の担当者と地域包括支援センターが同じ目標に向かって進めるよう規範的統合を意識しながら、方向性の共有をするよう心掛けることで、連携がしやすい関係を作れています。
例えば「住民の方にとっての幸せ」という漠然な理念を考えると、その幸せのスケールが担当者によって異なるため、結果としてそれぞれが違う目標に向かって議論をすることになり、多大なロスが発生します。
目指す目的を共有するために、「介護保険制度の理念である自立支援・重度化防止」「平均寿命と健康寿命の差をなるべく縮める」など、なるべく明確な理念を基にして、定期的に課題や目標もすり合わせるようにしています。資料作成や事業運営などの取り組みを共に行いながら、所々で具体化しつつ大きな理念や方法論の認識をすり合わせることで、良い連携につなげています。
この連携のおかげで、市の職員や地域包括支援センターの職員が異動等により入れ替わっても情報を共有しやすいという関係性も作ることができました。だからこそ難しい課題にも向き合うことができていると感じています。
――次回(2022/9/1更新)は、多世代の地域コミュニティづくりについてお聞きします。
▼おしらせ
11/9(水)自治体担当者4名が登壇!「未来につながる共創と対話」オンラインイベントのお知らせ | HELPMAN JAPAN
【文: 生駒市,HELPMAN JAPAN 写真: 生駒市】