facebook
twitter

ヘルプマン

2015.04.30 UP

立場の違う様々なプレーヤーの語り場“未来をつくるkaigoカフェ”が吹き込む新たな風 高瀬比左子さん

介護職や、他専門職、経営者や介護の仕事に関わる人が、立場や役職を離れて対話する場所があります。それが、“未来をつくるkaigoカフェ”。ほぼ月に1度のペースで開催されるこのイベントは、告知されると1、2時間ほどで予約は満員になってしまうほどの大盛況。人気の秘密は、自分の職場を離れて、日々の振り返りや自分の考え、さらには、異なる立場の意見を知ることができるから。「介護現場で働く人は、どうしても、仕事場と自宅との往復に終始しがち、だからこうした場を設けることが、互いの視野を広げ、新たなアクションのきっかけにつながるはず」と語る、代表の高瀬比左子さんに話を聞きました。

※“未来をつくるkaigoカフェ” 以下文中では、“カフェ”として省略

現場の介護職や他専門職、経営者も
「これからの介護」について、対等に話し合う場

介護職はもちろん、医師や看護師、理学療法士や作業療法士といった現場の専門職から、介護事業の経営者、介護保険外サービスなど介護の周辺に関わる人々が一つのテーブルを囲み、意見を交わし合う。「目指しているのは、その人の経験や立場に縛られず、リラックスして話せる場。自分の上司や同僚には話せないことも、こういう場なら仲間として話せる」と高瀬さん。

今回は、6名のプレゼンターが、4月からの介護保険法改正を受けて、現状やこれからについて意見を述べ、自施設や事業所での取り組みや問題提起などを行った。その後、テーブルごとに模造紙を広げ、自分や他者の意見を自由に書き込みながら、気づきやアイデア、想いを共有する対話の時間へ。

「介護職はチームケア、そして、医師や看護師など他職種との連携が欠かせません。にもかかわらず、介護職として、一番身近なところでケアに携わる中での気づきを伝える力や、医師や看護師など専門職と話し合うための対話力が足りない。そこを補えるような場になれば。いわゆる勉強会ではなく、話をしながら肌感覚で気づきを得ることで、理解から実現へと移行するスピードが変わってくる」と高瀬さん。ここでの気づきが、明日の現場でのアクションにつながるのだ。▲今回の法改正に際して、居宅ケアマネジャーやデイサービスの管理者、介護する家族の立場からなど、それぞれが考えを発表していく。強みや価値をアピールするには?小規模事業所だからこそできることって?地域との接点をもつには?など業務に関わることから、広く地域への視点を持つことなど、これからの方向性を模索する上でのヒントが話題提供されていた▲“カフェ”らしさを感じ、リラックスしたムードをつくるためにも、スイーツは重要な存在。ゲストに合わせてスイーツを選ぶこともあるが、この日は、高瀬さんの地元の逸話をモチーフにした“さくら最中”。「法改正を乗り越えるために、力をつけよう」という思いが込められている▲プレゼンターの話を受け、感じたことを模造紙に書き出す。知識を学ぶだけの勉強会とは異なり、一度、自分の体を通すことで深い理解につながっていく。ここで生まれた新しいアイデアが明日の職場を変えていく

「現場の中に閉じてしまいがち」
そんな介護スタッフの課題に気がついて

高瀬さんは、秘書としてビジネスキャリアをスタートさせたものの、「もっと、人の役に立つ仕事をしたい」という想いが募り、阪神・淡路大震災でのボランティア活動の高まりを機に、NPO団体に所属した。「でも、中間支援では、“役に立っている”実感が弱くて。思い切って、現場の介護に飛び込んでみようと」

「まずヘルパーから始め、ケアマネジャーを目指そう。それまでは、どんなにつらくてもやろう。介護のリアリティを自分の肌で感じよう」。そんな高瀬さんも初めての訪問介護の現場では戸惑いも多かった。「常勤スタッフが私一人しかいない。その上、どんな方でも受け入れなければいけない。他で受け入れられないような方のケアもして、非常に過酷な勤務状況でした」

それでも、高瀬さんはめげることはなかった。「介護とは、その人の生活スタイルに合わせて行うもの。その大切さが訪問の現場でよく分かりました」。その後、介護福祉士、ケアマネジャーの資格を取得したものの、物足りなさは残っていた。

