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ヘルプマン

2018.09.06 UP

広島東洋カープの投手から介護業界に転身! 「人の役に立ちたい」とデイサービスを経営

2002年にプロ野球選手となり、阪神タイガース、埼玉西武ライオンズ、広島東洋カープで活躍した江草仁貴(えぐさひろたか)さん。最速145キロの直球と、フォーク、ツーシームという2種類の落ちるボールを駆使して、主に中継ぎ投手として14年間、通算349試合を登板し、22勝17敗、防御率3.15の成績を残した。そんな江草さんが、広島東洋カープ在籍中に立ち上げたのが、株式会社キアンだ。代表取締役として介護事業の運営や営業に携わり、今年4月からは、大阪電気通信大学野球部の指導者としても活躍している。そこで、江草さんにセカンドキャリアへの想いや現在の事業内容、今後の展望などを伺った。

介護施設への慰問で祖母の姿が心に浮かび
介護業界への関心が高まった

プロとして活躍するスポーツ選手にとって、誰にでも訪れるセカンドキャリアの選択。2017年に引退した江草さんが、その後について考え始めたのは、いまから5、6年前のことだった。飲食店を経営する先輩が多い中、「日銭商売は自分には合わない。サラリーマンも難しい。それなら、起業しかないのではないか」と思いながらも、自分には何が向いているのか葛藤する日々だった。

「自分と向き合ってたどり着いたのが、『人の役に立つ仕事がしたい』という思いでした。プロ野球選手として、介護施設に慰問に行く機会もあったのですが、僕が行くと利用者の皆さんがすごく喜んでくれて。祖母のことを思い出しましたね。野球三昧だった中学生、高校生のころ、同居している祖母を母親が介護していました。母親は忙しくて、祖母は一人で家にいる時間が長かったのですが、デイサービスに行った日は必ず分かるんです。いつもより明るく、おしゃべりになる。同世代の人と話すのは楽しかったんでしょうね。そんな思い出もあり、介護業界なら僕にできることがあるかもしれない、と考えるようになったのです」

2016年4月、江草さんは、広島東洋カープ在籍中にキアンを設立。オフの時期に、ショートステイやデイサービスの施設を見学し、介護業界について学んでいく中で、レコードブックと出合う。ここは、機能訓練を中心としたリハビリ型デイサービスで、全国で店舗展開するフランチャイズだ。

「最初から、要介護度の高い特別養護老人ホームやグループホームの運営は難しいと考えていましたが、食事や入浴のないリハビリ型デイサービスなら、野球選手の僕にもできることがあると思いました。フランチャイズに関しては迷いましたが、東京にあるレコードブックの施設を視察したときに、真っ赤な絨毯を見て、カープじゃないですけど明るくていいなあと(笑)。楽しそうに体を動かしている高齢者の方の姿も印象的で、小規模で全体に目が届きやすいところも気に入りました」

▲爽やかで人懐っこい笑顔が印象的な江草さん。2017年にプロを引退し、現在はデイサービス運営のほか、大学の野球部で指導にも携わる

「恩返しがしたい」と開業場所は広島に決定
家族の応援も得て、着々と準備を進めた

当時、レコードブックは、全国展開を目指している時期だった。

「レコードブック事業を展開するインターネットインフィニティーの社長も、アスリートである僕のセカンドキャリアを応援したいと言ってくれて。プロ野球選手から介護業界に入ったケースは珍しいので、僕がモデルケースになればとも思いました」

起業するとなると、家族の同意や仲間の応援も重要になる。江草さんの妻、元全日本の女子バレーボールチームでセッターを務めた竹下佳江さんは「やりたいようにやってください」と後押ししてくれた。一方、仲間たちは口々に「なんで、何も知らない介護業界に?」と驚いた。そんなとき、江草さんは「人がやっていないことをやるから楽しいんだよ」と応えていたという。

2016年12月、レコードブックでの開業を決めてから、2017年7月のオープンに向けて、準備が始まる。開業場所については、江草さん出身地である福山、野球時代を過ごした広島、大阪で検討した結果、フランチャイズ本部の勧めもあり、「広島の人たちに少しでも恩返しできれば」と広島に決定。1月には物件を決め、人材募集、面接、研修と着々と準備を進めていく。

「面接では正直何を聞いていいのか分からず、『休みのときに何をしていますか?』といったようなことを聞いていましたね(笑)。ハキハキしていて、元気がある人を採用しました」

▲広島東洋カープ時代の江草さん

通常のプログラムに「江草らしさ」をプラス
ティータイムは、お菓子にまでこだわった

プロ最後のシーズンとなる2017年7月、スタッフ4名で、「介護事業所・リハビリ型デイサービス レコードブック広島住吉町」を開業。プログラムは、午前と午後の2部制でそれぞれ3時間。それぞれ定員は最大約30名。送迎車でのお出迎えから始まり、検温・血圧測定、ウォームアップ、集団運動、ティータイム、歩行機能回復をサポートする機能改善運動、クールダウン、帰り支度、お見送りというスケジュールだ。フランチャイズ本部によるプログラムに加え、アスリートの「江草らしさ」を出すため、インナーマッスルトレーニングや、ルネサンス(スポーツクラブ事業や介護リハビリ支援なども行う企業)が独自に開発した「シナプソロジー」を取り入れた。