「今度は、介護で働く人のために何かしたいと思いました。介護職として働いてみて、自分も日々の業務でいっぱいいっぱい。先を見据えて勉強する余裕もない。将来像も描けない。同じようなジレンマをみんな抱えている。そこで、職場では聞きにくいことや、言いづらいことを話せる場をつくろう、そして自分が将来どうなりたいのか、様々な人との出会い、つながりからそのヒントが得られたら」。それが“カフェ”のきっかけになったという。▲“カフェ”を運営していくために、高瀬さんは自ら、ファシリテーションの手法についても学んだという。そのときに、「対話の場づくり」ということに感銘を受け、対話をするための手法が大切なのではなく、皆が対等に語り合い、つながるための「場をつくる」ということに意味があると学んだそうだ▲“カフェ”のスタートは、2012年の夏。Facebookを中心に呼びかけ、集まったのは介護に関わる多彩な職種と役職も異なる数名。「介護職の魅力は?」「障がいとは何か?」「笑顔をつくるコミュニケーションとは?」などの話題で話し合った。やがて、参加者の評判などを聞きつけ、今では100名近くが集まるような規模の“カフェ”へと成長してきた

“カフェ”は、刺激の場であり、
人と人とが、つながっていく場

“カフェ”の参加者にも話を聞いた。日本介護福祉グループの茶話本舗(さわほんぽ)デイサービスで管理者を務める傍ら、「社会保障を考える会」の活動も行う都築理美さんは、“カフェ”についてこう語る。

「ここに来ると自分の引き出しが増え、人脈づくりにもつながります。私が“カフェ”に参加したきっかけは、業界に入りたてで、右も左も分からない中、資格取得を目指している最中でした。ここなら、何か仕事のヒントが得られるはず、と参加。そして、自分の視野が施設の中で留まっていることに気づきました。立場の違う施設長の視点、医師や看護師の方の視点。いろいろな目でモノを見ることで、世界も広がり介護業界の課題も見えました」

「社会保障を考える会」を立ち上げるきっかけも、ここで知り合った仲間からだったという。都築さんにとって、“カフェ”は、常に新しい刺激をもらえ、自らをリセットさせてくれる場なのだ。▲「自らの職場しか見えず、物事を考えてしまいがちな介護職。多くの人と知り合うことで、視野を広げることで、仕事へのモチベーションも上がってくる」と都築さんは語る「要介護者に向けた旅行ビジネスを軌道に乗せたい」と考える戸田智さんも、“カフェ”で大きな影響を受けた一人だ。

「カフェには、2年前から参加しています。ヘルパーとして働く中で、ケアマネ、現場職員、施設長や所長さんなど上の立場の人と話をして、自分が上司から言われたことの本来の意味を知ったり、職場では話せなかった自分の考えを言葉に出すことができ、それが、自信につながっていきましたね。与えられた仕事をこなす立場から、自ら“こうしたい”と能動的に動けるようにスタンスも変わり、今は、介護旅行のビジネスを立ち上げた仲間とさらに事業を展開していくことができないか、と模索中です」という。

戸田さんの目指す、介護旅行事業とは、介護者を抱える家族と共に、希望の場所へ安全性などを考えながらガイドする、新たなツアーコンダクターのかたちだ。「今は、介護旅行のプランを練る傍ら、営業力をつけるために販売職で経験を積んでいるんです」。明るい眼差しで話す戸田さんは、高瀬さんをアシストする“カフェ”のサポーターとしても、大きな役割を任されている。▲kaigoカフェのイベントによく参加しているという戸田さん。高瀬さんがいなかったら、今のやりたいことに向かっていなかっただろう、と感謝している。イベントの運営に積極的に協力をしている

“出張カフェ”。小中学生、高校生、そして、その保護者へも介護の可能性と魅力を伝えていく

高瀬さんは、通常の活動のほかに、小・中学校や高校へ向けた“出張カフェ”も主催している。「子供たちに、介護職について紹介するほか、様々なゲストに講演してもらうなどしています」

介護は、まだ多くの家庭の中でネガティブな仕事として語られがちだが、“出張カフェ”に参加した小学生からは、「人の役に立てるいい仕事。楽しそうな仕事だからやってみたい」と言う声も上がっているそうだ。今後、親子で学べる企画なども検討しているという。さらに、介護の専門学校に通う学生と、介護業界で働き始めた先輩との対話の場をつくる活動も行っている。高瀬さんが始めた “カフェ”の活動は、これからも続いていく。

「私は、この活動を通して恩返ししたいと思っています。まだ、未熟な介護職員だったころに1対1でお年寄りと向き合うことで、やりがいが見つかり人間性を取り戻せた。そこへの感謝の思いがあるから。そして、一緒に働いてきた介護職の仲間たち。私は彼ら、彼女らが誇りを持って今よりもイキイキと自分らしく介護の仕事を楽しんでほしい。そのために役に立てる活動をこれからも続けていきたいと思うのです」

高瀬さんの“カフェ”は、これからも介護業界の未来をつくるヒントを見いだし、未来の介護を担う人材を生み出す場所として、存在し続けることだろう。▲小学校での“出張カフェ”。「チームワークを大事にする。人を大事にする。それが介護の魅力」。そんな当たり前の事実が、子供たちに伝わってくれたらうれしいと高瀬さんは話す

【文: 戸部二実 写真: 中村泰介 Hiroki Kondo 】

一番上に戻る