「自分で考えたとおりに体を動かすことは大切です。認知機能向上のためにシナプソロジーを取り入れることを決めて、スタッフ全員に資格を取得してもらいました。具体的には、2つのことを同時に行ったり、左右で違う動きをすることで、脳に適度な刺激を与えて活性化を図るプログラムです。また、緑はこのポーズ、赤はこのポーズというように色ごとにポーズを決め、緑!と言ったときにそのポーズをとってもらうトレーニングもあります。私は後ろで手をたたいているだけですが、利用者の皆さんの楽しそうな姿を見るとうれしくなりますね」

ティータイムにも「江草らしさ」をプラスした。

「野球で各地を回った経験から、全国のおいしいお菓子を知っているので、取り寄せたりしています。青森の『パティシエのりんごスティック』は僕も大好きで、利用者の方に大好評ですね。よく、『また用意してね』と言われますが、値段が高いので『毎回は勘弁してください』と返しています(笑)。いま、櫟(くぬぎ)という広島の製菓会社と提携し、うちだけの特別なお菓子を作ってもらう予定です。また、櫟と広島大学が連携して食事制限のある方向けのお菓子を開発しているので、それもうちのティータイムに取り入れたいですね」

▲デイサービスは広島市中区にあり、通りに面した窓際には元同僚のユニフォームがズラリと並ぶ

▲最新マシン「パワープレート」は体幹トレーニングに最適。利用者さんの目標に合わせて立ったり座ったり使い方いろいろ

介護事業の経営者・野球の指導者として
結果につなげることにこだわりたい

現場はあくまでもスタッフに任せて、自身は経営と営業を担当する江草さん。当初、利用者は1日18名、定員の約6割と伸び悩み、オープン半年後には営業のためケアマネジャーのいる居宅介護支援事務所に3カ月間、毎日通ったという。慣れない営業で苦労が絶えなかったが、

「意外と楽しくて、嫌いじゃない。経営者にとって、必要なことですから」

人が好きで、なじむのも早い。必要だと思えばなんでも実行する。それが、江草さんの強みだ。介護事業と並行し、今年の4月からは、大阪電気通信大学(阪神大学連盟2部)の野球のコーチも務めている。同部が「強化指定クラブ」に認定されたため、江草さんにコーチの依頼がきたという。2部で楽しく野球をやってきた部員にとっては、江草さんの厳しい指導に反発する学生もいたという。

「『1部にあがる』という目標がある以上は、結果が大事。練習もそれなりにキツくなるし、厳しくもするけれど、楽しいと思える要素も盛り込みながら指導していきたいですね。介護事業も、利用者の皆さんに楽しんでもらうのと同時に、その結果も大事です。機能が回復して要支援から卒業される方や、『歩けるようになった』『調子がよくなった』という声を聞くと、やはりうれしいです。野球のコーチも介護の経営も、目標に向かって励み、結果につなげるためにどうアプローチすればいいかを考える、という意味では同じかもしれませんね」

▲江草さんの広島時代の背番号29のユニフォームが掲げられている事業所。球団の許可を得てオリジナルで作ってもらった真っ赤なカープの絨毯が目をひく

▲広島東洋カーブのマスコット「スラィリー」がお出迎え

介護事業での起業で自分の成長を実感
いまでは、「人の成長」も喜びとなった

江草さんの経営するキアンでは、今年6月に居宅介護支援事業所をオープン。現在は、自宅がある姫路と、広島・大阪を行き来する日々だ。最後に、江草さんにとってのセカンドキャリアや仕事のやりがいについて伺った。

「セカンドキャリアとして、知らない介護業界に飛び込みましたが、広島で開業したこともあって僕のことを知ってくれる人が多く、親しみを感じていただいたり、自然に会話ができることは大きなメリットだと思います。最初はできないことばかりでしたが、知識やできることが増えることで自分でも成長を感じることができました。そして、『もっともっと』と目標を高く持つようにもなりましたね。今後は、広島で3店舗くらい展開していきたいです。自分で目標を設定して努力を重ねることは現役時代にも通じますが、介護事業に携わることで、他人の成長が自分の喜びと感じられるようになりました。『本当にその人のためになることはなんだろう』と、利用者さんや施設で働くスタッフのことを第一に考え、やる気を引き出していけるよう、今後もがんばっていきたいと思います」

▲「現役時代は後輩とばかりつるんでいましたね」と江草さん。事業所にはカープ選手のサインもたくさん飾られている

【文: 高村多見子 写真: 川谷信太郎、株式会社キアン】

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